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モルガン・スタンレーとリュクスコンサルトが発表した報告書によると、ロレックス、カルティエ、オーデマ ピゲ、パテック フィリップを含むスイスの主要時計ブランドは、2025年に売上高とマーケットシェアを伸ばした。一方で、時計業界の多くのブランドはコストの上昇や小売価格の値上げ、そして移り気な顧客への対応に苦慮している。
投資銀行であるモルガン・スタンレーによる第9回年次報告書“Swiss Watcher”は、スイスを拠点とするリュクスコンサルトの協力を得て、各時計ブランドの年間売上高と生産数の推定値をまとめたものだ。2025年のデータからは、ひと握りの主要ブランドによる独占状態であることが浮き彫りになった。米ドルに対するスイスフランの高騰や金価格の記録的な上昇、そして一部の市場における消費者の買い控えのために、収益の減少と利益率の圧迫に苦しむ多くの競合他社からシェアを奪い、少数の大手ブランドによる支配がますます強まっている業界状況を示している。
出典: Morgan Stanley、LuxeConsult estimates
モルガン・スタンレーの推定によると、ロレックスは小売店への出荷数(割り当て数)を約2%減らして約115万本としたものの、売上高は約4%増加し、初めて110億スイスフラン(日本円で約2兆2000億円)を突破した。生産本数の減少は2年連続のことであり、報告書によれば、これは20年以上で初めての事態だと言う。アナリストが追跡しているスイスの約450ブランドのなかで、現在“クラウン”ことロレックスは業界全体の総売上高の約3分の1を占めている。業界全体で価格改定や原材料費の高騰が進むなか、ロレックスの平均小売価格は6%上昇し、約1万4000スイスフラン(日本円で約280万円)となった。
ロレックスはHODINKEEの取材に対し、本報告書の内容、そして推定値の正確性についてのコメントを控えた。もとより創業者ハンス・ウイルスドルフの名を冠したジュネーブの信託財団によって管理されている同社が、事業運営について公言することはきわめてまれなのだ。
出典: Morgan Stanley、LuxeConsult estimates
また本報告書は、リシュモン傘下のジュエリーブランドであるカルティエの時計部門や、独立系の家族経営ブランドであるパテック フィリップやオーデマ ピゲが力強いパフォーマンスを見せ、売上を伸ばしていることにも注目している。
同じく独立系ブランドであり、大胆なデザインや特徴的なケース、特殊な素材の使用、そして驚くべき高価格帯で知られるリシャール・ミルも、推定売上高17億5000万スイスフラン(日本円で約3500億円)、販売本数約6000本を記録し、“ビリオネア・クラブ(billionaires club)”、つまり年間売上が10億スイスフランを超えるブランドとしての地位を維持した。
報告書によれば、株式非公開のスイス4大ブランドは合計で49%のマーケットシェアを獲得し、スイス時計業界の半分を手中に収めた。これらの企業は、市場全体がプレミアム化によって高級志向へシフトするなかで、規模、ブランド価値、価格決定権、そして厳格に管理された供給体制が功を成したようだ。2025年に市場の半分を占めたこの非公開会社・ブランドは、2019年の37%から着実にシェアを伸ばしている。
出典: LuxeConsult、Morgan Stanley estimates
パテック フィリップとリシャール・ミルをカルティエとオメガに置き換えると、ロレックス、カルティエ、オーデマ ピゲ、オメガのわずか4ブランドだけで、業界売上高の約55%を占めていることになる。リュクスコンサルトの創業者であるオリバー・ミュラー(Oliver Müller)氏によれば、上場しているラグジュアリーグループの一員でありながらカルティエがこれほどの数字を残しているのは、特筆すべき例外だと言う。同氏はインタビューで「カルティエはバランスを保ちつつも、手が届く価格帯を維持するという、並外れた仕事を成し遂げています」と語っている。
全体としては、スイス時計業界の生産数は2011年以降、半減している。2025年には1460万本まで落ち込み、これは世界金融危機が始まった2008年比で44%減、直近のピークである2011年比では51%減となる。ラグジュアリーな時計ブランドは、より少ない本数をより高い価格で生産しており、この高級化へのトレンドがサプライヤーや業界全体にプレッシャーを与えている。報告書によると、5万スイスフラン(日本円で約1000万円)以上の価格帯の時計は、2025年の輸出総額の37%を占め、成長率の89%を牽引したが、本数ベースではわずか1.4%に過ぎない。
出典: Morgan Stanley、LuxeConsult estimates
このような変化は、スウォッチ グループのような企業グループに特に影響を与えている。報告書によると、同グループの主要ブランドであるオメガやロンジンはマーケットシェアを落としている。オーデマ ピゲとパテック フィリップが上昇し、オメガは売上高順位で3位から5位に後退。ロンジンにいたっては売上高が18%減の約9億2000万スイスフラン(日本円で約1573億2000万円)となり、いわゆる“ビリオネア・クラブ”から脱落した。
しかしスウォッチ グループは、このモルガン・スタンレーとリュクスコンサルトによる報告書の推定値に異を唱えている。同社の広報担当者は「誤った推定、仮定、データ、数値、および記述が含まれています」と述べ、「彼らは明らかに時計市場や各ブランドについて理解していないと思われます」とコメントした。
スウォッチ グループによれば、同社の2025年の業績はスイス時計全体の輸出統計を上回っており、市場全体が価値ベースで1.7%減少したのに対し、同社は1.3%の減少に留まったという。また、下半期の売上高は恒常通貨ベースで4.7%成長したと主張している。
出典: LuxeConsult、Morgan Stanley estimates
好調なブランドはハイラグジュアリーブランドだけではない。2025年のチューダーの売上高は2%増で、4億6000万スイスフラン(日本円で約920億円)となった。ロレックスの兄弟ブランドである同社は、モデルラインナップの再編により中国市場への依存度を下げた。なお、アナリストは2024年のチューダーの業績についても、前回の推定値3億6000万スイスフランから4億5000万スイスフラン(2025年の平均レートで約640億から約810億円)へと上方修正している。
リシュモン傘下のIWCはインヂュニアを刷新するなど、新たな製品を追い風に、長年の低迷を経て販売本数はわずかに減少したものの、売上高は5%増加した。またジャガー・ルクルトは販売本数が7%減少したものの、売上高はわずかに増加した。
出典: LuxeConsult、Morgan Stanley estimates
より親しみやすい価格帯では、英国を拠点としスイス製を掲げるクリストファー・ウォードが売上高を50%増の5100万スイスフラン(日本円で約100億円)、販売本数を約3万9000本とし、トップ50ブランドに食い込んだ。一方、ジュネーブを拠点とする同族経営ブランドのレイモンド・ウェイルは、ヴィンテージに着想を得たミレジムやトッカータコレクションが好評を博し、2025年の売上高は約7900万スイスフラン(日本円で約150億円)に到達。ランキングを3つ上げた。
アナリストは報告書のなかで「小売価格が2000〜5000スイスフラン(日本円で約40万〜100万円)の価格帯において、クリストファー・ウォードやレイモンド・ウェイルは機能、デザイン、そして質感の面できわめて強力なバリュープロポジションを提示しています。独立系ブランドがスイス時計市場全体に占める割合は、依然としてわずかですが、こうした動きは特定の伝統的ブランドにとって、彼らがますます無視できない競合になりつつあることを示唆しています」と分析している。
今回のランキングで見られた意外な変動は、ジェイコブの躍進が挙げられる。報告書によると、売上高は14%増の1億8000万スイスフラン(日本円で約360億円)、販売本数は24%増加した。ランキングに復帰したブランドのなかで、売上・本数ともに最も高い成長率を記録したという。
*hero image via Getty Images/Mattia Ozbot
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