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キングセイコー VANAC 現代の感性に共鳴するモダンスポーツウォッチ

時代の感性を注ぎ、“The Newest Classic”を標榜する「キングセイコー」に新作「VANAC(バナック)」が登場した。そこに込められたのは、オリジナルのVANACが誕生した70年代のエッセンスとともに、進化を続けるブランドのスポーティさという新たな息吹である。

1961年の初代誕生から60年余を経て、2022年に蘇ったキングセイコー。以降、ブランドを代表する2代目のスタイルを継承したKSK、さらに1969年に登場したアイコニックなデザインをモチーフにしたKS1969というふたつのシリーズを発表し、コレクションを拡充してきた。これらふたつのシリーズはそれぞれ“スタンダード”と“ドレス”というポジションを担うものであったが、今回新たに加わったVANACはキングセイコーにおける“スポーティ”の領域を表現する。

新生キングセイコー VANACにおける、レギュラーモデル3型。​

左:SDKV003 中:SDKV005 右:SDKV001、各39万6000円(税込)

 なぜ、これまでの現代版キングセイコーとまったく異なる新しいキャラクター、VANACは登場したのか。それは、キングセイコーをセイコーにおけるハイエンドメカニカルウォッチと位置づけ、トータルブランドとして構築するために不可欠なカテゴリーを埋める存在が必要だったからだ。スタンダード、ドレス、スポーティという3つのピラー(柱)を打ち立てることでコレクションに多様性を与え、その可能性を狭めることなく、世界観をより広げていくことができるようになる。商品企画者である大宅宏季氏が語るに、KSK復活の時点でキングセイコーというブランドを育てていこうという思いがあったという。すなわちKSK、KS1969、VANACという展開は、キングセイコーの復活当初から想定されたロードマップであり、単なる一過性のデザイン復刻ではなく、ブランドとして確立していくという明確な方向性に基づくのである。かくして3本の矢は揃ったのだ。


当時のウォッチシーンを映し出す70年代のVANAC

VANACとひと口に言っても、ダイヤルカラーにインデックスのあしらい、果てはケースデザインに至るまで、多種多様なバリエーションが存在していた。

キングセイコーの魅力を広げるVANACとはどのようなシリーズなのか。それを理解するにはまずオリジナルモデルの誕生について触れておきたい。1972年、キングセイコーに異彩を放つ新たなシリーズが登場した。それがVANACだ。

 60年代のキングセイコーは、多くの高級時計がそうであるように精度追求と歩みをともにしていた。それはKSK、KS1969も然り。しかし1969年にクオーツアストロンが登場したことで、機械式とは別次元での精度追求に対する回答が出てしまった。ゆえに高級時計には精度とはまた違う価値が求められるようになったのである。

70年代に販売されていた、オリジナルのひとつ。カットガラスにグラデーションダイヤル、金めっきが施されたインデックスおよびベゼルパーツ…。VANACはそれまでのキングセイコーのイメージを覆すデザインを有していた。

 一方、60年代の高度経済成長を経て日本が少しずつ豊かになっていくなか、若い世代へと時計の購買層は拡大し、新たなニーズが生まれた。それは、躍動感ある時代のライフスタイルやファッションとマッチするとともに、人とは違ったものを身につけたいという表現欲求だ。これに応えたのがオリジナルのキングセイコー VANACである。キングの名にふさわしいそれまでの風格漂うドレスデザインとは異なり、鮮やかなカラーリングや斬新な多面形ケースを纏い、まさに70年代という新しい時代の幕開けを飾ったのだった。

 そして時代は繰り返される。2000年代初頭にはまだ画一的だった社会や生活、個人の意識も、スマートフォンやSNSの浸透によって多様化していった。現在においてはそうした変化を背景に、身にまとうものにも自分らしさや個性を求めるようになってきている。そうした今という時代に呼応することで、VANACは蘇ったのである。


モダンスポーツウォッチとして再解釈された新生VANAC

SDKV001

70年代のVANACは生産期間があまり長くなかったにも関わらず、デザインバリエーションは多岐にわたる。新生VANACの企画はあえてそれらを再現するのではなく、エッセンスを活かしつつ、現代的な感覚で新たにスタイリングするという方針で進められた。それは、たとえ60年以上の歴史があってもキングセイコーは過去に縛られることなく、未来に向かって新しい価値を提供し、挑戦を続けていくブランドでありたいという思いから決定したことだ。かつてVANACがキングセイコーから生まれたこと自体が、その証左といえるだろう。70年代は、時計の長い歴史においてもエポックメイキングな転換期であり、名作と呼ばれるデザインも数多く生まれている。新生VANACはそうしたタイムレスな価値あるデザインを輩出した時代の薫陶を受け、現代に継承された時計なのである。

 まず目を引くのは、鮮やかなフェイスだ。キングセイコーが東京・亀戸の第二精工舎で誕生したことから、“Tokyo Horizon”をデザインコンセプトに、ダイヤルには東京の街から臨む壮大な地平線をイメージしたストライプパターンを採用する。さらにその上に別体のインデックスリングを重ねることで新しい表現を試みた。このリングは12角形をとっており、かつてのVANACのカットガラスのイメージやファセットを象ったベゼルを想起させる。12時位置のインデックスには、VANACの頭文字をイメージしたV字型のカットが入ったデザインを施す。こうした12時の特徴的なインデックスは、KSKではライターカット、KS1969は矢羽根状の斜めのカットをあしらったように、キングセイコーならではのデザインコードとして機能している。

キングセイコーのほかのデザインシリーズと同様に、時・分針には3面カットを採用している。

 ケースに関しては、左右に広がるアーチ状の鏡面部がポイントになっている。歪みのない鏡面の輝きとふたつの面でダイヤルを支えることで、美観に加え、安定感や堂々とした存在感を与えるデザインに仕上げられている。ケース径はキングセイコーにおいて最大の41mmになるが、外に向けて斜面を落とすことで厚みや視覚的なボリューム感を軽減し、引き締まった造形になっている。とくに鏡面と鏡面を組み合わせたケースのラインをシャープに見せるには高度な研磨が必要であり、4つの面がぶつかるポイントをひとつの頂点に揃えるには高い工作精度を要する。あえてこうした難しい技術に取り組んだデザインも、キングセイコーが挑戦を続けるブランドであることをアピールするものだ。さらにセイコーでも稀少なベゼルレスのケースとボックスガラスを組み合わせた構造を採用し、サイドビューの厚みを軽減するとともに、ダイヤルにしっかり光を取り込むことで、その美しさや存在感をより際立たせている。

 VANACをよりスポーティに演出するのが、ケースからシームレスに繋がるブレスレットだ。横方向に広がりを感じさせるデザインは、ダイヤルのストライプパターンとイメージを共通し、多面からなる造形はケースとの一体感を持って連なる。中央の直線的なラインに対し、バックルにかけて左右のコマを絞ったプロポーションも独特だ。5列の縦方向のブレスレットが一般的なセイコーにおいて、VANAC独自のデザイン性を主張するポイントだろう。幅をワイドにする一方、コマのピッチを約7mmと狭くすることで着け心地を向上し、手首につけた時にヘッドが暴れないような重心バランスを両立している。各コマは3体構成になり、センターのコマはヘアラインが入った部品で鏡面仕上げの細いパーツを挟む。じつはこの細いパーツが横方向に緩やかに湾曲しており、ヘアラインと鏡面、フラットと曲面という絶妙なコントラストを生んでいるのだ。そしてそのカーブには、地平線のイメージも重ねているという。

中央のコマの鏡面パーツには、左右に向かって少し落ちるように緩やかなカーブが設けられている。

 VANACの個性を語るうえでは、ダイヤルのカラーバリエーションも欠かせないだろう。時間の移ろいによって変化する、現代の東京の情景を表現する。トワイライト(夕暮れ時)のパープル、ミッドナイト(真夜中)のネイビー、サンライズ(夜明け)のシルバーというレギュラーモデルの3色に加え、セイコーブティック専用モデルは燦々と光が降り注ぐ光景から着想を得たアイスブルー、数量限定モデルでは荘厳な朝日をモチーフにゴールドを採用する。それぞれのカラーに合わせて、放射状や縦方向のグラデーションで仕上げられ、同色あるいはゴールドカラーのアクセントをインデックスリングにあしらう。いずれも針とインデックスにはルミブライトを施し、これもKSKやKS1969にはないスポーティな仕様だ。多彩なカラーリングのなかでも、とくにパープルやゴールドのダイヤルは70年代のVANACを想起させ、当時へのオマージュを捧げているように見える。

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 ムーブメントには新開発のCal.8L45を搭載。主にダイバーズウォッチで使用されてきた8L系ムーブメントをベースに、精度は従来の日差+15秒~-10秒から日差+10秒~-5秒に向上。さらに動力ゼンマイの改善で駆動時間を約50時間から約72時間に上げ、その実力をダイヤルの3DAYSの表示でもアピールしている。これまでキングセイコーが採用してきた6L系ムーブメントがエレガントな薄さを重視したのに対し、登山やダイビングでの使用にも耐える堅牢性とスペックを併せ持つ、VANACにふさわしい存在感あるムーブメントへとアレンジが施されている。さらにキングセイコー復活後、初となるシースルーバックを採用。うっすらと入ったキングセイコーの盾のブランドマーク越しに、美しく仕上げた回転錘や地板といった審美性も味わえるのだ。

スケルトンバックのセンター部分には、キングセイコーを象徴する“盾”の透かしが入れられている。

 ラグジュアリースポーツに代表される、近年人気のスポーティデザインの萌芽は70年代にあったと言えるだろう。VANACもまたその時代に登場したモデルだ。しかし新生VANACは、けっしてその“復刻”にあたるものではない。むしろ過去に執着せず、現代に見合ったオリジナリティを追求する。それがキングセイコーであるということなのだろう。

 キングセイコーは60年代に東京発の都市文化とともに歩み、変貌する都市生活の時を刻み続けた。そして70年代には、VANACを生み出すに至る。大胆なデザインや鮮やかなカラーは、それまでとは一線を画し、時代を飛び越え、前に進ませる役割を果たしたに違いない。そしてVANACはキングセイコーのみならず、セイコーにおける革新のトリガーになったのだ。

左が世界限定700本(うち国内300本)のSDKV007。右がセイコーブティック専用モデルのSDKV009。各39万6000円(税込)

 そして新生VANACは、高級ドレスウォッチを出自にするキングセイコーの優美な要素を損なうことなく、よりアクティブなシーンに向けて誕生した。躍動感あるデザインに、最新鋭ムーブメントや防水性、視認性といった実用機能は、まさにスポーティを象徴する。

 こうしたカテゴリーを補完したことで、キングセイコーはさらに可能性を広げるだろう。デザインを担当した松本卓也氏はその造形のインスピレーションに、イタリアのカーデザイナー、マルチェロ・ガンディーニが70年代に手がけたランチアのストラトス・ゼロを挙げた。時代を切り裂くウェッジコンセプトは、まさに時代を駆け抜け、チャレンジを続けるブランドの姿に重なるのである。


キングセイコー VANAC 新作ギャラリー

Photos:Tetsuya Niikura Styled:​Eiji Ishikawa(TRS) Words:Mitsuru Shibata