オリエントスターが2026年、誕生75周年を迎えた。そんな今年はブランドとして打ち出す魅力の方向性を示す、多くのアニバーサリーモデルが企画されているという。これまでにもオリエントスターの成り立ちについては折を見て紹介してきたが、節目を迎えたブランドの新たな門出に際して改めて触れておきたい。
オリエントスターの誕生は、第2次世界大戦から数年後のことだった。当時激化していた労働争議の憂き目にあった東洋時計株式会社を、当時改革派だった従業員たちが中心となって再建し、1950年に多摩計器株式会社が設立された。そして翌51年にはオリエント時計株式会社へと名称を変更。その際に新会社にふさわしい存在となるように期待を込めて発売されたのがオリエントスターだ。その後、同社は2017年にセイコーエプソン株式会社へ統合され、オリエントスターは傘下のブランドのひとつとして、今日に至る。
戦後の復興期という時代を反映し、“未来を照らす星になりたい”という願いを込めて生まれたオリエントスター。1950年代当時、世界的に抜きん出た存在としてスイスの機械式腕時計があり、日本の時計づくりは、まだまだ模倣に近い形でそれらの後追いを余儀なくされていた。それは“追いつけ追い越せ”の精神で生活水準の向上を目指した当時の日本、特に国産メーカーが時計産業の工業化基盤を作る上では避けられない過程でもあった。そして市場では、すでに国産大手の時計メーカー2社が君臨しており、オリエントスターはそんな牙城に挑むべく生まれた第3勢力という位置づけだった。
初代オリエントスター(1951年)。
「オリエントブランドを扱う営業マンは、他社とは異なる“おもしろい時計”を持っていかないと時計店で扱ってもらえなかったと聞きます。それゆえ、精度や正確さ以上にユニークなデザインや機能を打ち出すことでお客さんに喜んでもらうことに重きを置くというオリエントスターの姿勢に繋がったのだと思います」
そう話すのは、1975年に当時のセイコーエプソンでウォッチデザイナーだった人物だ。オリエント時計(当時)と同じ1950年生まれで、2004年から同社に移籍して辣腕を振るい、オリエント創立60周年記念のスペシャルブック『オリエント☆(ホシ)物語 ~機械式時計おもしろ計画進行中~』プロジェクトを内部から主導。そうした経緯もあって、オリエントブランドの時計や歴史について造詣が深い。
「国産時計としては後発だったオリエントスターですが、人生という時間をともに歩み続ける腕時計でありたいという思いの実現のため、挑戦を厭いませんでした」
国産初の秒針停止機能を搭載したヒノマチック・スポーツ(1955年)。Photo by Kyosuke Sato
見た目にアピールしやすいデザイン面では、アバンギャルドなケースフォルムやダイヤルデザインなど、当時としては“ハイカラな”ディテールをオリエントスターでは積極的に取り入れた。また他社に先駆けて実用的な機能の導入に積極的だったこともオリエントブランドの時計の特徴である。例えば、1955年に誕生したヒノマチック・スポーツで採用した秒針停止機能(ハック機能)が挙げられる。ハック機能は秒針を任意で止められることから正確な時刻合わせが可能だが、これを腕時計に実装したのはオリエントスターであり、国産初(※1)だった。そして国産初の耐磁時計(※1)も、実はオリエントブランドによるもの。1958年に発売されたパラエマン(PARA AIMANT)である(※2)。
※1:HODINKEE Japan編集部調べ。 ※2:耐磁機能に焦点を当てた腕時計として。
国産初の耐磁腕時計として知られるパラエマン(1958年)。Photo by Kyosuke Sato
実用的な製品であること、それでいてユニークなスタイルを持つこと。そうした時計デザインの自由度の高さにオリエントスターは活路を見いだした。1960~70年代にかけて展開された尖った数々の腕時計は、今でも熱心なユーザーやマニアに強く支持されている。
「時刻を知るということに加えて、自己表現のアイテムとしての腕時計というスタンス、そして感性価値を大切にしたものづくり。これは今でこそ当たり前の考え方ですが、オリエントスターはかなり早い段階からそうした時計づくりをしてきたことがよくわかりました。私が一瞬でオリエントスターの大ファンとなったのも、そうした歴史を知ったからです。つくり手たちがそもそも時計マニアで、“お客さんに喜んでもらいたい”という感覚がとても強かったのです。そうした思いを軸に据え、時計を着けることで気持ちが高揚すること、感性に訴えかける点を重視してきたことがオリエントスターの特徴ですね」
自由闊達な気風から生まれたブランドだからこそ、自由なデザインや使いやすさを通じて感性価値を提供したい。それが社内の空気として、現在にまで繋がるブランドのコアバリューとして根づいている。つくり手とユーザーたちのあいだでそうした“対話”が生まれている点にオリエントスターの価値があると振り返る。
「当初の経営状況は厳しく、機械式の生産を止めるべきかとも考えましたが、販売や生産の現場だけでなく社外からも“機械式腕時計をつくって欲しい”という要望が多かったんです」
オリエントスター 初代レトロフューチャーシリーズ(2005年/※現在は販売終了)。
かくして機械式腕時計に対する社内外の情熱を再結集させたオリエントスターが、自社でムーブメントから生産するマニュファクチュールブランドへと大胆に舵を切ったのは自然の流れでもあった。こうした流れが21世紀に入り形を成し、ひとつの転換点となったのが、2005年のレトロフューチャーシリーズ(※現在は販売終了)だ。これはブランドに脈々と受け継がれる“おもしろい時計”をつくろうという精神をわかりやすく表現した名作で、クラシックなカメラやスポーツカー、自転車など1950~70年代のインダストリアルデザインと機械式腕時計を融合させた当時として先駆的な試みだった。余談だが、実はこのプロジェクトを主導したのが、ウォッチデザイナーだった前述の人物だ。
着けた人が過ごしていく時間、人生が豊かになるような楽しさやストーリーを時計として描き続けてきたことがオリエントスターの伝統となっていった。では75周年の節目を迎えた同ブランドの新作とは、どのようなものだろうか?
変わることなく受け継がれる、作り手の思いと魅力の本質
M34 F8 スケルトン ハンドワインディング 75周年アニバーサリーモデル
Ref.RK-AZ0105N 41万2500円(税込)
基本スペックはCal.F8B61を搭載した既存モデルと変わらないが、異なるのは新たな仕上げに挑んだCal.F8B65の採用だ。ダイヤル側と裏蓋側の両面に最新のレーザー加工でメテオライト(隕石)調の仕上げを施す。彗星の尾をモチーフとしたテンプ受け、天の川銀河の渦巻に着想を得たシリコン製ガンギ車などに加え、隕石のような精緻な結晶模様により、さらに宇宙へのロマンをかき立てる表現とした。
オリエントスターが今日、時間の流れの原点といえる天文現象、つまり宇宙にインスパイアされて、星雲や星団をデザインの通奏低音とするMコレクションズを展開しているのは周知のとおり。75周年を記念するモデルとしてまず注目しておきたいのが、コンテンポラリーコレクション M34から3月5日に発売となる、M34 F8 スケルトン ハンドワインディングだ。
これはペルセウス座流星群をテーマとするデザインで、既存モデルとは趣を大きく変えるツートンの外装が特徴的だ。SUS316Lの高品位なステンレススティールケース(裏蓋含む)とブレスレットにはブラックメッキが施され、一方でベゼルやリューズは明るいシルバーカラー(SS色)とすることで強いコントラストを放つ。さらにダイヤルは、12時位置のみをローマ数字とするインデックスを配したリング状のスケルトンダイヤルと、シボ塗装によるブラックグレーグラデーション仕上げのフレームを組み合わせ、宇宙空間の闇の中にぽっかりとムーブメントが浮かび上がるような仕上がりを目指した。ムーブメントをミニマルに、しかし最大限に引き立てる試みである。
ムーブメント自体も75周年ならではの特別仕様だ。MEMS加工技術による青いシリコン製ガンギ車が6時位置に覗くのはお約束だが、レーザー加工によって裏蓋とダイヤル側、双方の地板にメテオライト調の精緻な結晶模様を再現したF8B65という新キャリバーである。これは70時間以上のパワーリザーブを実現する手巻きCal.F8B61をベースとし、青いシリコン製ガンギ車や彗星が尾を引くような姿をイメージしたテンプ受けなど、宇宙の深淵を思わせるディテールを受け継ぎつつ、特別な装飾加工を施したものだ。いずれもハンドワインディングだからこそ可能になった徹底したスケルトン加工とムーブメントの審美的な仕上げ、そして精緻な動きが、見る者の視線を捉えて離さない。悠久の流れと一瞬の煌きという、時間そのものの概念を凝縮したようなタイムピースだ。
M42 ダイバー 1964 1stエディションF6 デイト 200m 75周年アニバーサリーモデル
Ref.RK-AZ0102N 15万700円(税込)
2023年(シルバーダイヤル仕様)以来の登場となるM42 ダイバー 1964 1stエディションF6 デイト 200mの新バリエーション。オリエントスターの75周年に合わせて、新たに夜空と深海を象徴する特別なデザインが用いられた。本格的な潜水スペックのダイバーズウォッチでありながら、堅すぎない適度な遊び心を加えている。
同じく3月5日にリリースが予定されている、もうひとつの75周年記念モデルはスポーツコレクション M42に属するM42 ダイバー1964 1st エディション F6 デイト 200m。こちらは1964年に登場したオリンピアカレンダーダイバー(※現在は販売終了)のデザインを再解釈しつつも、ISO 6425規格に準拠する現代的な性能を備えた人気ダイバーズウォッチの新バリエーションである。
水深200mに耐える潜水用防水性能を備え、幅広のベゼルや両球面サファイアクリスタルガラス風防によるヴィンテージな外観、そして50時間以上のパワーリザーブを誇る自動巻きCal.F6N47の搭載など、基本スペックは2021年に初めて発売されたブラックダイヤル、そして2023年に投入されたシルバーダイヤルと変わらない。最大の特徴は、本作で初めて採用されたグラデーションダイヤルだ。これは夜空に輝く星の輝きを受けて変化する海面の表情をイメージした表現だといい、既存のブラックやシルバーとはひと味異なり、中央部のブルーグレーから外周に向けてブラックへとトーンが徐々に暗く変化するグラデーション加工が施されたことで、神秘的かつエレガントなニュアンスを醸し出している。ツールウォッチであるダイバーズとしては珍しい表現だろう。
オリジナルのオリンピアカレンダーダイバー(※現在は販売終了)からは、アロー針や立体的なエンボスインデックス、削り出しのSSによる回転ベゼル、リューズガードのないケース形状やエッジを効かせたラグなど、モダンにアップデートされつつも忠実に受け継がれている。ケース素材はSUS316L製で、ケース径は41mm。ねじ込み式リューズとスクリューバックを採用することで、ISO6425に準拠する潜水用防水を実現した。5列コマによるドレッシーで装着感の柔らかなブレスレットは、現代的でスポーティな雰囲気を与える。裏蓋には75周年記念モデルであることをうたう“Orient Star 75th Anniversary”の刻印と、世界限定700本(うち国内400本)であることを示すシリアルナンバーも刻まれている。
どちらのモデルも時間を示すのみならず、時の流れやそれが指し示す世界観そのものを腕時計として表現しようという、今のオリエントスターらしい新作だ。M34 F8 スケルトン ハンドワインディングで採用されているブルーのシリコン製ガンギ車やレーザー加工によって施されたメテオライト調の精緻な結晶模様の表現、そしてM42 ダイバー1964 1st エディション F6 デイト 200mに用いられる絶妙なニュアンスで変化するグラデーション加工にも、セイコーエプソンによる精密なプリント技術により培われた最先端技術がその根底にある。
セイコーエプソンの持つ技術により、オリエントスターのデザイン表現は、2017年のリブランディング以降、格段に豊かになった。こうした最先端技術を用いた表現が今日のオリエントスターの魅力だろうか? もちろん、答えはイエスだ。だが、それは魅力を語るテクニカルな側面を強調するにすぎない。その魅力の本質は、表現を豊かにする最先端技術そのものではなく、そうした技術を用い、これまではできなかったデザインや装飾表現に挑戦すること。いかにエンドユーザーの心を揺らすことができるか、すなわち心地よさや楽しさ、ワクワク感などにより感覚や感情に訴えかけ、人々の心に感動を与えられるかという、感性価値を重視したものづくりに一層、注力できるようになったところにある。だからこそ、オリエントスターのシリコン製ガンギ車は青く、テンプ受けは彗星の尾のような形状をしているのであり、同ブランドのプロダクトは実用的でありながらユニークなデザインや装飾を採用するのである。
新作ギャラリー
M34 F8 スケルトン ハンドワインディング 75周年アニバーサリーモデル
Ref.RK-AZ0105N 41万2500円(税込)
SSケース(ブラックめっき)。ケース径39mm×ケース厚10.8mm(全長46.5mm)。5気圧防水。手巻き Cal.F8B65:22石、2万1600振動/時、約70時間以上のパワーリザーブ。コードバンストラップ付き。世界限定430本(うち国内300本、海外130本)。
M42 ダイバー 1964 1stエディションF6 デイト 200m 75周年アニバーサリーモデル
Ref.RK-AZ0102N 15万700円(税込)
SSケース。ケース径41mm×ケース厚14.5mm(全長49.6mm)。200m防水(ISO6425規格に準拠した潜水用防水)。自動巻き Cal.F6N47:22石、2万1600振動/時、約50時間以上のパワーリザーブ。世界限定700本(うち国内400本、海外300本)。
Photos:Tetsuya Niikura Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Nanyo Kazuhiro Special Thanks:Yoshio Hirabayashi