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腕時計にとって、ブレスレットは単にケースを手首に固定するためのパーツではありません。ケースとの一体感や素材の質感、コマの構造や仕上げ、さらには微調整機構の有無まで、時計の印象と日々の着用感を大きく左右する重要な要素です。汗ばむ季節には、ストラップからブレスレットへと付け替える機会も増え、その存在感を改めて意識する人も多いのではないでしょうか。
ひと口にブレスレットといっても、最新の機構によって着用体験を進化させたものから、ブランドの歴史を受け継ぐもの、アンティークジュエリーのような趣を備えたものまで、その魅力はさまざまです。今回は、編集部員が実際に手に取り、個性と完成度に惹かれた4本を紹介します。
ゼニス クロノマスター スポーツ スケルトン、着用体験を進化させるZENCLASP™
Photos by Shota Akiyoshi
筆者が選んだのは、Watches & Wonders 2026で発表されたゼニスのクロノマスター スポーツ スケルトンだ。スモークをかけたサファイアダイヤル越しに、3万6000振動/時で駆動するエル・プリメロ 3600SKの構造を見せる41mmのクロノグラフで、その機械的な見どころに劣らず筆者を惹きつけたのが、SSモデルの3連ブレスレットに初採用された新しいフォールディングクラスプ、ZENCLASP™である。
ゼニスのブレスレットと聞けば、まず“ラダー”を思い浮かべる人も多いだろう。中央のコマを交互にくり抜いたような軽快なスタイルは、1969年にゲイ・フレアー社がゼニス専用として設計したものだ。現在もクロノマスター リバイバル A384などに、歴史的な姿を忠実に伝える重要な要素として採用されている。その復刻の魅力は、ゼニスの豊かな過去を手元で味わえる点にある。一方、筆者がZENCLASP™に感じる魅力は、過去の名作を再現するのではなく、これからのゼニスを感じさせるところにある。
開発には3年、計1800時間を費やしたという。滑らかに丸みを帯びた外形は手首への当たりを考慮したもので、ゼニスの星を配したセーフティカバーを持ち上げて開閉する。内部にはセーフティロックを備えており、さらに10個のセラミックボールがロックと各部品の位置決めを担う。硬く摩耗しにくいセラミックを要所に用いることで、閉じた際の確かな感触を生み出すとともに、内部部品の位置関係を長期にわたって正確に保つことを狙った設計だ。クラスプは全41のパーツで構成され、各機能は10年以上の使用に相当する実用試験として累計60万回を超える開閉サイクルを経て、耐久性が検証されているという。
日常で最も恩恵を感じやすいのが、工具不要のマイクロアジャスト機構だ。手首に時計を着けたままセカンダリーカバーを持ち上げると、2.5mm刻みで、合計10mmの範囲にわたって長さを調整できる。暑いときや手首がむくんだときは緩め、むくみが落ち着けば戻す。わずかな差だが、重さのあるクロノグラフを快適かつ安定して着けるには、この“ちょうどよさ”が効く。サイズ調整のたびに時計を外す必要がない点も実用的だ。
優れているのは、単に快適性を後付けした機構ではなく、安全性、耐久性、操作のわかりやすさまでをひとつの小さな構造にまとめている点だと思う。しかも今後はほかのモデルへ順次展開され、従来のクロノマスター スポーツ用ブレスレットにも装着できるという。ゼニスはエル・プリメロを1969年のまま保ち続けるのではなく、現代にふさわしく、ブランドを象徴するアイコニックな存在へと進化させてきた。ブレスレットもまた同様に進化している。歴史を受け継ぎながら、着用体験を前進させるZENCLASP™は、クロノマスター スポーツ スケルトンにふさわしい“現在進行形のゼニス”を象徴するディテールではないだろうか。
ゼニス クロノマスター スポーツ スケルトンの詳細はゼニス公式サイトへ
グランドセイコー Ushio 300 Diver、ブランドの“あともう一歩”を埋めるブレスレット
僕が選んだのは、Watches & Wonders 2026で登場したグランドセイコーのUshio 300 Diverです。グランドセイコーが小径サイズのダイバーズウォッチから登場したというのも魅力的でしたが、なかでも惹かれたのが、ケースと一体感のあるブレスレットでした。
素材にはケースと同じブライトチタンを採用し、鏡面とヘアラインを組み合わせて仕上げられています。チタンならではの軽快さを備えながら、エッジにはグランドセイコーらしい鋭い輝きが宿る。スポーティなダイバーズウォッチでありながら、高級感が両立されているのが印象的です。
装着感のよさも特筆すべきポイントです。エボリューション9スタイルの設計思想に基づき、ケース径に対して十分な幅と厚みを持たせたブレスレットが、時計を手首の上で安定させます。40.8mmという扱いやすいケースサイズに適度な存在感を与えながら、手首への収まりもいい。Ushio 300 Diverのキャラクターに、非常によく似合っています。
中留には、微調整機構付きのスライドロックエクステンダーを採用。2mm刻みで3段階の微調整ができるほか、エクステンダーを引き出すことでブレスレットを18mm延長でき、最大24mmのサイズ調整に対応する。
GSロゴを配したワッペン部分には、中留の開閉をロックする機構を搭載。ロックを解除すると赤いラインが現れ、状態を視覚的に確認できる。
中留にはスライドロックエクステンダーを搭載。日常使いでは2mm刻みの微調整に対応し、ダイビング時には大きく延長できます。季節や体調による手首の変化から、ウェットスーツの上からの装着まで、幅広い状況に対応できる実用的な機構です。
グランドセイコーのブレスレットは、時計愛好家のあいだで長年「あともう少し」と語られることがありました。しかし2025年のエボリューション9 コレクション スプリングドライブ U. F. A.の登場と前後して、その印象は明らかに変わりつつあります。ダイバーのためのエクステンダー付きブレスレットは現状Ushio 300 Diverのみですが、スライドロックエクステンダーを搭載したブレスレットは、現在エボリューション 9コレクションのモデルへ徐々に展開されています。グランドセイコーの新型ブレスレットは時計本体の完成度をさらに引き上げ、同社が長年向き合ってきた“あともう一歩”を埋める存在だと思います。
グランドセイコー Ushio 300 Diverの詳細はグランドセイコー公式サイトへ。
パネライ ルミノール マリーナ PAM03323、着け心地を追求し続ける着実な進化
この夏のダイバーズウォッチ企画をはじめ、パネライを扱う機会が最近増えている。だが、それも仕方がない。単純に最近のパネライはプロダクトとしてよくて、こうであったらいいのに、という願いをピンポイントで叶えてくれるからである。それはムーブメントに秒針停止機能を徹底するというわかりやすい改善であったり、古きよき時代のデザインへの回帰だったりする。そして今回の企画を受けて夏らしく快適なブレスレットはないか探した際、パネライが昨年さりげないアップデートを果たしていたことに気がついた。それがクイック レングス アジャストメント機能である。
多くのブランドにおいて、ブレスレットのアジャストメント(微調整)機能はバックル部に搭載されるのが一般的だ。しかしパネライは、それをブレスレットの途中、バタフライバックルの両側に配置した(下の写真を参照)。一見するとプッシャーは目立たず、艶消しの中ゴマを軽く押すことで、片側で最大2mm、両側合わせて4mm拡張することができる。
ルミノールのリューズプロテクターを模した同ブランドのブレスレットは、1999年に初登場した。ただ、当時はそのサイズゆえに確かな重量があり、日本人の細腕には合わないという声もあったという。それでもパネライは、段階的な改善を重ねてきた。2008年、2017年と軽量化や柔軟性の向上を図り、2024年にはケースからバックルにかけて細くなるテーパーデザインを取り入れている。なお、ラバーストラップでも楽しみたいという愛好家には嬉しいPAMクリックリリースシステム™(工具を使わずにストラップを着脱できる機構)も、進化の過程で搭載されたものだ。
ルミノール ルナ・ロッサ GMT。ケース径は40mmで、それに合わせてブレスもスリムになっている。
そして今年の新作、サブマーシブルPAM01756やPAM03323にも採用されているアジャスタブル機能である。ブレスレットが少しずつ軽く着けやすくなってきたとはいえ、パネライはそもそもが量感のある時計だ。だからこそ、特に腕周りが変化しやすい夏場において、この4mmの拡張は非常にありがたい。しかも、ブレスレット本来の美しいシルエットを損ねない、さりげないデザインに仕上がっている。こうした細やかな配慮と実用性の高さこそが、今のパネライをさらに魅力的な一本へと昇華させているのだ。
ちなみに、昨今ではルナ・ロッサ GMTで40mm径のモデルにも合う細身のブレスも登場した。こちらにはまだアジャストメントは付いていないが、今後のアップデートに期待したいところである。
パネライ ルミノール マリーナ PAM03323の詳細はパネライ公式サイトへ。
モバード ミュージアム ヴェルーラ ミニ、アンティークブレスレットウォッチを思わせるミラネーゼブレスレット
アンティークの金無垢ブレスレットウォッチについて、少し話をさせて欲しい。以前、SOLAKZADEを訪ねてアンティークのブレスレットウォッチを取材して以来、私の時計の見方は変わってしまった。単に時間を知るための道具としてではなく、ケースやブレスレットが装飾的につくられ、ジュエリーのように着けられる時計に惹かれるようになったのだ。
そんな私が、今年5月に開催されたTime United Tokyo 2026の会場で目に留めたのが、モバードのミュージアム ヴェルーラ ミニだった。私はこれを見たとき、まるで古いジュエリーウォッチが現代に蘇ったのかと思った。
ただこれは金無垢のアンティーク品ではない。21mm径、厚さ6.35mmのステンレススティールケースにクォーツムーブメントを収めた現行モデルで、シルバー、ピンクゴールド、イエローゴールドの3色が用意されている。
おもしろいのは、装飾を抑えた文字盤と、表情豊かなブレスレットとの対比だ。12時位置にドットをひとつ配したミュージアムダイヤルは、ロゴと針を除けば情報はほとんどない。一方、ブレスレットは一般的なミラネーゼメッシュに見えるが、近くで見ると、金属メッシュの表面に凹凸模様が重ねられているように見える。光を受けると、その凹凸に細かな反射が生まれ、平滑なメッシュのように一様に輝くのではなく、模様の輪郭がはっきりと現れる。古い金無垢のブレスレットウォッチを思わせたのはこの表情だった。
モデル名のヴェルーラ(Velura)は、エスペラント語で“シルクのような”を意味する。実際に手首に巻いてみると、その名のとおりブレスレットはしなやかで、硬さを感じにくい。しなやかなメッシュは私の細腕にも無理なく沿ってくれた。
無垢でできた古いブレスレットウォッチは、注文時にオーナーの手首に合わせてブレスレットを仕立てることがあり、持ち主の体型が変わったり別の人の手に渡ったりすれば、ブレスレットの一部を切り取ったり、金を足して接合し直したりする必要があったという。一方でこの時計は、アンティークの金無垢ブレスを思わせながら、一般的なミラネーゼと同じように、バックルをスライドさせるだけで長さを調整できる...私はすっかり、この時計に魅了されてしまった。
モバード ミュージアム ヴェルーラ ミニの詳細はモバード公式サイトへ。
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