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このような記事を書こうという考えは、何カ月、もしかすると何年ものあいだ、頭の片隅にあった。時計をめぐる日々のなかで、あまりにも多くの突飛な出来事を見たり、聞いたり、実際に体験したりするので、それらを自分だけのものにしておくのではなく、皆さんと共有するのが一番いいのではないかと思っていた。以下には、単なる私見もあれば、紛れもない事実もある。私は大手メディア企業の社長として(アクセス数やクリックの傾向を把握できる立場にある)、長年にわたってあらゆるタイプの時計(ヴィンテージから現行品、独立系から大手まで)を見てきた時計愛好家でもある。それと同時に、大手メディアで時計業界について論じる立場にあり、時計業界に関わるほぼすべての団体に所属し、さらには世界最大級の時計販売店のひとつで役員も務めている。そうした経験から、私は時計業界をさまざまな角度から見てきた、少し特殊な立場にいると思っている。
それだけではない。全く面識のない人から、時計についての質問がとんでもない数のDMとして届くのだ(これだけでひとつのシリーズになるし、すべきなのではないだろうか?)。そこで、こうしたさまざまな情報源から得たことや、ここ最近ずっと頭のなかにあったことをいくつか取り出して、文章にまとめてみることにした。皆さんに読んでもらい、議論してもらい、賛成してもらっても、反対してもらってもいいと思っている。というわけで今回は、時計業界で起きている「全く意味がわからない5つのこと」と「ものすごく理にかなっている5つのこと」を紹介する。
「今日の時計市場で起こっている、全く意味がわからない5つのこと」
1.複雑機構を搭載したパテック フィリップ(ヴィンテージも新作も!)は、本来あるべき価格よりも低い価格で取引されている
パテック フィリップ Ref.5270Gは素晴らしい時計だ。小売価格であっても、市場に出回っているほかの時計と比較して、きわめて優れた価値を提供している。
これは新しい話ではないが、現在、複雑機構を備えたパテック フィリップには、絶対的な価値がある。ここ12カ月で相場が急騰した初期のRef.3970やRef.5004、そして常に高い人気を誇るRef.2499は一度脇に置いておこう。それ以外はどうか? 驚くほど安いのだ。では、古いものから見ていこう。今でもRef.1463 クロノグラフ、Ref.3448 パーペチュアルカレンダー、あるいは10デイズ トゥールビヨンでさえ、中古のF.P.ジュルヌ クロノメーター・スヴラン(これについては後述する)よりも安い価格で、比較的容易に手に入れることができる。冗談ではない。この3本が、いかに時計として素晴らしい価値を備えているのか(しかも実際に、本数としても希少だ)については、また別の機会に詳しくお話ししよう。だが信じて欲しい。これらは本当に素晴らしい時計だ。では、ジュルヌはどうだろう? 私もジュルヌが大好きだ。しかし現在の2次流通市場価格の4分の1程度、あるいは単純に正規価格で買えるのであれば、の話だ。「この3本こそ買うべきだ」と言っているわけではない。今回ざっと検索してたまたま見つけた、現在購入できる3本を例として挙げているだけだ。しかし本格的なヴィンテージのパテック フィリップを購入するなら、コンディションには注意を払うべきだ。その点、この3本はいずれも決して悪くないように見える。
The Patek Phillippe 5236P.
では、現行モデルにも目を向けてみよう。先ほど挙げたどの時計よりも安く、しかも中古のジュルヌの半額で、プラチナ製の本当に素晴らしいパテック フィリップのインライン永久カレンダーを購入できる。しかも正規価格で、だ。5236Pはサーモン×ブルーのダイヤルが魅力的で、私自身、何度も欲しいと思った時計だ。また、パテック フィリップの過去と未来の両方を体現しているようにも感じる。そして、市場で唯一のインライン永久カレンダーでもある。
では、美しく仕上げられた完全自社製のホワイトゴールド製パテック フィリップのクロノグラフが現在、多くの新興インディペンデントブランドが手掛ける時刻表示のみの時計とほぼ同じ、あるいはそれ以下の価格で買えるとしたらどうだろう? 繰り返しになるが、仮に現在の「新興インディペンデントブランドが手掛ける時刻表示のみの時計」の平均価格が8万5000スイスフランだとすると、これはおよそ10万4000ドル(日本円で約1600万円)に相当する。つまり、パテック フィリップ Ref.5172の正規価格9万7152ドル(日本円で約150万円)を上回るのだ。レジェップ・レジェピのフライバック・クロノグラフに憧れる人が多いのもよくわかるし、それだけの魅力がある時計だと思う。しかしその半額で、パテック フィリップを正規価格で購入できるのだ。そのパテックを、2次流通市場に出回っているF.P.ジュルヌのほぼ全てのクロノグラフモデルと比較してみても、本当にお買い得に感じる。同じことはRef.5270やRef.5204、そしてパテック フィリップの自社製パーペチュアルカレンダーにも言える。いくつかの例外を除けば、現在生産されているものも生産終了したものも、パテック フィリップの複雑時計の多くは、今なおきわめて高い価値を備えている。この状況がいつまでも続くとは限らないから、ぜひ一度、目を向けてみて欲しい。
2. オーデマ ピゲのフロステッドゴールド製ロイヤル オークミニは、平均的なロイヤル オーク “Aシリーズ” 5402STよりも高値で取引されており、小売市場では16202STジャンボよりも需要が高い
これらの23mm径のゴールドクォーツウォッチは、非公式ながら、世界中のオーデマ ピゲのブティックで最も注文の多い時計であると伝えられている。
ロイヤル オーク ミニは、実にクールな時計だ。私の妻も愛用していて、これでもかというほど使い込んでいる。しかし現在の2次流通価格は約10万ドル(日本円で約1600万円)。注目すべき点は、これは現在の平均的なAシリーズのロイヤル オークを上回る価格だということだ。なぜだろうか? 信頼できる情報筋によれば、現在、オーデマ ピゲのブティックで最もリクエストが多い時計はミニであるそうだ。セラミックモデルやオープンワーク、さらにはオーデマ ピゲの時計製造における文句なしの史上最高傑作とも言える16202ST(ジャンボ)をも凌駕しているのだ。正規価格がより安く、ほかのモデルよりも遊び心があるからだろうか? その可能性は十分にあるが、スティール(SS)製のジャンボよりもリクエストが多いというのは、ただただ驚きだ。とはいえ、今の時計市場はあまりにも驚くことだらけなのだ。
3.古くて平凡な時計を、新品で優れた時計(同じデザイン/ブランド)よりも高値で取引する
現行のダニエル・ロート トゥールビヨンを、1990年代のモデルとあらゆる面で比較してみれば、その差は歴然としている。
希少性やストーリーにお金を払うことと、客観的な品質にお金を払うことは別物だ。こうした例は数多くある。典型的なのは、ヴィンテージのロレックスが現行のロレックスより高値で取引されるケースだろうが、最近は、その傾向も少しずつ薄れてきている。しかし私がここで言いたいのは、“ネオヴィンテージ”の時計にはある種のフェティシズムがあるということ。インターネットでは、“昔の時計には魂があったが、今日の時計にはない”と語られているのだ。実際には、新品で、優れた仕上げと自社製時計製造を備えた時計が、1980年代や1990年代の同ブランドのモデルよりも安く(あるいは同じ価格で)2次流通市場に出ている例は数え切れないほどある。ダニエル・ロート、ブレゲ、ブランパン、ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ ピゲなどがその一例だ。断言してもいいのだが、こうしたブランド(そしてほかの多くのブランド)が現在手掛けている時計は、基本的にほぼすべてがエボーシュをベースにしていた当時の時計と比べて、時計製造の品質という点では明らかに優れている。だからといって、初期のモデルに魅力や歴史的な重要性がないと言いたいわけでは決してないのだが、希少性や、誰がムーブメントやケースに携わったのかといった点だけでなく、時計そのものの製造品質について語ることも重要だと思うのだ。
4. F.P.ジュルヌの2次流通市場全体(概論)
私はジュルヌが大好きで、たくさん所有している。だが、ちょっと待ってくれ。
ここで言っておきたいのは、私はF.P.ジュルヌの時計が大好きだということだ。これまでおそらく8本ほど所有してきたし、何年ものあいだ、その素晴らしさや、その価格設定がいかに割安かを伝えようとあらゆる手を尽くしてきた。2014年11月に、「もっと高価格で販売されるべき10本の時計」という記事も書いているほどだ。そしてその7番目に挙げたのがトゥールビヨン・スヴランで、当時の価値は約8万ドル(当時のレートで約940万円)だった。それだけでなく、ほぼ同時期に英国紙『ザ・テレグラフ(The Telegraph)』にも、初期のF.P.ジュルヌの素晴らしさを称える記事を寄稿。その1年後には、ジュルヌのトゥールビヨンを取り上げたReference Pointsの特集(動画と記事の両方で)を制作した。
I've Been Wrong About Many Things – But One Thing I Got Right Was FP Journe
12年前に私が『ザ・テレグラフ』に寄稿した、初期のジュルヌがいかに過小評価されているかを論じた記事をぜひ読んでみて欲しい。いやはや、時代は変わったものだ。
とはいえ、ジュルヌ氏が本物の才能の持ち主であり、まさに一世代にひとりと言えるほどの逸材であることは間違いない。彼(そして彼を支える素晴らしいチーム)が、世界各地のブティックで心からの関心を集め、正当に評価されているのは本当にうれしいことだ。だがそれと、人々が何を求め、2次流通市場でいくらで取引しているかについては別の話だ。真鍮製のムーブメントを搭載したレゾナンスが330万ドル(日本円で約5億2700万円)? そうですか、としか言いようがない。だが、私が最初に購入したときは4万8000ドル(日本円で約760万円)だった。オクタが76万ドル(日本円で約1億2000万円)? まったく、とんでもない話だ。かつては3万ドル(日本円で約480万円)で、いつでも、どこでもケースに並んでいた時計だった。また、発表当時は多くの人から“ハズレ”とさえ見なされていたモデル(例えば、モジュール構造を理由に評価が分かれたオクタ・クロノグラフ)でさえ、今では驚くような価格で取引されている。要するに、ジュルヌの名前が付いているものなら、ほぼ何でも大金が動くようになったのだ。かつて#watchnerdたちに愛されたクロノメーター・ブルーも例外ではない。この時計は以前、1万9890ドル(日本円で約310万円/クレジットカードではなく銀行振込ならもっと安かった)を払える人なら誰でもブティックで購入できた。かつては、ブランドへの入り口となるモデルと考えられていたのだ。それが今では、2次流通市場で20万ドル(日本円で約3200万円)近い価格で売られている。一体どういうことなのか。
これを「昔を懐かしむ老人が、雲に向かって文句を言っているだけ」と片付けるのは簡単だし、たしかにそういった面もあるだろう。しかし特にジュルヌの市場はあまりにも急速に加熱しており、時計業界を長年見てきて、これからも長く関わっていきたいと思っている私にとっては、正直なところ少し不安になるほどなのだ。だが、もしかすると自分だけが、SS製のレゾナンスや真鍮製のムーブメントを備えたトゥールビヨン、ルテニウム製のトゥールビヨン、そしてプラチナ製ケースに真鍮製のムーブメントを組み合わせたレゾナンスで損をしたから、ひがんでいるだけなのかもしれない。
5.ブレスレットに人々が提示し、実際に支払っている価格(新品・中古品)
左側のブレスレットは、Talking Watchesに出演したクリスチャン・バンガート氏が中古で購入したものだ。今では、彼が装着した時計よりも価値が高くなっている。右側のブレスレットは、EWCの仲間たちが44万5000ドル(日本円で約7100万円)で販売している、とんでもなく“シック”なセットだ。まだ売れていないのが信じられない。
昔ながらのビーズ・オブ・ライスブレスレットを時計に合わせたいなんて、誰も考えない時代が長く続いていた。ストラップこそが主流だったのだ。ところが2020年から2025年にかけてスポーツウォッチブームが起こると、人々はロイヤル オークやノーチラスなど、そもそもブレスレットを前提に生まれた時計を求めるようになった。そして今日、私たちは全く異なるものを目にしている。現在のブームは、わずか18カ月前までならブレスレットに合わせるなんてほとんど誰も考えなかったようなドレスウォッチに、純正のブレスレットを組み合わせるというもの。その最大の例が、A.ランゲ&ゾーネに組み合わされているウェレンドルフのブレスレットだろう。私の知る限り、現在、プラチナ製のウェレンドルフの平均取引価格は、プラチナケースの初期型フルセットのダトグラフよりも高値を付けている。さらに最近では、ダトグラフ専用に製作されたきわめて希少なプラチナ製のウェレンドルフのブレスレット(あとからダトグラフに装着されることがよくある、ストレートエンドリンク仕様のビーズ・オブ・ライスとは別物だ)が、40万ドル台で取引されたという話も耳にした。しかも、その4の後ろには5桁の数字が続くのだ。
これは2次流通市場の話だが、1次市場もかなり異常な状況だ! パテック フィリップ(もちろん聞いてみることはできるが、必ずしも承諾してくれるとは限らない)、ジュルヌ、ベルネロンなど、所有する時計にゴールドブレスレットを追加したい? であれば、7万5000ドルから10万ドル(日本円で約1200万から1600万円)は覚悟しておきたいところだが、あなたはこの価格設定に対して「おかしい」と言えるだろうか? ブレスレットの品質や、現在の金価格、そしてこうした製品に従来から設定されてきた利益率(ブレスレットは時計職人やケースメーカーが自社で製作することはほとんどないのだ!)を考えれば、理解できない価格ではない。だが、私はさまざまな時計に合わせられる、汎用性の高いブレスレットをいくつか手元にストックしておくという考え方を強く推奨する。例えば、私はNaoya Hida & Co.の時計を1950年代のゲイ・フレアー製ブレスレットに合わせて着けているし、これまでそのブレスレットは、SS製のヴァシュロン・コンスタンタンやパテック フィリップ、ユニバーサル・ジュネーブ、ロンジンにも合わせてきた。また、2016年ごろにスペインで購入したハンドメイドのブレスレットには、ヴィンテージのイエローゴールド製パテック フィリップを4モデル合わせて着用したことがある。
ところで、ブレスレットブームは一時的な流行なのだろうか? わからないが、そうかもしれない。だとしても、ウェレンドルフの件はさすがにちょっと馬鹿げていると思う。確かに外観の素晴らしさは間違いない。だがあの値段を考えると、どうだろうか。ちょっと時代錯誤な気がする。品質はどうだろうか。きっと良いのだろうが(ウェレンドルフのブレスレットは所有したことがない)、社外品のブレスレットと比べて、あの値段に見合う価値は果たしてあるのだろうか? 私には理解しがたい。
ボーナス:事実を前にして、自分が信じたいことを信じる人々
時計に興味があって、ここで何を見ているのかよくわからない場合は、誰かに相談してみて欲しい! たとえデザインが好みでなくても、その品質は高く評価すべきなのだ。
少しくだらない話かもしれないが、何年経った今でも鮮明に記憶に残っている出来事をお話しする。関係者(そして罪のある人)のプライバシーを守るため、名前と顔は伏せさせてもらう。数年前、HODINKEEの編集者になりたいと強く願っていた(ちょっと傲慢な)青年を連れて、ジュネーブにあるふたつの独立系時計工房を見学に行った。いわば試運転のようなものだった。どちらの工房も当時、少しずつ名を上げ始めたばかりで、今のように“大物”というわけではなかった。最初に訪れた時計師の時計は、スタイリッシュでクールなもの。とてもデザイン性が高く、この若者が夢中になるのも当然だった。実際、とても面白いディテールを備えた魅力的な時計で、当時の価格もまだ十分に手の届くものだった。
次に訪れたのは、高度な技術を持つ時計工房。その青年は、テーブルに置いてあった拡大鏡も使わずに時計を手に取った。そこで感想を尋ねると、彼は「まあ、悪くないんじゃないですか」と答えた。もちろん、デザインそのものが彼の好みではなかったのだろう(それはそれで構わない!)が、続けて私は彼に問いかけた。「ムーブメントの構造と仕上げについてはどう思いますか?」彼の答えは「私の好みではありません」だった。
私はさらに掘り下げて聞いてみたくなった。好みは人それぞれだが、客観的な品質はまた別の話だからだ。そして後者の時計師が手掛けた時計は、時計製造という観点から見れば、前者よりはるかに優れていた。私は正直、驚きを隠せなかった。そこでさらに尋ねた。「ダイヤルの仕上げ(すべて手作業)や、部品の個々の仕上げについてはどう思いますか? すべて手作業です」。すると、彼は肩をすくめるだけだった。正直なところ、生粋の時計愛好家を自称するこの人が、目の前にあるものを本当の意味で理解していないことに、私はどうしても納得できなかった。しかも、彼は時計について学ぶことに興味も意欲も示さなかったのだ。言うまでもなく、この人物をHODINKEEに迎え入れることはしなかった。これは、品質とは何かについて、たとえ(この場合は文字どおり)目の前に品質がはっきりと示されているにもかかわらず、人々が勝手に独自の解釈を作り上げてしまうという、まさに典型的な例だった。
「今日の時計市場で起こっている、ものすごく理にかなっている5つのこと」
1.初期のA.ランゲ&ゾーネが、健全な盛り上がりを見せている
私たちの世代の高級時計の世界において、Ref.403.035、あるいは初代プラチナ製ダトグラフ以上に重要な時計があるだろうか? 私には確信が持てない。そして今、市場もその考えに同意し始めている。
2014年から2016年ごろにかけて私が取り組んでいたふたつのミッションは、F.P.ジュルヌとA.ランゲ&ゾーネのふたつの時計ブランドに注目してもらうことだった。どちらも2次流通市場では過小評価されていたが、ジュルヌの状況は明らかに変わった。ランゲの市場も大きく変化し、現在では正規市場での需要が過去最高水準にあるようだ。当然だ。だが、初期の重要なランゲの時計に対する需要も、今や間違いなく現実のものとなっている。例えば、クローズドケースバックのランゲ1、あまり知られていないリファレンス、そして初期のダトグラフなどは、いずれも相場が大きく上昇している。特に興味深かったのは、コロナ禍にランゲのクロノグラフで最も大きく値を上げたのが、いわゆる“デュフォーグラフ”、つまり39mmのローズゴールド製のダトグラフだったことだ。一方、初期のプラチナ製ダトグラフは、価値の上昇という点ではそれほど伸びなかった。だが当然それは、プラチナ製のモデルは長年にわたって生産されていたという事情もある。しかし、“メーター”ダイヤルを備えた初期モデルは現在、その差を急速に縮めている。フルセットのきわめて初期の個体になると、現在のダトグラフの正規価格を上回り、状態の良いものでは優に6桁ドルの価格で取引されている。
ここでランゲについて特筆したいのは、先ほど挙げた私の不満のふたつとは正反対だということだ。現行モデルも“ネオヴィンテージ”モデルも、その品質はあらゆる面で卓越しているからだ。現在、ランゲの限定モデルやスペシャルモデルは軒並み好調で、トゥールビヨン、ランゲ1、そして少し変わったモデルまで、何であれ高い人気を集めている。しかしジュルヌの市場とは異なり、製品の品質と現在の価格を考慮すると、この成長は着実で妥当なものに感じられる。まあ、ブレスレットの件はまた別の話だ。いずれにせよ、初期のランゲが勢いを取り戻しつつあるのは喜ばしいことだ。なぜなら、これほど長期間にわたり、あらゆるカテゴリーで一貫して優れた時計を作り続けているブランドはほかにないからだ。
2.現代のヴァシュロン・コンスタンタンは誰もが口にする話題の中心だ
ジョン・メイヤー氏は最近、オーヴァーシーズ・デュアルタイム “カーディナルポイント”を着用している姿を目撃された。これは間違いなく2026年に最も需要の高い時計のひとつだ。Left image courtesy of Getty Images
私は昔からずっとヴァシュロン・コンスタンタンが大好きだ。そして数カ月前にも書いたように、ここ2年ほどでこれほど目まぐるしい展開を見せたブランドがあるだろうか。だがこれまで正規市場では、必ずしも常に高い人気を得ていたわけではない。222が状況を変え、コロナ禍がその流れをさらに加速させ、今やヴァシュロン・コンスタンタンは小売市場でまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。実は毎週のように、ヴァシュロン・コンスタンタンを購入したとテキストメッセージやDMが(たまに有名人や影響力のある人からも)届くのだが、その数は実に驚くべきものだ。また、そのラインナップはカタログ外のオーヴァーシーズもあれば、レ・キャビノティエのモデル、一般的なカタログモデルと実に幅広い。
ここでひとつ言えるのは、オーヴァーシーズ・デュアルタイム・カーディナルポイント(ちなみに、これは限定モデルではありません)と限定モデルの2500Vの2モデルほど、今年のWatches & Wondersで私の友人たちが実際に購入を望んでいたモデルはなかったように思える。そして、私にもその気持ちがよくわかる。ちなみに私はこの1カ月、2500Vを着用しており、新キャリバーの品質と見事なストラップ交換システムに本当に感心している。ラバーストラップとブレスレットを、毎日交互に使っているほどだ。いや、本当に。これから届く予定のストラップもいくつかあるほどだ。というわけで、今のヴァシュロン・コンスタンタンは本当に勢いに乗っている。私を信じてもらっていい。
3.(一部の)独立系時計師は注文だけでなく、文字どおり通常のやり取りにも追いつけない状況にある
1枚の写真に6本のHODINKEE×グローネフェルド ルモントワールが写っている。2018年に1日で12本売れたことは、きわめて大きな出来事だった。だが現在では、問い合わせメールが彼らの元へ毎日10件も届いている。
約18カ月前にHODINKEEの運営に再び携わるようになってから、HODINKEEの始動期に親しくしていた人たちと、もう一度つながりを持つことを心がけてきた。そのなかには、独立時計師も含まれている。では、今はどんな状況なのだろうか? ひとつ例を挙げると、2018年ごろに私たちがコラボレーションしたグローネフェルド兄弟は、現在では1日に10件もの問い合わせを受けている。サイモン・ブレットのチームは、来年かなり先まで工房訪問の予約が埋まっており、時計もすべてすでに割り当て済みだ。カリ・ヴティライネンはどうだろう? 12年という待ち時間に達したところで、ウェイティングリストを閉じてしまった。レジェップについては…想像もつかないほどだ。
これが良いことなのか、悪いことなのか、それともその中間なのか。私は、基本的には良いことだと思っている。ここで名前を挙げた時計師たちは素晴らしい仕事をしているし、自分が好きな人たちのために時計を作れるというのは、まさに夢のようなことだからだ。しかし既存顧客も新規顧客も、大きなフラストレーションを抱えていることは間違いない。忘れてはいけないのは、こうした時計師の多くはきわめて小規模な体制で活動していること、そしてこのような需要が生まれたのはごく最近だということだ。何より、このレベルの時計を作ることがどれほど難しいのかを理解する必要がある。だからこそ、辛抱強く、そして相手の事情を理解する気持ちを持って欲しい。そして何より、親切でいて欲しい。 :)
4.小売価格は全体的に高すぎるが、適正価格で良質な製品もところどころに存在する上に、時折購入もできる
左側のランゲは2万5000ドル(日本円で約400万円)前後で、ローズゴールドまたはホワイトゴールド仕様が用意され、いずれも自社製ムーブメントを搭載している。右側の時計はSS製で、セリタ製ムーブメントを採用しており、価格は約2000ドル(日本円で約31万円)だ。どちらも良質な時計で、価格も手ごろだと思う。
ここ10年ほどで時計業界に起こった最悪の出来事のひとつは、小売価格がほとんど無差別に引き上げられ、もはや「いいな」と素直に思えなくなってしまったことだ。時折、昔のように、良質な製品をリーズナブルな価格で提供してくれる時計に出会うことがある。価格がいくらであろうと、それは変わらない。例えば(少なくとも私にとっては)この34mmのA.ランゲ&ゾーネ、このミンのブレスレット、この39mmのブラックベイ クロノとチューダー レンジャー、そしてほぼすべてのショパール L.U.C。そして最後に、手前味噌だが、2000ドル(日本円で約31万円)のHODINKEE×ドクサ限定モデルもそうだ。250本の時計に対して、購入を試みた人が約9000人もいたのだから、これが適正な価値を備えた時計ではなかったとしたら、何をもってそう言えばいいのかわからない。多くのブランド(ロレックス以外)が、消費者を驚かせるような魅力的な製品を提供してくれることを願っている。
5.時計にはまだ発見すべきことがたくさんあり、実に刺激的だ
この業界では、もうすべてを見尽くしたと思いがちだが、実際には誰にとってもそんなことはない。ジャーナリスト、コレクター、評論家など、さまざまな立場の私でさえ、今でもかなり頻繁に驚きの発見がある。新たに市場に出てきた、ブレゲ数字を備えるRef.2526、コンクール・デレガンスに出品された、これまで聞いたこともなかった特別なヴァシュロン・コンスタンタンの腕時計(これについてはのちほど詳しくお伝えする!)、あるいはもっとシンプルに、当時、著名人たちがヴィンテージのポルシェデザインを着用していた姿など、私にとってもまだまだ探求すべきことがたくさんある。ましてや、新進気鋭のインディペンデントブランドや大手ブランドの素晴らしい作品は言うまでもない。時計の世界にクールなものがもう残っていないと思っているなら、それはあなたの見方が足りないだけかもしれない。
ボーナス:とびきり素晴らしい腕時計を身に着けるとびきり有名な人々。そのレベルが全く新しい領域に
ニューヨークでマーク・ザッカーバーグ氏が新しいメタグラスを発表するとき、私は彼がこのジャン・ダニエル・ニコラのトゥールビヨンモデルを着用しているのにすぐに気づき、「すごい、そこまでやるのか!」と思った。
有名で裕福な人たちが良い時計を着けること自体は、今に始まったことではない。しかしこれほどの規模で、これほど著名な人物たちが、これほど素晴らしい時計を身に着けるようになったことは、少なくともこれまでにはなかったことだ。私が言っているのは、アスリートや俳優、ミュージシャンが“レインボー”デイトナやアクアノートを着けていることではない。ライアン・レイノルズがサイモン・ブレット、ベルナルド・レデラー、ロジャー・スミスを着用していること、マーク・ザッカーバーグが、同じ日にフィリップ・デュフォーのシンプリシティとジャン・ダニエル・ニコラのトゥールビヨンを着用していたことを言っているのだ。ニック・ケイジがヴァシュロン・コンスタンタンのトラディショナル・トゥールビヨン・パーペチュアルカレンダーを着けているのはどうだろう? さらに、ジェイ・Zがティファニーのサイン入りオイスターポール・ニューマンや、パテック フィリップのユニークなスカイムーン・トゥールビヨン(そしてサイモン・ブレットまで!)を着けている。ティモシー・シャラメがウルバン・ヤーゲンセンを着け、さらにその会社に投資しているなんて! 彼らはまさに一流の著名人であり、世界最高峰の時計を理解し、追求し、楽しむために、時間とお金を惜しみなく費やしている。それは実に素晴らしいことだと思う。
今後の“クライマー・タイム”のために、皆さんからのフィードバックをいただきたい
ここで挙げた話は、どれもそれだけでひとつの記事になるようなテーマだ。もっと詳しく知りたいものがあれば、ぜひ教えて欲しい。こうした市場の動向について、今後も定期的に取り上げて欲しい場合も、教えて欲しい。これから数日間、ここに寄せられる反応をしっかりチェックしたいと思う。もちろん、InstagramのDMで直接メッセージを送っていただいても構わない。
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