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皆さん、6月がやってきた。厳密にはまだ春ですが、もう夏と言ってもいいだろう。ビーチで過ごすのを心待ちにしている人もいれば、SpaceXのIPOに関する市場の動向を探っている人もいるだろう。あるいはどちらでもなく、熱戦が期待されるNBAファイナルに全神経を注いでいる人もいるかもしれない。皆さんの関心がどこに向いているかはさておき、週末モードに突入する前に、一緒に時計をいくつか見ていこう。
前回の結果を振り返ると、ユニバーサル・ジュネーブ ポールルーター スーパーはわずか550ユーロ(日本円で約10万円)、モバードは2600スイスフラン(日本円で約50万円)、ロータリーのコンプレッサー ダイバーは350ポンド(日本円で約7万5000円)で落札された一方、ロレックス サブマリーナー Ref.16800はなぜか6万香港ドル(日本円で約120万円)で売却された。ルイ・ヴィトン モントレー II “LV2”も買い手が見つかった。
番外編
Photo courtesy FauveParis
無名ブランドのスキンダイバーはどうにも心をくすぐられるが、出品されているアレイン(Allaine)は素敵だ(編注;現在オークションは終了している)。それとも、これでもかというほど1980年代らしいコルムのクォーツ式パーペチュアルカレンダーをお探しだろうか(編注;現在オークションは終了している)。また驚くほど状態の良い手巻きのドレスウォッチ、オメガ シーマスターはどうだろう(編注;現在オークションは終了しており、360ポンド(日本円で約7万6000円)。さらに、このホイヤー オータヴィアは過去2カ月で3回も出品されているが、モジュール式クロノグラフムーブメントを愛し、そのたびにお気に入りの時計師を嘆かせてしまうような人がきっとひとりくらいはいるはずだろうからぜひ入札してほしい。そして落札したらちゃんと支払ってほしい。14Kゴールドのホイヤーのトリプルカレンダーや、素晴らしいジャガー・ルクルトもある(編注;現在オークションは終了しており、ジャガー・ルクルトは500ユーロ/日本円で約9万2000円で落札)。そして最後に、このオメガ スピードマスター Ref.145.022が本当にNOS(ニューオールドストック=新古品)かどうかはわからないが、そう呼んでも差し支えないほどの状態に見えることは確かだ(編注;現在オークションは終了しており、4300ドル/日本円で約69万円で落札)。
プラチナ製のカルティエ懐中時計、European Watch and Clock Co.製ムーブメント搭載
まずは、このカルティエのプラチナ製懐中時計に搭載されたムーブメントから見ていこう。
見たところ美しいムーブメントだが、“E.W. and C Co. Inc.”という刻印だけでは、すぐには何を意味しているのかわからない。そこで「カルティエ プラチナ製懐中時計」と検索してみると、このページにたどり着き、そのムーブメントがEuropean Watch and Clock Company製であることがわかる。そこからさらに検索を進めていくと、このページが見つかり、冒頭から次のような説明が目に飛び込んでくる。「European Watch and Clock Co.は1920年代に、カルティエと、革新的なムーブメント製造の先駆者であったジャガー・ルクルトのエドモン・ジャガーとの合弁事業として設立された。カルティエはその後もほかのムーブメントメーカーとの協業を続けたが、同社の最上級モデルの多くには、スイスのル・サンティエにあるジャガー・ルクルト工場で製造されたEuropean Watch and Clock Company(EWC)製ムーブメントが搭載された」というわけだ。
Photo courtesy Hotel des Ventes Giraudeau
いや、これ(あるいはほかのどんな懐中時計でも)を取り上げるのは、マークを感心させたいからでもなければ、自分の見識を証明したいからでもない。ましてや彼の活動に加わろうというわけでもない(もっとも、私は懐中時計が大好きだし、この世に少しでも公平さというものがあるなら、いつかのBring A Loupeではジンバル付きの木製ケースに収められたミッドセンチュリーのマリンクロノメーターだけを延々と紹介したいくらいだ)。この時計を取り上げる理由はもっと単純だ。これは100年前の優れたウォッチメイキング技術を見事に体現した素晴らしい作品であり、真剣な時計愛好家なら誰もが関心を寄せるようなものだからだ。
Photo courtesy Hotel des Ventes Giraudeau
ダイヤルは完璧ではなく、使用によるわずかな傷や痕跡は見受けられる。しかし100年前の時計であることを考えれば、驚くほど素晴らしい状態だ。しかも針もダイヤルも明らかにオリジナルのままであり、ケースの状態も非常に良好に見える。この時計は、贅沢であるだけでなく希少でもあり―いまでは口にするのもはばかられる言葉かもしれないが―どこか「特権」という時代の空気を感じさせる。
こんなことを言うと嫌な人間だと思われるかもしれないが、私はふたつのことを信じている。ひとつは、私たちは誰もがより公平で平等な社会の実現に努めるべきだということ。もうひとつは、そのより公平で平等な社会のなかで、才能や意欲、主体性などによって特別なものを手に入れる機会に恵まれたなら、このカルティエの懐中時計のようなものを選ぶべきだということだ。このカルティエは、いわゆるトレンドの対極に位置する存在である。そしてその魅力が時代を超えて持続しているのは、それが美しく、洗練され、卓越しているからにほかならず、そうした価値そのものを追求するに値するものだからだ。執筆時点ではまだ入札はないが、この美しい時計は、6月10日にオークションへと出品される予定だ(編注;現在オークションは終了している)。
チャプターリングを備えたギルトのロレックス エクスプローラー 5504
私がロレックスを取り上げる際にためらうのは、それらが頻繁に手が加えられているからだ。だから最初にはっきり言っておくと、このエクスプローラーは時針と分針が過去のどこかで交換されたか、あるいは夜光が塗り直された可能性がかなり高そうだ。これは真剣なコレクターにとって、この時計を検討しない十分な理由になるかもしれない。しかし時計のほかの部分には、手が加えられていることを示す要素はなく、時計には適度な擦り傷がある。これはイギリス・ウィルトシャー州で行われるオークションの一部であり、あくまでも時計が出品カテゴリーの一部だ。
Photo courtesy Henry Aldridge & Son Limited
つまり、通常なら5桁ドルを超える価格で取引されるようなギルトダイヤルを備えたロレックスを手に入れるチャンスがあるということだ。エクスプローラーほど伝説的なモデルともなれば、皆さんが既に知っていること以外に私が付け加えることはほとんどない。とはいえ念のため振り返っておくと、Ref.5504は、初代エクスプローラー Ref.6610のノンクロノメーターモデルにあたる。だがひとつ注目すべき点がある。Ref.6610がより古いCal.1030を搭載していたのに対し、Ref.5504のエクスプローラーには当時新設計だったCal.1530が採用されていたのだ。好き嫌いはあるだろうが、20世紀の時計史において、ロレックスの15XX系ムーブメントほど重要なキャリバーはそう多くない。
Photo courtesy Henry Aldridge & Son Limited
歴史の話はこのくらいにしておこう。結局のところ、この時計を美しいと思うかどうか、それがすべてだ。繰り返しになるが、ケースには相応の使用感がある。しかし私の目には、研磨された形跡は見受けられない(もし研磨されていたなら、もう少し傷が目立たなくなっているはずだろう?)。確かに、ダイヤルのインデックスやアラビア数字に塗布された夜光は後退しているが、それはこのモデルではよく見られる特徴でもある。ダイヤルに記された“Super Precision”の表記は、ロレックスが新しいCal.1530を搭載していることを示すものだ。またブレスレットの型番は記載されていないものの、258エンドリンクは本物に見え、箱と保証書が付属しているのも単純にうれしいおまけだ。この68年前の美しいエクスプローラーは6日にオークションへ出品される予定で、執筆時点ではまだ入札は入っていない(編注;現在オークションは終了している)。
完璧さを求めない自分だけの冒険を選ぼう:グリュエン テクニ・クアドロン、またはチューダー レンジャー II
ドイツのエプリ・オークションハウスからは、ふたつの時計を紹介したい。どちらも珍しい存在であることは間違いないが、見た目の状態に全く問題がないわけでもないという共通点を持っている。まずはこちらのグリュエン テクニ・クアドロンだ。この時計を楽しむ方法はいくつかあるが、最もシンプルなのはただ純粋にその美しさを味わうことだろう。確かにダイヤルには100年という歳月を経た痕跡が見られるが、それでもなおオリジナルのままであり、クラシックで美しい。もうひとつの楽しみ方は、このテクニ・クアドロンをロレックス プリンスのアメリカ版の兄弟モデルとして捉えることだ(詳しくは別記事を参照して欲しい)。どちらの鑑賞方法にも優劣はない。
Photo courtesy of Eppli Auktionshaus
もうひとつは、このチューダー レンジャー IIだ。私はこの時計のことを、もう10年以上もどうしようもなく愛している。誰もがレンジャーというモデルは知っているだろうが、レンジャー IIは初代ほどの人気や注目を集めることはなかった。それには十分な理由があり、より大きく無骨なレンジャー IIは、初代がルー・ゲーリッグに対するピート・ローズのような存在だ(少し無理のある比喩かもしれないが、おわかりいただけるだろう)。レンジャー IIの遺伝子は、その系譜は後年ノースフラッグに短期間ながら受け継がれた。一体型ブレスレット、大きなアロー型の時針、そして6時と12時位置の特徴的なアラビア数字など、両者には共通するデザインが多く見て取れる。この個体もまた、当時らしい分厚く力強い存在感を放っているが、ダイヤルの9時位置付近には目立つ傷があり、ブラック仕上げの一部が剥がれ落ちてしまっているように見える。
Photo courtesy of Eppli Auktionshaus
この2本は、これ以上ないほど対照的だ。一方は、のちに医師にも愛用されるようになった1920年代のドレスウォッチ。もう一方は、熱心なファンを獲得することなく歴史のなかに埋もれていった1970年代のスポーツウォッチだ。しかしどちらも珍しく(そしてより格式高く、知名度の高い関連モデルに影を潜めており)注目に値する。両モデルとも、6月6日にオークションへ出品される(編注;現在オークションは終了している)。
オメガ レイルマスター Ref.2914-2
近々開催されるヘス・ファイン・オークションは、とにかく充実した内容だ。まず目を引くのは、このシグマダイヤル仕様のロレックス デイトナ“ビッグレッド”(編注;現在オークションは終了しており、6万4000ドル/日本円で約1000万円で落札)。もしそれが好みに合わないなら、こちらのミルガウスを検討してみて欲しい(編注;現在オークションは終了しており、6万6000ドル/日本円で約1000万円で落札)。私がこれまで見てきたなかでも最高に美しいダイヤルのひとつで、これがオークションに出品されれば、最終的には“ヴィンテージのミルガウス用ベゼルにどれほどの価値があるのか?”という問いへの答えになるだろう(ちなみにベゼル付きの素晴らしいRef.6541はダイヤルがこれほどトロピカルではなかったものの、2023年にフィリップスで200万ドル/当時のレートで約2億6900万円以上で落札された)。この2本以外にもヴァシュロン・コンスタンタン Ref.6395 “ディスコ・ボランテ”(編注;現在オークションは終了しており、6750ドル/日本円で約100万円で落札)やギルトダイヤルのロレックス GMTマスター Ref.1675(編注;現在オークションは終了しており、1万2000ドル/日本円で約190万円で落札)など、思わず目を疑うような時計が数多く揃っている。
Photo courtesy Hess Fine Art
しかしこのレイルマスターが何度も私の目を引いた(編注;こちらは流札した)。時計愛好家であればご存じのとおり、1957年にオメガはRef.2913(シーマスター)、Ref.2914(レイルマスター)、そしてRef.2915(スピードマスター)を発表している。そして2017年には、その誕生60周年を記念した復刻モデルも発売された。正確な生産本数を確認しているわけではないが、私の理解では、レイルマスターはこの3モデルのなかで最も生産数が少なかった。そのため状態の良いRef.2914は、シーマスターやスピードマスターと比べると桁違いに希少だ。そして私が“状態の良い”という言葉を使ったことを強調しておきたい。というのもレイルマスターはラジウム夜光や経年変化、そのほかさまざまな複雑な要因によって、市場に出てくる個体の多くがかなり荒れた状態になっていることが少なくないからだ。
Photo courtesy Hess Fine Art
この個体は完璧というわけではなく、時針の裏側付近のダイヤルには錆が見られる。それでも、この時計が本物であることに変わりはない。オリジナルのダイヤルと針、そして状態の良いケースを備えているだけでなく、スライド式クラスプを備えたオメガ純正のビーズ・オブ・ライスブレスレットまで付属している。
ユニバーサル・ジュネーブ ポールルーター ブロードアロー
ウォッチズ・オブ・ナイツブリッジ(Watches of Knightsbridge)は今回も期待を裏切らない。カタログには驚くほど魅力的な時計が詰め込まれており、たとえばブランパン アクアラング、“プアマンズ・カマロ”の愛称で知られるモデルや、エクスプローラーダイヤルを備えたロレックス サブマリーナー、軍支給品のCWC クロノグラフ、そしてここ最近見たなかで最もセクシーなIWCなどが並ぶ。さらにブライトリング ロングプレイング Ref.815、ウィットナーのエレクトロ クロン、そして文句なしに素晴らしいホイヤー Ref.2444Nまで出品されている(編注;いずれも現在オークションは終了している)。
Photo courtesy Watches of Knightsbridge
しかし私が注目しているのは、ユニバーサル・ジュネーブ ポールルーター ブロードアローだ(編注;現在オークションは終了している)。ここ数週間、ポールルーターについて書きすぎたことを申し訳なく思う。だが安心して欲しい、今回で最後だ。ではまず、この時計に入札したり購入したりすべきでない理由から説明しよう。最大の理由は、バンパームーブメントが搭載されていることだ。これは最も扱いにくく、壊れやすく、効率の悪いムーブメントだ。正確に時を刻み、きちんと動く時計を所有したいのであれば、ほとんどの場合、バンパー ムーブメントの時計を購入すべきではない。
Photo courtesy Watches of Knightsbridge
それにバンパームーブメントは古い。そして、その「古さ」には意味がある。時計師に「修理したくない時計は何ですか?」と聞いてみると、おそらく返ってくる答えは「部品が手に入らない時計」だろう。ロレックスがロレックスたる理由のひとつを知りたいだろうか。それは長年にわたって部品を入手しやすい体制を維持してきたからだ。そしてもうひとつは、部品が交換されることを前提に時計を設計していたからである。もちろん、ユニバーサル・ジュネーブのCal.138の部品もまだどこかには残っているはずだ。しかしその数は確実に減り続けている。つまりこのポールルーターは、人の足を止めるほど美しい時計ではあるが、遅かれ早かれ、オーナーにとって頭痛の種にもなるだろうということだ。
この時計に入札しない理由として挙げられるのは、結局のところムーブメントくらいしかない。そして認めざるを得ないのだが、その理由だけでは、この時計を諦めるには説得力が足りない。だって見て欲しい。この針、このダイヤルを。本当にたまらない。ケースだって素晴らしい。このポールルーターの予想落札価格は5000〜7000ポンド(日本円で約100万~140万円)で、魅力的なロットが並ぶウォッチズ・オブ・ナイツブリッジのオークションは6月6日に幕を開ける(編注;現在オークションは終了している)。
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