1961年に誕生したキングセイコーは、高級時計としての性能と先進的なデザイン、そしてプライスの三拍子を揃え、前年に登場したグランドセイコーと並び、国産腕時計を牽引した。高度経済成長期、多くの人々が憧れたモダニティの象徴となり、その腕元で時代のダイナミズムを刻み続けたに違いない。
現代の技術で蘇ったモデルは、1965年の“KSK”と呼ばれる第二世代のデザインをモチーフに、多様化するライフシーンに応えつつ、確固たる存在感をアピールする。その姿は滝藤さんにも重なるだろう。異なる役柄を演じながらも個性は揺らぐことなく、プライベートでは家族を愛し、植物を愛でる趣味が独自のスタイルを支える。そんな自分らしい時を生きる滝藤さんがキングセイコーと邂逅した。
滝藤さんは、普段からアクセサリーをつけこなし、自身のスタイルブックを出版するほどファッション好きで知られる。腕時計にも興味はあったものの、マニアックに深堀りすることはなかった。
「役者を志してこの世界に飛び込んだころは、もちろんお金はありませんし、稽古や巡業でそれどころではなかったんです。それでも憧れが諦めきれず、身の丈に合わないドレスタイプの腕時計を手に入れました。あんなに葛藤して買ったのに、結婚して子供ができると、抱っこしたときに危ないのでまったくつけなくなったんですよね」
服やアクセサリー、そして時計を選ぶ上で大切にしていることは、自分にとってのなんらかの意味があるかどうか、だという。
「僕は時計やアクセサリー、身につけるものには、なにかしら自分なりの意味が欲しいと思っています。子供の生まれ年に製造されたモノであるとか、6人家族だから6連のリングをオーダーで作ってもらうとか。将来、子供に譲りたいという気持ちが強いかもしれない。そういうことを考えたりすることで人生を楽しんでるんです。それに腕時計もアクセサリーも気分が上がりますよね。身につけるだけで毎日が楽しくなる。それが自分にとって意味のあるものなら尚更です」
そこには、家族への慈しみや過ごしてきた思い出、そして滝藤さん自身が映し出されているのだろう。そうした時間を時計が静かに刻んでいる。
撮影で滝藤さんが手にしたキングセイコーは、シックなレッドの文字盤だった。バーガンディよりも明るく、和のテイストを湛え、美しい放射仕上げがこれに表情を添える。
「(カラーバリエーションのなかでも)圧倒的にこれがセクシーじゃないですか。いい意味で“エロい”というか、妖艶な感じがしますね。シンプルなシルバーの文字盤もクラシックでとても魅力的ですけど、僕が選ぶならやっぱりこれかな」
文字盤のカラーを際立たせるのが、クラシックなボックス型風防だ。そして太く力強いラグと大胆な多面カットからなるケースを鏡面とヘアラインで仕上げ、シャープネスを演出する。醸し出すヴィンテージテイストに職人気質を感じると滝藤さん。
「僕もヴィンテージのアイテムに惹かれて、2年ぐらい前から古着を買うようになりました。好きな時代のムードを一瞬で楽しめるのが古着の魅力ですね。作られて時間が経っていても着心地がいいし、縫製もとても凝っているものが多い。それにやっぱり他の人と被らないのがいいですね。とはいえ古着だけでコーディネートするのではなく、今の服も合わせた方がいい。ヴィンテージの魅力は、現代ものと合わせることでより引き出されると思います」
それはキングセイコーにも通じるのだろう。時計を腕に、独自のコーディネートでカメラの前に立った。リボンタイのアクセントをつけたパープルのドレスシャツとシックなベスト、パンツはブラックジーンズの裾を自らカットしている。ヴィンテージとモダンが絶妙に溶け込む、滝藤さんらしさを感じさせるスタイルだ。
「キングセイコーは、どんなスタイルでもいけるなと思いました。フォーマルなスタイルはもちろん、カジュアルでも。僕だったらこういう感じだし、ジャージとかにもあえて合わせてみたくなりますね。ついつい人の時計に目が行ってしまいますが、プロフェショナルな仕事をしている人がつけているとさらにカッコいいでしょうね。時計のツウはそこに行き着くのかという目線で見られる気がします。実際のヴィンテージウォッチはメンテナンスも大変ですけど、キングセイコーは価格的にも日常使いができる一生物として魅力的ですよね。若い人にも似合う時計だなと思います。ヴィンテージな見た目は流行に関係無く使えると思うし、派手な時計以上に長く愛用できますからね」
今回の撮影のスタイリングや小道具もほとんどが滝藤さんの私物であり、そこに本人の自然体の気配が漂う。そんななかにも違和感なく溶け込んだのがキングセイコーだ。試しに60年代をオマージュしたメタルの多列ブレスレットから、ブラックのレザーストラップに換装してみた。カーフやスエード調など5種類のストラップをオプションで用意し、用途やスタイルに合わせて楽しめるのも大きな魅力だ。
「すごくカッコいい! ベルトで雰囲気がガラッと変わりますね。シンプルでクラシックでありながら、レザーにしただけでより個性的になるじゃないですか。むしろ形はオーソドックスで控えめだから、文字盤の赤が際立ちますね。クールだわ! この雰囲気も凄く好きです」と本人も満足そう。
ストラップを交換するだけでも異なる個性を演出できる時計は、時にはファッション以上にその人柄を表す。滝藤さんが演じる役柄でも時計の果たす役割は大きいのではないか。
「そうですね。レギュラーでやらせてもらっている『趣味の園芸』(ETV)という番組や自分でスタイリングしているバラエティではいつも私物をつけているんです。ドラマや映画でも私物を使うことはありますが、打ち合わせからしっかり話し合ってキャラクターの世界観を作り上げています。時計ひとつをとってもファッションはキャラクターの個性が伝わる大切なイメージです。若いときから、自分らしさを切り口に興味を持った物はどんどんファッションに取り入れて、体感で覚えて来ました。それが刺激になったし、今の若い人達にもこの刺激は伝わるはず。いつかストーリーを度外視した、ファッションが主体の、ぶっ飛んだ作品を作り上げたいですね(笑)」
そこにはもともと映像作りを目指した情熱がある。たとえば2020年主演のTVドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』は企画から立ち上げ、来春公開の初主演映画『ひみつのなっちゃん』でも衣装や役作りを始め、作品について監督と作り上げた。
「僕は幸せなことに、色んな作品に呼んでいただいてます。俳優は呼んでいただくまで、ひたすら“待つ”ことが仕事だと教わりました。待っているあいだに何をするかなんだと。そんななかで、自分発信で企画を提案したいという気持ちや、打ち合わせから参加させていただき、作品とより長く関わりたいという思いが強くなってくる。実現しなくてもそれを周囲に言い続けて、面白がってくれる人のところでそういうチャンスが生まれればいいですね」
なかなかそううまくはいかないんですけど、と笑う。カメラに向かう滝藤さんは、キングセイコーの世界観を独自に表現する。その腕元からは、役者としてのアティチュードが伝わってくるようだ。
実力派役者のなかに秘めた、もうひとつの滝藤さんの顔が植物愛好家だ。とくに多肉植物にのめり込み、休日ともなれば手入れにいそしみ、気づけば1日が終わる。趣味の世界への没頭は、役者という仕事にどんな刺激を与えているのだろうか。
「ここ数年ですかね。無心になるといいますか、芝居のことを忘れる時間が僕には必要だと気づかされました。何年間も信じられないスケジュールでしたから。とても贅沢な悩みなんですけどね(笑)誰よりも多くの作品に出ているということが、僕の唯一の強みだと信じて疑わなかったんですよ。自分で望んでやっていたのに、心と身体のバランスが取れなくなったんです」
必要だったのは、芝居と離れられる時間。そのひとつが園芸だったという。
「40歳目前になった頃、『あれ、人生半分終わっちゃったな…』と思ったんですよ。あと40年変わらず馬車馬のように仕事だけして生きていくというのが想像できなかった。芝居以外にも色々やりたいことがあるんじゃないか? と自問自答してましたね。やりたいことを片っ端からやってみようって。コロナ前には、ボクシングや乗馬を夢中になってやってた時期もありますし、初めて夏休みを1ヵ月とって家族で旅行しまくったのもその時期です」
20代の修行時代から30代にはがむしゃらになって働き、40代になって新たな時間が始まった。それは仕事と家族と趣味の調和だ。
「だってそれ以外必要ないですもんね。家族と仕事と趣味。家庭があって、仕事が充実して、趣味があれば、人とだって僕らは毎回新しい出会いがありますし。それだけで充分満たされて心が豊かになります。人間の本来の姿に近づいている気がしますね。いまはもう本当に頑張ってくれている妻に感謝し、ケアしたいですね」
そんな家族への思いやりをみせる滝藤賢一さんにキングセイコーは似合う。そしてその姿は、最高に「かっこイイぜ!」
滝藤 賢一:1976年愛知県生まれ。舞台を中心に活動後、映画「クライマーズ・ハイ」(08)で注目を集め、以降数々のドラマや映画に活躍。主演映画『ひみつのなっちゃん。』が来年1月6日〜岐阜、愛知にて先行公開し、1月13日〜新宿ピカデリー他全国公開する。また3月19日〜毎週日曜22時、NHKBSプレミアム『グレースの履歴』(全8話)の放送も控える。
直径37mm、厚さ12.1mm、ステンレススティール製。
Cal.6R31。自動巻き、パワーリザーブ 最大巻上時約70時間。
日常生活用強化防水(10気圧)。
Words:Mitsuru Shibata Photos:Fumito Shibasaki(2S) Hair&Make: Haruna Yamamoto