trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Three On Three 400万円台のドレスウォッチをHODINKEE Japan編集部がレコメンド

ドレスウォッチに求めるものは何か。歴史か、技術か、それとも美意識か。編集部が選んだ3本を通して、その魅力を掘り下げる。

Play

ひとつのテーマのもと、3本の時計を持ち寄り、それぞれの魅力を語り尽くす動画シリーズ「Three on Three(スリー・オン・スリー)」。今回のテーマは、400万円台のドレスウォッチです。

 近年の時計市場では、一体型ブレスレットを備えたラグジュアリースポーツウォッチが大きなトレンドを築いてきましたが、その熱狂がひと段落したいま、時計愛好家たちの関心は小径ケースやクラシカルなドレスウォッチへと向かいつつあります。

 そこで今回は、HODINKEE Japan編集部のエディター3名が、それぞれの視点から400万円台で購入できるおすすめのドレスウォッチをセレクト。ドレスウォッチの王道を体現するブレゲ、優れた技術と仕上げを誇るショパール L.U.C、そして日本独自の美意識を映し出すクレドール。価格帯は近くとも、その魅力や価値観は大きく異なる3本が揃いました。果たして、あなたならどの一本を選ぶでしょうか。


クレドール ゴールドフェザー U.T.D. GBBY972
By Yu Sekiguchi
ファースト・インプレッション

 セイコー ゴールドフェザーとは、初代グランドセイコーが誕生したのと同年である1960年に産声を上げた国産ドレスウォッチの最高峰。まだクォーツウォッチもない時代、「薄型=技術力の証明=高級」という方程式に則って、当時世界最薄2.95mm厚となる手巻き式の中3針ムーブメントCal.60系を備えたことに端を発する1本である。当時のサラリーマンにとっては高級品として売り出され、のちのクレドールの礎を築くことになった。

 現行モデルは60年代のプロポーションを継承しながらブラッシュアップされ、2023年にクレドールブランドから復活。かつての流れをくむ68系ムーブメントを搭載し、セイコー全体のなかでも職人の手仕事に依存する割合が非常に高い時計となっている。2針でよりドレッシーを極めたCal.6890の1.98mmというムーブメント厚(直径24mm)は500円硬貨をほぼ同じ大きさであり、この厚みのなかで行われるアガキ調整などの細かな作業には100分の1mm単位での精度が求められる。機械加工では入り込めない領域の、まさに職人技の結晶であるこのドレスウォッチに、大きなロマンを感じてしまうのだ。

デザイン・外装について

 ドレスウォッチとは、製作する上での制限が腕時計のなかでも比較的大きい。ゴールドフェザーも、小型かつ薄型のムーブメントを搭載するがゆえにトルクが小さく、スラリと伸びた針を与えるのにも最適な重量バランスと形状を考慮し、厚みを削りながら立体感を出すという、右を見ながら左を向くようなことが繰り返し施されている。

 ベゼルが薄く取られたケースは、正面から見ると全体に線の細い印象で、まさに繊細なドレスウォッチといった趣き。直径37.1mm、7.7mm厚という寸法は、日常的に使用できる薄型時計としては限界に近いものだろう(実際はより薄くすることも可能だったらしいが、セイコー社内の厳格な基準に照らしてある程度の余裕をもったらしい)。

 それは文字盤にも見て取れる。丸みを帯びたボンベダイヤルは光の陰影を生み出し、ドーム風防と相まって豊かな表情を生んでいる。ミニッツトラックの役割を果たす外周のドットは、今では失われつつある伝統技法である「もみつけ」によるもので、ひとつずつ職人がバイトで彫っている。立体感の強い長めのバーインデックスとは対象的で、ミニマルな要素のなかでもギャップを感じることができる。多くのブランドが現在ではプリントやシールでの処理にしてしまうパーツにまで、あえて人の手を入れるのはブランド哲学である「The Creativity of Artisans」の体現である。

 ゴールドフェザーの名が示すように、この時計は細部に至って薄さや軽やかさを感じさせる繊細なディテールが見て取れる。たとえばラグは正面からは非常に細く見えるが、実際は裏側にかけて厚みがあり耐久性も担保。裏蓋は肌との接触面を限りなく少なくするためにすり鉢状にし、さらに優美なポリッシュを施すことで感覚的に軽さを実感しやすい工夫がなされている。

ムーブメントについて

 本機が搭載するのは、1960年当時世界最薄の中3針キャリバーであるCal.60の2針バージョンであるCal.6800(1969年)を源流に持つ。かつて、グランドセイコーと並ぶほどセイコーの技術力の象徴であったCal.68系は、基本設計をそのままに現代でも通用する極薄ムーブメントであり続けている。その厚みは1.98mm、2万1600振動/時とロービートで優雅に時を刻む。

 ゴールドフェザーは極限まで薄さを追求する設計思想のため、シースルーバックの採用例は少ない。だからこのCal.6890を目にすることはなかなか叶わないのだが、香箱に蓋を設けず地板裏のルビーでゼンマイを保持する構造、アンクルに段差をつけることで隙間を減少させて薄型化を図った工夫など、独自の工夫が盛り込まれている。もちろんオリジナルのCal.68から細かなアップデートが行われているわけだ。

 正直、例えばグランドセイコーの白樺などと比べると、ゴールドフェザー全体の生産数は数倍も少ないだろう。そこには多くの理由があるが、ひとつには職人技に依存するこのムーブメントが大量生産に向かないという事実がある。セイコーのような企業が、限られた優秀な時計師のリソースをCal.68系に割り当てるのは必ずしも合理的な選択とは言えない。しかし、間違いなくセイコー、ひいては日本の機械式時計の大源流のひとつであるCal.68系を、ルーツを絶やさずに彼らが作りつづけることにコスト以上の大きな理由があると思うのだ。ムーブメント如何で時計を欲しくなることが滅多にない僕が、自然と惹かれてしまうストーリーをゴールドフェザーは内包している。

実際に着けてみて

 今回の企画を経てドレスウォッチとは、こんなにも豊かに表現の幅を広げているのかと再認識した。ゴールドフェザーは3本の中で最もクラシックな性格の時計だし、そのディテールも1960年のオリジナルに範を取ったところが多く見受けられる。ただ、37.1mmという絶妙なサイズ感は、カットソーでスーツをこなすような、フォーマルともカジュアルともくくれないような現代的装いに不思議とマッチする。それは、ケースサイズに対して約32.5mmという非常に大きな文字盤を与えたこと、ラグ幅を19mmと比較的大きく取ったことなど、単にエレガントなだけでないギャップが寸法の細部にも潜んでいるからだろう。

 また、手元でのインデックスやミニッツトラックの煌めきは、最小限のディテールであるが、それがかえって職人技を浮き立たせる。人の手が介在することで感じられる独特な揺らぎによって、必要最低限の時刻を読み取ることすら忘れ、見るともなく時計全体を眺め呆ける瞬間があった。このような時計は、人に見せて主張するためのものではなく、自分自身のためにいついかなるときでも楽しみ、感じることができることが魅力なのだと実感した。だからこそ、片時も離さないように装着感の追求が必要だったとすら思わせる。

 Ultra Thin Dressという呼称をわざわざつけるあたり、ゴールドフェザーが正統派ドレスウォッチであることは間違いない。しかしこの時計は、単にフォーマルの作法をこなすための時計ではない。日本人として、半世紀以上にわたって継承されたものを日常の中で味わい誇り、平均的な時計の定義から離れて楽しむことのできる1本なのだ。

クレドール ゴールドフェザー U.T.D. Ref.GBBY972 407万円(税込)


ショパール L.U.C 1860 “アリューズブルー”
By Kyosuke Sato
ファースト・インプレッション

 筆者は時計を選ぶ際に、服装や場面を限定せずに着けられることを重視している。だが、今回のテーマはドレスウォッチだ。筆者はどうにもそうした時計になじみがないのだが、もし自分が購入するとしたら、ドレスウォッチといえども普段から着けられるものを選びたいと思っている。今回、筆者がショパールのL.U.C 1860を選んだ理由も、そこにある。この時計は、2針(+スモールセコンド)で日付なし、袖口を邪魔しない薄型設計で、36〜38mm程度のサイジングという、いわゆるドレスウォッチの様式を備えながらも、特別な日のためだけのものになっていないところにとても心を引かれたのだ。

 もちろん、一般的なドレスウォッチの基準に照らせば、ケース素材がゴールドではなくステンレススティールであることや、スモールセコンドを備えている点は議論になるだろう。しかし実物を見たうえで、一般的なドレスウォッチの基準とは異なるというだけでこの時計を判断するのは適切ではないと、声を大にして伝えたい。手彫りギヨシェが施されたゴールド製のダイヤルや、ゴールド製の針とインデックス、さらにムーブメントの22Kゴールド製マイクロローターまで含めると、ゴールドはふんだんに用いられており、職人技も随所に惜しみなく注がれている。

 ドレスウォッチらしい品格と、毎日着けることができる実用性。そのふたつを無理なく両立していることが、この時計に対して最初に抱いた印象であり、最も魅力的に映った点でもあった。

デザイン・外装について

 この時計のデザインや外装を見て、まず魅力を感じたのは、華やかさを備えながらも、それを過度に誇示していない点だ。直径36.5mm、厚さ8.2mmというケースプロポーションは、現代の時計としては(特に男性が着ける場合)とても小ぶりで、自動巻きとしては十分薄い部類に入る。ベゼルも細く、ケースの存在感を前面に出すというよりも、ダイヤルの表情を主役に据えた設計だ。

 “アリューズブルー”と名付けられたダイヤルは、前述のとおり18Kホワイトゴールド製で、中央には手作業による放射状のギヨシェ装飾が施されている。その周囲を別のギヨシェパターンとサテン仕上げのチャプターリングで区切ることで、同じブルーのなかにも複数の質感と奥行きを与えている。光を正面から受けたときは端正で落ち着いたブルーに見えるが、腕を傾けると細かな彫りが光を拾い、想像以上に表情を変える。この静かな変化が、単色のブルーダイヤルとは異なる工芸的な豊かさを生んでいる。

 インデックスとドーフィン針もホワイトゴールド製だ。6時位置のスモールセコンドを含め、構成そのものは極めて古典的で、デイト表示を省いた左右対称のレイアウトにもドレスウォッチらしい純度を感じる。一方で、ブルーのダイヤルとグレーのカーフストラップの組み合わせには現代的な軽さがあり、スーツやジャケットはもちろんのこと、ニットやシャツといった普段着にも合わせやすいように思う。

 ケース素材がルーセントスティール™であることは、この時計の評価が分かれる部分だろう。ゴールドケースの重みや温かみをドレスウォッチの重要な条件と考える人には、物足りなく映る可能性がある。しかしルーセントスティール™は通常の SSよりも明るい色調で、磨き上げた面が貴金属を思わせる澄んだ光沢を備えているのが特徴だ。それでいて、ゴールドほど着用場面を選ばず、傷や取り扱いに過度に神経質にならずに済む。個人的な印象としては、この素材選択はコストを抑えるためというより、伝統的なL.U.C 1860というドレッシーな腕時計を、日常へ引き寄せるための意図的な判断に感じられる。

ムーブメントについて

 搭載するのは、自動巻きのL.U.C 96.40-Lだ。これは、1996年にショパール マニュファクチュールが初めて開発したムーブメントを基礎とするキャリバーであり、L.U.Cコレクションの原点を現代的に進化させた存在といえよう。

 特に重要なのが、マイクロローターを採用している点だ。一般的な自動巻きムーブメントは、ムーブメントの上部を大きなローターが覆うが、マイクロローターは巻き上げ機構を地板とほぼ同じ高さに組み込む。そのため自動巻きの利便性を保ちながら、ムーブメントの厚さを3.3mmに抑えることができ、ケース全体も8.2mmという薄さにまとめられている。薄型の手巻き時計に近いプロポーションと、自動巻きの実用性を両立できることは、マイクロローター搭載ムーブメントの大きなメリットだ。

 さらに魅力的なのは、約65時間という長いパワーリザーブを確保しているところだ。マイクロローターには、ムーブメントの地板内にローターのスペースを確保する必要があるため、香箱を大きくしにくく、パワーリザーブを延ばしづらいというデメリットがある。しかし、L.U.C 96.40-Lではふたつの香箱を重ねて搭載するショパールツインテクノロジーにより、約65時間のパワーリザーブを実現している。振動数は2万8800振動/時のハイビートで、時刻合わせに便利なストップセコンド機能も備える。

 そして、この時計を単なる薄型自動巻きに終わらせていないのが、COSC認定クロノメーターとジュネーブ・シールの双方を取得している点だ。COSC認定クロノメーターはムーブメントの精度を認定するもので、ジュネーブ・シールは製造地に関する条件に加え、部品の仕上げや構造、完成品としての時計の品質などに基準を設け、そのクオリティを認定するものだ。コート・ド・ジュネーブを施した受けや、ペルラージュ仕上げの地板、面取りと研磨が施された各部品からも、外からは見えにくい部分まで手を抜かないL.U.Cの姿勢が伝わる。繊細になりがちなドレスウォッチであっても、精度にも美観にも妥協しない。そうしたショパールのものづくりへのこだわりが透けて見える。

実際に着けてみて

 実際に腕に乗せてみると、36.5mmというサイズは数字から想像するほど小さくは感じなかった。小ぶりだが、ダイヤルの面積が十分に確保されていることに加えて、ブルーのギヨシェダイヤルが光を反射するため、視覚的な存在感が生まれているからだろう。一方、ラグは腕から張り出さず、厚さも8.2mmに抑えられているため、時計だけが腕の上で主張するということなく、シャツの袖口にも自然と収まる。このあたりはやはりドレスウォッチらしい設計といえるだろう。

 この“存在感はあるが、邪魔をしない”という感覚は、筆者が求めるドレスウォッチの条件に近い。格式のある時計だからといって、着る服や出かける場所を毎回選ばなければならないのであれば、所有していても着ける機会はどうしても限られてしまう。その点、L.U.C 1860はスーツやジャケットにも、普段のカジュアルな格好にも無理なくなじむ。かつてはブルーダイヤルというとカジュアルな印象が強かったが、本機ではギヨシェ装飾がカジュアルになりすぎることを防いでいる。標準仕様のグレイン仕上げのカーフストラップはややカジュアルな印象だが、たとえばアリゲーターストラップに交換すれば、よりドレッシーに着けることもできると思う。

 前述したように、この時計がゴールドケースではないことから、一般的なドレスウォッチの条件に合わないと考え、別の1本を選ぶ人もいるだろう。しかし個人的には、ルーセントスティール™だからこそ気兼ねなく扱えることが、むしろ魅力だと思っている。高価な時計であることに変わりはないが、傷を恐れてしまい込むことなく、日常のなかで積極的に着けようと思えるからだ。

 そして、日常性を優先したからといって、ドレスウォッチとしての魅力が犠牲になっているわけではない。手彫りのギヨシェ装飾を施したゴールド製ダイヤルにゴールド製の針とインデックス。そして本機はCOSC認定クロノメーターとジュネーブ・シールの双方を取得しており、そのクオリティも確かだ。こうした外装だけでは測れない品質も、高級時計としての説得力につながっている。

 L.U.C 1860は、冠婚葬祭や重要な会食など、特別なシーンのためだけに着けるようなドレスウォッチではない。仕事の日にも、休日にも着けられ、そのうえで必要な場面では十分な品格を示してくれる。ドレスウォッチになじみがない人が最初に選ぶ1本としても、日常で使える最高峰の時計を求める人にとっても、納得できる選択肢となり得る。その立ち位置こそが、筆者がこの時計をプッシュしたい最大の理由だ。

ショパール L.U.C 1860 “アリューズブルー” 421万3000円(税込)


ブレゲ クラシック 5177
By Masaharu Wada
ファースト・インプレッション

このモデルの登場を知ったとき、個人的にはかなりうれしかったことを覚えています。その理由は大きくふたつあります。

 まずひとつ目は、クラシック 5177から日付表示を取り除いたタイムオンリー仕様であることです。従来のクラシック 5177は日付表示を備えていましたが、個人的にこうした正統派のドレスウォッチには文字盤に余計な情報がない方がよいと考えています。ドレスウォッチは時間を確認するための道具である以上に、装いや所作を引き立てる存在だと僕は考えています。日付表示が便利なのは間違いありませんが、たったひとつの日付窓が加わるだけで、文字盤全体の均整は大きく変わってしまいます。むしろ時・分表示だけに徹することで、より純粋なドレスウォッチとしての魅力が際立つのです。

 そしてもうひとつは、ブラックダイヤルのドレスウォッチという存在そのものです。実は市場を見渡してみると、シンプルなタイムオンリーのブラックダイヤルを備えたドレスウォッチはそれほど多くありません。例えばA.ランゲ&ゾーネのサクソニア・フラッハにはブラックオニキスダイヤル仕様が存在しましたが、ハニーゴールドとホワイトゴールドそれぞれ200本限定で、価格も800万円台でした。パテック フィリップのゴールデン・エリプスにもブラックダイヤルモデルがありますが、こちらはブレスレット仕様で価格帯も900万円台です。そうした希少な選択肢に対して、400万円台という価格で、これほど完成度の高いブラックエナメルダイヤルのドレスウォッチを手にできることにも、大きな魅力を感じました。

 さらに、このモデルがブレゲ創業250周年という節目に登場したことにも特別な意味があります。1775年の創業以来、時計史に数々の足跡を残してきたブレゲ。その記念すべき年に、派手な複雑機構ではなく、ブランドを象徴するデザインコードを最も純粋な形で味わえるタイムオンリーのドレスウォッチを周年モデルとして送り出したことに、僕はブレゲらしい矜持を感じました。

デザイン・外装について

 このモデル最大の特徴は、ブラックのグラン・フー エナメルダイヤルでしょう。800℃以上の高温で焼成されるエナメルダイヤルは、ブレゲの自社工房で製作されています。ブラックエナメルは半透明の釉薬を何層にも重ねながら焼成を繰り返し、徐々に透明感を失わせることで、最終的に深みのある漆黒へと仕上げられます。

 ブラックエナメルの魅力は、単に黒い文字盤というだけではありません。光を受けると奥行きを感じさせ、見る角度によって表情を変える独特の質感があります。艶やかで深みのあるブラックにシルバーカラーのブレゲ数字が浮かび上がる様子は実に美しく、クラシカルでありながら、どこか現代的な印象も。

 基本的なデザインは従来のクラシック 5177を踏襲しています。6時位置には、光の加減によって見え隠れするシークレットサインが配され、針にはもちろん先端に穴の開いたアイコニックなブレゲ針を採用。ブレゲというブランドを象徴する意匠が、随所に盛り込まれています。

 ケースに目を移すと、コインエッジ装飾が施されたラウンドケースと、ケース中央部に溶接されたストレートラグが目を引きます。これらはいずれもアブラアン-ルイ・ブレゲが考案、あるいは普及させた意匠として知られるもので、この時計にはブレゲのデザインコードが凝縮されています。だからこそ僕は、このモデルを「ブレゲらしさを最も純粋に味わえる一本」だと感じています。

 サイズは直径38mm、厚さ8.8mm。現代では決して大きくありませんが、小さすぎることもなく、多くの人の手首に自然に収まる絶妙なプロポーションです。ドレスウォッチの王道とも言える端正なデザインでありながら、ブラックダイヤルが全体を引き締め、クラシック一辺倒ではないモダンな表情を生み出しています。

ムーブメントについて

 搭載されるのは、自動巻きムーブメントのCal.7775です。従来のデイト表示付きモデルに搭載されていたCal.777 Qをベースに、日付機構を取り除いたタイムオンリー仕様となっています。

 ムーブメントの仕上げは、さすがブレゲと言うべきでしょう。ブリッジにはストライプ装飾が施され、エッジには丁寧な面取り加工が見られます。近年は華やかなオープンワークや鏡面仕上げで存在感を演出するブランドも少なくありませんが、ブレゲの仕上げはどこまでも端正で控えめです。過度に自己主張することなく、細部まで上質に仕上げられたムーブメントからは、質実剛健なブレゲらしさが伝わってきます。

 スペック面では、55時間のパワーリザーブと毎時2万8800振動(4Hz)を実現しています。55時間というパワーリザーブは、現在では決して長い部類ではありません。しかし、自動巻きであることに加え、この時計は数日放置しても気軽に使えることを競うモデルではなく、手首に載せてその造形や佇まいを楽しむドレスウォッチです。この時計のキャラクターを考えれば、十分に実用的なスペックだと僕は感じます。

 さらに、シリコン製フラットひげゼンマイとシリコン製脱進機を採用している点も見逃せません。シリコン素材は磁気の影響を受けにくく、温度変化にも強いうえ、耐衝撃性の向上にも寄与します。クラシカルな外観とは対照的に、中身は現代的な実用性をしっかり備えているところも、このモデルの魅力です。

 また、ブラックエナメルダイヤルを採用したことで、文字盤側にはブレゲらしいギヨシェ装飾は見られません。しかし時計を裏返すと、18Kゴールド製ローターには波模様のギヨシェが施され、ケースバック側にも繊細なギヨシェ装飾が広がります。エナメルとギヨシェという、ブレゲを代表するふたつの伝統技法を一本で楽しめるのも、このモデルならではの魅力と言えるでしょう。

実際に着けてみて

 実際に着用してまず感じたのは、そのバランスの良さです。僕は手首周りが約15.5cmと比較的細いほうですが、38mmというケース径と8.8mmという厚さは非常に収まりが良く、シャツの袖口にもすっきりと滑り込みます。ドレスウォッチらしい薄さを確保しながらも、小さすぎる印象はなく、多くの人にとってちょうどいいサイズ感ではないでしょうか。

 ケース素材に採用されたローズゴールドも好印象です。華やかさはありながらも主張しすぎず、肌なじみが良いため、フォーマルな装いはもちろん、ジャケットスタイルなどにも自然に溶け込みます。ブラックエナメルダイヤルとの組み合わせも落ち着いた印象で、ゴールドケースでありながら決して派手には映りません。

 そして何より、この時計を着けていると「ブレゲらしさ」を全身で味わっているような感覚になります。ブレゲ針、ブレゲ数字、コインエッジケース、ストレートラグ──。時計史に大きな足跡を残したアブラアン-ルイ・ブレゲが考案、あるいは広めた意匠が凝縮されており、それらを日常のなかで身に着けられること自体に、この時計ならではの価値があると思います。

 2025年、創業250周年のタイミングでグレゴリー・キスリングCEOにインタビューした際、同氏は250周年モデルで採用した新しいケースデザインを今後拡充していく一方で、コインエッジ装飾を備えた伝統的なケースもブランドの重要な柱として残していく考えを語っていました。その言葉を聞いたからこそ、このクラシック 5177は単なるバリエーションモデルではなく、現代のブレゲらしさを象徴する一本なのだと感じています。

 個人的には、タキシードやブラックタイなど、特別な装いに合わせたい時計です。一方で、この完成度の高いタイムオンリー仕様を見ていると、ぜひホワイトエナメルダイヤルでも展開してほしいと思わずにはいられません。それほどまでに、このブラックエナメルのクラシック 5177は、現代では貴重な"ピュアドレスウォッチ"として高い完成度を備えた一本に仕上がっています。

ブレゲ クラシック 5177 422万4000円(税込)


スペック比較

Video Editor: Marin Kanii, Photographs by Masaharu Wada