trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag
In Partnership

クレドールはなぜ薄型ムーブメントを作り続けるのか――68系の設計思想と匠の技

クレドールのゴールドフェザーは、いまや時計界全体でも希少になった薄型ドレスウォッチのコレクション。その名のとおり羽根のような薄さと軽やかさは、1969年から続く極薄手巻きメカニカルムーブメント、Cal.68系によってかなえられる。

クレドールが掲げるブランドフィロソフィーは、The Creativity of Artisans──匠たちの探求と豊かなる創造。それを各コレクションがさまざまな形で体現するなかで、スリムな2針を主力とするゴールドフェザーは、60余年の時を経てクレドールより誕生したセイコーにおける薄型メカニカルウォッチの原点。全モデルが搭載するのは手巻きCal.68系。これほどまでに薄いムーブメントは、かつてはコンプリケーションのひとつに数えられていたとされる。なぜならパーツ製造も組み立ても、きわめて難しいからだ。

薄型手巻きムーブメントの系譜は、シンプルな2針から複雑機構にまで広がっている。

 極薄ムーブメントを構成するパーツは当然薄い。2針のCal.6890の厚さはわずか1.98mm。そしてパーツは、薄くなるほど製造時の公差を小さくする必要がある。ほんのわずかな誤差でも歯車同士の噛み合いなどに不具合が生じるためだ。Cal.68系では、数ミクロン(0.001mm単位)レベルの公差を設定しているという。

 こうして高精度に加工された極薄のパーツは、軽い力でも簡単に反るし、歪む。こうした変形に対応しながらCal.68系を組み立てられる時計師は、一握りの選ばれし匠だけ。むろん薄さと精度、実用性を兼ね備えさせられる設計にも、驚くべき創造性が発揮されている。

 またゴールドフェザーは、トゥールビヨンもラインナップする。そのCal.6850の厚さは同機構として異例の薄さの3.98mmを実現。The Creativity of Artisansというブランドフィロソフィーを、さらに高い次元で体現している。


薄さを支える、Cal.68系の設計思想と組み立て技術

(左)1969年のセイコーU.T.D.、Cal.6800。(右) 1992年のセイコー創業110周年モデル、Cal.6810。

 セイコーの歴史を遡ると、1960年にゴールドフェザーの名が見つけられる。それが搭載していたCal.60の厚さは、2.95mm。中3針ムーブメントとしては、当時世界最薄であった。そして9年後の1969年、現在に続くCal.68系の始祖Cal.6800が誕生する。設計を手がけたのは、第二精工舎(現セイコーウオッチ)である。くしくも同じ年、セイコーは世界初の腕時計用クォーツムーブメントを世に送り出した。そしてクォーツ式に軸足を移した1970年代、国産初の極薄ムーブメントCal.6800は、一度その役目を終えた。

1992年、セイコー創業110周年記念モデルとして復活したCal.6810を紹介する当時のカタログ。

 時を経て、機械式時計復活プロジェクトが進行するなか、1991年に入社した開発設計部主幹の重城幸一郎氏は、当時をこう振り返る。「当時のデザイナーがバーゼルフェアに行って、スイスの時計メーカーがクォーツショックから立ち直りつつあることを目の当たりにしたそうです。その後、彼が企画部門に異動になり、ちょうど創業110周年に合わせて新しい機械式腕時計の企画を立ち上げました」。このプロジェクトで選ばれたのが、Cal.68系だった。

 そして翌年リリースされた同機を積んだ創業110周年記念モデルが、予想以上に反響が大きかったことを受け、93年からクレドールでCal.68系搭載モデルがレギュラーモデルとして復活した。

 「高級機械式時計が市場で評価されたという実績ができたことで、グランドセイコーでも機械式をやりたいという機運が高まりました。そしてCal.68系で製造・組み立てのノウハウを蓄積していったのです」。すなわちセイコーの高級機械式時計復活は、Cal.68系なくしては成しえなかったのだ。

組立師の松尾 健氏。

Cal.68系ムーブメントに長年携わってきた、重城幸一郎氏。

 円の両サイドを切り落としたような樽型の2針ムーブメントだった初代Cal.6800に96年、重城氏はスモールセコンドを追加して丸形に設計変更した。このCal.6898をスケルトン仕様としたCal.6899も同じ年に誕生している。

 「丸形にしたのは、スケルトンがより際立つからです。Cal.6800は四番車が6時位置にないため、歯車を追加することでスモールセコンド化しています」。この設計変更の際、重城氏は初代Cal.6800の基本設計をほぼ変えなかった。それほど完成度が高かったのだ。

 「Cal.6800は、数々の機械式ムーブメントを手掛けてきた当時の設計担当者の集大成。いかにして薄くし、高級感を出すかを徹底的に突き詰め、他では絶対にやらないような特殊なことをした採算度外視の設計です」

段付アンクルの図解。

 ほかにはないCal.68系の特殊な構造のひとつが、脱進機の段付アンクルだ。「ムーブメントで一番厚みが出るのは、テンプまわりですよね。そこでアンクルの竿部を階段状に曲げることで、テンプとの断面方向の距離を近づけ、全体の高さを抑えています。また振り座のつば部を削除し、テンプに振り石を直接組み込むことで、つば部の厚み分だけ薄くしてもいます。普通そんなことは、絶対にしません」

 またCal.6800は、香箱の厚みを削るために蓋を取り払っていた。そして動力ぜんまいが上下に移動しても地板に直接接触しないよう、香箱車の外周側に大きな人工ルビーを4カ所に配置している。香箱の蓋を持たない極薄ムーブメントは、他社にも存在する。しかし人工ルビーで蓋を代用しているのは、唯一無二だ。

 これらの独自性は、組み立てをより難しくする。しかし重城氏は、先人の極薄化への創意工夫を受け継ぐ道を選んだ。ゆえに時計師には、卓越した技術力が求められる。

精密な組み立て作業に欠かせない、松尾氏が用いる工具の数々。

 そんなCal.68系の組み立てを担う選ばれし匠の一人が、盛岡セイコー工業・雫石高級時計工房の松尾 健氏だ。同じ工房で働き、長らくCal.68系に向き合ってきた現代の名工、齋藤勝雄氏の下で技術を研鑽してきた。

 「ほかのムーブメントのような分業制ではなく、組み立て、調整、ダイヤルと針の取り付け、ケーシングまで、全て自分一人で担当できるのでやりがいがありますし、仕事として楽しい」。むろん、極薄だからこその苦労は数えきれないほど多い。最初の苦難は、組み立て前のパーツ選定で早くも訪れる。

 「ゴールドフェザーの主力機であるCal.6890は、受けを3分割しているため、それぞれのメッキの色合いや仕上がり具合が同じになる組み合わせを見付けなくてはいけないんです」

 素人目にはまったく見分けが付かないが、各パーツごとにメッキや仕上げに個体差がどうしても生じる。その違いを見極め、ネジのヘッドの色調も含めた完璧なマッチングを目指しているという。「この見極めはマニュアル化はできません。私の師匠の齋藤さん、さらにその師匠である桜田守さんからの技術の継承によってパーツを見る角度や光の当て方を身につけてきました」

 組み立てでは、歯車同士のクリアランスや受けの反り・歪みの調整に、手間と時間を費やしている。「受けの捻じれを直して次に歯車クリアランスを調整すると、また受けに反りが生じたりの繰り返しです。でも極薄ならではの難しさが、組んでいておもしろい」

 テンプの直径は、およそ8mm。重城氏によれば、このサイズのムーブメントとしては、比較的大きいというが、薄くもあり慣性モーメントは小さく、また2万1600振動/時のロービートでもあるため精度を出しづらい。そこでCal.68系ではテンプの振り角を調整することで、高精度化を図ってきた。そして大きな振り角に対するアンクル位置の調整のために、今では珍しいドテピン(レバーが過度に動かないように配置されたピン)を用いている。

 「シャープペンの芯より細いドテピンを、ごく僅かに曲げて調整をして最適なアンクル位置を決め、テンプの片重りを削って取って、緩急針のあおりを詰めて……と、こっちを立てればあっちが立たずみたいな作業を地道にクリアしながら精度を追い込んでいます」

こうして完成するのがCal.68系だ(写真は現行のCal.6890)。図面に描かれた輪列や受けの配置が、厚さ1.98mmのムーブメントとして形になる。

 前述したようにテンプに振り石が直接打ち込まれているため、片重りの解消はより難しい。松尾氏は「精度調整は、納得がいくまでただただ頑張るしかない」と、笑顔で話す。

 またゴールドフェザーが採用するボンベダイヤルのカーブに合わせた針曲げも、松尾氏が手作業で行っている。針とダイヤル・風防のクリアランスは、極めて小さい。的確なカーブに仕上げなければ、どちらかに触れてしまうため、作業には慎重を期する。

 「ゴールドフェザーの組み立ては、全部私ひとりでやっていますが、それ以前に多くの人がパーツ製造に携わり、素晴らしい部品を作ってくれています。仕上げも本当に綺麗です。ゴールドフェザーにはシースルーバックではないモデルもありますが、すごくいいものが積み込まれていることをお客様に感じ取ってもらえたら嬉しいですね」


極薄ムーブメントが形づくる、ゴールドフェザーの現在と未来

Cal.6890を搭載したゴールドフェザーのケース厚は、わずか7.7mmだ。

 ゴールドフェザーのコンセプトは、“羽根のように薄く、軽やかで、空気をはらみ、艶やかで、優美”。つまり、いたずらに薄型化だけを追求したコレクションではないのだ。その証拠に高さの出るボンベダイヤルやドーム型風防を採用している。これにより、薄さのなかに“空気をはらんだ”ような立体感が生まれている。そしてザラツ研磨による、歪みのない鏡面で構成したケースが“艶やかさ”と“煌めき”をもたらす。Ref.GBBY972のような、ゴールドフェザーの主力である2針モデルは、機械式ドレスウォッチとしてのトータルバランスを十分に検討し、生まれた。

 さらに植字のバーインデックスは、針同様ダイヤルのカーブに合わせて曲げられ、その間の分目盛りは、バイトを押し付けて円状のくぼみを設ける凝った造作になっている。ケース径に対し、ダイヤルは広く採られ、また時・分針は長く、視認性にも優れる。すなわちゴールドフェザーは、実用性にも優れているのだ。

 極薄トゥールビヨンCal.6850搭載の最新作Ref.GBCF997は、メカニズムに加え、彫金技術でも魅せる。ダイヤル全体に細やかな放射状模様を施し、羽毛のような柔らかな印象を表現。そして極細の彫りローマ数字が、凛とした印象を与えている。

 シースルーバックに姿を現すムーブメントのブリッジには、トゥールビヨンキャリッジを起点に光の軌跡のように伸びる直線を放射状に手彫りした。分割ブリッジとリューズ側にある三日月型の飾り板に各直線が途切れることなく一つながりになっているのは、まさに匠の技の賜物。それらの装飾は、彫刻刀の刃の角度と深さを一定に保ちながら彫りを数回重ねることで、薄さのなかにも立体感を生み、力強さを際立たせている。

 セイコーの高級機械式時計復活の立役者となったCal.68系は、クレドール ゴールドフェザーの名の下で機構と外装を進化させ、希少となった薄型機械式ドレスウォッチの伝統を未来へつなげている。


クレドール ゴールドフェザーギャラリー

クレドール ゴールドフェザー Ref.GBBY972。407万円(税込)

18Kイエローゴールドケース、レザーストラップ。ケース径37.1mm、厚さ7.7mm。日常生活用防水。手巻き、Cal.6890搭載。

ゴールドフェザー トゥールビヨン 彫金 限定モデル Ref.GBCF997。2860万円(税込)
プラチナ950ケース、レザーストラップ。ケース径38.6mm、ケース厚8.6mm。3気圧(日常生活用)防水。手巻き。Cal.6850:22石、2万1600振動 / 時、約60時間パワーリザーブ。世界限定25本。

Photos:Tetsuya Niikura Styled:​Eiji Ishikawa(TRS) Words:Norio Takagi