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極限の機能美は造形美へと深化する MR-G FROGMAN “BRINICLE”

1996年、G-SHOCKのハイエンドラインとして歩み始めたMR-Gは、2026年に30周年を迎えた。その節目にMR-G フロッグマンコレクションへ加わるのが、極寒の海の自然現象「ブライニクル」をモチーフとした限定モデルだ。極限の機能美は、いかにして静謐な造形美へと結晶するのか。その美しさと強さを読み解く。 #PR

2026年、G-SHOCKの最高峰ラインであるMR-Gは30周年を迎えた。そのアニバーサリーイヤーに、カシオがMR-G フロッグマンのコレクションへ投入したのがMRG-BF1000EB-1AJRだ。チタンカーバイト処理(3時側リューズおよびボタンはDLC処理)が施された64チタンによる重厚なグレー外装と、目の覚めるようなホワイトのストラップ、そして光を受けて乱反射するコバリオン製のベゼルを有する本作は、これまでのMR-G フロッグマンとは様相を異にする1本である。モチーフとなったのは、ブライニクル(Brinicle)と呼ばれる、極海において複雑な条件下のみで観察される自然現象だ。チタンをはじめとした高機能な金属を用いているから高級なのではなく、MR-G フロッグマンだからこそ表現できる強さ・精密さ・実用性、そして美しさを追求する。その姿勢は、本作においていっそう鮮明に表れている。

 30周年のモデルとして、なぜフロッグマンを選んだのか。商品企画を担当した佐藤貴康氏は、その理由を次のように説明する。「周年としての商品選定にあたり、従来のMR-Gよりさまざまなモデルを検討しました。そのなかで、30周年に勢いをつけること、またシーズン的にも夏に向かっていく時期であることを踏まえ、MR-Gのなかでも高い人気を得ているフロッグマンが最も合っていると判断しました」

 MR-G フロッグマンが見据えるのは、高級時計を所有することだけに満足するユーザーではない。新しい体験を求め、自ら未知のフィールドへ踏み出していくような人物像である。佐藤氏はそれを“遊び心のある大人”と表現する。「いわゆる時計らしい時計ではなく、それを身に着けることで着用者の心を冒険に誘うようなものであって欲しい」。その言葉どおり、今作にはスペックや素材の面からの付加価値に加え、これまでのMR-Gにはない新たなストーリーが求められた。

左は2023年に発表されたMR-Gフロッグマン、MRG-BF1000R-1AJR。

 そこで掲げられたのが、“エクストリームアドベンチャー”というコンセプトだった。佐藤氏は、極地でしか出合えないブライニクルを、「それでもこの現象を見に行こう」と心を躍らせるような冒険心と重ね合わせたという。過酷な海に挑むダイバーズウォッチであり、G-SHOCKのなかでも異色の存在感を放つフロッグマンだからこそ、極地の水中で生まれるこの自然現象は30周年モデルのテーマとして自然に結びついた。

 ブライニクルは“氷の鍾乳石”、“氷の渦巻き”、“死の氷柱”などとも呼ばれ、極海の氷棚の下や極寒の塩湖の水面下といった限られた環境でのみ起こる稀な自然現象である。海水が凍る際、水分だけが氷となり、塩分は排出される。その結果、周囲より融点が低く、比重の高い高濃度の塩水が生まれて海底へと沈んでいく。すると周囲の海水はさらに凍りつき、高濃度の塩水は氷柱の内側を進み続ける。その際、海中生物を絡めとって凍らせることもあるため死の氷柱と呼ばれるのだ。古くから存在は知られていたが、発生モデルが解明されたのは約50年前であり、映像によって科学的に記録されたのは2011年に過ぎない。

 このテーマを30周年にふさわしい特別なモデルへと結実させるには、外装表現を支える特別な技術が必要だった。そこで佐藤氏が声をかけたのが、5年前の25周年モデルである華婆裟羅(はなばさら)においても高硬度素材コバリオンのベゼル研磨を担当した、世界的な宝石研磨職人にしてKomatsu Cutting Factoryの代表、小松一仁氏である。

 ただし、これは単なる再起用ではない。華婆裟羅以降も、カシオと小松氏のあいだでは「このパーツなら何ができるか」、「コバリオンでどんな新しい表現が可能か」という対話が定期的に重ねられてきた。カシオは商品開発の一方で常に新しい技術の可能性を追い、小松氏もまたコバリオンという特殊な素材に対する理解を深めていく。互いの要求水準と技術の限界を知る関係性があったからこそ、やがて小松氏から、渦を巻くように光を連続させる“ボルテックスファセットカット”という提案が生まれた。

Komatsu Cutting Factory代表取締役・小松一仁氏

2021年に、MR-Gの25周年を記念して発表された、MRG-B2000BS-3AJRこと「華婆裟羅」。このときにも、ベゼルにはコバリオンが選定された。

 30周年モデルの型やテーマを議論する段階で、佐藤氏の念頭にはこのカットの存在があったという。では、それをどのような物語へと結びつけるべきか。前作の華婆裟羅が日本古来の武具的な強さを表現していたのに対し、今回はフロッグマンそのものが持つ海のストーリー性を起点に、極地の海で生まれるブライニクルへとたどり着いた。つまり本作は、自然現象の形を後から装飾としてなぞったモデルではない。小松氏の技術が開いた造形の可能性と、MR-G フロッグマンが担うべき30周年の物語とが、互いを引き寄せるように結実した1本なのである。

 本作のコバリオンベゼルには、100近くにも及ぶファセットが刻まれている。それぞれの面にはヘアライン仕上げによって硬質なテクスチャーが与えられており、螺旋状に入れられたそれは、極海の冷たい水のなかで仄かな光を受けながら静かに凍り、渦を巻いて成長していくブライニクルを想起させる。硬度の高いコバリオンには宝飾品のような精密なカットが施され、ブルーAIP(アークイオンプレーティング)表面処理によって硬度と青みが加えられている。そのベゼルをブルーサファイア裏のビスでチタンケースに固定し、真っ白なデュラソフトバンドと組み合わせることで、極海の深い水中世界が力強く表現された。

 この新しい表現を実現するうえで、小松氏がまず強調するのは宝石研磨とはまったく異なるコバリオンという素材の手応えだった。

 「普段は鉱物や水晶、真珠などを研磨することが多く、金属の加工はこのコバリオンしか手がけたことがありません。しかもカシオさんがコバリオンに求める表面精度は、宝石以上に高い。加えて今回は磨いて鏡面に持っていくのではなく、100近くもある面それぞれに方向性のあるヘアラインを入れ、そのまま仕上げとする必要があります。稜線も丸くならず、鋭く出ていなければならない。普段扱っている石はこうだからコバリオンはこう、というようにひと言では言えない、まったく別物を取り扱う感覚でした」

 佐藤氏も、コバリオン加工の肝は単なる硬さの問題ではなく、磨いたときの感触や削れ方、仕上がりが宝石とはまったく異なる点にあると説明する。前作の華婆裟羅では、大きな一面を美しく磨き上げる難しさがあった。一方、ブライニクルでは小さな面が密集し、隣り合う面の角度、ヘアラインの向き、稜線の鋭さを同時に揃えなければならない。小松氏は試作を含めて1000個近いベゼルを加工し、ルーペと肉眼による感性的評価によって、面の状態を揃えていったという。職人の手業を工業製品として成立させるには、美しさと量産性の両方を同時に満たす必要があった。

 その難しさを踏まえると、ベゼルに刻むファセット面は均等な多面体として構成することもできたはずだ。氷柱の硬質な輝きを表現するだけなら、それでも十分に成立しただろう。しかし小松氏が目指したのは、静止した造形ではなかった。宝石を手にしたときのように、「見ていて飽きない」きらめきを、ベゼルの上に生み出すことだったのである。

 「例えば60面でベゼルを均等に割ったとしましょう。それを手に持って回したときには、反射した光が一周して戻ってくる感覚があると思います。ですが、このベゼルでは針が回るように面のきらめきが止まらず、エンドレスに続くものにしたかった。そこで、徐々に螺旋状にせり上がっていく面を4つ付けることを思いつきました」

 その結果、ベゼルの光は一周して終わらず、見る角度を変えるたびに面のきらめきが少しずつずれながら連なっている。氷柱が水中で渦を巻きながら成長していくような連続性が生まれ、ボルテックスファセットカットはブライニクルの形だけでなく、その生成の気配までも外装に宿すことになった。

 なお、ブライニクルにおけるMR-Gの30年の進化は、外装の強さと美しさだけに表れているわけではない。200m潜水用防水、潜水時間やログを計測するダイビング機能、標準電波に対応するマルチバンド6、蛍光灯のわずかな光で充電するタフソーラー、Bluetooth® によるモバイルリンク機能。フロッグマンとして求められる実用性を満たしながら、日常的な使いやすさも高めている。さらに裏蓋側では、フロッグマン伝統のカエルの周りにMR-G30周年のロゴと限定800本のシリアルナンバーを配し、サファイアクリスタルのスクリューバックの深い青の上に、それらのディテールを浮かび上がらせた。

 MR-Gの価値は、チタンやコバリオンといった高機能素材を用いることだけにあるのではない。耐衝撃性、防水性、視認性、操作性といった工業製品としての合理を突き詰め、その果てに生まれる機能美をさらに造形美へと高めていくところにこそ本質がある。ブライニクルでは、そのカシオらしい機能美の極みに、小松氏の精緻な技術と感性が重ねられた。極海で生まれる稀な自然現象を、1000個近いベゼルの加工を通じてひとつの外装表現へと結晶させる。その途方もない積み重ねが、量産品でありながら人の手の気配を宿す、特別な価値をこの時計にもたらしている。

 もちろん、MR-Gが職人との協業を行うのは今回が初めてではない。これまでも日本各地の職人や伝統技術と向き合いながら、G-SHOCKの強さをどのように美へと転化できるかを探ってきた。しかしブライニクルでは、その協業が単なる装飾的な付加価値に留まっていない。華婆裟羅が日本古来の武具的な強さを示したのに対し、本作は極海の水中で生まれる稀な自然現象を起点に、MR-Gが表現しうる美観を新たなステージへと押し広げている。

 佐藤氏は、MR-Gがこれからも守るべきものを“強く、美しい”という言葉に集約する。そのうえで、遊び心のある人々に響くには、驚きのあるアプローチが必要だとも語る。G-SHOCKという耐衝撃時計の土台を大切にしながら、時代の流れや先端技術を取り入れ、世界中にMR-Gの魅力を広げていくこと。そして限定モデルにおいては素材や構造の高度さだけでなく、手が込んでいると感じられる美しさによって、所有する歓びと納得感を生み出していくこと。ブライニクルはまさに、その思想を30周年の節目に結晶させた1本である。

 極限の環境で生まれる自然現象を、極限まで鍛えられた工業製品の外装へと宿す。そこでカシオのテクノロジーと小松氏の技が響き合うことで、本作は単なる特別仕様ではなく、次の10年へ向けた新しい表現の可能性を示した。30周年の記念碑であると同時に、ブライニクルはMR-Gがまだ見ぬ美へと踏み出していくための確かな一歩となったのだ。

MRG-BF1000EB-1AJR
121万円(税込)
ボルテックスファセットカットを施したコバリオン製ベゼルパーツ(ブルーAIP処理)、64チタン製ケース・ボタン・スクシューバック(TIC処理)、ディラソフトラバー製ホワイトストラップ、64チタン製のメタルブレスレットが付属。スマートフォンリンク、タフソーラー、標準電波受信機能(マルチバンド6)、フルオートカレンダー、パワーセービング機能、針位置自動補正機能、LEDライト(スーパーイルミネーター、残照機能付き)、ダイビング機能、タイドグラフ。直径49.87mm、厚さ18.6mm。耐衝撃構造、JIS1種耐磁、20気圧防水。

Photos:Jun Udagawa Styled:​Eiji Ishikawa(TRS) Words:Kazuhiro Nanyo