Photos by Mark Kauzlarich
ドバイウォッチウィークを通じて、コレクターとプレスのあいだで交わされた共通の質問は「ドバイウォッチウィークで最も気に入ったリリースは何か?」ということだった。ショパール L.U.C グランド ストライクは最も複雑なもののひとつ、あるいは最高峰の複雑時計だったかもしれない。カリ・ヴティライネンはふたつの新しいモデルを発表したが、それは彼らしい控えめなスタイルでそれほど注目を集めなかった(彼は自らを誇示することはあまりない)。しかし2025年のドバイウォッチウィークでの最大のリリースが、新しいチューダー レンジャー Ref.79930であることに疑いの余地はなかった。新しいサイズ(36mm)と、今後開催されるダカールラリーの耐久レースに焦点を当てたストーリーテリングを伴う新しいダイヤル(デューンホワイト)を備えた新しいチューダー レンジャーは、間違いなくドバイウォッチウィークにおける最も重大な商業的成功となるだろう。そしてそれは当然のことである。多くの意味で、これこそがチューダー レンジャーがずっとあるべき姿だったのだから。
これは私にとって、ある種の巡り合わせの瞬間だ。2022年のチューダー レンジャー復刻版の発表は、私にとってHODINKEEのフリーランスとして初めて参加したプレスツアーであり、発表直後に時計を素早く撮影して執筆しようとしたストレスを今でも覚えている。しかし、39mmモデルとしての再発売が最大の成功だったとは私には到底思えなかった。
ブラックベイ 58に匹敵するものなど存在しない(実際、すべてのブランドを通しても対抗できる時計はほとんどない)。ダイヤルのバランスが少しずれていて、私にはしっくりこない数字で、そして私の好みには少し大きくわずかに厚かった。それは堅実なフィールドウォッチだったが、(執筆時点での)私のIntroducing記事での最後のコメントで述べたように「私はまだこの時計の36mmバージョンを待っている」のだ。そして、ここにそれが現れたのだ(編注;また、レンジャー Ref.79950の実機レビューはこちらから)。
今回は、発表の数カ月前にチューダーからテキストメッセージを受け取り、ドバイで面会のアポイントメントを取れないか尋ねられた。「必ず来てほしい」というのがメッセージの要旨だったが、それが何であるかは皆目見当がつかなかった。最終的に、DWWで発表されるものは“よい”ものであり、11月20日(木)に発表されるという情報を得た。しかしその日付は間違っており、私たちは新しい36mmのレンジャーが発表された午前10時30分にチューダーのブースに駆けつけ、慌ただしく記事作成に追われる経験を再びすることになった。この新しいリリースは34mmだったヴィンテージのレンジャーにサイズがより近くなっており、ダイバーズウォッチほど大きくならない傾向にあるフィールドウォッチにより適したサイズである。
最大の変更点は明白なものからはほど遠いと私は主張したい。サイズ変更は写真では目立たない一方、新しいデューンホワイトのダイヤルがすべての注目を集めている。この色を36mmバージョンだけに留めるのではなく(一部のブランドが行う、色とサイズで好みが分かれる場合、2本の時計を購入させようとする手法とは異なり)、39mmが好みであれば、クリーミーなデューンホワイトのダイヤルを手に入れることもできる。
私にはこのダイヤルははるかにバランスが取れており、読みやすいと感じる。太字の黒いインデックスと、ヴィンテージのチューダー レンジャーに似た3、6、9、12のスタイル表示を備えている。6と9を構成する“円”やカーブは私には少し不思議に感じられ、それらを見ると無視できないほど6の下部と9の上部に縮こまっている。しかしダイヤル上のデッドスペースは少なく、黒い針はブラックダイヤルのシルバーの針よりもインデックスとよく合っている。
一生懸命試みたが、ドバイウォッチウィークの明るい会場は、夜光ショットを撮るのに最適な場所ではなかった。しかしデューンホワイトのレンジャーの夜光の処理にはわずかな違いがあることがわかる。針には、経年変化したようなダイヤルの色合いにマッチする夜光素材が充填されている。しかしブラックダイヤルのようにインデックスと数字を夜光にする代わりに、ここではミニッツトラック上の太いスティックプリントが、暗闇で光る色合わせされた夜光ドットに置き換えられている。また、針はブルー発光の夜光を備えている一方、ドットは実際にはグリーン発光だ(少なくとも私が見たサンプルでは)。
より伝統的な36mmのサイズ(少なくとも私にとっては改善点だった)とは別に、改善された点のひとつはわずかにスリムになったケースだ。以前のレンジャーは厚さ12mmで、サテン仕上げとポリッシュ仕上げによる面取りが施されたステンレススティールケースを特徴としていた。ダイバーズベゼルが視覚的な比率を変えないため、少し平板に見えることがあった。新しい36mmバージョンは少し薄くなり、厚さ11mmだ。チューダーのローズクラウンもそのまま健在だ。内部にはCOSC認証のマニュファクチュールによるムーブメント Cal.MT5400を搭載する。これにより70時間のパワーリザーブを得て、100mの防水性も確保し、フィールドウォッチとしての使用にも十分耐え得る仕様となっている。
さらに下の写真からわかるように、サンプルの時計は明らかに私よりも細い手首の持ち主が着けていたようで、フィットさせるために少し押し込む必要があった。しかしそれ以外、ブレスレット自体はチューダーが作るスティール製のものとしては最高で、一部の人々をいらだたせる厄介な偽リベットはなく、サイズ調節のために8mmの追加調整が可能なT-Fitクラスプが含まれている。時計のラグ幅は19mmで、20mmのNATOストラップのコレクションを持っている一部の人々をいらだたせていることは知っている。私に言えるのは、NATOストラップがきわめて高価で、追加購入を躊躇した経験はしたことがないということだけだが、それがまだ不便に感じる理由であることは理解できる。とはいえ、このケースサイズでは、20mmのラグ幅は少し不釣り合いに見えるかもしれない。
私の手首の締め付け感を無視できるならば、7.25インチ(編注;約18.4cm)の手首でも、新しい36mmのレンジャーがよく合うことがすぐにわかる。私は普段、34mmから40mmまでの時計を日常的に着用している。時計のサイズに関する好みはきわめて個人的なものだが、平均的な購入者にとってこの時計のサイズは非常に汎用性が高いと私は感じる。友人と時計を交換するとき、多くの場合、私に合えばほかの誰かにも合うものだ。私はまた、ブラックよりもホワイトにかなり魅力を感じた。これはホワイトダイヤルのブラックベイ プロやGMTを除けば、ブランドがこれまでほとんど提供してこなかった要素を提供している。スペックと並ぶダイヤルのシンプルさと相まって、多くの人々がこのオプションに引き寄せられるのがわかる。
もしひとつだけ批判を挙げるとすれば、それはホワイトの色合いそのものだろう。私は“フォティーナ”への不満を捨て去り、夜光の色、そしてここではダイヤルの色をほかの色と同じようにデザインの決定として見る時期はとうに過ぎていると思う。真っ白なダイヤルでも同じようにクールだっただろうか? それも個人的な好みであり、私にはその答えを伝えることはできない。ロレックスの“ポーラー” エクスプローラーを待っていた人々にとっては、完璧にフィットしただろう。しかし同時にそれは、姉妹ブランドがそのような時計を発表する機会を潜在的に奪っていた可能性もある。しかしこれはフィールドウォッチに求めるべき点において、エクスプローラーよりも荒削りで洗練されていないと感じられる。
なぜこれがドバイウォッチウィークからの最大の発表なのかというと、その説明は実に単純だ。フェアに参加しているすべてのブランド(ロレックスを除く)のなかで、チューダーは群を抜いて最大の商業的範囲を持っている。もしかすると(いくつかの厳選されたピースを除いて)、一般の顧客がよりアクセスしやすく、依然としてより手ごろな価格のブランドであるためだ。
価格はブレスレット付きで50万3800円、ファブリックストラップ付きで45万6500円(すべて税込)と、60万円未満に抑えられている。これはオリジナルのRef.79950が発表された時(当時の価格で、ストラップ付きが税込34万7600円)よりもやや高いが、依然として多くの購入者にとって手ごろな価格となる魔法の数字だ。チューダーはハミルトン カーキ フィールドの価格帯で競合するつもりはなかっただろうが、彼らは可能な限り“チューダーらしい”競合品を作り上げたのだ。
熱狂的なオーディエンスに広く語りかけるスペックで発売され、今年、より商業的なサイズである43mmのブラックベイ 68を含むラインナップに拡大されたブラックベイ 58とは異なり、レンジャーはその逆を行った。ブラックベイ 68は多くの愛好家とは異なり、大きくて大胆なサイズを好む顧客をターゲットにした、明らかに市場獲得のための戦略だ。これは、私が最近書いたチタン製のカルティエ サントス ドゥ カルティエの発売と比較することができる。同様に、39mmのレンジャーはそのラインナップで役割を果たした。それは競争力のあるフィールドウォッチだったが、愛好家よりも一般の消費者に手に取られる可能性が高いものだった。チューダー レンジャーは(39mmでの“デューンホワイト”ダイヤルを含む)より広範囲の選択肢を提供し、同ブランドで堅固に作られたフィールドウォッチを探している誰にとってもさらに魅力的なものにしている。
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