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Hands-On ジン544、244と144の造形を受け継ぐ38.5mm径のインストゥルメントウォッチ

244や144の外装を参照しながら、現代の日常時計として再解釈されたジン 544。この38.5mmの3針デイト付きにモデルについて、同社のインストゥルメントウォッチの文脈と、過去モデルから受け継いだ造形を実機とともに読み解く。

ジンは2026年、ハンティングウォッチの系譜にある803や、903のフルチタンモデルに並ぶ新作として、544および544 RSを発表した。どちらも時刻と日付表示のみを備えたシンプルなモデルであり、ブランド曰く、その特徴的な外装には144や244に見られるデザイン要素が取り入れられているという。

ジン 244 Ti

 その説明を受けるより早く、544を初めて目にした時から僕の脳裏には244の姿が浮かんでいた。同モデルは1994年ごろから約12年間、2006年ごろまで製造されていたチタンウォッチだ。後述するがこの時計は現CEOを務めるローター・シュミット氏によるジンの方向性を強く示したモデルであり、またその高いスペックと審美性から今なおセカンドハンドの市場で比較的高値で取引をされている。新しい544は1994年にリリースされた244と比べると少し現代的なサイズ感にはなっているが、4時位置のリューズ、カバードラグなど共通するディテールが多い。それもあってか、僕はこの544というモデルに強く惹かれていた。

544 RSと544。

 果たして僕と同じく544にジンの古き良き時代を見た人々が多かったのか、単純にケース一体型のこの形状が昨今の愛好家に刺さったのかはわからないが、ジン曰く発売から間もないながらも好調なセールスを叩き出しているという。今回は幸いにも、544と544 RSに加え、244、および144も合わせて手に取る機会を得た。144から始まるこれらのモデルの系譜はあとでより詳しく掘り下げるとして、まずは544という時計そのものについて読み解いていきたい。

 544を単体で見ると、38.5mmというケース径から想像するほど小さくは見えない。これは20mm幅のブレスレット、あるいはストラップが組み合わされていることが大きい。小径の3針時計にありがちな華奢さはなく、ケースからブレスレットにかけての強い一体感により、手首上ではしっかりとした存在感がある。一方で、厚さは10mmに抑えられているため、横から見たときの量感は控えめである。20気圧防水と減圧耐性を備える自動巻き時計としては、かなり手に取りやすいボリュームに収まっている。 

 SSブレスレット仕様では、このケースの形がもっとも明確に表れる。カバードラグによってラグの存在が外側へ強く主張せず、ケースとブレスレットがひと続きの外装として見える。いわゆる完全なインテグレーテッドブレスレットではないが、一般的なラグ付きの3針時計とも異なる。そのため、ブレスレット仕様では544のデザイン上の個性が強く前に出る。

 一方、シリコンストラップ仕様では着用時の印象がだいぶ軽くなる。ケースの輪郭は同じでも、メタルブレスレットほど外装の一体感が強く出ないためだ。ブレスレット仕様がケースデザインの特徴を見せる組み合わせだとすれば、シリコンストラップ仕様は38.5mm径、10mm厚というサイズの扱いやすさ、ユーティリティな一面を見せる組み合わせである。どちらが正解というより、同じケースの性格を異なる角度から見せてくれるオプションと捉えるといいだろう。

 ケースの仕上げは多くのジンの時計に見られるものと同じビーズブラストで、反射を抑えた均一な質感と、傷が目立ちにくいというメリットを持つ。544のケースはカバードラグを備えた少し特徴的な形状だが、このマットな仕上げによって形状の癖が必要以上に強調されない。本作では外装全体を落ち着いた質感にまとめることで、実用時計らしい表情に収まっている。

 4時位置のリューズも、外観と装着感の両方に関わる。正面から見たときにケースの輪郭を邪魔しにくく、手首を曲げたときの干渉も起きにくい。リューズは非ねじ込み式だが、ケースとリューズのあいだにチューブを設けないD3システムを取り入れることで防塵性と防湿性を高めている。見た目の簡潔さに対して、実用面の処理はきちんと残されている。

 ダイヤルはマットブラックを基調に、白い針とバーインデックス、3時位置の日付表示を組み合わせる。文字要素は少なく、視線を落としたときに必要な情報へすぐにアクセスできるようになっている。その他多くのジンの時計に倣い分針は外周の目盛りまで伸び、時針とは長さと形状で明確に区別される。表示を絞った3針時計だからこそ、こうした針と目盛りの関係が印象を決める。

 544と544 RSの違いは、主に秒針の色である。白い秒針の544は、黒と白の構成に収まり、全体として落ち着いた印象になる。赤い秒針を持つ544 RSは、同じダイヤル構成でありながら視線の引っかかり、アクセントが生まれている。差は小さいが、情報量を抑えたダイヤルでは、その色の違いが時計全体の性格に効いてくる。

 インデックスには、ハイブリッド・セラミック製の夜光エレメントが用いられている。夜光塗料を平面的に塗るのではなく、夜光素材を含むパーツとして形成し、それをダイヤル上に取り付ける方式である。強く装飾的に見せるディテールではないが、日中にはわずかな立体感を与え、暗所では視認性を確保する。

 裏蓋はサファイアクリスタル製で、搭載するSW200-2を見ることができる。個人的にこのムーブメントはスペックの面でかなり重要な要素である。従来のジンの3針時計は、セリタのSW200-1を使用していた。それ自体は堅牢で実直な性能を持つ、信頼性の高いものであったが、約38時間というパワーリザーブは3日間、1週間という性能が珍しくなくなった現代においていささか控えめに見えていたのも事実だ。しかし、今年頭にセリタから発表されたSW200-2は、約60時間とパワーリザーブの面で大きく伸長を見せた。544は同ムーブメントをブランド内でいち早く導入したモデルでもあり、日常使いの時計として見たときに明確な強みを獲得したと言える。総じて、ケース径、厚み、ストラップの選択肢、視認性の高いダイヤル、そしてムーブメントのスペックを見たときに、日常的に使いやすい3針時計としての完成度の高さを感じる時計だ。

ケースバックからはSW200-2が覗く。

バックルにはマイクロアジャスト機能を搭載。

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244、144との比較。継承している点、本作で変えた点

544との比較の前に一度、244と144の関係を整理しておきたい。244は技術的にはIWC インヂュニアを参照したモデルである一方、デザイン面では144の影響を受けていた。144は1974年から続くジンを代表するスポーツクロノグラフのひとつであり、現在まで大きく形を変えずに作り続けられている希少なモデルである。クロノグラフである144と、3針時計である244では機能もダイヤル構成も異なる。しかし、ケースからブレスレットへと連続していくような輪郭、ラグの存在を外側に強く見せない造形、そして手首上でひとつながりのフォルムとしてまとまるような印象には共通するものがある。

 つまり244は、144にあった外装上のまとまりを小径の3針ケースへ置き換え、その内側に、防磁構造や耐衝撃構造といった当時のジンが重視した実用技術を詰め込んだ時計だった。やや大振りな144と近しい形状を持ちながらも、36mmに圧縮されたことで印象も大きく異なるものとなった。244の独自性は、この組み合わせにあった。

 なお、この244のフォルムをよりシンプルで薄型のSS製モデルへ展開した444という存在もあったが、ケースラインや4時位置リューズ、ダイヤルを含むデザインの方向性をたどるうえでは、やはり244、そしてその背景にある144を起点に見るのが自然だろう。

244 Ti

144

 この関係を踏まえると、544の位置づけも見えやすくなる。544がまず想起させるのは244である。4時位置のリューズ、カバードラグ、ケースからブレスレットまたはストラップへとつながる輪郭、時刻と日付に表示を絞った3針構成は、244との距離の近さを感じさせる。実機を並べても、544が244の外装上の雰囲気をかなり意識していることは明らかだ。

 ただし544は、244において革新的だった技術的な構成そのものは受け継いでいない。544のケースはSS製であり、耐磁性能もDIN 8309準拠の4800A/mにとどまる。244が備えていた軟鋼製インナーケースや、ラバー製ダンパーによる耐衝撃構造は採用されていない。244が36mmという小さなケースの内側に、軽量性、耐磁性、耐衝撃性を凝縮した時計だったとすれば、544はその外装上の特徴を、現代で扱いやすい仕様へ改めた時計である。

 実機を並べると、この違いはよりはっきりとする。244は36mmというサイズもあって、手首の上で非常に凝縮された印象を持つ。軽量なチタンケースとテーパーの効いたブレスレットの組み合わせもあり、ジンの時計としてはかなり軽快に感じられる。実際に手首に乗せてみると、244を探して手に取る女性の時計愛好家がいることにも納得できる。ジンらしい技術的な強さを内側に抱えながら、外側の印象は意外なほど軽い。

 一方の544は、38.5mmと現代の時計として自然なサイズへと拡大。ケース素材はSSとなりブレスレットにも厚みと幅があるため、244よりも手首上での存在感は増す。ただ、これは単純に大型化したというより、素材とサイズの変化に合わせてバランスを取り直した結果と見るべきだろう。ヘッド部に重量が出ていることを踏まえると、ブレスレット側にも一定の厚みを持たせたほうが、着用時の安定感は得やすい。244の軽さとは方向が異なるが、544には544の収まり方があるように感じられた。

 ケースの厚みについては、数字以上に印象の差が小さい。244は10.5mm、544は10mmとなっており、むしろ544のほうがわずかに薄い。20気圧防水と減圧耐性を備えながらこの厚みに収めている点も素晴らしいが、これにより径自体は244から大きくなっていても過度に重々しくは見えない。

下が544、上が244 Ti。

244Tiのブレスレット。新作544のそれと比較すると、薄いだけでなくテーパーも強く効いている。

 144は、544と直接比較するというより、244のデザインを踏まえて見るほうがわかりやすい。1974年から続くこのクロノグラフは、ケースからブレスレットへ流れるような輪郭や、カバードラグによる一体感を持っており、その考え方が244を経由して544にも残っている。

 一方で、正面から見たときの骨格には意外な近さもある。現行の144は41mm径、544は38.5mm径だが、どちらもブレスレットの取り付け幅は20mmである。そのため544は小径寄りの3針時計でありながら、ブレスレットまわりが細く見えすぎない。144の量感をそのまま引き継いでいるわけではないが、ケースからブレスレットへと視線が途切れずに流れるデザインの考え方は共有している。


つまり、544とはジンにおいてどのような時計か

本作で強調されているのは、耐磁・耐衝撃を重視した内部構造やチタン外装ではなく、4時位置のリューズ、カバードラグ、ブレスレットへとなだらかにつながるケースラインといった外観上の要素である。244や144から選び取られたのはスペックそのものではなく、1990年代のジンに見られたインストゥルメントウォッチの造形であり、それを現在の3針デイトへ落とし込んだのだと思う。

 ジンのラインナップには、用途や技術をより明確に打ち出したモデルが数多く存在する。そのなかで544は、プロフェッショナルユースに向けた特殊機能を前面に掲げるのではなく、視認性、堅牢性、装着時の収まりを3針デイトの形式にまとめている。38.5mm径、10mm厚のケース、20気圧防水、約60時間のパワーリザーブといった要素も、過剰なスペックの主張ではなく、日常的に使う時計としての余裕を支えるものだ。

 この時計を見るうえで重要なのは、往年のモデルにどれだけ近いかではなく、その造形の要点を現在のジンの時計としてどう成立させているかにある。ブレスレット仕様ではケースデザインの個性がはっきり見え、シリコンストラップ仕様ではより軽く扱いやすい3針時計としての性格が前に出る。544は、かつての名作をそのままなぞるのではなく、インストゥルメントウォッチの文脈のなかで、現代の日常時計として再解釈したモデルなのである。

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Photographs by Yusuke Mutagami, Nahoko Omura