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Photos by Mark Kauzlarich
H.モーザーは、人々の注目を引くことを問題としたことは決してない(ときに度が過ぎることはある)。このブランドは過去に悪ふざけのきっかけを作ったことはあるが、優れた時計づくりのために、口先だけでなく行動を起こすことができる存在であることに疑う余地はない。その一例こそ、H.モーザーの最新作、エンデバー・パーペチュアルカレンダー タンタル ブルーエナメルだ。
タンタルを使った時計が発売されるというのは、マニアのテンションをあげるのに十分だ。この素材はゴージャスでありながら極めて硬く、重く、濃く、さらに光沢を放ち、延性を持つ。私は市場で最も優れたホワイトメタル素材であるとも思っている。しかしその一方で、機械に負担をかけてケースメーカーの怒りを買うという、悪夢のような存在であることも多くの愛好家が知っていることだろう。タンタルの時計は、かつてのような大きな功績を残すことはないかもしれないが、“我々はこんなことができるのだということを見て欲しい”と、ブランドが胸を張っていえるようなモデルであることは確かだ。
フュメのグラン・フー エナメル文字盤も注目を集めるだろう。グラン・フー エナメルは、ガラスと金属を融合させたエナメル粉末を一層ずつふるい落とし、何度も焼成することで、まるで生きているかのような泡に似た質感を生み出す非常に繊細な技法のひとつで、一部のメーカー(anOrdainのような意外とリーズナブルなものも含めて)を除いてはほとんど見ることができない。
このふたつの要素を、H.モーザーの新作エンデバー(Ref.1800-2000)のような、美しくて極めてシンプルな42mmサイズの永久カレンダーに搭載すれば、それは大正解なのだ。
A Week on The Wrist: H.モーザー エンデバー・パーペチュアルカレンダー
ベン・クライマーによる、初期のH.モーザー エンデバー・パーペチュアルカレンダーについての記事をここから読む。
ベン・クライマーは2015年当時、A Week On The Wrist記事のなかで、モーザーのエンデバーは“私が考えるなかで最もエレガントな永久カレンダーだ”と言っている。あえていうならそれは今も変わらない。シンプルなデザインであるため、複雑な時計ではなく、普通の日付つき時計と見間違うほど。ときには“私は複雑だ!”と、声高に主張するカレンダーウォッチも欲しいのだが、それほど力説する必要のない時計は、なんだか贅沢な感じがしてくる。シンプルなディスプレイが、フュメのグラン・フー エナメル文字盤の“アビスブルー”のような素晴らしいデザインを表現するパレットとして機能するのであればなおさらだ。だが、この話はまた今度にしよう。
H.モーザー エンデバー・パーペチュアルカレンダー チュートリアルの写真に戻らなければならない。これは永久カレンダーを簡略化し、その簡略化された表示の読み方を文字盤上でおもしろおかしく教えてくれる時計である。メイラン夫妻のユーモアのセンスを知っている私は、この“チュートリアル”が発表された際、適度な皮肉を込めて鑑賞したが、手ほどきなしではデザインを理解できない人がいたら、どんなに侮辱されるだろうかと考えたものである。まあ、実は私も忘れていて助けを必要としたのだが…。1カ月はどこからがスタートなのか? 月表示の針は、文字盤の周りをジャンプしたり、少しずつ動いたりするのだろうか? 私は侮辱されたというより、恥ずかしい思いをした。
おさらいになるが考えすぎは禁物だ。日付は午前0時にジャンプし、必要に応じて月表示の針もジャンプする。つまり、小さな月表示のインジケーターは常に、1年から12年、または1月から12月までの月に関連付けられたダイヤルの時間を指していることになる。また文字盤に対して針がとても短いため、“今が1月か2月か”わからくなってしまうかもしれないが、いずれは慣れることだろう。
このエレガントなデザインに用いられたのは、34mm径のCal.HMC800で、8年前にベンがレビューした時計に搭載していた、オリジナルのHMC341から派生したムーブメントである。32石の新ムーブメントは、H.モーザーがそのあいだに繰り返し行ってきた改良を施して信頼性とパワーリザーブを向上させ、さらに組み立て時間を3分の1に短縮したものだ。このように、組み立てとサービスのダウンタイムの短縮に力を入れることは、以前から行ってきたモーザーの基本的な姿勢である。これはブランドの名刺代わりにもなっている、交換可能な脱進機モジュールの実現にも表れていることだ。また、2015年にベンが指摘した仕上げの“ショートカット”(内角というワードは、当時は今よりも流行していなかった)のなかには、ブリッジの特定部分の面取りのようなものも残っているが、何となくこの時計は少し丁寧さを感じることができ、仕上げに輝きが増しているような気がする。
多くの手巻き式永久カレンダーとは異なり、エンデバー・パーペチュアルカレンダー タンタル ブルーエナメルには、多くのおまけが付属している。簡略化された表示とは裏腹に、中身には完全に統合された(モジュール式ではない)ムーブメントを搭載しているのだ。
ヴィンテージの手巻き式永久カレンダーを手に入れる場合、それがうるう年表示がないモデルであれば、巻き上げを忘れるととんでもないことになる。しかしエンデバーを裏返すと、すぐに今年が何年目なのかを確認できるホイールが付いている。私の大好きなインフォマーシャルアイコン(CM)の言葉を借りれば、“set it and forget it!(一度設定したら後は放っておけばいい!)”。また、ツインバレルを備えており、約7日間というロングパワーリザーブを実現しているため、少なくとも、忘れていても巻き忘れることはないだろう。
しかしこのムーブメントは、誤作動しないようにつくっているという、最大のおまけを搭載していることを“チュートリアル”ウォッチでハッキリと示している。時計メーカーは、時計の設定や使用方法に関して、ユーザーエクスペリエンス(おそらくクレーム要求を避けるため)に注意を払っているようである。さらに一般的に、午後9時から午前3時まで日付や月の設定ができない、日付変更禁止時間帯に操作をするとムーブメントが壊れてしまい、多額のサービス料が発生するということもなく、チュートリアルは時計をセットしていい時間とそうではない時間を、1時間も必要としない。もう一度言おう。一度設定したら後は放っておけばいい!
真意を理解すると、タンタルはH.モーザーにとって今年の顔ともいえる金属なのかもしれない。H.モーザーは、タンタルに翡翠の文字盤を組み合わせた10本限定のエンデバー・パーペチュアルカレンダーも発売している。フュメのグラン・フー エナメル文字盤は、このケース素材との相性が抜群といえるのではないだろうか。ダークでムーディーな雰囲気のケースは、光の加減で深いブルーと薄いブルーの両方の色調からセンターのシーフォームグリーンまで変化する、この文字盤の背景としてピッタリだと思うのだ。
リーフ針も、センターポストから先端にかけて2分割され、文字盤のグラデーションに対して常に鮮やかな印象で、光と影をうまく受け止めている。そして最後のディテールは、翡翠文字盤に足りないと思っていた要素をフォローするように配された、大きな日付窓を囲ったメタルの囲いだ。
エンデバー・パーペチュアルカレンダーの装着感が悪いと、リリースのすべてが無意味になってしまう。ただ嫌いな人には申し訳ないが、この時計の装着感は最高だった。6時と12時が緩やかなカーブを描くシースルーバックを備え、またラグは手首にフィットするよう、スカラップ型のミドルケースに対してやや高めにセットしていた。マットなクードゥーレザーストラップはダークなタンタルケースと相性がよく、この金属製の時計に求められる迫力を補完している。さらに“H. Moser & Cie.”と刻印されたSS製のクラスプは、時計を身につけているあいだ、唯一メーカー名を見ることができるディテールとなっている。直径42mm、厚さ13.1mmというサイズ感は従来のドレスウォッチとは異なるが、モーザーは特に伝統的なことを意識しているものではない。
もしかしたら文字盤よりも目を引くのは、その価格かもしれない。価格は1182万5000円(税込)で、グラン・フー エナメルダイヤルのないホワイトゴールドと、ファンキーブルーフュメのバリエーションより、335万5000円もの差額がついている。anOrdainのようなブランドが、グラン・フー エナメルを3000スイスフラン(日本円で約43万9000円)以下で提供しているのだから、かなり厳しいものがある。しかし、タンタル製ケースと搭載している永久カレンダーキャリバーとのあいだでは統一性がなく、比較できないものである。さらにこのリリースをきっかけに、H.モーザーに興味を持った時計ファンがひとりでも、このブランドの深みにハマっていくことは間違いないだろう。
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詳しくは、H.モーザーの公式ウェブサイトをご覧ください。