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The next 150 years: A new journey オーデマピゲが紡ぐRDシリーズの軌跡。次の150年への一歩として目指したのは、実用的な超複雑時計

オーデマ ピゲ150周年という節目で有終の美を飾ったのは、これまでさまざまな伝統的複雑機構を革新してきたRDシリーズの最新作だ。それは画期的なメカニズムに加え、次なる150年でメゾンが目指す道筋を予見させる“極めて優れた操作性”を兼ね備えていた。それはもはや、機械式の複雑時計ではない何か、である。


RD#5で到達したのは“直感”で使える複雑時計

このシリーズ名は、Research&Development(研究・開発)の意。2015年に始まったRDシリーズは、オーデマ ピゲとオーデマ ピゲ ルノー エ パピ(現オーデマ ピゲ ル・ロックル)による野心的な実験場だった。まず初作RD#1で、リピーター機構の音色と音量を革新。続くRD#2では、永久カレンダーの薄型化に挑み、当時の世界最薄を達成した。これら2作はコンセプトモデルとして発表されたが、後に各メカニズムは市販モデルに導入されている。

 対してRD#3は、ロイヤル オークの50周年記念モデルのひとつとして登場。本作では、フライングトゥールビヨンの極薄化を実現し、以降のRDシリーズも基本的に市販モデルとしてリリースされることとなる。RD#4は、オーデマ ピゲ史上もっとも複雑な腕時計であり、永久カレンダー機構に優れた革新をもたらした。

 RDシリーズのフィナーレを飾ったRD#5は、クロノグラフのリセット機構と駆動伝達に革命を起こした。極めつきは、驚くほどに軽快なプッシュボタンの操作感。目指したのは、スマートフォンの音量ボタンの押し心地だという。“直感”で使える複雑時計への道筋を、RD#5は開いたのだ。オーデマ ピゲが150周年を迎えた今年に至るまで、RDシリーズで実現してきたことは何だったのか? 機械式のハイコンプリケーションながら、実用的であるという野心的な5本の時計が達成した他の時計にはない個性を見ていきたい。


RD#1 ロイヤル オーク コンセプト スーパーソヌリ (2015年)

Ref.26576TI.00D002CA.01 チタンケース、44mm径

 RD#1のダイヤルにはクロノグラフとトゥールビヨンが確認できるが、主役は表からは見えないミニッツリピーター機構の革新性にある。その開発をするに際し、オーデマ ピゲは「アコースティック・ラボ」を開設。膨大なアーカイブから理想的な音色の手本となる時計を探索した。選ばれたのは、1924年に製造されたCal.11SMV#5という一本。これを手本に音響学を学んだエンジニアが中心となり、音色の解析と再現を試みた。


 いったんの音色の再現が成し遂げられても、開発は終わらなかった。朗々とした響きを実現することにも、挑んだからだ。試行錯誤の上にたどり着いたのは、アコースティックギターの構造だった。


 そのための詳細なアプローチは次のとおり。まずこれまでムーブメントの地板外周に取り付けてきたゴングを、チタンと銅の合金製の音響盤に設置してガスケットを介し、裏蓋にビス留めする構造に改めた。そして音響盤の外側にギターのボディのように音色を増幅する空間と、それを外に逃がす穴を持つカバーを取り付けた。この構造により、美しいゴングの音色を、朗々と鳴り響かせることがかなえられた。また音響盤の恩恵で、ミニッツリピーターウォッチながら防水性をもたせることを実現。さらにハンマーの動きを調速する役割をもつ伝統的な機械式ガバナーも、ブレーキの役割をするブレードを弾性をもった板バネ状とすることで、無音化を図った。それ以前、機械式では当然のことだったガバナーの音や非防水という特性を、まさに日常使いできるようなものに改めてしまったのだ。


RD#2 ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー ウルトラ シン (2018年)

Ref.26586PT.OO.1240PT.01 チタンケース、41mm径

 オーデマ ピゲは1978年、すでに永久カレンダーの薄型化について快挙を成し遂げている。閏年の2月29日も含めた各月の日数を溝の深さの違いで記録した永久カレンダーの48ヵ月カムを、閏年以外の12ヵ月カムと閏年カムとに振り分けることで同機構の薄型化を実現したのだ。RD#2は、自らが打ち立てた高いハードルからさらなる薄さを目指し、開発が進められた。そうして実現したCal.5133の厚さは、たった2.89mmしかない。


 伝統的な48ヵ月カムは、その同軸に48ヵ月歯車が重なる。ところがオーデマ ピゲは、この歯車の歯の間の溝の深さを変えることで、48ヵ月カムを兼ねさせた。また日付表示機構は日送り車、小の月の月末に日付を飛ばすためのスネイルカム、月表示を送る中間車が同軸に重なっている。これも日送り車の歯型形状を変えることで、スネイルカムに月送りの中間車を兼ねさせた。つまり二層構造と三層構造を一層としたのだ。いずれも形状は極めて複雑になるが、シリコン素材やLIGAプロセスに頼ることなく、高度な切削加工技術で既存の金属素材を仕上げることで見事に作り上げた。これらをムーブメントに直接組み込む一体型とすることで、当時の永久カレンダーとしては世界最薄が実現された。


 2018年の発表時には、前述したようにRD#2はコンセプトモデルだったが、2023年に外装素材を変えて市販化され、現在もラインナップされている。また2025年にリリースされた最新の永久カレンダーCal.7138にも、一層構造が導入された。

 

RD#3 ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン エクストラ シン (2022年)

Ref.26670ST.OO.1240ST.01 SSケース、39mm径

 前で述べた通り第3のRDシリーズは、ロイヤル オークの50周年記念モデルのひとつとしてリリースされた。目指したのは、オリジナルの“ジャンボ”と同じ径39mm、厚さ8.1mmのケースにフライングトゥールビヨンを搭載すること。これは途方もないチャレンジだったと言える。


 地板に固定された歯車の上に、テンプと脱進機を納めたキャリッジが重なる構造のトゥールビヨンは、機構自体にどうしても厚みが生まれる。そこで、これまでキャリッジをその下に設置したカナで回転させていた構造を刷新。キャリッジの台座自体を歯車とした周辺駆動に改めることで、全高を抑えたのだ。


 むろんキャリッジの上層部や中に納まるテンプの厚みを削る工夫も、凝らされている。ヒゲゼンマイはこれまでの巻き上げヒゲ(ブレゲヒゲ)ではなく、薄くできる平ヒゲに変更。さらにテンプのアームを削って段差を設け、そのくぼみにヒゲゼンマイを納めることでさらに厚みを削った。歩度調整のためのマスロットはテンプのリムに埋め込み、薄いテンプでも十分な振り角が得られるよう、脱進機のアンクル形状が見直された。これまでのクラブツース(カニの爪)状ではなく、くの字状として一方の端にクワガタを設け、逆側先端と屈曲した部分にツメ石を設置。ガンギ車の真横からツメ石が当たるようにして、クワガタ部の振幅をより大きくしたのだ。


 この薄型Cal.2968は、なんと37mmケースへの搭載も可能なほどのサイズを達成しており、今年初めてCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲの38mmケースにも搭載された。

 

RD#4 CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル(2023年)

Ref.26398BC.OO.D002CR.02 18KWGケース、42mm径

 RD#4は、このメゾンが始まって以来最も複雑な腕時計で、23の複雑機構を含む40の機能を搭載している。機構の名称を列挙すれば、グラン&プチソヌリ、ミニッツリピーター、スプリットセコンドクロノグラフ、フライングトゥールビヨン、永久カレンダー、ムーンフェイズと、ひとつでも十分なコンプリケーションを統合した超大作であり、グランドコンプリカシオンを超えるウルトラ コンプリケーションを名乗るにふさわしい。そしてメゾンが1899年に販売した、19もの複雑機構が備わるムーブメントのユニヴェルセルの名を受け継いだ。


 チャイミング機構には、RD#1で実現したスーパーソヌリを導入。しかも前作では合金製だった音響盤を0.6mm厚のサファイアクリスタル製とし、共鳴室を形成するカバーを開閉式とすることで、精緻なメカニズムを裏側から目にできるようにした。


 どれほど複雑であっても日常使いに支障のない厚さに抑えることが、この名門の矜持である。フライングトゥールビヨンには、RD#3の構造を導入。またRD#2の薄型化技術を活用した永久カレンダーは、2400年まで調整不要に進化させている。西暦表示の1と10の位が0となった際、2月29日をスキップさせる仕組みでグレゴリオ暦の100年周期ルールに対応させたのだ。さらに2時と4時位置の各プッシュボタンに、リューズを統合(スーパーリューズと命名)。4時位置のリューズで月表示、3時位置のリューズで日付表示を、ともに前後に調整できるようにした。月と日付の各表示で戻し操作が可能なのは、極めて異例と言える。2時位置のリューズでは、グランソヌリとプチソヌリ、またはオフの切り替用。さらにケース右サイドにも3つのボタンが備わり、各機能は上から順にミニッツリピーターの作動用、曜日送り、ムーンフェイズ調整用となっている。


 スプリットセコンドクロノグラフは、新設計だ。これもリング状のボールベアリングで固定するセミペリフェラルローターを新開発し、ベアリング中央に生まれた空間にクロノグラフ用とスプリットセコンド用の各駆動車を収めることで、薄型化を実現している。


 極薄のスーパー コンプリケーションでありながら、操作性にも優れ、日常使いにストレスを与えない。オーデマ ピゲは、あくまでユーザーが使うシーンを想像しながらものづくりを行っているのだと、痛感する一本である。


RD#5 ロイヤル オーク エクストラ シン フライング トゥールビヨン クロノグラフ(2025年)

Ref.26545XT.OO.1240XT.01 チタンケース、39mm径

 クロノグラフのリセットは、ハートカムをハンマーで叩いて行う──誰も疑問視してこなかった当たり前の仕組みを、オーデマ ピゲは当然としなかった。RD#5はハートカム+ハンマーに代わって、レトログラード機構に似たラック&ピニオンにリセット機能を担わせた。


 秒・分・時の各積算計駆動車と同軸に、一部の歯をカットしたピニオン(カナ)を設置。それに噛み合う櫛歯状のラックは、各駆動車の回転に伴い移動し、アームの付け根に取り付けたバネに力を蓄える。そして各駆動車が1周する度に、ピニオンの歯の切り欠きでラックが外れ、アームに蓄えたバネの力でフライバックする。このラックの動作でレバーが動き、分駆動車が1歯分送られる。同様に分駆動車が1周した際のラックの戻りでレバーが働き、時車が回る。そしてリセットボタンを押すと、各ラックが蓄えたバネの力で噛み合うピニオンとともに駆動車をゼロ位置に戻す仕組みだ。実にスマートなシステムである。


 駆動車に重なる分厚いハートカムがなくなり、またレバーはハンマーのように強い力を必要としないため華奢にでき、クロノグラフ機構の薄型化がかなえられた。一緒に搭載するフライングトゥールビヨンは、RD#3の技術を用いて薄く仕上げた。


 さらにプッシュボタンの操作感も、前述したように驚くほど軽く激変している。コラムホイール、もしくはカムを回すだけのスタート・ストップボタンの押し心地は、そもそも軽い。一方リセットボタンは、ハートカムを強く叩く必要があり、またそのための十分な距離だけハンマーを移動させなくてはならず、強く長く押し込まなければならなかった。しかし新たなラック&ピニオン方式であれば、トルクを蓄えたラックのバネを解放させるレバーをわずかに動かすだけで済むため、操作感が軽くなるのだ。この感触は、クロノグラフ作動中にリセットするフライバック操作でも変わらない。人間工学を開発の中心に捉え、指先への感触にこだわり、ユーザーが不安なく快適、かつ直感的に操作することをかなえるその姿勢は、単なる時計ブランドの域を超えている。RD#5によってクロノグラフそのものが、新たな時代の扉を開いた。

 11年間にわたって5作がリリースされたRDシリーズは、ル・ブラッシュとル・ロックル、ふたつのマニュファクチュールの探求心と創造性の成果である。当初はコンセプトモデルであったものを即座に販売モデルとできたのは、それらが実現した革新的機構の信頼性が、十分に検証された証しである。それはすなわち、設計・開発力と生産精度が格段に進化したことを意味する。


 永久カレンダーとトゥールビヨンの薄型化やミニッツリピーターのガバナーの無音化は、シリコンやLIGAプロセスを活用すればもっと容易に実現できただろう。しかしウォッチ コンセプション ディレクターのジュリオ・パピ氏は、全パーツは将来的に再生可能な素材と技術で製作すべきとの信念を持ち、その想いは本社の開発部門にも共有されている。RDシリーズの驚くような革新性は、150年間たゆまず培った加工技術の賜物であり、その価値は未来へ受け継がれ、メゾンのクリエイションを絶やさないのだ。

 

創業150周年を記念した「ハウス オブ ワンダーズ展」が東京・銀座で開催中

 さらにオーデマ ピゲの歴史を探りたいという方は、東京・銀座の並木通りで開催中の「ハウス オブ ワンダーズ展」へ。5つのエリアで構成された同展示は「時のギャラリー」、アーカイブピースから最新コレクションまでを紹介する「デザインの金庫室」、そしてメゾンのクリエイティビティをVRで体験できる「アイデアの旅」など、来場者を過去・現在・未来へと誘う内容になっている。

【展示会詳細】
オーデマ ピゲ 150周年記念「ハウス オブ  ワンダーズ展」
開催期間:2025年11月10日(月)~ 2026年4月30日(木) 
時間:11:30~19:30 (最終入場18:30) 
住所:東京都中央区銀座6-7-12 
※入場無料(予約優先)
お問い合わせ:特別展事務局 03-6830-0025
予約ページ:https://aplb.ch/a0968e8a-f890-4a78-be9c-58ebb3555b90

*予告なく開館時間・休館日が変更になる場合があります。 

Words : Norio Takagi Photos : Jun Udagawa Illustrations : Arthur Junier