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クイック解説
オリエントスターがブランド誕生75周年を記念する新たなフラッグシップとして、世界限定130本(国内は75本、海外55本)のオリエントスター スケルトンを発表した。1991年にオリエントから登場した「モンビジュ」を原点とし、オリエントスター初の「スケルトン」は1998年に誕生。ムーブメントを肉抜きしたスケルトンウォッチはブランドにおけるアイコンとしてデザインを変えながら生産が続けられ、2021年には自社開発のシリコン製ガンギ車を備え、技術的に注目すべきM45 F8 スケルトン ハンドワインディングを投入するなど進化を続けている。
「モンビジュ」から始まる35年の系譜に連なる本作は、既存モデルの色や装飾を改めた派生モデルではなく、新開発の手巻きCal.F9B82を核としたこれまでの集大成とも言える意欲作だ。
最新スケルトンのテーマは“時空間”。これまでのようなスケルトナイズしたムーブメントとそれを見せるためにダイヤルを丸く抜くというスタイルではなく、ダイヤル自体に精緻なスケルトナイズデザインを取り入れ、ムーブメントそのものを意匠の中心に据えた。
3層に重なる多数の円は、枯山水に広がる波紋と太陽系の星々の軌道を重ね合わせたものをイメージし、表裏から機構を見通せる構造によって、宇宙の広がりと日本の美意識における余白、すなわち“間(ま)”を表現した。多重サークルの縁にはダイヤモンドカットによるポリッシュの面取りを施し、面取りしたラッピングねじ、手作業による筋目模様とラインの墨入れ、均一に青焼きした肉抜き形状の針とねじを組み合わせるなど、細部に至るまで非常に凝っている。そしてスケルトン化したムーブメント自体がダイヤルの役割も担う、これまでのスケルトンモデルとは一線を画した構成が大きな特徴だ。
プロダクトの中心であるムーブメントには、オリエントスターのブランド誕生75周年を記念して新開発された自社製手巻きCal.F9B82を採用する。シリコン製ガンギ車を持ち、ブランド最長となる72時間以上のパワーリザーブと、ブランド最高精度となる日差+10秒〜−4秒を実現。秒針停止機能、そしてブランドのアイデンティティとも言えるパワーリザーブインジケーターを備える。
ステンレススティールのケースは直径40mm(ラグ・トゥ・ラグは46.8mm)で厚さは9.5mm。ケースと大きく湾曲したラグにはザラツ研磨によるポリッシュ仕上げが与えられた。風防には両球面サファイアクリスタルを採用、両面無反射のSARコーティングにより99%の透過率をうたう。裏面もサファイアクリスタルのシースルーバックで、見どころであるスケルトナイズされたムーブメントの存在を最大限に生かしている。ケースバックの外周部には75周年の表記とシリアルナンバーを刻印する。
ストラップには植物タンニンでなめし、日本の伝統技法「茶利八方」により八方から手揉みしたブラックのゴートレザーを採用。手縫いステッチと新設計のプッシュ式三つ折りバックルを合わせた。JIS1種耐磁を備え、10年保証に加えて保証期間中3回の無償オーバーホールが付帯するなど、時計としての作りこみだけでなく新たなフラッグシップにふさわしいアフターサービスの強化も見どころとなっている。
ファースト・インプレッション
本作は75周年という節目に用意された、単なるもうひとつの限定スケルトンではない。2026年2月に発表されたM34 F8 スケルトン ハンドワインディング 75周年記念モデルが、既存のCal.F8B61をベースにメテオライト調の装飾を与えたCal.F8B65を搭載し、41万2500円だったのに対し、本作は新設計のCal.F9B82を搭載し、価格は110万円(ともに税込)である。差額は68万7500円で、価格は約2倍以上だ。これまでのオリエントスターにおけるプライスゾーンとは大きく異なり、ブランド戦略上のひとつの転換点と位置づけられるモデルだろう。
これまでにない価格帯の説得力を支える要素としてまず挙げられるのは、装飾を後から加えるのではなく、ムーブメントの構造自体をデザインとしたことだろう。これまで同様、デザインのモチーフは宇宙からインスピレーションを得たものだが、円を重ねたブリッジは惑星の軌道だけでなく、枯山水の波紋のようにも見えるようにデザインされており、日本的な“間(ま)”の表現へと接続した点も興味深い。従来のM34 F8 スケルトンがダイヤル外周リングや表面装飾で世界観を構築したのに対し、本作は機構、仕上げ、空白のすべてを一体化させた表現としている。デザインそのものによって、オリエントスターのプロダクトだとわかる造形を模索した点は注目に値する。
これまでにないデザイン表現と細部の仕上げ、そして新型のムーブメントなど見どころは多いものの、それだけで価格上昇の理由を説明するのは少し難しい。きわめてこだわったディテールはこれまでのスケルトンモデルにも見られないもので、既存のF8B65に対してパワーリザーブは70時間以上から72時間以上へ、静的精度は日差+15〜−5秒(既存のF8系キャリバー)から+10秒〜−4秒へ向上しているが、数値上の進化だけを見ると、その差は大きくない。一方で注目したいのは、本作には10年保証と保証期間中3回の無償オーバーホールを付けている点だ。110万円という価格は、時計そのものの作り込みだけでなく、こうした手厚い保証体制も含めての提案なのだろう。
実機に触れてまず感じたのは、110万円という価格の理由は、見た目だけではすぐには伝わってこないということだった。というのも、そのコストの多くが一般的にはわかりづらい部分にかけられているものだからだ。
たとえば、ムーブメント。本作が搭載する新しいF9キャリバーは、既存のF8系キャリバーをベースにしていると言うが、輪列をスモールセコンド用に変更し、歯車に金メッキを施してその歯に磨きをかけるなど、使用されているパーツのほとんどが本作のためだけの仕様や新規設計されたものとなっており、その多くが手作業で仕上げられている。香箱車など一部のパーツを除けば、実はF8系キャリバーからの転用はほぼないのだ。それらがいかに製造コストを押し上げる要因となるか、よほどの時計好きであれば理解できるかもしれないが、その価値は時計の外観だけでは伝わりにくい。
筆者がむしろ心引かれたのは、これまでとは異なるデザインアプローチだ。これまでのスケルトンモデルはムーブメントの構造を前提に、制約のなかでいかにコンセプトに即したデザインやスタイルを表現できるかというアプローチを取ってきた。一方、本作は実現したい表現やスタイルを目指すためにどのような仕上げやディテールを盛り込むか、どのようにムーブメントを設計する必要があるかいわば、これまでとは逆のアプローチである。それが製造コストを押し上げる理由でもあるが、そこには新たなアイコンとなる腕時計をエンドユーザーに届けようとするブランドの思いが見て取れる。75周年を機に、再び新たな道をオリエントスター。同ブランドはどこへ向かい、何を目指しているのか。それについては、また別の機会に紹介したい。
基本情報
ブランド: オリエントスター(Orient Star)
モデル名: オリエントスター スケルトン
型番: RK-BR0001N
直径: 40mm(ラグ・トゥ・ラグは46.8mm)
厚さ: 9.5mm
ケース素材: ステンレススティール(SUS316L)
文字盤色: スケルトン(シルバーカラー)
インデックス: Ⅲ、Ⅵ、Ⅸ、Ⅻのローマ数字、ダイヤル外周のフレームにドットインデックス
夜光: なし
防水性能: 日常生活用防水(3気圧)
ストラップ/ブレスレット: 茶利八方による手揉みのブラックゴートレザーストラップ(手縫いステッチ)。新設計のプッシュ式三つ折りバックル
ムーブメント情報
キャリバー: 自社製F9B82
機能: 時・分表示、6時位置にスモールセコンド、12時位置にパワーリザーブインジケーター
パワーリザーブ: 72時間以上
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 20
追加情報:日差+10秒〜−4秒(工場出荷時の静的精度)、シリコン製ガンギ車
価格&発売時期
価格: 110万円(税込)
発売時期: 2026年12月10日(木)
限定:世界限定130本(国内75本、海外55本)
詳細は、オリエントスター公式サイトをクリック。
Photographs by Masaharu Wada
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