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豹が刻む時:カルティエ「パンテール」の物語

力強さとエレガンスを両立し、時代とともに変貌を遂げるデザインに無限のクリエイティビティの可能性を秘める。パンテールがメゾンの永遠の象徴と称えられる所以である。

パンテールは、フランス語で豹を意味する。こうしたアニマルモチーフは、ジュエリーの世界で人気は高く、その歴史は古く紀元前7〜8世紀のアッシリアの王アシュルバニバルのバングルにもすでにライオンが描かれていた。とくに豹は、アフリカの草原やインドのジャングル、中央アジアなどに生息し、中世やルネッサンス期のヨーロッパでは非常に珍重な野生動物として、エキゾチシズムを大いに刺激した。20世紀初頭にはアンリ・ルソーの描いた文明に犯されていない理想の楽園の光景にも登場し、室内装飾でも人気を博したのだった。

 カルティエがパンテールを初めてモチーフに採用したのは1914年のことだ。直截的にその姿を描くのではなく、独特な斑点模様による抽象的なデザインをオニキスとダイヤモンドで表現し、ジュエリーウォッチを飾ったのだ。生命力溢れる野生の躍動感を当時の最先端であるアールデコの芸術様式に組み合わせた独自の世界観は、メゾンの美的感性や革新性を象徴し、ひと目見ればそれがカルティエとわかるパンテールの歴史は始まったのである。現在ではジュエリーやアクセサリーといったジャンルの枠を越えて優美なスタイルを展開する特別なモチーフだが、その扉を開いたのは時計だったことは注目に値するだろう。


カルティエを象徴する「パンテール」の誕生と進化

パンテール ドゥ カルティエ ウォッチLM Ref.WGPN0051 516万1200円。マイヨン パンテール ブレスレット B6065417 145万2000円。パンテール ドゥ カルティエ リング、 B4230100 63万2500円(すべて税込)。

パンテールを時計のデザインに取り入れたのは、当時カルティエのデザイナーを務めていたシャルル・ジャコーだ。ジュエリーデザインのピカソとも評され、手がけた約4500点ものデザイン画は、繊細な色彩と透明感のある輝きから宝石同様の芸術と称えられる。1914年に描かれたペンダントウォッチではパンテールの斑点模様を用い、先のジュエリーウォッチとも呼応したデザインを残している。

カルティエが初めてパンテールをモチーフに取り入れた作品。ダイヤモンドとオニキスによるスポッツモチーフ。

PHOTO:NILS HERRMANN, CARTIER COLLECTION © CARTIER

招待カードに描かれたジョルジュ・バルビエによる水彩画「ダム・ア・ラ・パンテール」(DAMIER A LA PANTHERE)。Georges Barbier, Archives Cartier Paris © Cartier

 そして同年、メゾンの3代目当主ルイ・カルティエは、著名なイラストレーター、ジョルジュ・バルビエに新作展示会の招待カードの作画を依頼した。“貴婦人とパンテール”と名づけられた作品では、白いポワレのドレスを着た夫人の足下に黒いパンテールがうずくまり、まさにそのデビューを飾ったのだ。一説には、このモデルになったのはジャンヌ・トゥーサンと言われている。“ラ パンテール”の異名をもつ彼女こそがパンテールを唯一無二のメゾンのエンブレムにした立役者であり、そこからパンテールの第2章は始まるのだ。

 そのニックネームにふさわしく、トゥーサンのアパルトマンにはパンテールの絨毯が敷かれ、1917年にバルビエがデザインしたオニキス製のシガレットケースを愛用した。そこには左右対称のエメラルドの糸杉の間に優美なパンテールの姿が描かれていた。そしてそれはルイ・カルティエからの厚い信頼と友愛を込めた贈り物だったのだ。

パンテール クリップブローチ、1948年。パンテールの全身が初めて立体的に表現された。カルティエを最も象徴するジュエリーのひとつ。Archives Cartier © Cartier

 雄々しく、それでいてしなやかな肢体にエレガントな気品が漂う。そこに大戦後の新たな時代の女性像を重ねたのだろう。トゥーサンは、このパンテールをモチーフにしたジュエリーやアクセサリーを数多く手がけた。それまでのシンプルな斑点模様から、ゴールドや色鮮やかな宝石で大胆にその姿を表現。ウインザー侯爵夫人始め、世界中の王室や著名な顧客に愛され、パンテールはカルティエの永遠のエンブレムになった。そしてトゥーサンは1970年までメゾンのクリエイティブを支える。彼女こそがパンテールだったのだ。

 

パンテール ドゥ カルティエ ウォッチ

レディス:パンテール ドゥ カルティエ ウォッチ SM Ref.WGPN0059 745万8000円。マイヨン パンテール ブレスレット 145万2000円。メンズ:パンテール ドゥ カルティエ ウォッチLM Ref.WGPN0051 516万1200円(すべて税込)。

抽象から具象、そして再び抽象へ。1914年に初めてウォッチデザインに取り入れられたパンテールは、その初期こそケースやラグの一部を飾る斑点模様で表現されたが、トゥーサンの時代には、雄々しく躍動感ある野生の姿をジュエリーやアクサセリーのデザインに取り込んだ。それは女性たちの夢や欲望、そして自由で自立した精神を表現するにふさわしかったのだろう。そしてさらなる変貌を遂げる。1983年に登場したパンテール ドゥ カルティエである。

 1980年代に入り、技術革新と好景気の下、ライフスタイルは変化し、女性の社会進出をさらに促した。それはかつてパンテールがジュエリーウォッチとして誕生した時代とも重なったのかもしれない。新たな女性像を映し出すパンテールのアイテムとして選ばれたのもやはり時計だった。しかし華やかに彩るジュエリーとは異なり、時計は日常を共にし、その時を刻むものだ。そして伝統が息づくメゾンのウォッチメイキングでは、サントスやトーチュ、タンクといった代表作はシンプルかつタイムレスなスタイルであり、パンテールも直接的な表現ではなく、そのエッセンスをデザインとして落とし込んだのだ。

メンズ:パンテール ドゥ カルティエ ウォッチ LM Ref.WSPN0015 91万8500円。レディス:パンテール ドゥ カルティエ ウォッチ ミニ Ref. WSPN0012 64万9000円(すべて税込)。

 ケースは、丸みを帯びてシェイプした有機的な角形を採用する。リューズにはガードを設け、それもフォルムとの一体化を意識したものだ。そしてサイドから見たラグにかけての滑らかなラインは、まさに豹の背中から頭、伸ばした四肢を思わせる。

 文字盤を囲むスクエアのベゼルはケースとフォルムを統一し、8つのリベットをさり気なくアクセントに配する。文字盤は、ローマ数字インデックスとレイルウェイミニッツトラックで構成したメゾンの伝統的なデザインを受け継ぐ。

 そして何といっても最大の特徴がケース一体型ブレスレットだ。緩やかなカーブを描く曲面の5連リンクをポリッシュで仕上げ、粒が立ったように美しく煌めく。ゴージャスな存在感に加え、手首に沿うしなやかさはまさにパンテールの優美な動きそのものだ。

 躍動感のある曲線美と官能的とも言える装着感を併せ持ち、日々身に着けられるジュエリーのような魅力は女性たちを魅了し、瞬く間にメゾンを象徴するウォッチになった。その真価はジャンルを横断し、つねに時代の感性を吹き込み、自在に表現を変えて進化し続けることにある。そして尽きないクリエイティビティは以降も多彩なデザインや素材、装飾、サイズのバリエーションを発表し、いつの時代も新鮮な発見を与え続けたのだった。

 コレクションは2008年に一度休止するが、2017年にさらに魅力を研ぎ澄ませて再登場した。伝統的なデザインを崩すことなく、ケースとブレスレットは以前のサテンからフルポリッシュ仕上げになり、流れるようなブレスレットのリンクもより洗練され、ゴージャスさが際立つ。当初からPG、YG、SS、コンビといった素材のバリエーションを一堂に揃えたことからも絶大な人気が伺える。そして復活から8年を経て、力強さとエレガンスはさらに輝きを増しているのである。

 

パンテール ― 性別、時を超えて愛される存在

メンズ: パンテール ドゥ カルティエ ウォッチ LM Ref.W2PN0016 182万1600円。レディス:パンテール ドゥ カルティエ ウォッチ SM Ref.W3PN0014 221万7600円(すべて税込)。

誕生からの歴史的な経緯もあり、パンテール ドゥ カルティエはフェミニンなレディスウォッチと見られがちだ。しかし現行コレクションは、登場当初からSM(30×22mm)とMM(37×27mm)の2種類のケースサイズを揃え、ジェンダーレスなニーズに応えていた。そして現在のLM(42×31mm)、MM(37×27mm)、SM(30×23mm)、ミニ(25×19mm)の4サイズに拡張展開。一般的にミニとSMはレディス、MMはユニセックス、LMはメンズとして便宜上位置づけられているが、好みのスタイルやファッションに合わせて選ぶことができる。

メンズ: パンテール ドゥ カルティエ ウォッチ LM Ref.W2PN0016 182万1600円。レディス:パンテール ドゥ カルティエ ウォッチ SM Ref.W3PN0014 221万7600円(すべて税込)。

 デザインでは、同じく角形ケースに伝統的な文字盤スタイルを備え、メゾンのメンズウォッチを代表するサントス ドゥ カルティエと比較されることも多い。だがそれも細部を見ていけば、違いは歴然だ。サントスのケースが面取りによってシャープネスを強調するのに対し、あくまでもパンテールは有機的であり、リューズのカボションもフラットと半球状の違いがある。ケースから一体感を持って連なるブレスレットも、サントスがベゼルビスを配したスポーティなリンクに対し、パンテールはしなやかな5連リンクで構成する。こうしたデザインの差異はそれぞれの個性を明確に打ち出しているのだ。

サントス ドゥ カルティエ ウォッチ LM Ref.WGSA0029 673万2000円、パンテール ドゥ カルティエ ウォッチ ミニ Ref.WGPN0048 360万3600円(すべて税込)。

 PG、YG、SS、コンビといった素材や4サイズの展開、ジュエリーモデルなど幅広い選択肢を揃えつつ、ムーブメントはあえてクォーツを搭載する。それもケースの薄さとともにブレスレットとが醸し出す絶妙な装着感へのこだわりからだろう。そして有機的な角形ケースと一体型ブレスレットを組み合わせ、2針ノンカレンダーというドレスウォッチの王道を極めたスタイルは一切変えることはない。そのストイックなまでのデザイン哲学にパンテールの本質が宿る。それは、日常に纏う極上のジュエリーという、カルティエならではのウォッチコレクションであり、パンテールがメゾンのクリエイティビティを象徴するエンブレムであることをあらためて誇示するのである。

左からパンテール ドゥ カルティエ ウォッチ ミニ Ref. WSPN0012 64万9000円、パンテール ドゥ カルティエ ウォッチ SM Ref. WGPN0059 409万2000円、パンテール ドゥ カルティエ ウォッチ MM Ref .WJPN0092 580万8000円、パンテール ドゥ カルティエ ウォッチ LM Ref. W2PN0016 182万1600円(すべて税込)。

 

今回の特集は『Richesse Digital』との合同プロジェクトです。

 

【メンズ】ニットスタイル:茶ニット13万5300円、パンツ16万600円/以上トッズ(トッズ・ジャパン☎︎0120-102-578)、ニットスタイル:グレーニットポロシャツ41万300円、 パンツ26万4000円/以上ランバン(コロネット☎︎03-5216-6518)、Tシャツはスタイリスト私物、スエードブルゾンスタイル:ブルゾン66万3300円、ニット14万6300円、パンツ16万600円/以上トッズ(トッズ・ジャパン☎︎0120-102-578)【レディス】黒のニットトップス17万2700円(参考価格)、白のスカート74万3600円(参考価格)/以上ガブリエラ ハースト(ガブリエラ ハースト ジャパン☎︎03-6807-5077)、フリンジポンチョ11万4950円/以上トーテム(トーテム クライアントサービス●clientservices@toteme-studio.com)、タンクトップ7万3000円、グレーのスカート10万9000円/以上ルメール(エドストローム オフィス☎︎03-6427-5901)

Words: Mitsuru Shibata Photos:Yuji Kawata Styled:Akinori Shikata, Rena Semba Model: Eiji Fukui (donnamodels), Miki Ehara (Ipsilon)