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Where Light Finds Form エコ・ドライブ50周年の夜に見えた、シチズンというブランドの素顔

光で動く時計の50年を祝う一夜は、単なる技術史の回顧ではなかった。この記念すべき周年に登場した最新作、エコ・ドライブ フォトンは、光発電時計の未来をあらためて指し示す存在である。そのモデルを入口として会場で語られたのは、シチズンがどれほど早く、深く、ときに大胆に、時計の可能性へ踏み込んできたかということだった。

去る6月12日の夜、東京・表参道ヒルズ B3F スペース オーで、HODINKEE.jpとシチズンによるHODINKEE.jp × CITIZEN エクスクルーシブ ナイト in 東京 2026が開催された。テーマは“Powered by Any Light|あらゆる光で、動き続ける”。これは6月13日、14日の一般公開に先駆けて行われた、HODINKEE読者向けの特別なミートアップである。抽選によって選ばれた読者が、エコ・ドライブ誕生50周年を祝う会場に招かれた。

 会場には、50年にわたるエコ・ドライブの歩みを示す50本以上の歴代モデルをはじめ、エコ・ドライブの仕組みを体感できる展示、デザインの系譜をたどるインタラクティブなコンテンツ、そして今秋発売予定の50周年記念限定モデルであるエコ・ドライブ フォトンが並んだ。来場者はその独自のデザインを展示ケース越しに眺めるのではなく、実際に手首へとのせることで、半世紀にわたるエコ・ドライブの歩みがいまどのようなかたちに結実しているのかを、自分の腕で確かめることができた。

 この夜の主眼は、エコ・ドライブの歴史を年表のように振り返り祝すことだけではない。光発電という技術を起点に、シチズンというブランドがどれほど多面的な時計づくりを続けてきたのかを、展示とトークショーを通じて再発見することにあった。

 イベントはシチズン ブランドマネージャー、矢島義久氏の挨拶によって幕を開けた。続いてステージに登壇したのは、50周年記念モデルであるエコ・ドライブ フォトンのデザインを担当したデザイナーの三村章太氏、そしてムーブメント開発に携わってきたエンジニアの森田翔一郎氏、スペシャルゲストとしてNAOYA HIDA & Co.を主宰する飛田直哉氏、HODINKEE Japan編集長の関口 優である。

 このトークセッションを特別なものにしていたのは、登壇者それぞれが異なる視点からシチズンの時計づくりに光を当てたことだった。HODINKEE読者の目線で問いを投げかける関口、シチズンの技術の内側を語る森田氏、デザインの意図を明かす三村氏。そして、クラシックな時計づくりやヴィンテージウォッチへの深い知見を持ち、自身も時計をつくる立場にある飛田氏が、シチズンの外側からその視点を読み解いていく。ザ・シチズンに見られるようなオーセンティックな時計づくりから、エコ・ドライブ フォトンのようなユニークなアプローチまで、開発とデザインの背景にある哲学を、外部の視点とシチズンの当事者の言葉が交差しながら立体的に浮かび上がらせていった。まさにこの布陣だからこそ生まれた、スペシャルな化学反応のあるトークセッションだった。


エコ・ドライブ50周年を入口に、シチズンを深く知る

左から関口 優、飛田直哉氏、三村章太氏、森田翔一郎氏。

三村氏、森田氏の手にあるのが、エコ・ドライブ50周年を記念して制作されたブックレット。

 この日の会場でひときわ存在感を放っていたのが、通常は同社ミュージアムに収蔵され、一般の目に触れる機会の少ないエコ・ドライブのアーカイブ50本である。森田氏が編集長を務めた記念ブックレットにも収録されたそれらは、単なる年代順の名作選ではなく、エコ・ドライブの歴史のなかで確かな転換点となったモデルたちだった。トークセッションでは、その50本のなかから関口と飛田氏が気になるモデルを選び、森田氏と三村氏が開発やデザインの裏側を明かしていく。外部の目利きが問いを立て、シチズンの作り手がその背景を語ることで、ひとつひとつの時計に刻まれた挑戦や意図が浮かび上がっていった。それは来場者にとっても、エコ・ドライブを単なる技術名ではなく、モデルごとの物語として楽しむための手がかりになったはずだ。

 会場奥には、インタラクティブ・ウォールと題した展示も設けられていた。スクリーン上に並ぶモデルに触れるとそれぞれの詳細情報がポップアップされる仕組みで、来場者はエコ・ドライブの歩みを直感的にたどることができた。そこに示されていたのは、モデルごとの個性や幅広さだけではない。時代やカテゴリーを越えて見えてくるデザインの共通性、あるいは一見離れているように見えるモデル同士のつながりを、見る人自身が発見できるような展示でもあった。

「驚くほど早い時期から、技術的にもデザイン上でも挑戦されていて、それらが知られていないことがもったいないですよね」(飛田氏)

50本以上の時計がスクリーンに映し出された、インタラクティブ・ウォール。

 展示された50本のなかに、森田氏や三村氏自身が携わったモデルもあるのではないかと関口は問いかけた。森田氏はザ・シチズン Caliber 0100や初代サテライトウエーブ、レディス用の電波時計などを、三村氏はカンパノラのエコ・ドライブやザ・シチズンの和紙文字盤モデルなどを挙げる。展示された50本のなかには、開発やデザインの現場と直接結びつくモデルも少なくなかった。

 そしてここから話題は、関口と飛田氏が事前に選んだ気になる3本へと移った。飛田氏はザ・シチズン Caliber 0100、ザ・シチズンの和紙文字盤モデル、エコ・ドライブ フォトン。関口はサテライトウエーブ、サテライトウエーブ F100、エコ・ドライブ ワンを選んでいた。

 最初に取り上げられたのは、飛田氏が選んだザ・シチズン Caliber 0100だった。

ザ・シチズン Cal.0100。

 ザ・シチズン Caliber 0100は、GPS衛星や標準電波による補正に頼らず、時計それ自身の力で年差±1秒を刻む光発電時計である。だが飛田氏が注目したのは、ムーブメントの性能だけではなかった。「ザ・シチズンはもちろんフラッグシップで、あらゆる意味で最高の技術力が込められているモデルですが、ムーブメントの技術もさることながら文字盤のデザイン、仕上げに注目したい。非常にインデックスが長くて、しかも1分ごとの目盛りも長い。そこが高精度時計好きの私には刺さりまして」(飛田氏)

 長いインデックスと秒針は、見た目のシャープさだけを狙ったものではない。秒針が目盛りの上に正確にのらなければ、わずかなズレすら目立ってしまう。つまりCaliber 0100は、高精度をスペックシートの数字だけで語るのではなく、文字盤上でも逃げ場のないかたちで示している。

 「目盛りの上にピタリと秒針がのっていないとズレて見えてしまうのですが、秒針がここまで長いとズレていたらそれがより目立つんです。印刷ズレでも起こりますから、それが開発でとても苦労して、ムーブメントと外装の両面で壁を乗り越えた成果が、互いに生かしきれていると思います」(森田氏)

 三村氏も、デザインとムーブメント開発の両方が噛み合って初めて成立した時計だと話す。「デザイナーとしては針をできるだけ長くして、目盛りにしっかり重なるように見せたい。一方で、それを高い精度で成立させるのは技術側にとっても難しいところです。目盛りにしっかりのせて見えるところまで、ムーブメント側の工夫でかなり寄せてもらったのが大きなポイントでした」(三村氏)

 秒針の動きと目盛りがぴたりと重なる、一秒ごとの美しさ。その一秒の美学をかたちにするために、デザインと技術が互いの知恵を持ち寄ったモデルといえる。高精度をスペックではなく、文字盤の緊張感として見せる。その設計には、技術とデザインが同じ方向を向いたときのシチズンらしさが表れているのだ。


サテライトウエーブの系譜、和紙文字盤、エコ・ドライブ ワン。振れ幅の大きさこそシチズンらしさ

シチズン エコ・ドライブ サテライトウエーブ。

シチズン エコ・ドライブ サテライトウエーブ F100。

 関口が選んだ3本のうち、サテライトウエーブサテライトウエーブ F100は、衛星電波というシチズンの先進性を示す系譜にある。トークではまず、その出発点として2011年に発表された初代サテライトウエーブに言及。グリーンの差し色と、近未来的で宇宙的なデザインが印象的なモデルで、当時は新作をすぐに発売する前提ではなく、コンセプトカーのような存在として野心的な時計が発表される時代でもあり、そのひとつだったという。森田氏にとっても、初代サテライトウエーブは開発に携わったモデルのひとつだった。

 「実はいわゆる開発コードで、PRCって呼んでいたんです。ポスト・ラジオ・コントロールド、ポスト電波時計ということです。つまり開発関係者の間では、電波時計の次にするぞ、というつもりで開発を進める、そんな意気込みでやっていました」(森田氏)

 電波時計の次を本気で考え、衛星から時刻情報を受け取る時計に挑む。しかもそれを光発電で成立させる。サテライトウエーブには、便利な時計をつくるだけでは終わらない、シチズンの前のめりな未来志向が見える。もう1本の選出モデルであるサテライトウエーブ F100も、同じ系譜を示す1本として関口のリストに並んでいた。

ザ・シチズン 和紙文字盤。

 飛田氏の2本目は、ザ・シチズンの和紙文字盤モデル。ここでも注目されたのは、単に日本的な素材を用いたという意匠性ではなく、光発電との相性だった。「この和紙文字盤は、表面の独特のザラザラ感、奥行き感というテクスチャーを実現しつつ、しかも日本ならではの素材。ちゃんと光を透過させて発電をするのは、大変なんじゃないでしょうか」(飛田氏)

 飛田氏の指摘に対して、三村氏は素材選びの観点からこう応じた。「一般的な紙素材では、少し厚みが出るだけで光を通しにくくなりますし、逆に薄過ぎると強度が足りなくなります。そのなかで、和紙という、強さを備えながら薄く仕上げられる素材を見つけ出したところが大きいです。障子のように、日本で和紙はそもそも光を通す素材として使われてきた。その発想から始めたのですが、結果的に相性が良かった」(三村氏)

 装飾としての和ではなく、機能と表情の両方を支える素材として和紙を見いだしたところに、このモデルのおもしろさがある。

シチズン エコ・ドライブ ワン。

 そして関口が最後に挙げたのが、2016年に登場したエコ・ドライブ ワンだ。ムーブメント厚は1mm、ケース全体でも2.98mm。横から見たときの薄さは、今見ても驚くほどである。

 「もちろんもっと薄い時計も存在しますが、実用にならないぐらい華奢だったり剛性が不足していたり、電池寿命も短い。一方でエコ・ドライブ ワンは、光発電でありながら精度を担保し、この薄さを10年前に実現していたんです」(関口)

 高精度を突き詰めるCaliber 0100、衛星電波に挑んだサテライトウエーブとF100の系譜、素材の透過性と質感を両立したザ・シチズンの和紙文字盤、そして極薄を実用品として成立させたエコ・ドライブ ワン。並べてみると、シチズンの時計づくりはひとつの型に収まらない。だがその根にあるのは、技術を誇示するのではなく、使う人の手元に自然に寄り添う時計のかたちへと仕立てる姿勢である。


エコ・ドライブ フォトンが見せる、光を取り込む構造

シチズン エコ・ドライブ フォトン。Ref.BJ6560-53W。14万8500円(税込)。2026年秋発売予定

会場にはエコ・ドライブ フォトンやクリストロンソーラーセルをかたどった特製ピンバッジなどが当たるカプセルトイも登場。

文字盤に設けられたスリットから、構造色文字盤がよく見える。

 そして、飛田氏が3本目に選び、なおかつこの夜のもうひとつの主役でもあったのが、エコ・ドライブ誕生50周年を象徴する最新作、エコ・ドライブ フォトンである。三村氏によれば、フォトンは50周年記念モデルの社内コンペティションにおいて、同氏のデザイン案が採用され、商品化へと進んだ1本だ。掲げたテーマは“光が導く新たな形”。その言葉どおり、光発電時計の原理を、造形そのものへと落とし込むことが出発点となっている。

 「今やエコ・ドライブ時計の文字盤のデザイン自由度は大幅に向上しているのですが、今回はあえて、光が文字盤を通り抜けることが分かるよう、スリットを設けてエコ・ドライブの機能を直観的に表現しました」(三村氏)

 このひと言にフォトンの核心がある。エコ・ドライブは半世紀にわたり、消費電力や光の透過性といった課題に向き合いながら、時計としての実用性と文字盤表現の自由をともに広げてきた。フォトンは、その成熟を背景に、光を取り込むという機能そのものをデザインの出発点に置いたモデルである。スリットや多層構造は単なる意匠ではない。光発電時計であることを、構造として、そして造形として表現するためのデザインなのだ。

 文字盤は二重、三重に重なり、その下には構造色が潜む。見る角度や光の入り方によって表情を変えるその構造は、単なる装飾ではなく、エコ・ドライブが光を受ける時計であることを視覚的に語るための装置である。これまでの50年で積み重ねてきた技術とデザインの経験が、フォトンでは光そのものをどう見せるかという問いに結晶している。

エコ・ドライブ フォトンを手に取り、文字盤の質感を確かめている飛田氏。

 「文字盤は人間でいう顔に相当する重要ポイント。だからエコ・ドライブのフェイスとして、どういったやり方で高級感や質感を表現するか、どのようにしてユニークな文字盤に仕立てるか、とても興味がありました」(飛田氏)

 フォトンはエコ・ドライブの機能を説明する時計ではない。光発電という仕組みを、感覚的に理解させる時計である。だからこそ、エコ・ドライブ50周年記念モデルでありながら、単なるアニバーサリーの記章には見えない。過去を祝うだけでなく、その先にあるシチズンの表現を指し示しているのだ。


時代を先取りする発想と熱量が、心に届く時計を生む

 トークの終盤、関口は飛田氏に、シチズンらしさとは何かと問いかけた。これだけ幅広い時計を前にすると、シチズンをひと言で言い表すのは簡単ではない。飛田氏はそこに、ある企業文化を見た。「驚くほど早い時期に色々なことにチャレンジしているんですよね。あえて表現すれば、技術的暴走。早すぎる時代に踏み込み、その挑戦の積み重ねが意外と知られていない企業文化だという気がしています」(飛田氏)

 この表現は、決して乱暴な評ではない。飛田氏が見ていたのは、技術のための技術ではなく、時代の少し先へ踏み込んできた姿勢だったのだろう。関口もまた、穏やかな社風の奥に、思い切ったものづくりへの熱量があると受け止めていた。

 森田氏は、時計を所有したり着用したりすることで、ワクワクする、幸せな気持ちになれる価値を提供していきたいと語った。三村氏は、エコ・ドライブを便利な機能で終わらせるのではなく、情緒的なデザイン、心に届くものとして表現していきたいと話した。技術を技術のまま置いておかず、人の感情や日常へ接続する。この姿勢もまた、50年続いてきたエコ・ドライブの現在地なのだろう。

 かくしてエコ・ドライブを巡る一夜は、心地よいさざめきとともに続いていった。トークショー後、来場者は展示ケースの前で足を止め、登壇者や会場にいたデザイナー、エンジニアたちと言葉を交わし、フォトンを手首にのせた。エコ・ドライブ50周年という節目は、単なる技術史の回顧ではなく、シチズンというブランドの時計づくりを再発見する機会になった。

 シチズンは、オーセンティックな時計づくりから、高精度モデル、衛星電波、極薄モデル、素材表現、そして光を見せる実験的なデザインまで、いくつもの入口を持っている。だがこの夜、それらはばらばらの個性ではなく、同じブランドの奥行きとして見えてきた。残った印象は、きっとひとつだ。シチズンは、思っているよりずっと広く、そして思っているよりずっとおもしろい。

Photos:Tetsuya Niikura Styled:​Eiji Ishikawa(TRS) Words:Kazuhiro Nanyo