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The Art of Stillness クレドール ゴールドフェザーに宿る、進化する漆芸と日本のドレスウォッチの現在地

黒漆の奥に、深い青が静かに灯る。クレドール ゴールドフェザー 漆芸ダイヤル 限定モデルは、直径37.4mm、厚み8.1mmの薄型ドレスウォッチに、青い透漆のグラデーションとプラチナ粉による高蒔絵を重ねた1本だ。工芸を単なる装飾にとどめず、現代の腕時計表現へと更新するクレドールの現在地を、この小さなダイヤルから読み解く。#PR


“クレドールらしさ”は、静かな進化のなかにある

2026年のWatches and Wonders Genevaにおいて、日本の時計業界関係者のあいだで大きなニュースとなったのがクレドールの初参加だった。ブースには匠の技を紹介する展示や、ロコモティブ、叡智IIといった傑作の展示が用意され、特に日本の伝統工芸とクレドールのウォッチメイキングを結びつけるブランドの姿勢を象徴していた。スタッフによれば、同じ展示エリアにある独立系ブランドの関係者も多く見学に訪れたという。

 クレドールは、広く世界展開されているブランドではない。だからこそ、海外の時計業界関係者にとっては、実機に触れる機会の限られた存在だった。初の国際舞台で注目を集めたのは、希少性だけが理由ではない。ついにその姿を見ることができる機会を、純粋に歓迎していたのだ。

 ではなぜ、日本だけでなく世界がクレドールに注目するのか。それは、薄型ドレスウォッチを軸にしながら、日本の美意識と高度な時計製造を独自のバランスで結びつけてきたブランドだからだ。極薄の自社製ムーブメントを搭載する技術的な奥行きに加え、日本の伝統工芸を腕時計表現へと昇華してきたことに、クレドールならではのオリジナリティがある。

クレドール ゴールドフェザー 漆芸ダイヤル 限定モデル Ref.GBBY967 550万円。

 クレドールの腕時計はダイヤルから外装に至るまで、あらゆるディテールに匠の技を感じさせる。その精神は“The Creativity of Artisans”という言葉に集約され、日本の美意識やものづくりに対する信念を、腕時計という形で体現している。

 しかし腕時計という小さな世界のなかで、実用性や耐久性を確保しながら新しい表現を確立するには、新しい技法を取り入れる必要がある。クレドールは、匠の技を伝統のなかにとどめるのではなく、次の時代へと進化させることにもこだわる。その真髄を知るために、美しいブルーのグラデーションダイヤルをもつクレドール ゴールドフェザー 漆芸ダイヤル 限定モデル Ref.GBBY967を解き明かそう。


黒漆から深い青へ。静寂に光を宿すダイヤル

 薄型ドレスウォッチであるゴールドフェザーに、漆芸の表現を重ねる。それは、単なる装飾の集積ではない。和の意匠をそのまま載せるのではなく、ゴールドフェザーのプロポーションに収まるまで漆芸を腕時計のためのものとして更新する試みでもある。漆芸は、“Japan”という語が漆器を指すこともあるほど、日本の文化と深く結びついてきた。そのためクレドールとの親和性は高い。

 「GBBY967のデザインを考えるうえで、最初にイメージしたのは“希望の光”でした。真っ暗で見通しが利かない不安のなかに、希望の光が現れる。クレドールには、単なる腕時計以上の存在になって欲しいという思いを込めたかった。例えば勇気づけたり、お守りになったり。そうしたパートナーのような関係性を結べる腕時計になって欲しいのです」

 その最初のイメージは、深海の底に届く光に近かったと、セイコーウオッチでクレドールの商品企画を担当し、GBBY967の企画を手がけた神尾知宏(かみおちひろ)氏は話す。そこから表現は徐々に、暗闇のなかで静かに燃える青い炎のようなニュアンスへと絞り込まれていった。

 「どういう方法で漆を用いれば、理想の表現になるのかは未知数でした。しかし田村一舟先生との打ち合わせを重ねていくなかで、歴史ある漆芸だからこそ、表現の枠を広げてみたいという思いを共有できました。そうしたやり取りの中から、グラデーションを使う発想が生まれましたが、田村先生としてもまったく初めての技法だったので、互いに試行錯誤を重ねました」

 最終的に選ばれたのは、青い透漆(すきうるし)を研ぎ出しながらグラデーションを生む方法だった。工業的な均質さではなく、手の感覚によってにじむ光。そのあり方が、“希望の光”を表現したいという思いと美しく重なった。

 「デジタルや工業製品のような冷たさではなく、クレドールがもっている温かみが、デザインでも技法でもうまく昇華できました。もちろん感覚に頼るものであるからこそ、100分の1mmの精度で数値的に管理するために測定器を使うなど、工芸の世界にはない技術も取り入れていただきました」

 身体感覚に根ざした工芸の表現を、腕時計として必要な精度へと引き上げる。美しさと寸法のあいだにある緊張が、このダイヤルに静かな説得力を与えている。


蒔絵の匠が挑んだ、プラチナ粉による高蒔絵

漆芸家 田村一舟(たむらいっしゅう)氏。世界に類を見ない独自の細密技法を開発し、漆器のみならず、加賀蒔絵をあしらった高級万年筆なども手がける現代の匠は、クレドールだからこそ求められる“限界値を超えた挑戦”を楽しんでいるという。

 GBBY967は、ダイヤルの色の美しさに目を奪われるだけではない。インデックス、CREDORロゴ、Goldfeatherロゴは、漆で模様を立体的に盛り上げ、その表面に金属粉を蒔いて仕上げる“高蒔絵”という技法で表現されている。今回はブランド初となるプラチナ粉を使用しているが、これも非常に難度の高い作業だった。

 「プラチナは金などと比べると硬く、粒子の大きさにもばらつきがあります。また漆の色が染みてくるので、理想の色にするために何度も蒔く必要があります。長いインデックスは面積が広いですし、ロゴの書体は穴がつぶれたり角が欠損したりしないように注意深く作業しないといけません」

GBBY967を完成するうえで、田村氏が実際に使用した道具。

 さらに重要なのは、道具の使い分けである。通常は鯛牙を使用するが、今回はプラチナ粉という特性もあり、新たに金属ヘラといった道具を用い、インデックスやロゴなど部位ごとの形状、面積、求める光り方に応じて選び分ける。高蒔絵の輝きは、素材の力だけでは生まれない。どの部分に、どの道具で、どの程度の圧をかけるのか。そうした判断の積み重ねが、クレドールのダイヤルに必要な精度と品格を生み出している。

 田村氏にとってこの仕事は、単に伝統技法を小さなダイヤルへ移すことではない。クレドールの信頼に応えること。そして、腕時計という精密なプロダクトのなかで蒔絵の可能性をもう一段押し広げること。そのふたつが、今回の挑戦を支えていた。


グラデーションが描き出す美の本質

 青い透漆を研ぎ出しながら、黒から青へのグラデーションを生む。言葉にすれば単純だが、それをゴールドフェザーのボンベダイヤルで実現するには、平面の漆芸とは異なる難しさがある。曲面に沿って光を滑らかに移ろわせるには、研ぎの角度、力加減、漆の層を読む感覚が求められる。田村氏は、このグラデーション表現についてこう語る。

 「例えばグラデーションの表現は、一般的には顔料を用いた漆を使い、最後の上塗り工程でぼかします。しかしこのモデルでは、顔料を用いた漆に加えて、青い透き漆を採用して何層も重ねています。これは従来の漆芸にはない手法。しかしその結果、ムラがない自然なグラデーションが可能になりました。塗りと研ぎの工程を何度も繰り返しますが、研いだ段階では色味は見えてきません。最後の工程でどういう色に仕上がるかを見越して調整していく作業は、これまでの経験があるからできることです」

 つまり田村氏は、見えている色を整えているのではない。まだ見えていない青を、経験によって先回りしている。長年にわたってクレドールの漆ダイヤルを担当してきた蓄積があるからこそ、最後の仕上がりを逆算できるのだ。一方で腕時計のダイヤルには、漆器とは異なる“精度”も求められる。そこで100分の1mmを計測できる測定器を用い、すべての工程で厳格に計測しているという。通常の漆器の製作ではそこまでの精度は求められないが、クレドールが薄さを極めたドレスウォッチである以上、0.01mmレベルの調整を繰り返しながら仕上げていく必要がある。

薄く、静かで、端正なゴールドフェザー GBBY967。そのケース厚8.1mmのなかに、漆芸とプラチナ高蒔絵によるクレドールの新たな表現が収められているのだ。

 クレドールの存在意義。それは美しさにある。もちろんその定義は時代によって変化するが、現代にはクワイエットラグジュアリーに代表される静かで上質な表現が求められることも多い。そう考えると、GBBY967の表現はまさに時代の気分にも合っている。

 実際にWatches and Wonders Geneva 2026でも、海外メディアからは「本当に手作業なのか」と驚かれることも少なくなかったようだ。高級時計をよく知る人にとっても、クレドールの独自性は新鮮な驚きとして受け入れられたのだろう。とくに近年はダイヤル表現の幅が広がり、多くのグラデーションダイヤルが発表されている。機械とラッカーを巧みに用いた美しいグラデーションダイヤルだけでも十分に魅力的だが、GBBY967と見比べると、その色調の変化の繊細さや、高蒔絵のインデックスがつくりだす立体感は別の領域にあることがわかる。それは写真だけではわからない。だからこそ、ブースを訪れた時計関係者は、クレドールの漆芸や徹底した手仕事に驚いたのだろう。

 それだけに完成したダイヤルの青は、単なる色の移ろいには見えない。角度を変えるたびに、黒の奥から光がにじみ、プラチナのインデックスがその上に静かに浮かぶ。薄型ドレスウォッチの抑制された佇まいのなかで、漆の深みと高蒔絵の輝きが静かに調和する。神尾氏が思い描いた“希望の光”は、田村氏の手をとおすことで、言葉ではなく、視線の奥に余韻として残る表現へと結実している。


洗練された日本のドレスウォッチ、その次なる扉

 GBBY967は、一見して派手な腕時計ではない。けれど近づくほど、黒漆の奥に沈む青、プラチナ粉のわずかな盛り上がり、薄型ケースが描く緊張感、そして歴史ある極薄ムーブメントの存在が見えてくる。記憶に残るのは強い主張ではなく、視線を近づけた人だけが気づく密度だ。

 きわめて手の込んだ腕時計であるため、大量生産はできない。世界中の愛好家が望んでも、この腕時計を手にする機会は簡単には訪れないだろう。

 だからこそ、初出展となったWatches and Wonders Geneva 2026は強い意味を持った。日本には、こういうドレスウォッチがある。クレドールが国際舞台で示したのは、その静かな、けれど確かな事実だった。

Photos:Yoshinori Eto Styled:​Eiji Ishikawa(TRS) Words:Tetsuo Shinoda