ゴールドフェザーの歴史とは、すなわちセイコーの薄型メカニカルの原点であり、いまもその象徴である。始まりは1950年代。日本の時計産業が戦後復興から再び活気を取り戻し、世界を目指した時代だ。
当時、品質と機能の実証としてまず求められたのは精度だった。国内でも国産時計品質比較審査会が開催され、さらにその先にはスイス天文台クロノメーターコンクールがあった。こうした高精度を追求したのがグランドセイコーだ。そしてその一方で対抗軸にあった薄型を追求したのが、セイコー ゴールドフェザーである。何故、薄型が重視されたのか。それは精度と同様に技術力のアピールだったから、とセイコーウオッチの商品企画、神尾知宏氏は言う。
「薄型化は、高度な設計と製造、さらに組み立てや調整の匠の技能が合わさった総合的な技術です。当時、世界に誇る製品を目指し世に送り出そうと高まる気運がグランドセイコーとセイコー ゴールドフェザーに注がれ、とくに後者が搭載したCal.60は、中3針の手巻き式で当時世界最薄の2.95mmを実現したことで、精度と並ぶセイコーの技術力の象徴となりました」
その開発思想は継承され、1969年に2針化した1.98mm厚のCal.6800(Cal.68系)として結実した。搭載したのが名機、セイコー U.T.D.(Ultra Thin Dress)だ。このCal.68系は、その後もアップデートを重ねながら、クレドールを代表する薄型ムーブメントとして今なお進化を続ける。
いわば精度が数値化される技術であるのに対し、薄さはよりフィジカルに即した技術といえる。前述した総合力に加え、デザインにも視覚に訴える薄さの演出がなされた。外装設計担当の石田正浩氏が解説する。
「(オリジナルのゴールドフェザーは)薄型ムーブメントに加え、ケースをより薄く見せるため、風防を切り立てる一方で、サイドを薄く仕上げていました。さらに裏蓋をすり鉢状にして肌との接触面を減らし、薄く感じるようにしていたのです。ラグも正面は極力細くしていますが、見えない側面や根本を厚くすることで強度と耐久性を与えていました」
新開発の薄型ムーブメントを始め、こうした細部にいたるまで多くの創意工夫を盛り込み、オリジナルのゴールドフェザーは完成した。羽根のような美しさと触れた時の軽やかさを目指した、その名にふさわしい薄型ドレスウォッチだったのだ。
ブランド創成期の薄型ドレスをオマージュした、新時代のゴールドフェザー U.T.D.
セイコー ゴールドフェザーは1960年の誕生から、その役割を1969年に登場した高級時計コレクション「セイコー特選腕時計」へと引き継いでいった。そして1974年に「セイコー特選腕時計」はセイコーの上位ブランドのひとつとして独立。それが現在のクレドールである。ブランド誕生50周年を記念して今年発表されたクレドール ゴールドフェザーU.T.D.限定モデルでは、70年代当時の薄型ドレスウォッチのダイヤルをモチーフとした。
限定モデルのデザインのもととなったオリジナルは、ケースとラグが一体化したシェイプの正面をフラットに仕上げ、切り立ったボックス状の風防をベゼルリングが囲む。裏蓋は縦方向の平面からサイドラインに向かって傾斜をつけ、薄さをより演出していた。これに対し、限定モデルはボンベダイヤルをケース全面に広げ、初代セイコー ゴールドフェザーを範に取る全体に柔らかで優美なフォルムだ。ラグはテーパーをつけ、面取りしたモダンなスタイル。シースルーバック仕様にも関わらず、8mmという薄さを実現したのは新開発のケース構造にある。
「当時は非防水(編注;ゴールドフェザーのオリジナル)でしたが、日常生活防水にするためにはパッキンなどでのシーリングが必要で、そのため本来ムーブメントの周囲にある中枠をケースと一体化しました。さらにボンベダイヤルの採用には、ケース内側の底部をコンマ数ミリレベルですり鉢状にし、中枠を省いても強度を担保し、収納位置もより下げたのです」(石田氏)
中枠のケース一体化には、加工を含め新たな作り方やプロセスも開発したという。これも手作りに近いクレドールだからこそできたといえる。
最大の特徴であるダイヤルは、横ストライプに雪氷のようなテイストを施したオリジナルに対し、限定モデルではボンベ形状に繊細な和紙や絹糸を思わせるテクスチャー感で仕上げる。そして共通する極細のローマ数字のインデックスについて神尾氏はこう説明する。
「これは当時の印刷技術を現代的に継承するべく復活させました。プリントは交差部分や角ほど印刷がつぶれやすく(インクが溜まりやすいため)、それを想定したセリフ(書体の端飾り)に補正してすっきりと見せるなど、これまでのデザイナーたちが培ってきた経験とノウハウを注ぎました。一方、当時に比べると現代では多版を重ねることができるようになったので、数字はより立体的になっています。繊細なインデックスに合わせて針はドーフィンにセンターラインを記し、視認性を上げました。
手に取ったあとの気づきがあってこそ、愛着につながる。そうした思いから、クレドールは正規販売店として認定されたクレドールサロンや、クレドールショップでのみ購入が可能だ。特にブランド50周年を迎えた今年は、例年以上にその世界観の訴求に力を注ぐという。伊勢丹 新宿店のクレドールショップが、ブランドの世界観をより一層体現し体感できるクレドールサロン(3月27日より)として生まれ変わったこともその一環で、リニューアルに伴い4月4日~4月30日にかけてフェアを開催している。そこでは、本稿で紹介した50周年記念 ゴールドフェザー U.T.D. 限定モデルがサンプル展示されるほか、対象商品を購入することでビスポークストラップ(※)かオリジナルノベルティが進呈される。クレドールの世界へ没入するのに、またとない機会となるだろう。
※対象モデル購入で、好きな素材・色から選べるセミオーダーストラップをプレゼント(納品までは6カ月程度の時間を要する)。 対象モデルについては売り場スタッフまで。ゴールドフェザーSSモデルの場合は、美錠も付属。
【クレドール フェア】
■期間:2024年4月4日(木)~ 4月30日(火)まで
■購入特典:期間中、クレドールの購入でオリジナルノベルティをプレゼント
■場所:伊勢丹 新宿店本館5階 クレドールサロン
■TEL:03-3352-1111
薄さと調和するエレガントでエクスクルーシブなブレスレット
2020年に本格復活に向けてプロジェクトが始動したゴールドフェザーは、昨年クレドールから新たなスタートを切った。それはセイコー ゴールドフェザーが薄型ドレスウォッチの象徴であるとともに、歴史的経緯や現在のブランド構成において引き継いでいくのは、クレドールしかないという判断からだった。
レギュラーモデルは、2種類のダイヤルカラーをそろえ、スモールセコンドにブレスレットを装備する。37.1mm径のケースに対し、ダイヤルを全面に広げ、存在感をよりアピールする。丸みを帯びたボックス風防の下には、ボンベダイヤルにシンプルなアプライドのバーインデックスとドーフィン針を備え、凹凸をつけたスモールセコンドがメリハリあるコントラストを生む。漂うエレガンスに際立つのがブレスレットだ。
「現代的なエレガンスを考えると、使いやすさも損なうことはできません。となると素材はSSが使いやすいし、気負わずつけられるブレスレットもそうです。そこで最も重視したのはつけ心地。触れた時のしっとりとするような柔らかさです。駒のピッチを短くすることで細かく可動し、裏側もすべてひとコマずつていねいに磨いて仕上げ、美しく肌にもしっとりなじみます。また多列により光がさまざまに反射し、エレガンスを演出しています」(神尾氏)
スポーツタイプの質実剛健なブレスレットとは異なり、ゆったりとしたサイズ感と手の動きに合わせてしなやかに纏う感覚が味わえる。それはエレガンスと日常の実用性を両立した、現代のドレスウォッチを象徴するものである。ゴールドフェザー U.T.D.は、終日腕にしても気にならない薄型の心地よいフィット感に加え、ゼンマイを巻き上げる手巻きの醍醐味も味わえる。シンプルななかにも分針の先端をダイヤルに沿って曲げるなど細部に渡る洗練された美しさは飽きることなく、長年使い込むほどにさらに愛着と味わいは増していくだろう。
豊かな時を過ごすという普遍性を込めて
市場においてラグジュアリースポーツが主流となるなか、いまあらためてドレスウォッチに注目が集まりつつある。しかしそれは旧態依然としたクラシックスタイルでないことは確かであり、クレドールの視座もまさにそこにある。「クレドールで一番大切にしていることは、その時代それぞれのドレスウォッチの提案です」と神尾氏。
「たとえシンプルでもそこに実用性を秘め、手に取りたくなったり、愛でたくなる。そうした感性に訴えるものを造形に落とし込むには、熟練の手仕事や時間と情熱をかけて作らなければできません。その根底には、愛着とともに豊かな時間を過ごしてもらいたいという思いがあり、それが現代におけるドレスウォッチらしさにとって重要なことだと思います」(神尾氏)
それはとりもなおさず、ハイコンプリケーションや美術工芸の技法を極めたモデルなど多彩な個性を揃えるクレドールに通底する、ドレスウォッチという普遍のあり方なのかも知れない。そして薄型メカニカルを探求してきたゴールドフェザーを擁することで、クレドールの新たなベクトルが定まったとも言えるだろう。細部まで神経の行き届いたドレスウォッチを身につけることで、その所作も時計にふさわしい豊かなものとなっていくに違いない。豊かな時間を過ごし、持つ人も豊かになる。だからこそ、この記念限定モデルは、その半世紀の節目を飾るにふさわしいのだ。
ゴールドフェザー U.T.D. コレクションギャラリー
Photos:Tetsuya Niikura(SIGNO) Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Mitsuru Shibata Special Thanks:Yoshihiko Honda