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カルティエは常に独自の方法で時を表現してきた。特徴的なスクエアケースを採用した初代サントスから、幻想的なミステリークロック、常識を覆すタンク ア ギシェ、逆回転で時を告げるサントス デュモン リワインド、そして魔法のようなマス ミステリユーズまで、カルティエは主流メゾンでありながら、決して他社と同じ方法で時を告げることなく、独自の道を切り開いてきたのである。
ヴィンテージウォッチのディーラー兼専門家であるロイ・ダビドフ氏(左)と、著名な独立時計師であるカリ・ヴティライネン氏(右)は、カルティエ ウォッチメイカーズ オブ トゥモロー賞に応募された個性的なプロジェクトを評価する審査員団の一員だった。
その独自の精神を体現しているのが、カルティエ ウォッチメイカーズ オブ トゥモロー(Cartier Watchmakers of Tomorrow)賞だ。この賞は過去30年にわたり、計28回授与されてきたが、カルティエは1995年に始まったこの取り組みについてこれまでほとんど語ってこなかった。だが最新の授賞式では、スイス、フランス、ベルギーの時計製造を学ぶ学生たちが、振り子の運動と、「時間を異なる方法で読み、理解する」というテーマに基づき、時計を制作する過程を見ることができた。
最終選考に残った11名の学生たちは3カ月の期間内に、わずか80時間で作品を製作するという課題に取り組み、技術力と芸術的表現力を兼ね備えた作品を生み出した。それはカルティエらしいデザインコードを踏まえながらも、時間表示に対する大胆で意外性に富んだアプローチを示すものだった。授賞式は6月、ラ・ショー・ド・フォンにあるカルティエのメゾン デ メティエダールで行われた。
「これはカルティエのモットーです。継承は私たちにとって執念とも言えるものです。しかも前向きな執念です」と、カルティエの最高執行責任者であるカリム・ドリシ(Karim Drici)氏は、授賞式後のインタビューで語った。
「社員、工房、そして職人のために、私たちはサヴォアフェールを守り、人材を育て、職人の仕事を広く伝えていかなければなりません。しかしそれはマーケティングや商業的な発想からではなく、惜しみなく分かち合おうとする寛大な精神から生まれるべきものなのです」と彼は付け加えた。
審査員:(左から)Roy & Sacha Davidoff社共同創業者のロイ・ダビドフ氏、カルティエ コレクション ディレクターのパスカル・ルプウ(Pascale Lepeu)氏、独立時計師のカリ・ヴティライネン氏、プレゼンターを務めた時計製造専門家のエレオノール・ピチョット(Eléonor Picciotto)氏、高級時計財団副会長のパスカル・ラヴェス(Pascal Ravessoud)氏、国際時計博物館学芸員のナタリー・マリエロニ(Nathalie Marielloni)氏。
賞は“見習い時計師(Apprentice Watchmakers)”部門と“テクニシャン(Technicians)”部門の2部門に分けられ、それぞれ3名ずつ、計6名の受賞者が選ばれた。受賞者には、カルティエのマニュファクチュールによる個別の技能指導と、マニュファクチュールでの技術研修が提供されるほか、カルティエの腕時計が贈られる。さらに各部門の最優秀賞受賞者には、インターンシップの機会も用意されている。見習い時計師部門の最優秀賞には、ベルギー・ナミュールにある時計学校IATAのエメリック・ペーテルス(Aymeric Peters)氏が、受賞作「Silence Choisi(選ばれた静寂)」で選ばれた。
エメリック・ペーテルス氏による「Silence Choisi(選ばれし静寂)」。
時を止め、再び動かすための鍵。
この「Silence Choisi(選ばれし静寂)」は、時間を止めるという難題に対する芸術的な創造と技術的な解決策を提示している。ジュネーブのムーブメント開発メーカー、アジェノー(Agenhor) 社が手掛けたLe Temps Suspenduを彷彿とさせる部分もあるが、ペーテルス氏の時計は、時間を制御するという問題に対して全く異なる手法を用いている。置き時計には、カルティエのロゴをかたどって精巧に切り出された鍵が付属。その鍵を時計の台座に差し込むことで、ムーブメントの始動と停止を操作できる仕組みになっている。
「私は時間についてよく考えます。そしてそれがストレスの原因でもあります」とペーテルス氏はインタビューで語っている。
「私たちは常に、時間はあっという間に過ぎ去り、気づけば30歳や40歳になり、若さはあっという間に過ぎ去ると、常に思い知らされます。だからこそ私は時間を気にする必要がなく、時間が過ぎていくことさえ忘れられるようなものを作りたいと思ったのです」と彼は付け加えた。
アルチュール・ショケ(Arthur Choquet)氏の作品「アン インスタント(Un Instant)」はオスマン様式のパリの建築物と、写真家アンリ・カルティエ=ブレッソンの作品から着想を得ている。
テクニシャン部門では、フランスのレンヌにあるジャン・ジョレス高校のアルチュール・ショケ氏が「アン インスタント(Un Instant)」で最優秀賞を受賞した。
この置き時計は、パリの街並みを特徴づけるオスマン様式の建築デザイン、そしてフランス写真界の巨匠、アンリ・カルティエ=ブレッソンの思想と作品に敬意を表した、視覚的にも知的にも刺激的な作品だ。彼はブレッソンの1932年の名作「サン=ラザール駅裏」から着想を得て、一瞬のなかに何を捉えられるのかという問いを探求している。
ショケ氏はインタビューで、この作品は自身の時間に対する考え方や、ある瞬間を明確に切り取り、捉えることの難しさから着想を得たと語った。
「私は時間の流れをあまり意識しないので、時間が確かに過ぎ去っていることを理解するためには、実際にその瞬間に身を置く必要があるのです」と彼は説明する。
ラ・ショー・ド・フォンにあるカルティエのメゾン デ メティエダールでの授賞式に出席するファイナリストたち。
アルチュール・ショケ氏は、Un Instantでテクニシャン部門の最優秀賞を受賞。
ベルギー出身のエメリック・ペーテルス氏が、Silence Choisiで時計職人見習い部門の最優秀賞を受賞。
見習い時計師部門では、このほかベルギーのナミュールにあるIATAのレイラ・スライスマンス(Layla Sluysmans)氏が「Nymphéa(睡蓮)」で2位を共同受賞した。この作品は睡蓮をモチーフとしている。睡蓮の花は数日で咲き終えてしまうが、スライスマンス氏の時計はメンテナンスをすれば永遠に動き続けることができる。
樹脂製の花びらで構成されたこの置き時計は、2時間のサイクルで開閉し、ダイヤルと時刻をゆっくりと現す。
「この作品は、あまりにも慌ただしく過ぎていく現代社会のなかで、見る人に立ち止まることを促します。忘れないでください。時間は、それを見つめる人にだけ、その姿を現すのです」とスライスマンス氏は語る。
スライスマンス氏の「Nymphéa」は睡蓮の花びらが開くにつれて、ゆっくりと時が流れていく様子を描き出している。
同じく第2位には、フランス・モルトーにあるエドガー・フォール高校に在籍するエドゥアール・ニコ(Edouard Nicod)氏が「La Dualité Des Opposés(対立するものの二元性)」で選ばれた。
一見すると伝統的なスタイルに見えるこの置き時計は、“均衡”という概念を巧みに表現している。針は固定されており、時を告げるのはムーブメント自体の回転だ。ニコ氏は作品について「この二元性は、カウンターウェイトとして配置された眠るパンテールによって表現されています。静かに眠るパンテールは、絶えず動き続けるムーブメントとの均衡を保っているのです」と語る。さらに彼は「作品全体は、繊細でありながらも不可欠なバランスの上に成り立っています。ほんのわずかな乱れでも、その調和は崩れてしまうでしょう」と付け加えた。
エドゥアール・ニコ氏のこのユニークな受賞作品では、眠るパンテールがムーブメントのカウンターウェイトとして機能している。
テクニシャン部門の第2位には、フランス・パリのディドロ高校に在籍するアダム・ドロッシュ(Adam Deroche)氏が「Médusée(Transfixed)」で選ばれた。
その視線を受けた者を石に変えるという、ギリシャ神話に登場するMédusée(魅入られた者)をモチーフにしたこの作品は、もし時間が止まったらどうなるかを鑑賞者に問いかける。時計の針は10時10分で固定され、時表示と分表示のディスクだけが回転する。陶器製の筐体に収められたこの作品は、伝統的な時計のフォルムを保ちつつ、溶けて消えてしまうかもしれないという予感を漂わせている。
アダム・ドロッシュ氏の「メデューサ」。
最後に、テクニシャン部門の第3位にはフランス・レンヌのジャン・ジョレス高校に在籍するアドリアン・ステフェネリ(Adrien Stefenelli)氏が「Echo」で選ばれた。
針もダイヤルもないこの時計は、その代わりに一定間隔で鳴るチャイムで時刻を知らせる。そのチャイムは、水滴が時計の台座に落ちる音を思わせる。
「この情報だけで、使う人はその先に何が待っているのかを気にすることなく、今この瞬間を楽しむことができます。先のことを予測し続ける必要から解放されるのです」とステフェネリ氏は述べている。
アドリアン・ステフェネリ氏の「Echo」。
カルティエ関係者によれば、この賞は将来的に、より多くの国の時計学校へ対象を広げていく可能性があるという。また、カルティエ最大の製品カテゴリーであるジュエリー分野についても、次世代のデザイナーや職人を育成・支援するための同様の賞を創設する構想が検討されている。
コンテストのもうひとりのファイナリスト作品。
もうひとりの時計製造部門ファイナリストによる置き時計。
最終選考に残ったこの時計は、マス ミステリユーズを想起させる。
カルティエ サントス デュモン リワインド。
ミニチュアサイズのカルティエのクロック。
1930年代のカルティエのミステリークロック。
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