精緻な機構と最上級の仕上げで知られるドイツ時計界の最高峰A.ランゲ&ゾーネは、デザイン力にも秀でる。本質を追求するというドイツの美意識が目指すのは、優れた視認性との共存。幾何学的なアプローチで腕時計としての普遍の機能美をもたらしたランゲの時計たちの多くは、ほぼ同じ外観でサイズ違いを展開し、上質なペアウォッチとして組み合わせることができる。また同じ機能でのペアやシェアするのもいい。
ランゲ1とリトル・ランゲ1
左にダイヤルをオフセットし、右側の空きスペースにアウトサイズデイトとパワーリザーブ計、スモールセコンドを配置。ひと目でそれとわかるダイヤルデザインを持つランゲ1は、ブランドのアイコン。アシンメトリーなダイヤルはトリッキーなようであって、その実すべての表示が重ならず、優れた視認性をもたらすランゲ流の機能美が潜む。と同時に、それぞれの配置や大きさは黄金比に基づき、心地よい美が構築されてもいる。
ギリシャのパルテノン神殿や奈良の唐招提寺金堂などに見られる1:1.618の黄金比は、美へ導く道標だ。アウトサイズデイトのフレームは、この比率にならう。オフセットダイヤルとスモールセコンドのインダイヤルの大きさの比も、同様である。さらに黄金螺旋をダイヤルに当てはめると、随所に黄金比が隠れていることがわかる。またアウトサイズデイトと秒針の中心、そしてオフセットダイヤルの中央とを線で結ぶと、二等辺三角形を形作る幾何学的な美が考察されている。
これらはひと回り小さいリトル・ランゲ1のギヨシェが華やぐダイヤルでも同じ。調和が取れた普遍の機能美を持つがゆえ、1994年から変わらぬデザインは未来へとペアで受け継げる。
サクソニア・ムーンフェイズとサクソニア
そんなA.ランゲ&ゾーネが追求する機能美。ドイツのバウハウスも提唱し、「形態は機能に従う」とはモダンデザインの金言として知られるが、同時に的確な素材選びとそれを操る技術の重要性も説いていた。
サクソニアは、これらを腕時計で実践するコレクション。一切の無駄を削ぎ落したスリムなバーインデックスは、シンプルに時を示す機能を果たし、それぞれの時の領域をより明確にする。また針は適度な幅を持ち、鋭い切っ先が正確にインデクスを指すランセット(両刃刀)型とし、優れた視認性をかなえている。
さらに植字インデックスと針には完璧な鏡面で仕立てられたピンクゴールドを用い、繊細なマット仕上げのシルバーダイヤルや真珠母貝製ダイヤルと色でも質感でもハイコントラストとすることで、視認性は一層高まった。素材と職人の仕上げ技術とが時を示す機能と、その美しさや価値を高めることをランゲは心得る。
真珠母貝製のダイヤルは、ケース径が35mmと小振りで、女性の細い手首に優しく寄り添う。40mmサイズのシルバーダイヤルには、ランゲ独自のアウトサイズデイトと超高精度ムーンフェイズとが備わり、ランゲの真骨頂である精緻な機構が体感できる。一見するとお揃いには見えないさり気なさは、まるでふたりで共有する秘密のデザインコードのよう。
ランゲマティック・パーペチュアルとリトル・ランゲ1・ムーンフェイズ
そう、東西冷戦で休眠を余儀なくされたA.ランゲ&ゾーネが、奇跡の復活を遂げられたのは、何より高精度で高性能、かつ壊れにくい多彩な自社製ムーブメントが高く評価されたから。各コレクションには、多彩な機能が網羅され、リトル・ランゲ1にもムーンフェイズ搭載モデルをラインナップする。
スモールセコンド内に配されたムーンフェイズは、ゴールドの月が大小の無数の星を従え満ち欠けする様子が、実に幻想的である。その精度は、122.6年に一日分の誤差。精巧なメカニズムで、神秘的な天体の動きそのものを腕時計に閉じ込めてみせた。
その超高精度ムーンフェイズと、特許を持つアウトサイズデイトという機構でペアを成すのが、ランゲマティック・パーペチュアルカレンダー。2001年に誕生したブランド初の永久カレンダー搭載機であり、10時位置のコレクターで全暦表示を一斉送りできる優れた操作性が、ランゲらしい。9時位置には曜日表示と同軸に昼夜表示が備わり、針合わせの際に不要に暦が進むのを防いでくれる。
異なるコレクションであってもランセット型針やローマ数字の意匠は同じであり、かすかにシンクロするディテールが程よくペアを演出する。ケースは小振り、パートナーと良好な関係を築く限り、シェアウォッチとしても楽しめる。
こうした極めて精巧なA.ランゲ&ゾーネの自社製ムーブメントは、どれも外装同様に完ぺきな手仕上げが隅々に行き渡り、濃密な美を織り成している。テンプのブリッジに施される花を象ったハンドエングレービングは、個々に微妙に模様が異なりそれぞれの時計は世界でただ1つだけの存在になる。そんなユニークピースをペアで身につけることは、上質な時間を共有するのと同じ。ふたりのあいだに流れる時を、真の高級時計がより贅沢に美しく奏でるのだ。
Photographs by Tetsuya Niikura(SIGNO) Styled by Hidetoshi Nakatou Words by Norio Takagi