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A Week On The Wrist オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル ホワイトラッカーダイヤルを1週間徹底レビュー

ダイヤルだけでこれほどまでに印象が変わるとは驚きである。

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Video Editor: Joe Wyatt, Photos by Jonathan McWhorter

時計収集にはこんな格言がある。“スピードマスターの所有は通過儀礼である”。私はそれを念頭に早い段階で時計の世界に飛び込んだ。スピードマスターを所有することが “時計マニア”であるための必須条件であるならば、ヴィンテージスピードマスターの全リファレンスをひと目で見分けられるようになるべきだと思い込んだものだ。ラグの形状、“ドット・オーバー90”のタキメータースケール、フォント、エングレービング、表記、ダイヤルなど、あらゆることを学習したが、1週間後にはまたすぐに忘れてしまった。スピードマスターを購入する前に、私は燃え尽きてしまっていたが、私は気を取り直して前に進んだ。以来、私はスピードマスターの購入を真剣に考えたことはなかったが、最近になってふたつのオプションが私の心に刺さり始めた。

 最初の候補は新作“エド・ホワイト”であった。これはヴィンテージのRef.105.003にインスパイアされたストレートラグを持つモデルで、Cal.321を搭載した初代スピードマスターの復刻版である。私はヴィンテージウォッチが大好きだが、取り扱いに気を使わず身につけるのは難しい。この新作には、そもそも私がヴィンテージスピードマスターに引かれた伝統をほうふつとさせる上、経年劣化の心配も少ない。

Ed White speedmaster

2020年、編集部は“A Week On The Wrist”でその“エド・ホワイト”復刻版のスピードマスターを取り上げた。

ダニエル・クレイグ、当時未発売だったホワイトダイヤルのスピードマスターを着用

2023年秋、ダニエル・クレイグがオメガのイベントのレッドカーペットを歩いたとき、彼のラウンドタイプのアイウェアに目を奪われなかったなら、彼の手首で輝くホワイトのスピーディに気づいたことだろう。

 そして今年初め、オメガはおそらくここ数年で最も期待されたスピードマスター(あるいは、あらゆる“何とか”マスター)を発表した。2023年秋にニューヨークで開催されたイベントで、ダニエル・クレイグが当時まだ知られていなかったホワイトダイヤルのスピードマスターを着用しているところを目撃されたことも、この熱狂の炎に油を注いだ。この目撃情報は多くの憶測を呼んだ。スピーディファンにとって苦悩の数カ月後、2015年の45周年記念モデル“シルバー スヌーピー”以来となる、(ほぼ)完全なホワイトダイヤル仕様の新作スピードマスターが登場した。しかも限定モデルではないという。それこそが、オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル Ref.310.30.42.50.04.001である。長らく待ち侘びた甲斐があったというものだ。

Week on the Wrist

 米国版のIntroducing記事には175以上のコメントが寄せられ、閲覧数は数十万ビューに達した。ほとんどの販売店ではすでに1年以上、もしかしたらもっと長いウェイティングリストになっているそうで、正規販売店の関係者ふたりが少なくともあと数カ月はこの記事を書かないでくれと冗談めかして懇願してきた。「もうこれ以上、この件で電話をかけてくる人は勘弁してほしいのです」

 実物を見かけたのは1度だけだった。私はこの新しい時計に興奮し、最初のスピードマスターとしてこの時計を手に入れたとしても、間違った決断だと後悔しないと思っていた。しかし、その後考え直した。結局のところ、スピーディがアイコンである理由のひとつは、ブラックダイヤルの美しさゆえなのだろうか? もしあなたがその結論に迷っていて、ホワイトラッカーダイヤルについてもっと知りたいと思うか、あるいはホワイトダイヤルのスピードマスターの歴史について知りたいなら、私たちに任せてほしい。


オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル Ref.310.30.42.50.04.001とは何か?

 最近の“A Week On The Wrist”のなかで、ベンはロレックス デイトナ ル・マンが発表されたとき、自分がどこにいたかを覚えていると語っていた。私もホワイトダイヤルのスピードマスターで同じ経験をした。というのも、私は普段、メーカーが新しいダイヤルカラーを発表するからといって関心を持つことはないからだ。だが、ジョン・メイヤーが自身が関わった新しいロイヤル オークをプレス向けにプレビューした直後、私はホテルで取材をまとめようとしていた。するとスピードマスターが発表され、私の朝の予定はすべて吹っ飛んだ。

 ホテルのロビーで割高なクラブサンドイッチを食べながら、オメガのプレスリリースや画像など、取材に必要な情報にアクセスできないことに気づいた。ダニエル・クレイグのチラ見せをじっくり見たわけでもなかったが、ここ数年で最も期待の寄せられたスピードマスターであることはすぐにわかった。この時計が私の胸をときめかせたのは、それらの問題を整理し、記事を書き始めてからだった。ホワイトかつスポーティで目を引くこの時計は、久しぶりに私の目を奪ったスピードマスターだったのだ。

White Speedmaster

 ここがおそらく最も非難を浴びるところだろうが、私がスピードマスター、少なくとも一般的なブラックダイヤルの“ムーンウォッチ”を買おうと思わなかった理由のひとつは、どれも似たように見えるからだ。月面着陸まで(そしてそれ以前まで)遡ることができるモデルの素晴らしい点、つまり非常に緩やかで思慮深い進化は、諸刃の剣でもあるのだ。

 数週間前、私は別々の日にスピーディプロを着用している人を見かけた。遠目には見分けがつかなかった。つまり、彼らがなぜスピーディーをつけているのか、その理由もよく分からなかった。私は誰かを見て、4桁、5桁、6桁リファレンスのロレックスを見て、彼らが時計コレクターなのか、一般的な消費者なのか、父親から引き継いだ4桁のロレックスを持つ20代の若者なのか、それともそれではないほかの何なのかを推測するのが好きだ。また、スピーディに関してめったにすることのない会話への扉を開くこともある。

White Speedmaster

 ホワイトダイヤルを採用したスピードマスターはこれまでにもいくつか存在した。そのうちのいくつかは追って紹介するとして、ステンレススティール製のホワイトダイヤルとしては初の通常生産(限定版ではない)の主力モデル(スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル)である。それ自体が信じられないだろう。オメガの正規販売店に立ち寄れば、“ホワイト・サイド・オブ・ザ・ムーン”から数種類の“スピードマスター レーシング”やその他の2カウンタークロノグラフまで、ホワイトダイヤルのスピードマスターを目にすることができる。しかしムーンウォッチは別格だ...アイコンであり、失敗が許されないモデルなのだ。2024年3月5日を、オメガがホワイトダイヤルでムーンウォッチを台無しにした残念な日とみなす人もいるだろう。しかしオメガがホワイトダイヤルを採用し、これほどまでに個性的な腕時計を生み出したという事実は、このラインナップに大きな新風を吹き込んだと言える。

Week on the wrist
Omega 3861

オメガ マスター クロノメーター認定コーアクシャルムーブメント、Cal.3861。

 2021年、オメガはSS製スピードマスター プロフェッショナルの最新世代を発表した。SS製にはふたつのオプションが存在し、ひとつは宇宙ミッションで使用されたスピードマスターと同じヘサライト(プラスチック)風防を備えたモデル、もうひとつは表(風防)と裏(ケースバック)にサファイアクリスタルを備えたサファイア“サンドイッチ”モデルで、内部の新型(現行世代)Cal.3861 コーアクシャルマスター クロノメーター手巻きムーブメントを眺めることができる。見栄えのいいムーブメントで、動作を眺めているだけで楽しくなり、量産品にしてはよく仕上がっている。Cal.3861の有名なコーアクシャル脱進機に加え、テンプはフリースプラング方式で、Si14シリコン製ヒゲゼンマイを採用し、1万5000ガウスまでの耐磁性も実現している。また、このムーブメントは50時間のパワーリザーブを備えている。手巻きのクロノグラフムーブメントは、少なくともデイト表示やカレンダーを気にする必要がなく、しばらく着用せずに置いておける場合には、常に私の最初の選択肢となり得る存在だ。そして、これほどアイコニックな系譜を持つものは少ない。

Omega 3861

Cal.3861をサファイアケースバック越しに眺める。

 このモデルはサファイア“サンドイッチ”のホワイトダイヤルバージョンで、直径42mm×厚み13.18mm、ラグからラグまでの長さは47.5mm、ラグはツイストされた形状を持つ。これは基本的にバズ・オルドリンが月面で着用した初代ムーンウォッチ(Ref.105.012)と同じ外寸で、50mの防水性を備えている。ダイヤルを拡大するヘサライトの歴史を感じさせる意匠はない。またケースバックの “ヒッポカムポス(海馬)”ロゴも、最新世代のために施された新しいエングレービングもない。その代わり、風防とケースバックには耐傷性の高いサファイアが採用されている。ケースバックの縁には、“CO-AXIAL MASTER CHRONOMETER”、“THE FIRST WATCH WORN ON THE MOON(月面で着用された最初の時計)”と記されたエングレービングが施され、ダイヤルにはプリントではなくアプライドされた“オメガ”のロゴマークを配置。ベゼルはSS製、インサートはアルミニウム製で、タキメータースケールにはオリジナルモデルと同様に“ドット・オーバー90(D.O.N.)”の意匠が刻まれている。このD.O.N.ベゼルのようなディテールひとつ取っても、1本の時計がほかの時計とどこが違うのか、その些細な差異の研究に多くの時間を費やすスピードマスター愛好家にとって、天と地ほどの違いがあると言っても過言ではない。

Bracelet

新世代のスピードマスターには、より洗練されたブレスレットが採用されている。

 この世代におけるその他の改良点は、大規模なものからわずかなものまで多岐にわたる。日常の使用において最も大きな改良点は、20mmから15mmにテーパーがかかったブレスレットで、3分の1から3分の2のリンクが延長可能だ。以前のブレスレットに比べ、繊細さや脆弱性が軽減され、つけ心地もはるかによくなった。最初の数回は腕の毛が引っ張られることもあったが、やがてそれもなくなった。さらに微妙な変化として、1974年頃までスピードマスターのブラックニス仕上げのダイヤルにあった“ステップ(段差)”が復活したことだ。そう、その段差は新しいホワイトダイヤルにも残っていて、見た目はいいのだが、それが最初に目につくことはない。

Omega Speedmaster

 ダイヤルというひとつのデザインの要所を変更するというこの決断は、オメガがスピードマスターを歴史的にどのように発展させてきたかをよく表している。セラミック製ベゼルや新しいケースデザインのような大々的な変革は避け、この新作では1点のみしっかりと変更を加えている。ダイヤルには、“スピードマスター”表記とクロノグラフ針の先端にレッドが彩られている。これは購入者のあいだで少し賛否が分かれているが、私はこのアクセントが好きだ。また、ブラックPVDで覆われたブラックの表記、ダイヤモンドミラーポリッシュ仕上げのアプライドインデックスや針も際立っている。針とインデックスのスーパールミノバはホワイトで、グリーンに発光する。この1週間、私は時計をじっくりと眺め、手首から外し、各パーツを研究するのに多くの時間を費やした。しかし完成されたパッケージとしても、ぱっと見ただけで、ホワイトダイヤルの機能性は驚異的に素晴らしい。悪目立ちする要素はひとつもない。月並みな表現だが、この新しいダイヤルを眺めるたびに私から笑顔が溢れた。

White Speedmaster
Omega White Speedmaster

 プレスリリースによると、アポロ宇宙飛行士の白いNASAスーツと、1970年のアポロ13号以来、司令官の階級を強調するスーツの赤いラインからインスピレーションを得たということだ。どのプレスリリースも時計も、ストーリーテリングのために多少の辻褄合わせが行われるが、私は外観そのものもいいと感じている。オメガはほかの情報源にて、すべてのディテール(インダイヤルのサーキュラーグレイン仕上げなど)をはっきり見せながら、ホワイトラッカーダイヤルを製造するのは非常に複雑であり、それが当ブランドの生産を遅らせる元凶だと明かしているそうだ。それでもホワイトダイヤルの価格は従来のサファイア“サンドイッチ”よりも2万2000円高いだけの125万4000円(税込)だ。

Speedmaster

 スピードマスターがご無沙汰だった私のような者にとっては、少し高く感じるかもしれない。初期のスピードマスター、たとえばRef.145.022のような初期のスピードマスターなら、まずまずのコンディションの個体が半額程度で手に入るからだ。しかし、これはまったくの別物である。本作はオメガが現在取り組んでいるすべてを盛り込んだ最高級品なのだ。またスペック上では少し大きかったり厚かったりするように見えるかもしれないが、1週間以上着用している間、1度もそう感じたことはなかった。オメガが60年以上も前に、最初からほぼ完璧なものを完成させていたことを思うと信じられない思いだ。完全なパッケージとして、この時計は私の次の時計の新たな候補となった。もし手に入れることができれば、の話だが。


そのほかホワイトダイヤルを持つスピードマスターの数々

 ホワイトダイヤルのスピードマスターはムーンウォッチの通常のラインナップとしては目新しいかもしれないが、オメガにとっては決して新しいものではない。オメガ スピードマスターの歴史と宇宙開発との結びつきは、おそらく誰もが知るところだろう。NASAのジェミニ4号ミッションの一環として、アメリカ初の宇宙遊泳の際に着用されたこともある。その後、1969年7月20日のアポロ11号ミッションで、月面を歩いた宇宙飛行士が初めて着用した時計としても有名だ。

 これらの偉業に携わった時計は、現在のスピードマスターとほぼ同じ外観、特にブラックダイヤルであったが、月面着陸と同じ年に遡るホワイトダイヤルのスピードマスターの長い歴史もある。競合モデルとの比較に移る前に、ムーンウォッチのラインナップからほかのホワイトダイヤルモデルを見てみよう。歴史がお好きな方はシートベルトを締めて。現行品がお好みな読者は、読み飛ばしていただいて結構だ。私は恨んだりはしない。

アラスカ・プロジェクト

 1960年代後半、NASAのエンジニアであったジェームズ(ジム)・H・ラガン氏は、以前アポロ計画で時計やカメラのテスト手順に携わっており、将来の有人宇宙飛行で宇宙飛行士が使用する機器の仕様を開発していた。オメガは、コードネーム “アラスカ・プロジェクト”と名付けられた彼らの提案に取り組み始めた。プロジェクト名の “アラスカ”は、名前以外にアラスカ州とはほとんど関係がない。オメガは産業スパイによる被害を減らすため、多くのプロジェクトにコードネームを使用しており、このコードネームは1970年代まで使用された。その結果、最初のホワイトダイヤルのスピードマスターが誕生したのである。

Alaska Project Mark I

2017年の記事に登場した、極めて変則的な形状のチタンケースを備えたアラスカ・プロジェクトの初代プロトタイプ。

 耐衝撃性と高い耐温度性というふたつの目標をクリアするために、オメガがこれらの要求仕様に沿って完成させた最初のスピードマスターのプロトタイプが、1969年のチタン製アラスカ・プロジェクトである。オメガのCal.861をベースにしたムーブメントには、高温に耐えるために異なる素材とオイルが使用され、チタンケースは陽極酸化アルミニウム製の赤いアウターケースで保護されていた。さらに重要なのは、太陽光と熱を反射しやすくするためにシルバー/ホワイトのダイヤルを採用し、視認性を高めるためにスペースカプセル型のインダイヤル針を備えていたことである。

Alaska Project II

2016年のフィリップスにて、15万6250スイスフラン(当時の相場で約1724万円)で落札されたアラスカ・プロジェクトII。

Soyuz

Photo: courtesy Moon Watch Universe

 より伝統的なケースとマットな亜鉛メッキのホワイトダイヤルを備えたこの時計のセカンドバージョン“アラスカ・プロジェクトII”は、NASAのテスト用に製作されたが、NASAからは高価すぎるとして却下された。オメガがスピードマスターの改良を試みたのは、(依頼されずとも)これが最後ではなかった。しかし、この時計は最終的に1977年から1981年までソ連の宇宙飛行士の手首に装着され、宇宙へと旅立った。

“イタリアン・アルビノ”Ref. 3593.20.00
Speedmaster 3593.20.00

Photo: courtesy Roy and Sacha Davidoff

 オメガがホワイトダイヤルのムーンウォッチを再び発表するのは、1997年、スピードマスター誕生40周年記念モデルとして、イタリア国内でのみ販売され、1年間に500本のみ生産された限定モデルが登場してからである。このモデル、Ref.3593.20.00は、“イタリアン・アルビノ”または“ビアンコ・イタリアーノ”として知られるようになった。

 この時計のダイヤルは、純白ではなくクリーム色だ。メインインデックスはホワイトで、ブラックの囲みとブラックの文字、そして針はブラックにホワイトの夜光塗料を塗布している。この黒い囲みはダイヤルから浮き上がって見えるが、新型スピードマスターとはまた違った趣だ。このモデルは、サファイアケースバック越しに眺められることを念頭においたCal.1863を搭載した最初のスピードマスター ムーンウォッチのひとつである。つまり、これはRef.3573.50以前の初のサファイア“サンドイッチ”ムーンウォッチ(サファイア風防とケースバックを備えたモデル)ということになる。また、1997年に夜光塗料としてトリチウムが廃止されたあとは、ダイヤルマーカーと針にルミノバが採用されている。

日本限定の三越スピードマスターとアポロ11号35周年記念スピードマスター

 2003年、オメガは日本最古の百貨店である三越とコラボレーションを行った。300本限定のこの“パンダ”スタイルのスピードマスター(Ref.3570.31)は、一種のカルト的人気を誇っている。実際、私がその昔、最も注目していたスピードマスターのひとつだった。三越限定モデルの相場が高騰してしまったため、アフターマーケットで似たようなダイヤルを自作する人さえ存在する。そのため、正しい個体を見つけるのはかなり困難となっている。

 その1年後、オメガはアポロ11号の35周年を記念したスピードマスターを発表した。見た目は三越限定モデルに酷似しているが、生産量ははるかに多く、全部で3500本も製造された。Ref.3569.31には、地球を背景に月面着陸する白頭ワシの絵が描かれている。かなりカッコいいモデルである。また、ダイヤルには月面着陸を意味する“July 20, 1969”の表記が赤く記されている。この時計は三越限定モデルよりもかなり安い値段で売られており、1万ドル前後で、クールな歴史の一部を手に入れることができるだろう。


復活を遂げたアラスカ・プロジェクト

 チューダーが後にP.01を発表するように、2008年、オメガはプロトタイプとしてしか存在しなかった時計を復刻することを決めた。新しいアラスカ・プロジェクト、Ref.311.32.42.30.04.001は、スピードマスター プロフェッショナル Ref.3570.50と同様のケースリファレンス、Ref.145.0022を使用し、アラスカ・プロジェクトIIと同じようなダイヤルを採用した。総生産本数は1970本で、売り切れるまで少し時間がかかったようだ。あの頃、私が時計に夢中になっていれば(まあ、高校生の収入以上のものがあれば)よかったのだが...。

Omega Alaska Project Reissue

2008年に復刻されたアラスカ・プロジェクト スピードマスター。

 この復刻版には赤い外装ケースも付属しており、私のお気に入りの1本となっている。2021年にコール・ペニントンが語ったように、ほかのホワイトダイヤルのスピードマスターと同様、これらはすでに成層圏に突入し、2万ドル前後(日本円で約320万円)で推移している。私が所有できるスピードマスターがあるとすれば、おそらくこれだろう。その代わり、ムーンスウォッチ“ミッション・トゥ・マーズ”で我慢することにしよう。

2015年 スピードマスター シルバー スヌーピー アワード

 2015年、オメガはNASAからシルバー スヌーピー アワードを授与された45周年を記念して、スピードマスターの限定モデル“シルバー スヌーピー アワード”を発表した。2020年に公開されたこの記事は、この賞と、なぜこれほど多くのスピードマスター(さらにはムーンスウォッチ)にスヌーピーが登場するのかについての素晴らしい入門書である。

The 2015 Silver Snoopy

 1970本限定で発売されたこの時計は、発売日に完売した-というより、すべての正規販売店に割り当てられたにもかかわらず、すぐに顧客に販売されたからだ。この時計もまた純白とブラックのダイヤルで、9時位置のインダイヤル内にはスヌーピーが寝転んで、12時位置のロゴの下に“Failure is not an option(失敗は許されない)”と書かれた吹き出しが表示されている。スヌーピー(および針、インデックスの周囲、ベゼルの数字と同様に)の夜光はグリーンに発光する。このホワイトダイヤルのスピードマスターは、オメガにとって1日の生産本数よりもはるかに少ない本数しか製造されていないにもかかわらず、2次流通市場では現在4万ドル(日本円で約640万円)を超える価格で取引されている。

2020年 スピードマスター シルバー スヌーピー

 2020年、スヌープ・ドッグが戻ってきた...いや、ラッパーじゃないほうだ。2020年のスピードマスター “シルバー スヌーピー”は、おそらく過去5年間で最も注目されたスピードマスターのひとつだろう。シルバー スヌーピー アワード50周年を記念して発表されたこの時計は、ブルーとホワイトの“パンダ”ダイヤル仕様で、ブルーのアルミニウム製ベゼルを備え、9時位置のサブダイヤルには宇宙服を着たスヌーピーが描かれている。

2020 Speedmaster Silver Snoopy

 しかし、本当のトリックは裏側にあった。ケースバックには宇宙船に乗って飛び回るスヌーピーが、時計の裏側を実際に動き回る。一方、裏蓋に描かれた地球も自転する。ブルーカラーのおかげかクールなケースバックのおかげか、パンデミック中はウェイティングリストがそれなりに伸びた。しかし、ここが一番いいところだ。この時計は限定モデルではなく、生産能力に限りがあっただけだ。少し待たなければならないかもしれないが、163万9000円(税込)で手に入れることができる。実際、このモデルの発表以降、オメガは限定モデルをリリースする慣行をストップしている。それ以来、スピードマスターはすべて最悪でも限定生産にとどまっている。

カノープスゴールド™スピードマスター

 カノープスゴールド™のスピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナルをここに含めるのは、少しずるいかもしれない。確かに、ここに挙げたほかの時計のようにSS製ケースではないが、ある意味、今回私がレビューする時計に最も近い存在に思える。2021年にほかのCal.3861搭載モデルと一緒に発表されたこの時計は、シルバーホワイトのサンバーストダイヤルで、ほかのモダンなスピードマスターシリーズと同じように、盛り上がったパイパンダイヤルと沈み込んだインダイヤルを備えている。表記はホワイトラッカーダイヤルとは異なり、ピュアブラックとホワイトの2色である。

 ケースとブレスレットはホワイトゴールド(75%)、パラジウム、プラチナ、ロジウムの合金で、856万9000円(税込)という高額な小売価格を押し上げている。しかし2次流通市場では新品でも定価から400万円以上安く手に入れることができる。


競合モデル
A Week On The Wrist: ロレックス デイトナ“ル・マン” Ref.126529LNを1週間徹底レビュー

最近の“A Week On The Wrist”のコンテンツに、カノープスゴールド™スピードマスターとの比較を含め、近年最も注目されている腕時計のひとつをベン・クライマーがオーナー視点で特集している。

 この時計とほかのモデルを比較するならば、まずSS製のムーンウォッチから始めるべきだろう。この時計は、同社が提供するムーンウォッチの主力ラインの2本に加わっている。107万8000円(税込)で、伝統的なムーンウォッチのガイドラインをすべて満たすヘサライト仕様のスピードマスターを手に入れることができる。さらに15万4000円追加すれば、サファイアケースバックのサファイア“サンドイッチ”に手が届く。どちらの選択肢も堅実であり、しばらくはそのままだろう。選択は主に個人的な好みと、今回そこに色が加わったことによる。

 オメガ以外ではほかにもいくつか選択肢があるが、明らかな選択肢として、ホワイトダイヤル、セラミックベゼルのロレックス デイトナ Ref.126500LNを挙げよう。これは興味深いことに、特集A Week On The Wristでル・マンを取り上げた際にもベンが手元のデイトナとカノープスゴールド™スピードマスターを同じように比較していた。もちろん、ここでは価格帯が下がるが(そして、まったく手の届かないものから検討に値するものへと移行している)、多くの点は同じである。

Daytona 126500LN
The Rolex Daytona ref. 126500LN.

“ポーセリン”ダイヤルのロレックス デイトナ Ref. 16520。Photo: courtesy Phillips

 ロレックス デイトナ Ref.126500LNは、ほのかに赤い表記と白と黒のカラーパレットを持つことで、私が新しいスピードマスターで気に入っているスポーティでクリーンな外観を与えている。この新しいスピードマスターは、ロレックスRef.16520の“ポーセリン”ダイヤルのデイトナをほうふつとさせる。ラッカーのおかげで、文字がダイヤル表面の上にふわりと浮かんでいるように見えるためだ。しかしこれらのダイヤルが素晴らしかったのと同様に、現行デイトナのセラミックベゼルは、よりまとまりのある外観となっている。現代的な素材が、より現代的な外観の時計を作る。そんなこと誰が思っただろうか? 同じように新型スピードマスターのブラックPVDコーティングのインデックスと針(そしてプレーンなホワイトメタルが一切ない)も、よりモダンで洗練された印象を与えている。

Daytona Movement

現行ロレックス デイトナに搭載されている新型ムーブメントは、現在プラチナとル・マンバージョンにのみ見られるサファイアケースバック越しに眺めることができる。

 ダイヤル上の名前を除けば、この2本には大きな違いがある。1988年にゼニス製ムーブメントを導入して以来、デイトナは自動巻きムーブメントを搭載している。一方、ムーンウォッチは手巻き時計であり続けている(そしてこれからもきっとそうだろう)。現代の状況において、私はこの2本の時計が最も特徴的な要素であると考えている。デイトナのねじ込み式プッシャーやセラミック製ベゼル、100m防水でもなく、あるいはインダイヤルのブラックかホワイトのリングでもない。ムーブメントこそが最大の違いだ。ただ視覚的な観点からすると、インダイヤルも注目に値する。貴金属製デイトナの成功のひとつは(最大ではないにせよ)、余分なコントラストリングのない “パンダ“または“逆パンダ”のインダイヤルにある。これはクリーンかつクラシックであり、もしこれがSS製デイトナに採用されたら、興奮すること間違いない。しかしスピードマスターではその心配はまったくない。ほとんどいつもピュアブラックかピュアホワイトなので、私にはそれがちょうどいい。パンダダイヤルのスピードマスターは、同じような琴線に触れない。

Daytona 126500ln

よりクラシックな雰囲気のインダイヤル。フルブラックかフルホワイト。

 新しいホワイトダイヤルのスピードマスターよりもちょうど100万円ほど高いことに加え、デイトナはセラミックベゼルを備えた初代が2016年に登場して以来、最もホットな時計のひとつであり、正規販売店で手に入れることもほぼ不可能である。デイトナは長いあいだ、不合理なウェイティングリストの指標となってきた。一方、スピードマスターはブティックに行けば必ず手に入る時計だった。前にも述べたように、時計愛好家であれば、少なくとも人生のある時期にはスピードマスターを所有すべきだという格言があった。では、このモデルも通過儀礼になり得るのではないだろうか?

Omega Speedmaster

 さて、おもしろいことに、オメガは“ロレックス”問題に遭遇しているかもしれないが、これほど極端ではない。1カ月半前、私はある正規販売店から、この新しいホワイトダイヤルのスピードマスターは1年待ちだと聞いた。今週、同じ販売店から1年半から2年かかると言われた。しかし3番目の大規模な正規販売店からは、前払いされた現在までの注文分を納品しているため、彼らは近いうちに白いスピーディを入手できるはずだと私に語った。個々の状況により異なるが、この状況はオメガにとってまったく前例のないことではない。2020年のシルバー スヌーピーは納品に時間がかかったが、生産能力が限られていたためだ。本作は通常生産モデルであり、当然のことながら需要は極めて高い。


私の意見

 初めてのスピードマスターは、本当にホワイトダイヤルであるべきなのだろうか? アラスカ・プロジェクト(決してNASA認定に成功したモデルではない)は別として、結局のところブラックダイヤルのスピードマスターの歴史と系譜には真髄のようなものがある。正直新しいホワイトラッカーダイヤルがスピードマスターらしいかどうか、今でも迷っている。ブラックダイヤルが私の頭の中にすっかり定着しているので、この新しい時計には違和感を覚えるほどだ。しかしダイヤルには“スピードマスター”と書かれている。それに、これほど素晴らしい時計に異論を挟む資格が私にあるだろうか?

 そこでスピードマスターを愛する3人の仲間に協力を依頼し、この疑問に対する最終的な答えを導き出してもらった。ジュネーブの時計ディーラーであるロイとサシャ・ダビドフは、長年にわたってスピードマスターのほぼすべてのバリエーションを扱ってきており、そのなかには過去10年以上の間に市場に出回ったすべての重要なスピードマスターも含まれている。ロイ自身は最初の時計としてホワイトダイヤルのスピードマスターを選ぶことに何の問題もないと考えていたが、私の計画に一石を投じ、2020年のシルバー スヌーピーを選んだ。

Davidoff Brothers

Watches & Wonders 2024でのロイとサシャ・ダビドフ。

 数カ月前、モナコでサシャ・ダビドフにこの質問をしたとき、彼はその前提をほとんど拒否した。彼はCal.321搭載機を選ぶのは間違いだと断言した。なぜなら現代のスピードマスターは、コーアクシャル脱進機とマスター クロノメーター認定のCal.3861を搭載し、最高の時計製造技術を追求したほうがいいと考えているからだ。Cal.1863、1861、または861のムーブメントがベストチョイスだと、彼は当時私に言った(ただし、どれを言ったかはお互いに覚えていない)。お金を節約し、ネオ・ヴィンテージにし、待つのをスキップする。しかし数週間前に再び尋ねると、彼は態度を変えていた。

Sacha Davidoff in Monaco

モナコの会場で2020年製シルバー スヌーピーを着用したサシャ・ダビドフ。

 「おかしな話だよ。新しいホワイトダイヤルを最初のスピードマスターとして買うべきかどうか、ある人からまた相談されたところなんだ。最初は“ノー”と答えたんだけど、“いいじゃないか”と思い直したんだ」とサシャは言う。「スピーディの世界に入るのに、新品、中古、ヴィンテージ、あるいは特別な仕様など、どの入口から入るべきかというルールはない。自分の好みに合わせればいいだけだ。誰にどうしろとは言えないが、僕だったらサファイアケースバックがいいと思うよ。Cal.1863か3861のどちらが優れているかという議論には必ずしも巻き込まれないだろうが、新しいモデルにはアプライドロゴやステップダイヤルなどが採用されていて、精巧な仕上げが施されたコーアクシャルムーブメントも間違いなくプラス要素だろう。何事にも純粋主義的なアプローチがあることは認めるけれど、時計は個人の好みやスタイルを表現する手段に過ぎないんだ。他の人がどう思おうが関係ない。自分にとってしっくりくるものを、納得のいく予算内で買い、それを楽しめばいいんだ」

Omega White Speedmaster

 そこで私は、2022年に76万5000ドル(当時の相場で約1億円)で落札されたマイケル・コリンズのスピードマスターを含む、重要なオメガの著名コレクターである別の友人に相談した。彼からはファーストネームしか明かさないよう頼まれている。そのロレンツォと数週間前に飲んだとき、彼はおもしろいことに、現行モデルのスピードマスターは持っていないと言った。

 「誰が買うかによるんだ」。ロレンツォは私にそう語った。「時計収集の世界に足を踏み入れたばかりで、おそらく最初の重要なタイムピースを探している人には、スタンダードなブラックのヘサライト・スピードマスターから始めることをすすめるだろうね。これがアイコニックだとされるのは当然だよ」

Lorenzo

新しいムーンウォッチを手にするロレンツォと彼の父。

 「モダンなスピードマスターを初めて買うが、すでにヴィンテージスピードマスターに精通し、おそらく時計コレクターであるならば、Cal.321搭載の“エド・ホワイト“復刻モデルは魅力的だと思う。素晴らしいルックス、素晴らしいキャリバー、豊富なヴィンテージディテールが盛り込まれているからね。ただ、現在製造されているSS製スピードマスターのなかで私が特に気に入っているのは、ホワイトダイヤルなんだ。これは最も幅広い魅力を持つモデルだからだ。そもそも数が少ないホワイトダイヤルのスピードマスターは伝説的な存在である。このデザインは歴史的なアラスカ・プロジェクトのデザインにちなんでホワイトを採用しただけでなく、ラッカー仕上げと対照的なブラックとレッドのアクセントを加えることで、現代的なデザインに仕上げているんだ。ある意味、“ポーセリン”ダイヤルで有名な初期のRef.16520を思い起こさせる。この時計は、最初の大切な1本を探している人、初めてオメガを購入する人、ベテランのスピードマスターコレクターにも幅広く訴求するモデルだと思う」

 幅広い層への訴求こそが、このスピードマスターを最も成功に導いた真髄である。この世界に飛び込んで長いが、ムーンウォッチをじっくりと眺める人が増えるだろうということを初めて保証できる。これはオメガにとってもコレクター界隈にとっても悪いことではない。ロレンツォはというと、この動画を撮影した日、彼と彼の父親が新しいホワイトラッカーダイヤルをおそろいで着用している画像をWhatsApp経由で送ってきた。しかしそれ以前から、私はこの時計が今年一番のお気に入りかもしれないと確信していた。あとは、どこかの販売店のウェイティングリストに載ることができればいいのだが。

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オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル ホワイトラッカーダイヤルについては、オメガの公式ウェブサイトをご覧ください。