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Interview タグ・ホイヤー×フラグメントデザイン第3弾。藤原ヒロシ氏が語るデザインの軌跡

第2弾から5年の歳月を経て登場した、コラボレーションの第3弾。洗練のモノトーンデザインが誕生するまでの経緯とプロセスについて、藤原ヒロシ氏に直接話を聞いた。

2025年12月2日、タグ・ホイヤーから藤原ヒロシ氏率いるフラグメントデザインとのコラボレーションモデル第3弾が発表された。2023年に登場したカレラ グラスボックスを下地とした「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ × フラグメント リミテッドエディション」は、過去2回にわたって展開されたコラボレーションのいずれとも趣を異とする潔いモノトーンデザインを特徴としている。ホワイトのフランジにブラック一色のダイヤル、12時のデイト窓には、1日と11日にフラグメントデザインのアイコンである稲妻マークが覗く。本作の基本的なスペックについては、マークによる紹介記事を参照して欲しい。

 すでにキャンセル待ちも発生しているほど話題を呼んでいる同モデルについて、HODINKEE Japanは今回、藤原ヒロシ氏に話をうかがう機会を得た。大成功を収めた2018年の第1弾、2020年の第2弾ののち、5年の歳月を経て再び始動したプロジェクトは、どのような経緯で始まったのだろうか。

藤原ヒロシ/Hiroshi Fujiwara。1964年三重県生まれのクリエイティブディレクター、ファッションデザイナー。ストリートブランドのひとつ「グッドイナフ」を経て、2003年に「フラグメントデザイン」を設立し、ナイキやルイ・ヴィトンなど世界的ブランドとのプロジェクトを通じてストリートとラグジュアリーを架橋してきた存在である。

 「今回のプロジェクトは2023年の鈴鹿GPに参加した際、タグ・ホイヤーからアプローチを受けたことで始まりました」と、藤原氏は語る。「その時に、ベースとなるモデルについても提案を受けました。その年の4月に発表されたばかりのカレラ グラスボックスですね。これでいかがですかと言われて。僕も気に入って、その場で決定したように思います」

 カレラ グラスボックスは、カレラ コレクションの60周年を祝うとともに、同コレクションの“新たなアイデンティティ”を象徴する存在として登場したタグ・ホイヤーにとっても重要な意味を持つモデルである。ブランドのヘリテージを1960年代の初代ホイヤー カレラに見られたドーム型風防の再現やサイズ(オリジナル同様の39mm径)によって表現しつつ、風防に沿って隆起する独特なフランジ形状によって新鮮な価値観をも提案するものであった。

 なお、タグ・ホイヤー側は、カレラ グラスボックスこそが藤原氏の持つクリアでミニマルなデザイン美学に最もしっくりと響くモデルであると確信していたという。2020年のコラボ第2弾から今回のプロジェクト開始までに3年の歳月を要したことについて尋ねると、ブランドのプロダクトサイクルと藤原氏のクリエイティブサイクルが一致したのが、まさにこのタイミングだったからだという回答が返ってきた。結果的に時間こそ空いたものの、コラボレーション自体はごく自然な流れで再開されたようである。ただ、もしかするとブランド側には、かなり早い段階からカレラの60周年という節目に照準を定めていた側面もあったのではないかとも推察される。

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ × フラグメント リミテッドエディション

 そして驚くべきことに、プロジェクトのスタートから3週間後には最終的なアウトプットとほぼ変わらないデザインをブランド側に提出していたと、藤原氏は語る。「もっと早かったかもしれないですね。今回も最初からモデルが決まっていましたし(編注;第2弾もベースモデルとしてフォーミュラ1がすでに決定していた)、タグ・ホイヤーからもデザイン的な要望や制約はありませんでした。その後は、サンプルが上がってきた際にアウターフランジの色を少し変えたぐらいです。もう少しくすんだクリーム色で、パールっぽい感じもあったので、もっとソリッドな白にしたいというお願いをしました」

 計算すると、藤原氏がデザインを提出してから1年強にわたる制作期間があったことになる。この期間についてタグ・ホイヤーに尋ねると、デザインが共有されたのち、正式な開発・検証プロセスに長い時間がかかったのだと説明があった。一見シンプルなアレンジに見える本作だが、オリジナルのカレラ グラスボックスとよくよく見比べてみると、細部にさまざまな変更が加えられていることがわかる。ホワイトのフランジに淡いグレーのタキメーター、オールブラックのダイヤル、一部の日付がフラグメントデザインを象徴する稲妻ロゴとなったデイトディスク、ローター、レギュラーモデルと異なる専用パッケージなど、それぞれに試作とレビューが必要であり、さらに現在のカレラに求められる高度な品質基準を満たすためには、これだけの時間が不可欠であったのだ。

デザインのベースとなった、2023年発表のカレラ グラスボックス。

A Week On The Wrist タグ・ホイヤー 39mmのカレラ “グラスボックス”を1週間レビュー

アントニー・トレイナが2023年に記した初代グラスボックスのレビュー記事

 スピーディに仕上げられた第3弾モデルのデザイン。その発想の端緒について話を聞くと、初めてカレラ グラスボックスを見た時からすでにインスピレーションを受けていたという。「この時計では、ベゼルのように盛り上がったタキメーター部分が、ガラスの中に入ってしまっている。その構造が、まずおもしろいなと思って。ガラスケースのなかに入れてしまうと、何でもちょっとアートっぽくなるじゃないですか。ダミアン・ハースト的な感じというか、この時計もすべての要素をガラスに閉じ込めることでオブジェのような雰囲気を持っている。そこに強く惹かれましたね」

 そこからアウターフランジ、デザインとしての白い丸をどのようにして綺麗に見せるかという思考に移る。ダイヤルをオールブラックであつらえ、バーインデックスを省略した点についても、「インデックスが主張しすぎて、そちらに目がいってしまわないように」という意図があるという。

明度の高い白のアウターフランジに、淡いグレーのタキメーターがプリントされている。これも、フランジの印象を強めるためのデザインかもしれない。

 なお、カレラ グラスボックスを象徴する12時位置のデイト窓を、今回のデザインで意識的に生かそうとしたのかを尋ねると、「そこまで強く意識はしませんでしたね。ロゴ(デイト窓のなかの稲妻ロゴ)も控えめに配置できて、ブランド側もそれを許容してくれてよかったと思います。本当に、ベースのモデルが持っているものを下地にして、そのうえに色を乗せていったという感じなんです。先ほどブランドからの制約はなかったと言いましたが、そもそも時計のデザイン自体が制約だらけなんですよ。それを僕は何となく理解しているので、ここから先はいけないというラインを判断できる。そのうえで、デザイン的にできることを精一杯詰め込みました。それでも結果的には、同じ時計とは思えないくらい印象が変わりましたね」

 藤原氏は、新たにデザインした第3弾のカレラ グラスボックスを手に取り、「クリーンになった感じですね」と呟いた。「元のカレラ グラスボックスはいい意味でのメカニカルさや無骨さがある。ですが今回のコラボモデルでは、いい意味でのカジュアルさやファッション性が生まれているように見えます」

 さらにこう続ける。「最初にカレラ グラスボックスを見せてもらった時に感じた、すべての要素がガラスに収められているおもしろさ。その感覚は今回のコラボモデルでさらに強調された気がします。ちなみに、最近ではサファイアクリスタルやセラミックのベゼルインサートも増えて、ガラスのような光沢から風防やダイヤルとの境目が曖昧になっていますよね。昔ってアルミニウムなどメタルのものが中心で、もっと別体感があったと思うんです。(ベースモデルを指し)こちらも特徴的なタキメーター付きのフランジは、ダイヤルやほかのパーツと一体化して見えています。だからこそ、中に入れられているアウターフランジを白くしてしまう。これによって、ガラスの中に複数の要素が収まっている感じがより強く出ています」

 そこが新しくていいですねと、藤原氏は満足そうに語り本インタビューを締めくくった。

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ × フラグメント リミテッドエディション。直径39mm、厚さ13.9mm、ラグからラグまでは46mm、。10気圧防水。サテン、ポリッシュ仕上げを施したステンレススティール製ケース。ブラックのセンターリンクを配した7連のステンレススティール製ブレスレット。ブラックオパーリンダイヤル、ブラックのインナーフランジ、ホワイトのアウターフランジ(シルバーのタキメータースケール付き)。グレーのプリントインデックス、グレーのスーパールミノバ®︎を塗布。ロジウムコーティングとファセット加工を施したポリッシュ仕上げの時・分針、ホワイトのスーパールミノバ®を塗布。Cal.TH20-00、時・分・秒表示、稲妻ロゴを配したデイト、クロノグラフ。価格は130万3500円(税込)。詳細はこちらから。

Photographs by Fumihito Ishii, Yusuke Mutagami