ADVERTISEMENT
現代のカルチャーに造詣が深い読者であれば、「松葉屋」の名を知らずとも、昨今の盆栽ムーブメントを牽引する「TRADMAN’S BONSAI」、そして洗練されたファッションに身を包む気鋭のプロデューサー、小島鉄平氏の存在を耳目にしたことがあるはずだ。
昨今ではジミーチュウをはじめとしたハイブランドや、ラグジュアリーホテルであるNOT A HOTELを筆頭に、国内外のコラボレーションも数多く実施されている。それとともにメディアでは小島氏本人の取材記事も多く見られるようになっており、今最も熱視線を集める存在と言っていい。HDINKEE Japanでも2025年に、氏のライフスタイルを所有する時計とクルマから読み解く企画を行った。
2026年7月24日。この日は松葉屋の創設から10周年を祝う、大規模なイベントが東京都の南、東京湾に面した安田造船所にて開催された。まだ日の高い昼過ぎよりスタートした同イベントには松葉屋の顧客だけでなくそのフレンズも集まり、代表・小島氏と肩を抱き合いながらこの記念すべき日を祝う姿が見られた。
そのイベントの開宴直前、会場として港に停泊した船のなかでHODINKEE Japanはインタビューを実施。盆栽の存在を世界に知らしめるべく松葉屋を立ち上げた小島氏をして「早送りのようだった」と述懐する10年間を振り返りつつ、改めて盆栽への深い思いを明かしてもらった。
創立10周年を飾るテーマと、盆栽が持つ“国護”の力
節目を飾るこの日のために小島氏が選んだキーワードは「大調和」。それだけでも、これまで多くの人が関わってきたことを想像させるには十分な言葉だ。ただ、単に過去10年を総括しただけのものではないという。
「ひとつは、今まで10年間、松葉屋に関わるすべての皆さまが、それぞれ異なる属性のもとで調和していただき、大きなエネルギーの結晶ができました、というご報告です。もうひとつは、多様性が広がっていく今の時代、こうした大きなハーモニーがこれまで以上に必要となるだろうという、未来に向けたメッセージにもなっています」
その中心には当然、盆栽がある。小島氏が信じる、その力とはどのようなものか。
「日本人なら誰もが盆栽を知っているじゃないですか。深くは知らずとも、盆栽を愛でる気持ちはどこかしらDNAに刻まれているはず。僕らは、そこに注目しています。多くの人たちに、盆栽を入り口として日本の文化や歴史、伝統的な技術などを知ってもらいたい。僕らは、松葉屋を『国護(くにまもり)の会社』だと謳っています。若い人たちに盆栽への興味を持ってもらうことが、現代の日本文化が抱えている後継者問題や技術継承問題の解消にも繋がっていくはずだと信じているんです。さまざまな要素を備えた盆栽は、そうしたフックとしても機能する、いわば“国を護れる”存在だということです」
確かに盆栽という文化は、植物そのものを育てる伝統技術だけでなく、それを入れる器や剪定する鋏など多くの職人技術のもとで成り立っている側面がある。盆栽の発展がひいては日本の伝統文化のボトムアップに繋がるという発想は理にかなったものだろう。小島氏の姿勢に共感した仲間がこれまでの間、松葉屋に集結し、今や従業員30人を数えるようになった。
「今の今まで一度も求人をしたことがないんですよ(笑)。しかも、離職率0%! これは、間違いなく盆栽のおかげだと考えています。入社した皆は、ポップアップイベントや展示会などに履歴書を持参したりして自然と集まってきました。共通点はひとつ、盆栽に何らかの魅力を感じたということ。盆栽が僕らを繋いでいる。いついかなる時も、真剣に盆栽に向き合ってくれる大事な仲間です」
振り返れば早送りのようだった10年間だが、決して順風満帆ではなかった。
「松葉屋としては10年、TRADMAN’S BONSAIとしては11年。盆栽の世界は狭く、異端に見られた僕らは、一時盆栽を入手できないような状況に追い込まれたこともありました。それでも、時間をかけて業界の先輩たちに向き合い、さんざん喧嘩もしながら、お互い言いたいことを言い合ってきた結果、今では助け合える関係性も築けています」
記念イベント「大調和」が開催されたのは、大田区の安田造船所。ラグジュアリーなボートが数多く停泊するなか、松葉屋との親交の深い先端的な人々が数多く集った。
まずは世界で名を上げようと、TRADMAN’S BONSAIをスタートして海外で活動したのちに帰国。日本で信頼を得るには基礎が必要だと痛感した小島氏は、確かな盆栽職人のもとへ弟子入りを志願した。本来6年かかる修業を3年で修め、さらに師事した職人を自らの仲間に誘い入れたというエピソードは、彼の情熱と行動力を物語っている。伝統的なクラシックスタイルと現代的な感性をミックスさせることで、松葉屋の強固なオリジナリティは確立されていったのだ。
ただ、因習的な世界にあって、俗に言う“出る杭は打たれる”といった洗礼も浴びたはずだ。一口に「大調和」と言っても、そこに至るまでの道のりが困難であったことは想像にかたくない。しかし、小島氏の盆栽にかける真摯な思いが通じ、盆栽界に大きなうねりをもたらす現状に至っていると言って過言ではない。
数々の人気DJたちのプレーにより、サウンド面も充実するなか、松葉屋と親交の深いシェフなども集結。豪華な料理も振舞われていた。
究極の時間軸と“置き手紙”。盆栽が繋ぐ数百年というロマン
「盆栽から教わったことも少なくありません」
小島氏の言葉のひとつひとつから、盆栽という存在の大きさが読み取れる。これまで盆栽の本質に向き合ってきた証だ。
「鉢の上には、正しい剪定や水やりを経て美しく管理された盆栽の姿があります。けれど重要なのは、表に出ていない、つまり鉢の中にある根っこ。これは人間にも通じますよね。内面が磨かれてこそ、その美しさが外見にも表出する。こうした本質的な見識は、盆栽から学んだことのひとつです」
盆栽から多くの学びを得るなかで、小島氏の世界を見る目が大きく広がっていった。そして人と人とを繋ぐ盆栽は、さらに時代を超えていくのだと氏は語る。
「盆栽は極言すれば、時間を超えた存在です。例えば樹齢500年の盆栽は、室町時代、江戸時代を超えて今に至ります。500年もの昔を生きた先人が一本の木を愛で、水をやり、風通しを考えて剪定し続けてきた。本来盆栽は、真夏に1週間何もしなかったら枯れてしまうぐらいにか弱い存在なんです。それを500年ものあいだ、誰かが日夜手をかけ続けて今に至っているわけですよね。先人たちは亡くなっていますが、盆栽は生き続けて、次の世代へ継承されていくんです」
盆栽についての知識がなくとも、こうした話を聞くだけで、想像を絶するスケールの大きさを感じることができるだろう。
「そして、僕らが長い時間かけて育てられてきた盆栽に向き合う時、先人たちがどのようにこの盆栽を育てたかったのか、枝ぶりや幹の見せ方から感じとることができるんです。僕らはこれを“置き手紙”と呼んでいます」
時代を超え、先人たちと盆栽を通じて会話をするのだという。これを壮大なロマンと言わずしてなんと言うか。さらに受け取ったものをどう次世代に引き継いでいけるかも、彼らの腕前にかかっているのだから、面白い。
「長い時間を生き抜いてきた盆栽ですが、時代ごとに流行もありますから、先人たちが少しずつ入れてきた“エゴ”もちらりと垣間見えるわけです。そして、同じように僕らも少し“エゴ”を入れていく。完成形がどうなるかなんて、誰にもわからない。もちろん正解もない。けれど、時間軸を超えて盆栽というバトンが人と人とを繋いでいく。究極の時間旅行だと感じています」
過ごしてきた時間を思いやる感性は、ヴィンテージの時計やデニムなどにも通じるものがある。実際、小島氏はそれらに深い造詣をもっており、当日の着こなしでも、手首にはヴィンテージのカルティエ サントス デュモンが輝いていた。引き算の美学を感じさせる洗練されたデザインを、ジュエリー的な感覚で取り入れているという。また、剪定作業など水を扱う仕事中であってもSSとYGのコンビネーションが美しいサントス ガルベを厭わず着用し、傷だらけになったブレスレットすらも自身の歴史として愛している。
また松葉屋の社員には、その証としてカレッジリングが贈られる。そして何かの記念を迎えたスタッフには、ヴィンテージのカルティエがプレゼントされるのだという。義父の形見であるオメガ デ・ヴィルを法事などで大切に身に着けるエピソードからも窺えるように、時代背景やそこに込められた見えない思いに魅力を感じる小島氏が、時間を象徴する腕時計を重視するのも、決して偶然ではない。
「植物を愛でるという時間がどれだけ重要かということも、これまでで気付かされたことのひとつです。コロナ禍では、特にメディテーション的な存在としても普及した盆栽ですが、今後はさらにそうした癒しとしての存在感を増していくでしょう」
デジタル化が進む現代、そのカウンターとしてアナログ的なものがより注目を浴びつつあるなか、自身の体験としても盆栽人気の高まりを肌で感じているようだ。
「一家にひと鉢、盆栽を」と、冗談のようだが、真顔で語る小島氏。盆栽について考えに考え抜いた男が、見出したひとつの答えのようだ。
「本気ですよ(笑)。日本の文化や歴史を広く知ってもらうことが当初の目標で、もちろん今も変わりはないんです。だからこそ、“一家にひと鉢”を提案したい。世界中の人たちがこれを実践できたら、荒んだ世のなかですが、少しは平和になるはずって本気で思っています。盆栽を愛でること、イコール過去のものを壊さず次代に継承すること。それってつまり、“愛”なんですよ」
盆栽で世界平和を。強烈なメッセージだが、盆栽を世界中に広める男にとっては十分な大義名分といえる。だからこそ、コラボレーションをはじめとする多彩な活動を通じて、盆栽をより多くの人に見て、知ってもらうような環境づくりに勤しんでいるのが、今の小島氏が率いる松葉屋の姿なのだ。
「松葉屋では、伝統的な“ザ・盆栽”も作りますが、先鋭的でニュースクールな現代の盆栽も手がけています。特に真柏という品種を使った“攻めた”スタイルは評価が高いです」
やや技術的な話になるが、人の手によって一部を枯れさせることで、白化した箇所を作る工程が存在する。枝の部分を神(ジン)、幹の部分を舎利(シャリ)と呼び、それらが水吸いと呼ばれる生きている箇所とどうバランスするかで、その価値が変わるのが盆栽の世界だ。小島氏の言う“攻める”は、神・舎利をうまく組み合わせる手法のこと。真柏という品種は、神・舎利が綺麗に白くなるため、生育は難しいが人気は高い。
「攻めた盆栽づくりが、松葉屋のトレードマーク。僕らはそこに万物の生と死を見出しています。これを“生きる現代アート”と呼んでいますが、今、実際に現代アートのコレクターたちにも評価されているのが、この点です。今日もコレクターの方たちに購入いただいたコレクションをお借りして展示しています。海外の方からの評価も高く、いよいよ世界への広がりを肌で感じています」
世界に広がる“BONSAI”の熱。時空や生死を繋ぐ“生きる現代アート”として、新たな価値観を与えたのは、小島氏率いる松葉屋の10年間にほかならないだろう。そして、向こう10年も「大調和」を旗印に快進撃を続ける松葉屋の姿が目に浮かぶ。
Photographs by Keita Takahashi
話題の記事
Interview 盆栽という究極の時間軸。松葉屋 小島鉄平氏が語る10年の軌跡と辿り着いた“大調和”
Introducing グラスヒュッテ・オリジナル セネタ・クロノグラフとセネタ・クロノグラフ ナビゲーター
Introducing レガーレ チャプター1 AGP インバーテッド―ウェイ・コーとギヨーム・テトゥによる新ブランド初の腕時計が登場