ヴィンテージウォッチファンのあいだで、ロンジンはクロノグラフの名手として知られている。まず1978年に秒積算計だけを備えたCal.L20H クロノグラフポケットウォッチを開発。続いて誕生した30分積算計を装備するCal.L19CH クロノグラフポケットウォッチは、1896年に開催されたオリンピック第1回アテネ大会の記録で試験使用されことをきっかけに、スポーツ計時技術を研鑽することとなった。より精密な記録計測のためには、高精度をたたき出すムーブメントのハイビート化は必然の流れだ。1914年には3万6000振動/時、すなわち10振動/秒で10分の1秒単位の計測を実現させ、その2年後には1/100分の1秒まで計れるストップウォッチを実現。ロンジンはスポーツ計時のパイオニアとして、乗馬やスキー、ラリーにフォーミュラー1、ツール・ド・フランスなどで公式計時を担ってきた。オリンピックにおいても1950年以降、夏季・冬季を合わせて計14回も公式計時を務めている。
ハイビートによる高精度技術は、腕時計にも当然注がれた。1959年には10振動/秒の腕時計用Cal.360が完成し、1961年にはヌーシャル天文台精度コンクールで見事1位に輝いた。ただしこのCal.360はコンクール専用機であり、市販されることはなかった。高速振動によるオイルの劣化が著しかったからだ。しかしロンジンの開発陣は、ハイビートムーブメントを決してあきらめなかった。独自の乾式潤滑剤を開発し、1966年に市販向けの10振動/秒の自動巻きCal.431を生み出したのである。満を持して登場したハイビート機は、月差±1分、すなわち日差±2秒を誇り、COSCのクロノメーターを凌駕することから“ウルトラ-クロン”と命名。その翌年、初の搭載モデルが発売された。さらに1968年には、200m防水のウルトラ-クロン ダイバーが誕生。高精度に加え、ハイビートによる優れた耐衝撃性がスポーツウォッチに応用されたのだ。
1968年に誕生したハイビートダイバーズの傑作が現代に復活!
ウルトラ-クロンが誕生した1967年は、ロンジンが創業135周年と工場設立100周年を迎えた年だった。そして創業190周年となる今年、ウルトラ-クロンがよみがえった。復刻させたのはウルトラ-クロン ダイバーであり、上の写真の右が新作、左がオリジナルである。クッション型のケースは、ややラフな印象だった四隅を絞り、滑らかなフォルムへと変貌させている。
逆回転防止ベゼルの外周の刻みはより細かくなり、目盛りも細身に整え直し、さらにベークライト製だったベゼルリングは、ロンジン初のサファイアクリスタル製となって艶かな質感が与えられた。ブレスレットは、細く小さなリンクがあいだをつなぐ7連デザインを採用。ロンジンは、ウルトラ-クロン ダイバーの完全な復刻とはせず、ややエレガントな方向にデザインを寄せ、現代的にアップデートしてみせた。ダイヤルも針や植字インデックスの再現性は高いが、時針は山型に設えて立体感を高め、赤い分針の色乗りも厚く質感に優れる。さらにベースとなるブラックは微粒子を全体に敷き詰めたグレイン仕上げとし、光の反射を操り、豊かなニュアンスが与えられた。
また過去には、完全復刻モデルであってもかたくなにデイト表示を装備させてきたロンジンが今回は一変、オリジナルにあったデイトをあえて外してきた点は、なかなか興味深い。結果、ハイビートであることを表現した稲妻のようなマークがより引き立ち、アイコニックに機能している。その稲妻をあしらう裏蓋のデザインは、オリジナルにほぼ忠実だ。インデックスに対するスーパールミノバ®を、ベゼルとダイヤルともにクォーターだけとしているのも同じで、DNAは随所に息づく。
新生ウルトラ-クロンは、ケース前面とサイドをサテンに、エッジをポリッシュに仕上げ分け、クッション型ケースをよりダイナミックな印象としている。ブレスレットもあいだをつなぐスリムなリンクだけをポリッシュ仕上げとして、サテンのなかに3本ラインが輝く。そんな質感に優れたブレスレット仕様に加え、ロンジンはカーフストラップ仕様もラインナップさせた。そのストラップは、表面をわずかに起毛させて経年変化したような質感とし、レトロな時計の外観と調和させている。ケース径は43mm(オリジナルは41mm)と、やや大振りだが、ラグ間を広く取っているためブレスレットもストラップも幅広となり、腕にしっかりと固定されてフィット感に優れる。
さらに木製の専用ボックスには、ブレスレット仕様でもストラップ仕様でも、ブラックナイロンの中央に真紅のラインが貫くNATOストラップがセットに。むろんバネ棒を外す専用工具も付属する。近年、多くのブランドが採用するインターチェンジャブル式としなかったのは、NATOストラップがバネ棒とケースのあいだを通す仕組みだから。インターチェンジャブル式のバネ棒は特殊な形状をしており、また外したブレスレットやストラップ側に付いたままになる。NATOストラップ専用のバネ棒を別に用意せねばならず、かえって煩わしい。工具の扱いには少しコツがいるが、それほど難しくはなく、すぐに慣れるはずだ。その時計を自らの手で“イジる”作業は楽しく、愛着もより増すことだろう。
ハイビートによる高精度を独立機関「TIMELAB」でのテストで見事に証明
2022年に復活したウルトラ-クロンは外観だけを受け継いでいるのではもちろんない。10振動/秒のハイビートと、それに伴う高精度も継承している。そのために専用のCal.L836.6を開発。テンプはシリコン製ヒゲゼンマイを採用したフリースプラング式で、さらに香箱を改良して長尺の主ゼンマイを収めることで52時間のパワーリザーブを確保した。改良の詳細は明らかにされてはいないが、外観上ではハイビートに対応するためか、テンプ受けの耐震装置の形状が明らかにETAの一般的な機械式ムーブメントとは異なっている。
こうしてハイビートを復活させたロンジンは、高精度である証しとしてジュネーブに拠点を置く独立機関TIMELABによる新たなクロノメーター認定「Observatoire Chronométrique」の取得に挑んだ。Observatoireとは、天文台の意。TIMELABは、時計の公的品質証明のなかで最も長い歴史を持つジュネーブ・シールの認定機関であり、かつて天文台が行ってきた精度コンテストにならったクロノメーター認定の実施を2014年に発表した。これはCOSCのようなムーブメント単体でのテストではなく、時計として完成した状態でテストすることを意味する。正規のダイヤルと針が取り付けられ、ケーシングされたムーブメントは、重量や張力などによる負荷により単体の状態よりもはるかに大きく精度が落ちる。これでCOSCと同じ5つの姿勢差と3つの温度で(8℃、23℃、38℃)で15日間精度テスト行い、ISO3159が定める平均日差-4~+6秒(Cal.L836.6のサイズの場合)をクリアしなくてはならない。合格のハードルは極めて高く、2014年の発表以来、認定を受けたのは数モデルしかないのが現状だ。
前述のように、かつてロンジンは腕時計用のハイビートムーブメントでヌーシャテル天文台精度コンテストの優勝を飾っている。この歴史を受け継ぎ、新生ウルトラ-クロンは天文台クロノメーターに挑み、見事に認定を勝ち取ってCOSC認定クロノメーターを超える高精度であることを証明してみせた。スポーツ計時で研鑽した高精度技術が今年、再び大輪の花を咲かせたのだ。
1832年の創業以来、時代を彩ってきたロンジンのタイムピース。ロンジンは創業190周年を記念して“Color of Elegance -人生を彩るタイムピース” をテーマに2022年6月22日(水)から7月5日(火)まで、期間限定POP-UPストアをオープンする。このPOP-UPストアでは、時代を超えて愛され続けているアイコンウォッチ、ラ グラン クラシック ドゥ ロンジンとロンジン ドルチェヴィータの新作先行販売やロンジン スピリット ズールータイム、そして本稿でも取り上げているウルトラ-クロンをはじめとする190年の歴史を象徴する復刻モデルも登場予定。POP-UPストアの詳細は、こちらから。
【ロンジン 伊勢丹新宿店 本館1階 POP-UPストア】
期間: 2022年6月22日(水)〜7月5日(火) まで
営業時間: 午前10時〜午後8時
場所: 伊勢丹新宿店 本館1階 プロモーションスペース
問い合わせ先: 伊勢丹新宿店 03-3352-1111(大代表)
また7月1日(金)には、銀座7丁目の日本の旗艦店であるロンジン ブティック銀座もリニューアルする。日本の旗艦店である店内には、国内最大級となる常時200本以上の時計をラインナップ。アイコンモデルや復刻モデルはもちろん、ストラップやサングラスなどのアクセサリーも取り揃え、知識も豊富なウォッチコンシェルジュとともにロンジンの世界を体験できる。リニューアルオープンの詳細はこちらから。
ロンジン ウルトラ-クロン ギャラリー
Photos:Tetsuya Niikura(SIGNO) Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Norio Takagi