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The Designer's Vision キングセイコー 新生VANAC 日常に寄り添う腕時計の条件

最新技術に裏打ちされた、時を超えても変わらないスタイルを打ち出すキングセイコー。そんなブランドの新たな可能性を切り開くべく第3の柱として加わった新生VANACが時代を超えて愛される腕時計になる条件とは? 新たな時代を支えるクリエイターたちが大いに語る。

“The Newest Classic”というコンセプトを掲げて、2022年に復活を遂げたキングセイコー。2代目キングセイコーから着想を得つつ、シャープな質感で再解釈したスタンダードなKSK。続いて1969年登場の“45KCM”を範とするKS1969を矢継ぎ早に投入した。後者はオマージュ色がより強く、優美なドレスウォッチとしてもハイエンドな機械式腕時計としても一時代を画したオリジナルを彷彿とさせながら、デイリーエレガンスな仕上げが冴える。

 KSKとKS1969に続く3本目の柱として“スポーティ”の領域を担うべく、2025年に加わったのがVANACだ。キングセイコーは機械式腕時計の成熟期からそのデザインの爛熟期までを余すことなく体現したブランドだった。今の世に再びキングセイコーを問うにあたって、VANACが持つ1970年代的エッセンスは、タイムレスかつ力強いデザインというだけでなく、ブランドの世界観を新たに拡大するために欠かせないものだった。

SDKV013 38万5000円(税込)

SDKV015 38万5000円(税込)

 今回そのVANACに加わったのは、新たなレザーストラップ仕様。既存のブレスレット仕様がまとう上品なスポーティプレミアムテイストとはまた異なり、クラシックなテイストでありながら、ケースから滑らかに繋がるラインやボリューム感により、端正でエルゴノミックな雰囲気が巧みに保たれている。またもとより、VANACはラグの内側にワンタッチでストラップの着脱ができるレバー式チェンジャブル構造を備えているため、既存のブレスレット仕様のオーナーに向けて新たな選択肢をも提供する。


作り手たちが語る、時代を超えて愛されるプロダクトとは?

 「ブレスレット仕様を最初に発売した理由は、選びやすさ、使いやすさですね。とはいえ、チェンジャブル構造を持たせていたため、レザーストラップ仕様の発売も当初から織り込んでいました」

 商品企画者の髙橋 新氏がこう述べると、デザインを担当する松本卓也氏は次のように応じた。

 「レザーストラップ仕様は、もともとのコンセプトと一体のものです。キングセイコーは亀戸で生まれたブランドなので東京の風景、現代的な建築のなかに大きな緑が突然現れるような、自然や街が織りなす情景を腕時計に込めたいと思いました。ですからグリーンやブラウンといった文字盤色に加えて、テクスチャーのあるレザーストラップも必須でした」

 キングセイコーは腕時計の本質を踏まえながら、セイコーにおける高級機械式腕時計の進化を牽引してきた。なかでもVANACは“人と違うことを恐れない人たちのための腕時計”であると同時に、ブランドフィロソフィーに従い“時代を超えて愛され、日常に寄り添う腕時計”であることも目指している。そうした腕時計に求められるのは、ブランドや価格といった表層的な価値だけではない。ユーザーのライフスタイルに寄り添い、デザインに愛着が持てること、ストーリーや歴史への共感、そして信頼できる品質を備え、価格以上の価値を感じられることが必要となる。本稿では髙橋氏と松本氏へのインタビューに加え、フィールドは違えど同じくプロダクトデザインに携わるデザイナーとの対談を通して、VANACとそうした“愛される腕時計”との共通項を探っていく。対談相手として白羽の矢が立ったのは、両氏と同年代で、フリーのプロダクトデザイナーとして活躍するビューリー 薫 ジェームス氏。東京をベースに住宅設備から家電、生活雑貨や空間演出まで幅広く手がける。

 「重量感のあるブレスレットに対し、レザーストラップは軽やかな印象になる」。ビューリー氏は新作を手に取り、ユーザー目線から指摘するとともに、次のような気づきを述べた。

 「レザーストラップ仕様の本当に素敵なところは、装いのコードがカジュアル化している今の東京に絶妙に寄り沿っていること。VANACは一見強い印象を与えますが、レザーストラップの軽やかさも相まって、服装を選ばない合わせやすい腕時計になっていると感じました」

新たなレザーストラップ仕様の腕時計と同時に、VANAC専用レザーストラップとしてブラック(RK01B17BK)、ブラウン(RK01B17BN)2種類のレザーストラップ(ともに1万6500円)と、中留(クラスプ。RKN00B20S。1万1000円)も発売(すべて税込)。これらはセイコーブティックとセイコーウオッチサロン店頭のみで取り扱う。

 キングセイコーは“世代を超えて愛される存在を目指す”ことを発信しているが、時代を超えてオーナーの日常に寄り添うプロダクトとはどのようなものだろう? 髙橋氏はまず、腕時計を取り巻く昔と今の違いに着目する。


 「昔とは違い、今は多様なライフスタイルがあり、ひとつのスタイルが何にでもフィットする訳ではありません。ですから自分を表現するアイテムはニッチなものであり、デザインに愛着が持てることが大切になると思います。だからこそ、キングセイコーには3つのコレクションがあり、VANACはアクティブなオフタイムにも似合うことを目指したのです」

商品企画担当の髙橋 新氏。

キングセイコー デザイナー 松本卓也氏。

 VANACがさまざまなシーンに寄り添う存在であることを考えるなかで、ストラップを自由に付け替えられるという発想と試みが生まれた。手に取ってくれる顧客のライフスタイルを考えることはデザインの大前提となるもので、それは“Tokyo Horizon”というテーマに収斂されていくと、松本氏は述べる。

 「さまざまな意匠があふれるなか、埋もれてしまうと選んでもらえない厳しい時代です。ですからキングセイコー、特にVANACの明確なイメージとして思い描くのは、東京の景観と、それを作り上げるシャープな建築群。そういったシーンにスッとなじむ、心地のよい腕時計であることを大切にしています」

ビューリー 薫 ジェームス

プロダクトデザイナー。TOTO株式会社、デザインスタジオHers Design Inc.にて住宅設備、家電製品、生活雑貨などのデザイン経験を経て、2020年に独立。2023年に株式会社JAMES BURY DESIGN OFFICEを設立。「洗練されたストレスフリーな生活文化」をテーマに、快適な住環境の創造と持続可能な事業の両立を意識し、豊かさと実現性を兼ね備えたデザインを目指している。多摩美術大学・武蔵野美術大学非常勤講師。

 腕時計としての“心地よさ”とは、着け心地は言うまでもないが、周囲との関係のなかでいかに心地よく感じるかということも大切になる。家具や空間演出も手がけるビューリー氏は自身の創作と重ねながら、次のように解説する。

 「僕が大切にしているのは“間”の取り方ですね。デザインしたものと周辺との関係性。心地よいサイズ感や造形、要素はいろいろとありますが、まず周りの空間から入る。その場に置かれたときに、どんな形になるか? 例えば、ターゲットとしているユーザーの好きな家具でも何でもいいのですが、デザインする以外のアイテムを思い浮かべながら想像のなかで“彫刻”するんです。空間に置いたときの間や余白を意識しながら、無理のない形、シルエットに削っていく。そうしてプロダクトの持つ“空気感”ができ上がってきます。VANACは手首の上でちょうどいいサイズ感を備えている。都会に人がいて、その周りの空気から削いでいったときにVANACは負けない、埋もれないサイズ感がある。デザインとして生きる、ちょうどいい具合に仕上がっていると思います」

 「41mmというケースサイズは、今は大ぶりで逆張り的かもしれませんね」と、髙橋氏と松本氏は笑うが、それは確信してやっているという自信の裏返しでもある。


  「サイズを大きくすることで存在感を際立たせてスポーティなニュアンスを拾いたかったのです。またレザーストラップは短めにして、剣先を内側に入れるタイプとすることで手首へのなじみもよくしました。それにレザーの中央を肉厚に盛り上げてケースと面一(つらいち)に繋げることで、見た目の一体感も高めています。ブレスレットタイプと同様に、ケースとの一体感を重視しました」

 デザインのためのデザインではないところ。すなわち見た目を飾るためだけのものではなく、ユーザーのライフスタイルに寄り添い、使いやすさを重視している点が、VANACが愛着を持てるデザインに仕上がっているゆえんなのだ。昔のものを大切にしながらも新しく、温故知新ではあるが決して復刻ではない。そこがVANACひいてはキングセイコーというブランドの立ち位置と言える。当時の“匂い”、“空気感”をどこまで残すかは常に社内で激しい議論があった、と髙橋氏は回想する。ダイヤルを具体例として挙げながら、1970年代に使われていたベースカラーを用いつつも決してそのままではないと、松本氏は言い切る。

SDKV001 39万6000円(税込)

ブラックのレザーストラップに付け替えたSDKV001。

 「今日持ってきた自分の作品もそうですが‥‥」と前置きしながら、ビューリー氏はスペインの建材メーカー、Cosentino(コンセンティーノ)との協業インスタレーションのために手がけた大理石のスツールを例に、次のように振り返る。

 「このスツールは現代のテイストでデザインしていますが、技術的にはリバイバルというか、昔の日本建築と同じ四角いホゾを入れたりして硬い大理石を接ぎ合わせるなど、過去の優れた職人技を今の加工技術で可能にしているところがあるんですよ。VANACにもそこが共通点として感じるところで、造形が破綻しないのは、じつは技術力に支えられたデザインだからなのだと思います」

VANACのラグの造形。稜線の頂点がキレイにそろうのは、現代の卓越した加工技術があればこそ。

 実際、VANACの造形も優れた技術力に支えられている。ラグに見られる“稜線の頂点合わせ(編注;上に掲載した画像参照)”のように、ケースは面と面の稜線が際立つ造形を持つが、多面的に構成されたケースがシャープに仕上げられた稜線ごとに異なる陰影を宿し、動きに合わせて表情を変化させることで力強さが強調されている(技術に裏打ちされたディテールのさらなる詳細は、昨年夏に取り上げたVANACの記事をご覧いただきたい)。技術力が支えるのは外装だけではない。

 スポーティなデザインとして十分な10気圧の防水性を確保したVANACのケースに収まるCal.8L45は、ダイバーズウォッチでも採用されてきた堅牢性の高い自動巻きムーブメント。日差+10~−5秒以内という精度で、約72時間のパワーリザーブは、金曜日の夜に外して月曜日の朝に再び着けても、時間を問題なく刻み続ける。デザインや見た目の存在感と並び、今の機械式腕時計として欠ける点がないからこそ、日常をともにするアイテムになりえるのだ。

SDKV009 39万6000円(税込)

ブラウンのレザーストラップに付け替えたSDKV009。

 今日の東京という時間軸と場所のなかで、キングセイコー VANACという腕時計をどう捉えているのか? 髙橋氏はその開発の原点を、次のように語った。

 「ストーリーや歴史に共感してもらえるかどうか、そこが価格を超えた価値です。オリジナルのVANACは70年代の、街に熱っぽい活気があった時代に、若者に向けて開発された機械式腕時計でした。社内のアーカイブなどを見て気づかされたことは、当時ゼロベースで挑戦し続けた先人がいたということ。ですから私たちも、古いものを忠実にコピーすることはしませんでした」

 松本氏も大きく頷きながら、プロダクトデザインの立場から次のように言葉を添える。

 「今のトレンドを意識してはいましたが、それらをそのまま反映しようとはしませんでした。アーカイブモデルを参考にベゼルをなくすことで、むしろモダンになりました。サファイアガラスのソリッド感、厚みを持たせて張り出したようなボリューム感がレトロ感をまといつつ、新しく目に留まるものになったと思います」


多様化する時代にある東京、そこで挑戦していくということ

 大胆な造形や構造の明快さは、建築様式でいうブルータリズムにも通じるようだが、それとは別軸のアプローチだという点で3者の感覚は一致していた。ビューリー氏が鮮やかに分析を試みる。

 「ブルータリズム建築が評価されている点は、打ちっぱなしのコンクリートや剥き出しの天井のように機能や構造を隠さず大胆に見せるデザインにあると思います。これには“デザインのためのデザイン”となったミニマリズム、つまり本来の意味とは異なる、目的や使いやすさよりも“見た目や装飾のためだけのミニマリズム”への疲れが背景にあるのかもしれません。ノイズの徹底した排除は、すっきりとする反面、揺らぎがなく窮屈に感じられることもあります。そうしたなかで飾りや覆いをやめ、そのものの本質を見せることで心地よさを生むブルータリズムに引かれている人が多いのではないかと感じます。ただし、VANACの出発点はブルータリズムとは似て非なるものです。ブルータリズムは“デザインされていないように見える、ある種のぶっきらぼうさ”が目を引きますが、VANACはこれとまったく逆で、エッジでケースの塊感を強調したり、ダイヤルの目盛りを長くしたりと“意図的にそう見せている”デザイン。それが豊かな表情と、技術の積み重ねによる確かな造形につながっています。クリエイティブな発想はリラックスしたよい時間のなかで生まれるものですが、VANACには“リアルな東京”のなかで、豊かな時間をどう作るかを考えてデザインされた印象がありますね。環境や日常に寄り添ってデザインされているからこそ、多くの人に共感されるのだと思います」

 意志を持って選ばれ、着ける人の内なる熱量を等身大で反映した腕時計であること。それこそが“VANACらしさ”の源なのかもしれない。


ギャラリー

Photos:Jun Udagawa Styled:​Eiji Ishikawa(TRS) Words:Kazuhiro Nanyo Special Thanks:Cosentino Japan