ADVERTISEMENT
気づけばもう6月もほぼ半ばに差し掛かった。そのご褒美として、暑さを忘れるために興味深い時計をいくつかご紹介しよう(編注;本稿は6月12日にHODINKEE US版で公開された記事の翻訳です)。私の知る限り、Hodinkeeには特定のスポーツチームを応援するという編集方針はないが、ニューヨークを拠点とするメディアとして、ひとつだけ言わせてもらえるなら、NBAファイナルが明日で決着し、ニックスが念願の優勝を果たし、長年その瞬間を待ち続けてきたファンが思う存分熱狂できることを願いたい(編注;実際、6月14日にニックスは53年ぶりの頂点に輝きました)。
まずは先週の落札結果を振り返ろう。カルティエの懐中時計は3980ユーロ(日本円で約73万円)で落札、ロレックス エクスプローラー 5504は落札されたものの、オークション主催者は価格を公表しておらず、私のメールにもまだ返信がない。グリュエン テクノ・クアドラントは1300ユーロ(日本円で約23万8000円)、チューダーのレンジャー IIは1600ユーロ(日本円で約29万3000円)、ユニバーサル・ジュネーブ ポールルーター ブロードアローは6200ポンド(日本円で約130万円)で落札、オメガ レイルマスターは落札されなかった。それでは、本題に入ろう。
番外編
Photo courtesy Dannenberg
地元の時計師との付き合いを始めるきっかけを探している人や、楽しくも悩ましいプロジェクトに取り組みたい気分の人には、ヴァルジュー72の部品やムーブメント、ダイヤル、ケースを詰め合わせた魅力的なロット(編注;現在オークションは終了しており、7000ユーロで落札)がおすすめだ。またクロノグラフに興味があるものの、このロットは少し違うという人にはティソの部品やレマニアとヴァルジューの部品はどうだろうか(編注;現在オークションは終了しており、それぞれ650ユーロ/日本円で約11万9000円、550ユーロ/日本円で約10万円で落札)。LIPに夢中なら、まさに願ってもないチャンスだ(だがその“幸運の日”は厳密には来週の金曜日だ/編注;現在6月19日に開催されたオークションは終了している)。
Photo courtesy Finarte
もしかすると、最近の私と同じようにアシンメトリーな時計に妙に引かれている人もいるかもしれない。そうであれば、このヴァシュロン・コンスタンタンにきっと心をくすぐられるはずだ(編注;現在オークションは終了しており、1万ユーロ/日本円で約180万円で落札)。同じオークションには見事な時刻表示のみのドクサ(編注;現在オークションは終了しており、2200ユーロ/日本円で約40万円で落札)や、ブラックダイヤルを備えたヴァシュロン・コンスタンタン 222も出品されている。ベルナルド・レデラー(Bernhard Lederer)氏が、分針付きのインダイヤルが12時間かけてダイヤルを一周するデザインを初めて手がけた時計師だったかについては疑問が残る。だがこのアベンチュリンダイヤルを備えたベルナルド・レデラー ユニバース プラネットは、傑出したデザインを誇る1本だ(編注;現在オークションは終了している)。そしてこれが、その後に登場したいくつかの時計へとつながる系譜の一端を担っていることは間違いない。
グランドセイコー SBGZ003
この記事の公開からわずか1時間足らずでLoupe Thisのオークションが終了するため、グランドセイコー マスターピースコレクション SBGZ003を取り上げるのは少々残酷かもしれない(編注;現在オークションは終了している)。とはいえ、このモデルを紹介しないのも同じくらい酷な話だ(今回のチャンスを逃したとしても、次の出物を探してみようという気持ちになってもらえればと思う)。
Photo courtesy LoupeThis
スプリングドライブの20周年を記念して2019年に発売されたSBGZ003は、最上級の言葉を使わずに語るのが難しい。まずプラチナ製ケースは直径38.5mm×厚さ9.8mmというほぼ理想的なプロポーションを備え、ケース仕上げは、饒舌な人でさえ静かに見入ってしまうほどの完成度を誇る。さらにミニッツマーカーやグランドセイコーのロゴ、そして“Spring Drive”の文字が刻印され、手作業で製作されたシルバーダイヤルはどうだろうか。針の仕上げの素晴らしさは言うまでもない。時計を裏返せば、手巻きムーブメント Cal.9R02が姿を現す。パワーリザーブ表示を備えるだけでなく、きわめて美しい仕上げが施されている。
Photo courtesy LoupeThis
今回出品されている個体は付属品が完備されているうえ、2022年に購入されたこともあって、コンディションも申し分ない。このモデルの当時の定価は600万円(税抜)だったが、本稿執筆時点でオークション価格は2万1000ドル(日本円で約340万円)となっている。
パテック フィリップ 570G
マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』は傑作だが、このアルバムを特別なものにしているのは奇抜さではなく、その音楽が驚くほど率直で、偽りがないことにある。伝説的なミュージシャンたちが集いながらも、全5曲からなる簡潔な作品が持つそのさりげなさやシンプルさはクールで、ほとんど叙事詩的な響きさえ感じさせる。まさに純粋そのものだ。
より小型のモデル96が発表された6年後に登場したパテック フィリップRef.570は35.5mm径で、多くの人にとって理想的なカラトラバだ。1972年まで30年以上にわたって製造されたこの時計は、ケース素材やダイヤル構成が実に多彩だった。どの仕様こそが究極なのかについては、正当かつ優れた議論がいくつもあるだろう。しかし今の私には、アンドリュー・シーラー(Andrew Shear)氏が出品しているこの個体こそ、現在市場にある570のなかで最も美しい1本だと思えてならない。
Photo courtesy Andrew Shear
アントワーヌ・ゲルラッハ(Antoine Gerlach)のホワイトゴールド製のケースを見て欲しい。もちろん、60年以上の時を経たことを物語る痕跡はあるが、それでもなお、これほど見事な状態を保っていることには驚かされる。ダイヤルは言葉を失うほど美しく、その魅力をこの写真以上に雄弁に伝えられる文章を私は思いつかない。5万5000ドル(日本円で約880万円)で販売されているこの時計を、私よりも賢明な金銭感覚で購入できる人たちが羨ましい。
サーチナ DS Ref.5101.013
これは、先に挙げた2本とは対極にあるような時計だ。確かに、これもホワイトメタル製のケースに収められた3針時計ではある。しかしグランドセイコーのプラチナでもなければ、パテック フィリップのホワイトゴールドでもない。もちろん、この時計を、先の2本のようなハイエンドウォッチの模範として語るつもりはない。というのもこれは1960年代に量産されたステンレススティール製の時計であり、優秀な時計師によって適切に整備・調整されれば、きっと優れた精度を発揮するだろうが、機械的・美的な本質だけで誰かを熱狂させる時計ではないかもしれない。
Photo courtesy Historia Auctionata
スタイリッシュで印象的な歴史を持つ時計に興味があるなら、サーチナ DSは魅力的だろう。ダブルセキュリティの略で、1959年に発表されたDSモデルは、標準的な時計よりも頑丈に作られていた。ムーブメントの周囲に衝撃吸収リングが設けられ、ダイヤルとケースのあいだにわずかな隙間があることで、最大6mの高さからの落下にも耐えられると謳われていた(200m防水でもあった)。もっとも、実際に試してみることを勧めるつもりはない。機械式時計を6mの高さから落とすことを想像するだけでゾッとする。しかしこれは当時の謳い文句だったのだ。
この例はごくありふれた素朴な時計だ。おそらく500ドル(日本円で約8万円)を超える価格で落札されることはないだろう。実際にeBayの落札履歴を見ると、これによく似た、はるかに状態が悪い個体が245ドル(日本円で約3万9000円)で落札されていた。とはいえ必ずしも価格と卓越性、あるいは時計を所有する喜びが比例するわけではない。このサーチナは実にシンプルな時計だが、必要以上に洗練され、美しくそのシンプルさを表現しているからこそ、ここで取り上げたいと思った。研磨されていないように見えるラグは、同時代のカレラを彷彿とさせる。サイン入りのリューズは大ぶりで、おそらくオリジナルのままだろう。ロレックス エクスプローラーを思わせるアラビア数字を配したダイヤルも状態がよく、制御されたデザインのなかにほどよいスポーティさを添えている。ケースバックまで実にきれいだ。しかもこの時計には現時点で入札がひとつも入っていない。本当にゼロ件だ。最低入札価格は100ユーロ(日本円で約1万8000円)で、オークションは17日に始まる(編注;現在オークションは終了しており、120ユーロ/2万2000円で落札)。
ジャガー・ルクルト ユニプラン
わかっている。また3針時計か、という声が聞こえてきそうだ。次回は複雑機構をこれでもかというほど取り上げると約束する。ある作家が“作家のなかの作家”と評されることがある。つまりその分野のほかの作家によく知られ、愛されている人たちのことだが、ジャガー・ルクルトも時計業界ではそれに近い立ち位置にあるように思う。もちろん同ブランドは現在もきわめて優れた時計をつくり続けているし、伝説的なモデルを数多く送り出してきた。しかし自社の時計以上に、著名ブランドにムーブメントのエボーシュを供給してきたメーカーとして知られているのではないだろうか。これは残念なことだ。だがジャガー・ルクルトは他ブランドが時計を作るのに必要なムーブメントを生み出してきただけでなく、そのデザインもまた、十分に称賛されるべき価値を備えている。伝説的なダイバーズウォッチをひとまず脇に置いたとしても、それは変わらない。
例えば、このユニプラン。確かに同じ時期の似たようなレベルソを見つけて、このユニプランの5倍くらいの値段で売ることもできるだろう。しかし機能的に見て、レベルソとユニプランの唯一の違いは前者がケースを反転させて裏面を表にできるという点くらいだ。そう、ユニプランはレベルソと同じムーブメント(Cal.411)と針を備えているのだ。それにレベルソの裏蓋が実際に役立つ場面なんて、どれほどあるだろうか(ポロ選手のように、本来の目的である風防保護のために時計を裏返す場合を除いて)。
この個体は経年を感じさせる部分があるものの、見た目はきわめて素晴らしい。確かに針の夜光塗料は剥がれているが、2017年にジャガー・ルクルトが採用したデザインを先取りしたスタイルだった、とでも思えばいい。もちろん私は傷や打痕、経年による風合いに対して、人より寛容なほうかもしれない。それでもこの時計は大きな出費を強いられることなく、十分な満足感を味わわせてくれる1本だ。落札予想価格は600〜800ユーロ(日本円で約11万~14万円)で、オークションは16日に開催される。
話題の記事
Bring a Loupe グランドセイコーのマスターピースコレクション、パテック フィリップの570、サーチナのDS、そしてジャガー・ルクルトのユニプラン
Introducing ジャガー・ルクルトから40mmのポラリス・デイトが登場
Photo Report ジュネーブで開催された、熱狂的なチューダーコレクターの集い