本特集はHODINKEE Magazine Japan Edition Vol.9に掲載されています。
ショパールは、ジュエリーコレクションであるアイスキューブにフォーカスした“スカルプテッド・バイ・ライト(Sculpted by Light)”キャンペーンを発表した。そしてそのテーマに“光ゆえの影、影ゆえの光”を掲げた。そこには彫刻的かつ幾何学的なキューブのきらめきを表現するという背景があるが、それはジュエリーにとどまらず、タイムピースやショパールというメゾンそのものを象徴するにふさわしい。
光が強ければ影もまた濃い。両者は相反するようであるが、光なくして影はなく、その逆もしかり。共に存在して互いを際立たせる、一対で成り立つ表裏の関係である。そしてそのコントラストはアルパイン イーグル 41 XP TT でも巧みに表現されている。
2019年の誕生からわずか5年で多彩なバリエーションを発表し、アルパイン イーグルはいまやブランドを代表するコレクションを構築するに至った。そこに新たに加わった個性がスケルトン文字盤だ。手に取ればまずその軽量性に驚嘆するだろう。それは8mm厚という薄型ケースと、ブレスレットを含めたチタン素材によるものだが、それにも増して軽やかさを演出するのが、スケルテックと名付けられたコンテンポラリーなオープンワークである。
サンドブラストで仕上げたガンメタリックカラーの地板は、同心円上に広がる円のパターンでカットアウトされ、インダストリアルなイメージを漂わせる。一方、奥にはゴールドカラーをあしらったCal.L.U.C 96.17-Sをのぞかせ、さながらスチームパンクを思わせる。光を透過し、陰影が表情を作り出す。そこに伝統と革新、クラシックとモダンが表裏一体のものとして表現されている。
ヘアライン仕上げのケースやブレスレットではポリッシュで面取りされたファセットがきらめき、アイスキューブのリングの輝きとも美しく呼応する。このキューブのモチーフは1999年に腕時計で初めて採用されたこともあり、もともと時計との親和性は高い。そしてそれこそが、ジュエラーでありウォッチメーカーでもあるという二面性が一体になったショパールならではのクリエイティビティにほかならない。“光ゆえの影、影ゆえの光”。改めてその深遠なテーマがここに立ち昇ってくるのだ。
ショパールに貫かれる美学を成り立たせる礎石、それはオーナー一族による独立系メゾンであるということだ。長期的展望に立ち、独立独歩の道を歩む。アルパイン イーグルもその象徴であり、そこにはショイフレ家のファミリーヒストリーが息づいている。
アルパイン イーグルの誕生には、時間の針を40年ほど戻す必要がある。当時22歳だった現共同社長のカール-フリードリッヒ・ショイフレ氏は、現会長である父カール・ショイフレ氏にSS製のスポーツウォッチを作りたいと提案をした。それまでゴールドしか扱わなかったメゾンのイメージを崩しかねない大胆な進言に当初は躊躇したが、英断を下した。それが1980年に誕生したサンモリッツだ。はたしてメゾン初の画期的なSSスポーツウォッチは大ヒットとなり、その成功が現在のウォッチメーカーとしてのショパールへとつながっていく。
時代は移り、5代目に当たる長男カール-フリッツ・ショイフレ氏は、このサンモリッツをぜひ現代的に再解釈したいと考えた。だが今度はカール-フリードリッヒ・ショイフレ氏が首を縦に振らなかった。父も息子の姿にかつての自分を重ねたのかもしれない。その情熱を祖父カール・ショイフレ氏が後押しし、3世代それぞれの知見を結集させることでアルパイン イーグルは生まれた。
アルパイン イーグルのデザインはサンモリッツをモダンに解釈することを軸とする。鷲の虹彩を思わせる繊細な文字盤、そこに合わせる秒針のカウンターウェイトはその羽根毛をモチーフとした。一体型ブレスレットのファセットはアルプスの岩盤を思わせ、スイスの大自然への思いを宿す。注がれるのは熟練の匠の技、サヴォアフェール。その価値を唯一無二なものとするのは、持続可能な素材を積極的に取り入れるという取り組みだ。2018年にショパールは倫理的かつ持続可能な方法で調達されたエシカルゴールドの100%使用を実施し、これに続いてアルパイン イーグルでは独自開発のリサイクルスティールを採用。ルーセントスティール™と名付けられた新たなSSは、通常に比べて1.5倍の摩耗耐性と硬度を誇り、低アレルギー性も備える。不純物が取り除かれて生まれる落ち着いた輝きはゴールドに匹敵する。
ルーセントスティール™は、現在ショパールのすべてのSS製ウォッチに用いられ、今のところ80%の再生鋼リサイクル率は2025年に90%の達成率を目指す。それは、かつてメゾンで初めてSSを採用したサンモリッツの試みを継承するだけでなく、さらにサステナブルラグジュアリーへと進化させ、連綿と続く家族の物語の新章をつづるのである。
アルパイン イーグル 41 XPSでは、厚さ3.30mmのCal.L.U.C 96.40-Lを内蔵し、クロノメーター取得の高精度と約65時間の長時間駆動を両立する。薄型をさらにラグジュアリーに彩るのがモンテローザピンクの文字盤だ。美しい光彩のパターンがより際立ち、バングルとの重ね着けが相乗効果をもたらす。洗練されたスタイルからは、改めて“光ゆえの影、影ゆえの光”を思わずにはいられない。光に満ちたメゾンの影には、家族が一丸となって培った伝統と決断の歴史があり、その情熱と強い意志がメゾンをさらに輝かせるのだ。
Words:Mitsuru Shibata Photographs:Tetsuya Niikura Styling:Eiji Ishikawa(TRS) Hair&Make by Tomokazu Akutsu