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Photos by Shota Akiyoshi
我々が知っていること
常に斬新なデザインを生み出し、自らの限界を塗り替え続けているブランドがあるとすれば、それは間違いなくMB&Fだろう。そして数々の過激なオロロジカル・マシンを世に送り出してきた同ブランドは今回も、新作のオロロジカル・マシン 12で再び真新しい方向性を示した。いや、見間違いではない。この新作はロボットと腕時計を融合させたもので、ブルー、グリーン、パープルの3種類が用意され、それぞれ12本限定で製作される。
オロロジカル・マシンN°11が1960年代の建築様式から着想を得たとすれば、HM12 “ザ・ガーディアン”はさらに10〜20年後の時代に目を向けている。SFやロボットへの熱狂がポップカルチャーを席巻し、後に『トランスフォーマー』や『ガンダム』、そしてそれに続く数々の玩具に夢中になる世代を生み出した時代だ。マックス・ブッサー氏の遊び心あふれるアイデアに対して、“あまりにも玩具っぽい”と批判されることがあるとすれば、本作はむしろその発想を徹底的に押し進めたモデルと言えるだろう。ロボットのアクションフィギュアというコンセプトを、時計製造の世界で極限まで突き詰めたデザインなのである。このブッサー氏のビジョンを形にしたのは、もうひとりの“マックス”、マクシミリアン・マーテンス(Maximilian Maertens)氏だ。ブランドのコレクターにはおなじみの名前であるマーテンス氏は、これまでMB&Fの数多くのクロックやオルゴールの制作に携わってきたほか、MB&Fの時計オーナーに贈られる小さなミニミリアン フィギュアのデザインも手がけている。
ここには語るべき要素が数多く詰め込まれている。まずは時計本体から見ていこう。そのデザインは意図的に“顔”を思わせるものとなっているが、その未来的で宇宙船のようなケースの構造を見れば、実に多くの要素が凝縮されていることがわかる。“ザ・ガーディアン”の目にあたる部分はふたつのディスクで構成されており、ひとつは瞬転式の時表示、もうひとつは分表示を担う。口にあたる部分では、MB&Fでおなじみのバトルアックスモチーフを採用した両面マイクロローターが露出しており、時計を着用しているあいだ回転し続ける。そして最も重要なのは、フライングトゥールビヨンを露わにした“脳”だ。ケース側面の12時位置にある追加のサファイアパネルからは、フライングトゥールビヨンの断面を見ることができる。
シールドが収納された状態。
シールドが完全に起動した状態。
しかし最も斬新なのは、時刻表示機構とは全く関係のないきわめて複雑なフェイスシールド機構だ。変形するロボットというコンセプトにはこれ以上ないほどふさわしい一方で、腕時計に搭載する機構としては、愉快なほど過剰で不必要な複雑さを備えている。ケース左側のリューズを回すと、色付きのパネルが徐々に現れる仕組みになっており、その高さはリューズをどれだけ回したかによって変化する。MB&Fによれば、この機能だけで200点以上の部品を使用しており、さらにこの機構はムーブメントの時刻表示機能とは完全に独立して設計されているという。
HM12に搭載された新開発の自社製自動巻きムーブメントは、その多くの要素が大型で独特な専用形状のサファイアクリスタル越しに表側から存分に鑑賞できる。しかし裏側も決して見劣りするものではない。興味深いことに、ケースバック側の仕上げは、むしろブランドのクラシカルなレガシー・マシンを思わせる。メインプレートには美しいフロステッド仕上げが施され、鋭角な面取りもふんだんに手作業で施されている。また表側に配置されたマイクロローターとは対照的に、裏側のマイクロローターには、手作業によるギヨシェ装飾が施された湾曲したゴールド製のメダリオンが採用されている。この手作業によるギヨシェ装飾は、カリ・ヴティライネンのブロドベック・ギヨシャージュ(Brodbeck Guillochage)で施されたものだ。
腕時計として装着した状態でも、グレード5チタン製ケースは十分に個性的だ。12時側には可動式ラグ、6時側には固定式ラグを備え、ケース構造には 84 個の部品が使用されている。サイズは縦49.3mm×横43.6mm、厚さ13.8mm。しかし正直なところ、本作の存在感は実物を見なければ理解できないだろう。同僚のマークはすでにHM12の実機を手に取っているので、彼のレビューにも期待して欲しい。ストラップはクイックリリース機構によって固定されており、これはHM12にとって重要な機能となっている。というのも、時計本体はクリップでガーディアンロボットに装着できるようになっているからだ。腕時計として使用しないときは、ストラップはロボットの台座部分に設けられた隠し引き出しへ収納することができる。
MB&Fとレぺの協業による数々のクロック作品を手がけてきたマーテンス氏の経験は、ここでも大いに生かされている。彼が思い描いたガーディアンのロボットボディもまた、レぺによって製作されたものだ。ここまで来ると部品点数の多さに思わず笑ってしまうが、ロボット本体だけでもさらに755個の部品が使用されている。胸部には機械式温度計が内蔵されており(ありがたいことに、アメリカ人向けに華氏と摂氏の両方の目盛りが付いている)、左腕には取り外し可能なUVトーチが内蔵され、時計本体やロボット各部にたっぷり施された夜光塗料を照らして楽しむことができる。一方、右腕にはシールドのなかにルーペが収納されている。なお、その全高は38.2cmだ(ちなみに、ラグ・トゥ・ラグを聞くのだけは勘弁して欲しい)。
前述のとおり、新しいHM12はパープル、ブルー、グリーンの3種類の限定モデルで、合計36個が製造される。ブランドによると、HM12は今回限りで、今後生産される予定はないと断言している。そしてご想像のとおり、HM12の価格は38万4000ドル(日本円で約6000万円)と、決して気軽に購入できるものではない。だがもしあなたが税込みで50万ドル(日本円で約8000万円)近くを自由に使える余裕があり、高級時計とアクションフィギュアへの情熱を持っているのなら、本作はあなたにぴったりだろう。
我々の考え
最新作であるHM12は、ふたりの“マックス”の名にちなんだ言葉遊びのように、マキシマリストな時計づくりを極めた1本だ。それをひと言で表すなら、ほかに適切な言葉が見つからないが、まさにクレイジーだ。いや、冗談じゃない。どれほどシニカルな時計愛好家でさえ、少なくともこの時計を見て少しニヤリとするに違いない。オロロジカル・マシンのデザインは(控えめに言っても)賛否を生むため、これまでにも世間的には“当たり”も“外れ”もあった。しかし私にとってこれは間違いなく勝者だ。アイデア自体はやや突飛だが、その実現方法は決してそうではない。MB&Fが手がけてきたオルゴールや彫刻的なクロック作品の造形を、実際に身に着けられる時計へと落とし込む手法として素晴らしく、まさに両方の世界の良いところを兼ね備えている。
世界にわずか36本しか存在せず、その価格も大半の人にとって手の届かない領域にある。だからこそ、私はこのHM12を完全に“遠くから愛でる”対象として受け止められる。そして正直なところ、このロボットには自分でも予想以上に心をくすぐられている。ひとつの視覚効果を実現するためだけに、あれほど複雑なパネル機構を作り上げてしまうことこそ、私の思うMB&Fらしさを象徴しているだろう。つまりどれほど突飛なアイデアであっても一切妥協せず、とことん本気で形にしてしまう姿勢だ。もちろん気軽に“カートに追加”できるような時計ではないが、こうした作品がこの世に存在していること自体をうれしく思う。さて次のレッドバーの集まりに、一体どんな冒険心あふれるコレクターがこの時計一式を持ってきてくれるのか楽しみだ。
基本情報
ブランド: MB&F
モデル名: HM12
寸法: 縦49.3mm×横43.6mm
厚さ: 13.8mm
ケース素材: グレード5チタン
文字盤色: ブルー、グリーン、パープル
夜光: スーパールミノバ
防水性能: なし
ストラップ/ブレスレット: 着脱式のベルクロストラップ
ムーブメント情報
キャリバー: HM12
機能: ジャンピングアワー、トレーリングミニッツ表示、フライング・トゥールビヨン、調整式シールド機構
パワーリザーブ: 84時間
巻き上げ方式: 自動巻き(ダブルマイクロローター)
石数: 86
クロノメーター認定: なし
価格&発売時期
価格: 38万4000ドル(日本円で約6000万円)
発売: MB&F正規販売店
限定: あり、グリーン、ブルー、パープルの各12本限定
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