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Introducing エルメス H08 スケレット、アルソー ミニッツリピーター サマルカンド、スリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌで見る、エルメス流スケルトン

エルメスにとってスケルトンは、機械をただ見せるための手法ではない。時計の性格や用途、モチーフに合わせて、何を見せ、何を残すかを決めるデザインの方法だ。フィリップ・デロタル氏の言葉から、エルメスの2026年のスケルトン(スケレット)を整理する。

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クイック解説

エルメスが2026年のWatches & Wonders Genevaで発表した新作は、神秘のメカニズムがテーマだった。公式サイトでは、スケルトン技術がH08のフォルムを形づくり、アルソーに新しい表現を与え、スリム ドゥ エルメスのコレクションでも存在感を放つ、と説明されている。今回取り上げるのはエルメスH08 スケレット、アルソー ミニッツリピーター サマルカンド、スリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌの3モデルだ。エルメス・オルロジェのクリエイティブ・ディレクター、フィリップ・デロタル氏は、今年のテーマをこう説明していた。

 「スケルトンでは、通常は見えない時計の内側に視線を向けてもらうことが重要です。今回のWatches & Wonders Geneva 2026の会場でも、わたしたちは舞台装置や場面転換の裏側をあえて見せる演出をしましたが、時計でも同じように、内部で何が起きているのかを見せるという考え方があります」

 ただし、機械を見せればそれで終わり、というわけではない。「エルメスにとってスケルトンは、単に肉抜きして機械を見せるためだけのものではありません。そこにはストーリーがあり、エルメスらしい意味がなければならないのです」と、デロタル氏は話す。

フィリップ・デロタル(Philippe Delhotal)
1962年、フランス生まれ。エルメス・オルロジェのクリエイティブ・ディレクター。パテック フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、ピアジェ、ジャガー・ルクルトなど名だたる高級時計メゾンや、高級時計ケースメーカー、ムーブメントメーカーでデザイナーをはじめとする要職に就いたのち、2008年よりエルメス・オルロジェにてクリエイティブ・ディレクターを務める。©Team Whaaat!

エルメス H08 スケレット

©Joël Von Allmen

©Joël Von Allmen

 エルメス H08 スケレットは、2021年に登場したエルメス H08のスケルトンモデルだ。ケースはDLCコーティングを施したチタン製で、ブラックセラミックのベゼルを合わせる。サイズは42mm×39mm。ムーブメントは自動巻きのエルメス・マニュファクチュール製Cal.H1978 Sで、パワーリザーブは約60時間。防水性能は10気圧。ラバーストラップを組み合わせており、予定価格は346万5000円(税込)だ。デロタル氏はまず、H08がどんな時計なのか説明してくれた。

 「H08はスポーティーで、コンテンポラリーで、都市的・建築的な時計です。スケルトン化にあたっても、その性格を保つことが重要でした。ケースやベゼルの幾何学的な形、現代建築の骨組みを思わせるラインを、ムーブメント側にも響かせています」

 実機を見ると、この説明は分かりやすい。角を丸めたスクエアフォルム、ベゼルの面、文字盤の抜き、ムーブメントのブリッジが、同じ方向を向いている。スケルトンになっても、H08のデザインが散漫になっていないのだ。「スケルトンのためにスケルトンを作るのではありません。もともとの時計のフォルム、素材、エスプリとバランスが取れていることが大切です」

 時間の判読性も残している。スケルトンウォッチは、時刻よりもムーブメントに目が行きすぎることがあるが、H08ではスケルトンの上にインデックスを置き、一部のモデルではスーパールミノバのアワーマーカーがコントラストを作る。「ムーブメントの上に、文字盤、あるいはインデックスのフレームを置くように考えています。時刻は通常どおり読めて、その奥にメカニックが見える構造です。従来のエルメス H08では、スーパールミノバでコーティングしたアラビア数字を使っていました。今回のスケルトンモデルではさらに、暗いところでの発光性を高めるために、スーパールミノバのブロックにインデックスを彫り込んでいます」

 H08 スケレットは、単に内部を見せた時計ではない。ケースやベゼルの直線的な形、角を丸めたスクエアの輪郭、グラフィカルなインデックスに合わせて、ムーブメントの開口部やブリッジの見え方まで整えている。外装だけを先に作り、あとから中を合わせたようには見えない。デロタル氏も、ケース、数字、ムーブメントの開口部は同時に見ながら設計すると話していた。


アルソー ミニッツリピーター サマルカンド

©Joël Von Allmen

©Joël Von Allmen

 アルソー ミニッツリピーター サマルカンドは、同じスケルトンでもH08とは方向性が大きく異なる。ケースは38mmで、ホワイトゴールド、WGのダイヤモンドベゼル、またはピンクゴールドのダイヤモンドベゼルが用意される。ムーブメントは自動巻きのエルメス・マニュファクチュール製Cal.H1927で、パワーリザーブは約48時間。機能は時・分表示とミニッツリピーター、防水性能は3気圧だ。価格はWGモデルとPGのダイヤモンドベゼルモデルが4854万3000円、WGのダイヤモンドベゼルモデルが4941万2000円(ともに税込予価)となる。

 アルソーは、1978年にアンリ・ドリニーがデザインしたコレクションで、あぶみに着想を得た上下非対称のラグが特徴である。今回のサマルカンドでは、サンルイ(フランスにある、エルメス傘下のガラス/クリスタル工房)のクリスタル製文字盤に馬の頭部のモチーフを組み合わせ、その奥にスケルトン加工のCal.H1927を見せる。ケースバック側からは、ミニッツリピーターのハンマーと、デュック・アトレ(馬車のモチーフ)のモチーフを表したマイクロローターを見ることができる。デロタル氏はこのタイプの文字盤について、偶然にできたデザインではないと説明していた。「工芸芸術の文字盤では、エルメスのオブジェやモチーフ、素材、技法がインスピレーション源になります。偶然できた文字盤はありません。それぞれに語るべきことがあります」

 この時計でまず目を引くのは、馬のモチーフだ。馬具にルーツを持つエルメスらしい意匠だが、ここでは装飾にとどまらない。その馬の輪郭が開口部として機能し、奥にミニッツリピーターの機構が見える。

 「モチーフの切り抜きは、見た目のバランスだけで決めるものではありません。内部のメカニックをどのように見せるか、モチーフが成立しているか、全体のバランスが保たれているかを同時に確認しながら決めていきます。ミニッツリピーターを備えるムーブメントの開発もありましたから、この時計を作るにはだいたい3年ほどかかりました」。ケースバック側に見えるハンマーやマイクロローターまで含めて、1本の時計として作られている。

スリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌ

©Joël Von Allmen

©Joël Von Allmen

 最後にスリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌだ。これは今年のスケルトンのなかでもっとも大胆にオープンワーク化されている。ケース径は39.5mm、プラチナとチタンの2種類で展開。ムーブメントは自動巻きのエルメス・マニュファクチュール製Cal.H1953、パワーリザーブは約48時間。6時位置にはダブルムーンフェイズを備える。防水性能は3気圧。価格はプラチナが585万2000円、チタンが345万4000円(ともに税込)となっている。ここでデロタル氏は、H08との違いを明確に説明していた。

 「H08とスリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌでは用途が違います。H08には日常使いやスポーツ性、堅牢性、現代的な印象が必要です。一方で、スリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌには、より繊細で、昼間にも使え、イブニングにも合う雰囲気が求められます」

 スリム ドゥ エルメスは2015年に登場したコレクションで、フォントはグラフィックデザイナーのフィリップ・アペロワ(Philippe Apeloig)氏が手がけた。スケレット リュンヌでは、その書体と薄型ケースの印象を残しつつ、6時位置のムーンフェイズとスケルトン加工のCal.H1953を組み合わせている。H08とは違い、スポーツウォッチとしての力強さではなく、薄型の複雑時計としての見え方を優先しているのだ。


ファースト・インプレッション

©Joël Von Allmen

©Joël Von Allmen

3本を見て印象に残ったのは、スケルトンそのものよりも、その設計思想だった。デロタル氏は、時計が形になるまでのプロセスについてこう話している。「3Dプリンターによる模型製作は、デッサンに納得してから作る確認の工程です。一方で、デッサンの段階はクリエーションそのものです。試行錯誤やアイデアの着想、インスピレーションを探す時間があります。旅や出会い、日々の観察も、クリエーションの一部なのです」

 この言葉を聞くと、今回の3本は“スケルトンの新作”というより、それぞれの時計に合わせて、どこを残し、どこを開くかを決めた結果として成立している。H08は、時刻の読みやすさとスポーツウォッチらしい強さを残す。アルソー ミニッツリピーター サマルカンドは、馬のモチーフを単なる装飾にせず、開口部のデザインとミニッツリピーターの機構を一体化させている。スリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌは、薄型ケースとムーンフェイズの印象を保ちながら、Cal.H1953の構造を見せている。

 だから、3本を並べても同じ表情にはならない。スケルトンという同じ手法を使いながら、H08ではスポーティーに、アルソーでは工芸的に、スリムではドレッシーな表現としたのだ。スケルトンの肉抜き具合がどの程度とかよりも、それぞれのモデルで何を見せるべきかが先にある。その順序にエルメスらしさを感じる。その考え方をもっとも端的に示していたのが、取材の終盤に出たデロタル氏のこの言葉だ。

「エルメスのオブジェは、美しいだけでは足りません。そこには裏付けやストーリーがあり、手にした人がそこから喜びを感じられるものでなければならないのです」

– Philippe Delhotal, Creative Director of Hermès Horloger

基本情報

エルメスH08 スケレット(Hermès H08 Squelette)
型番: W408393WW00(ブルー・ザンジバル)/W408555WW00(デュンヌ)/W408556WW00(グリーン)/W408557WW00(ブルー・アビス)/W408391WW00(ブラック)
直径: 42×39mm
厚さ: 11.69mm
ケース素材: DLCコーティングを施したチタン、セラミック製ベゼル
文字盤: オープンワーク、グレーのミニッツトラック
インデックス: アプライドインデックス、アラビア数字
夜光: ブルー・ザンジバルグレーのみ、インデックスにスーパールミノバ
防水性能: 100m
ストラップ/ブレスレット: ラバーストラップ、チタン製デプロイアントバックル

アルソー ミニッツリピーター サマルカンド(Arceau Samarcande)
型番: W408541WW00(プラチナ、ブルー・アンクル)/W408588WW00(プラチナ、デュンヌ)/W408564WW00(ピンクゴールド、グリ・ペルル)
直径: 38mm
ケース素材: 18Kホワイトゴールド、または18Kピンクゴールド。それぞれにダイヤモンドをセットしたモデル有り
文字盤: サンルイ社製のクリスタル、サファイアクリスタル製の馬のモチーフ
インデックス: アラビア数字
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: アリゲーターレザーストラップ、ゴールド製ピンバックル

スリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌ(Slim d’Hermès Squelette Lune)
型番: W408068WW00(プラチナ、ブルー・アビス)/W408309WW00(チタン、グリ・エタン)
直径: 39.5mm
ケース素材: グレード5チタン、またはプラチナ
文字盤: オープンワーク、6時位置にダブルムーンフェイズ表示
インデックス: 転写インデックス
夜光: なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: アリゲーターレザーストラップ、またはカーフストラップ


ムーブメント情報

エルメスH08 スケレット
キャリバー: エルメス・マニュファクチュール Cal.H1978 S
機能: 時・分表示、センターセコンド
直径: 27mm
厚さ: 4.165mm
パワーリザーブ: 約60時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 26
クロノメーター: なし
追加情報: チタン製の地板とブリッジを採用、168個の部品で構成されるスケルトンムーブメント

アルソー ミニッツリピーター サマルカンド
キャリバー: エルメス・マニュファクチュール Cal.H1927
機能: 時・分表示、ミニッツリピーター
直径: 28mm
厚さ: 4.95mm
パワーリザーブ: 約48時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 40
クロノメーター: なし
追加情報: マイクロローターを備えた自動巻きムーブメント、ケースバックからミニッツリピーターのハンマーと、デュック・アトレのモチーフを表したマイクロローターが鑑賞可能

スリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌ
キャリバー: エルメス・マニュファクチュール Cal.H1953
機能: 時・分表示、ダブルムーンフェイズ
直径: 30mm
厚さ: 3.57mm
パワーリザーブ: 約48時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 29
クロノメーター: なし
追加情報: ゴールド製マイクロローターを備えた薄型自動巻きムーブメント、6時位置のダブルムーンフェイズは北半球と南半球の月相を表示


価格 & 発売時期

エルメスH08 スケレット
価格: 各346万5000円(税込予価)
発売時期: 2026年7月発売予定
限定: なし

アルソー ミニッツリピーター サマルカンド
価格: ホワイトゴールド、ブルー・アンクルとピンクゴールド、ダイヤ、グリ・ペルルが4854万3000円/ホワイトゴールド、ダイヤ、デュンヌが4941万2000円(ともに税込予価)
発売時期: 2027年2月発売予定
限定: あり、世界限定各24本

スリム ドゥ エルメス スケレット リュンヌ
価格: プラチナモデルが585万2000円/チタンモデルが345万4000円(ともに税込)
発売時期: 発売中
限定: なし

特に記載のない写真は、すべてYu Sekiguchi