G-SHOCKの最高級ラインであるMR-Gのクオリティをもって、G-SHOCK初号機(DW-5000C)を再現したMRG-B5000が発売されたのは2022年のこと。以後、MRG-B5000はバリエーションを追加しながらファンを増やし続けてきたが、それから2年が経過した今年に“ORIGIN”の系譜に連なるMR-Gとして新たにMRG-B2100Bがリリースされた。ベースとなったのは、若い世代に向けて2019年にデザインされたGA-2100シリーズだ。初号機の特徴的な八角形フォルムを再解釈しながらフィロソフィーを継承したアナログ・デジタル時計として登場し、現在では5000系と並びG-SHOCKの根幹をなすモデルに成長している。しかし今回のMRG-B2100Bでは、MRG-B5000のときのようにベースモデルの忠実な再現は行われなかった。MR-Gのラインナップにシンプルな3針モデルを熱望する声が上がっていたことを踏まえ、GA-2100のデザインに引き算を施すことでMR-Gにおける新路線ともいうべきルックスを獲得するに至ったのだ。
しかし、ミニマルな3針デザインをMR-Gで採用するにあたって大きな壁が立ちはだかった。振り返ってみると、MRG-B2000をはじめとするMR-Gの現行アナログ表示モデルは複数のサブダイヤルが文字盤の大半を占有している。そのため、ソーラー発電に欠かせない光の透過率が高い文字盤を用いても、全体の高級感を大きく損ねることはなかったのだ。一方で本作は7時、8時位置にサブダイヤルを配置しただけのごくシンプルなレイアウトになっている。そのため、従来のように半透明のフラットな文字盤を全面に使用するとMR-Gらしい高級感と精悍さが失われてしまう。そこで採用されたのが、日本の伝統技術である“木組”に着想を得たメタリックな質感の立体文字盤。そして、色調が異なるふたつのパーツを組み合わせながらソリッドな造形に仕上げた、12時のインデックスである。
MR-Gにおいて木組をデザインに応用するというアイデアは、実はMRG-B5000のころから存在していた。 同モデルを開発した際、ケースのカバーパーツを細分化した構造がまるで木組のようだと評されていたが、今回、文字盤の形状にもその要素を取り入れるに当たって“木組”というコンセプトを前面に出したという経緯がある。 格子状の木組構造は、その隙間からソーラー発電に必要な光量を確保するのに適しているだけでなく、素材を半透明にする必要がないので文字盤の質感の向上にもつながる。まさに前述の問題を一挙に解決する起死回生の策であり、こうしてMRG-B2100Bのデザインは決定した。
本作においては、文字盤に波状の凹凸を設けることで組子細工のような幾何学模様を作り上げ、さらに樹脂製の文字盤をメタリックブラックに仕上げることでMR-Gにふさわしい高級感を実現している。しかし、三次元的に入り組んだ木組格子の構造は見た目以上に製造が難しく、当初は開発チームからも不可能ではないかという声が上がっていた。横に走る桟(さん)の部分は細く、数多くの微細な孔が開いた複雑な形状は、通常の製造方法では形が歪んだり、孔がつぶれたりしてしまうことが予想された。穴の大きさを決定するまでに何度も試行が行われ、ようやく美観と実現可能性のバランスをとることができたのだという。これは、山形カシオが有するナノ加工技術と精密な成形技術なくしては実現し得なかったものだ。こうした苦難を経てまでも木組の構造にこだわり、ソーラー発電機能を諦めなかったのは、外装の高いクオリティはそのままに、環境配慮型の商品をさらに推進していきたいというカシオの明確なスタンスがあったからにほかならない。
外装についてはMRG-B5000と同様の構造を取り、27個のパーツに細分化している。これによって、ケース四隅の凹凸形状など一体成形では磨くことが難しい箇所にも徹底した研磨を施すことが可能となり、MR-Gにふさわしい艶やかな質感を細部に至るまで表現できるようになった。ベゼルパーツの細分化に伴う耐衝撃性能の確保には、今回もマルチガードストラクチャーを採用。 T字型のパーツなど細分化したパーツとケースのあいだに緩衝体を組み込むことで、あらゆる方向の衝撃から内部のモジュールを守る構造になっている。
また、ベゼルの素材もMRG-B5000に続いてコバリオンを採用している。これは純チタンの約4倍の硬度を備え、耐傷性にも優れる日本発の合金。しかも表面を研磨するとプレシャスメタルに匹敵する輝きを放つことから、MRG-B5000の外装に用いられた。なお、コバリオンを扱うにあたって特に厄介な工程が成形だという。一般的なステンレススティールは、鍛造でベースとなる形を作ったのちに切削で整えていく。しかし、コバリオンはその硬度の高さから鍛造が行えず、塊から削り出すことでしか成形できない。しかも、ほかの金属と比べて切削用工具への負担が大きく、工具の消耗も早くなる。このように時計の外装素材としては魅力的な特性を備えつつも、非常に手間のかかる工程を踏むことでしか完成し得ないのがコバリオン製のベゼルなのだ。しかし、その高い美観と素材としての耐久性はG-SHOCKの最高峰であるMR-Gにふさわしい。
本作において素材や構造はMRG-B5000を踏襲しつつ、一方ではGA-2100ならではのスリムなフォルムを意識したケースの薄型化にも注力。ここで見直されたのが、リューズユニットにαゲルを組み込むことで、リューズから時計内部に伝わる衝撃を緩和させるクラッドガード構造だ。本作ではこのユニットを小型化し、同様の機構を備えていたMRG-B2000シリーズから約3mmの薄型化に成功。このことは同時に、製品全体の軽量化にもつながったという。
MRG-B2100Bはブレスレットに配したディンプル(くぼみ)を別パーツで表現しており、MR-Gらしい丁寧な作り込みが感じられる。加えて、バックルに設けられたロック機構は従来のMR-Gのようにゴールド色で彩るのではなく、ケースやブレスレットと同じブラックで統一され、全体を精悍な雰囲気でまとめている点も見逃せない。一方、ケースバックは B5000のようなスクリューバックではなくビス留めに変更されているが、これはケースバックの内側がリューズユニットと干渉することを避けるため。つまり、ケース厚を抑える──いわば2100系らしいスマートなプロポーションを実現するべく取り入れられた構造なのだ。ベースモデルの長所を生かす、細部まで行き届いた作り込みが光る。
こうして完成したMRG-B2100Bは、これまでのMR-Gにはないシンプルな表示スタイルを実現しつつも、質感高いエレガントで精悍なルックスに仕上がった。もちろん、 横幅44.4mm、厚さ13.6mmのケースサイズは一般的な3針ウォッチからすると大ぶりに見えるが、既存のMR-Gと比べるとはるかにコンパクトになっている。64チタンのケースとDAT55によるブレスレットの軽さも相まって、見た目の重厚さに反して着用感は上々だ。
MR-Gは単に日本の伝統技術を応用したり、日本発の先進素材を取り入れたりするだけの時計ではない。長年、山形カシオを中心とする生産拠点で培ってきた高度な製作技術を駆使しながら、デザインや素材の魅力を最大限に引き出しているクラフトマンシップに満ちたコレクションだ。そこに新しく加わったMRG-B2100Bは、こうしたクリエイティビティのもとに、かねてより求められていた3針のシンプルなスタイルとスリムなプロポーションを実現した挑戦的な一本となっている。G-SHOCKとしてここまでデザインの引き算を行なった例は決して多くなく、企画が立ち上がった段階では開発チームとしてそこに挑戦することへの不安もあったという。しかし、初号機のデザインを踏襲したMRG-B5000や、G-SHOCKらしいツール感を前面に押し出したMR-Gフロッグマンなど、それら既存モデルのいずれとも異なるデザインを本作で実現したことでラインナップの振り幅は大いに広がった。MRG-B2100Bはまだ見ぬファンへのアピールはもちろん、既存のMR-G愛好家に新たな価値を問いかける、MR-Gのニューウェーブともいうべき作品である。