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Hands-On Watch Ho & Co.とセルテンのコラボモデル、ヤムチャエディションを実機レビュー

香港の時計愛好家グループとマイクロブランドによる3度目のコラボレーションは、手仕事をとおしてひとつの個人的な物語を描き出した1本。

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Photos by TanTan Wang

本日発表されたのは、Watch Ho & Co.と香港を拠点とするマイクロブランド、セルテン(Selten)による3度目のコラボレーションだ。これまでセルテンの時計を取り上げたことはなかったと思うが、昨年10月、ニューヨークで開催されたワインドアップ ウォッチ フェアを訪れた際、ブースでじっくりと時計を見て回ったことがきっかけで、このブランドに注目するようになった。

 そのときに出会ったのが、香港の時計愛好家・コレクターコミュニティ、Watch Ho & Co.の創設者であるジャッキー・ホー(Jackie Ho)氏だ。これまでにWatch Ho & Co.とセルテンは、ジュイ(Jui)とジュイ バウヒニア(Jui Bauhinia)というふたつのコラボモデルを発表している。いずれも1300ドル(日本円で約20万円)以下で、マザー・オブ・パールダイヤルにCNC加工で特徴的な“マウンテン”パターンを施したデザインが核となっている。バウヒニアでは、初代モデルのデザインをさらに発展させ、虹色に輝くピンクまたはパープルのダイヤルを採用。Instagramの時計コミュニティで、コレクターたちのリストショットを何枚か目にしたことがあるかもしれない。私にもこの時計を持っている友人が何人かいるが、実物は本当に素晴らしい。

Watch Ho Co x Selten Yum Cha Wristshot in pocket

 時計愛好家グループの3周年を記念して、ジャッキー・ホーは、ヤムチャ(広東語で“飲茶”を意味する)と名付けられた3回目のコラボレーションを、全く異なるクリエイティブな方向性で進めている。スペックだけを見ても、今回のモデルはよりラグジュアリーな方向へと舵を切っている。従来のCNC加工に代わり、ダイヤルには手彫りのモチーフを施し、その上からグラン・フー エナメルを重ねるという、手仕事を生かした仕上げを採用したのだ。これまでのモデルでは、ダイヤルモチーフの着想源を古代中国の甲冑としていたが、ヤムチャではホー氏自身のより個人的な記憶がインスピレーションとなっている。「僕が5歳になるまで育ててくれたのが、ポーポー(祖母)で、その後、僕は海外へ移住したんです。だから香港での一番古い記憶といえば、幼稚園に通って、家で祖母と一緒に過ごして、それから祖母と点心を食べに行ったりしたことです」と彼は話してくれた。私たちの多くにとって、どれだけ中華料理が好きでも、点心はたまにしか食べないかもしれない。しかしホー氏にとって、飲茶に出かけることは少なくとも週に3、4回はある日常的な習慣だった。

 「当時、あれが彼らにとっての社交の場だったんです。バーに飲みに行ったり、食事に出かけたりする代わりに、彼らは朝に太極拳をして、僕を起こして、それから一緒にヤムチャをしに行く。それは僕にとって本当に大切な記憶で、今でも思い出せる子ども時代のなかで、最も幸せな時間のひとつでした」とホー氏は振り返る。だからこそ今回のヤムチャでは、そのインスピレーションがより直接的にダイヤルへと落とし込まれている。手彫りで表現されているのは、竹製の蒸籠の蓋に見られる、細かな線と交差する編み目のパターンだ。ダイヤルの製作を担うのは、セルテン専属の彫金師兼エナメル職人であるマスター・チン(Master Qin)氏。彫刻の工程だけで、1枚のダイヤルにつき約8時間を費やしている。まずシルバー製のダイヤルベースに、格子状に交差する太いラインを彫り出し、その後、約80個ある長方形のひとつひとつに約40本の平行線を手作業で加えていく。きわめて細かな線の積み重ねだが、実物を目にするとその仕上がりは実に見事で、使い込まれた蒸籠の蓋のような表情を、どこか有機的な雰囲気とともに再現している。さらにそれぞれの長方形の中央付近に施した点状のテクスチャーと線の組み合わせによって、平面的な表面でありながら奥行きがあるように見える。

Watch Ho Co x Selten Yum Cha Soldier
Watch Ho Co x Selten Yum Cha Crown Shot
Watch Ho Co x Selten Yum Cha Dial Closeup

 彫刻の工程に続いて行われるのが、同じくチン氏と弟子が釉薬を施し、焼成まで手掛けるグラン・フー エナメルだ。8層にわたってエナメルを重ねて焼成することで、ベージュのガラス粉末を深みがありながら透明感も備えた琥珀色へと変化させ、使い込まれた蒸籠を思わせる表情を与えている。完成したダイヤルはフュメのような効果を備え、外周に向かうにつれて琥珀色が濃くなっていく。ただしジャッキー・ホー氏によれば、最終製品ではその効果はプロトタイプほど強くなく、縁に向かってより均一かつ緩やかに色が暗くなる仕上がりになっているという。これは私が数週間手元に置いていたプロトタイプとは(文字どおり)対照的だ。最後にエナメルの表面を手作業で研磨し、艶やかな光沢を与える。彫刻、エナメル加工、研磨までを含めると、セルテンによれば1枚のダイヤルを完成させるのに約16.5時間を要し、しかも製作したダイヤルのほぼ半数が不合格になるというが、同様に手彫りとエナメル加工を施した他社のダイヤルを見ても、決して信じがたい数字ではない。

 ダイヤルのグラデーションだけがプロトタイプから大きく変更された点ではない。こうした仕様のアップデートからは、ひとつのアイデアが発売直前までどのようにブラッシュアップされていくのか、その過程を垣間見ることができる。私が撮影したプロトタイプでは、クラシックなリーフ針をアレンジした“ティーリーフ”針を採用していた。ヤムチャにちなんで名付けられたものだが、量産モデルではこの針をより長く、幅広くすることで、その存在感をさらに際立たせるという。また風防もプロトタイプのやや“トップハット”型のものから、ドーム型へと変更される。プロトタイプが最終仕様ではない場合、実機を手に取ってレビューする際に評価が難しくなることもある。とはいえ今回示された変更点を見る限り、もしこのプロトタイプの仕上がり自体を気に入ったのであれば、どれも購入を思いとどまるほどの問題には感じない。

Watch Ho Selten Yum Cha Lug Closeup
Watch Ho Selten Yum Cha Backside Wristshot
Watch Ho Co x Selten Yum Cha Dial Macro

 ダイヤルを収めるのは、直径38mm×厚さ9.95mm×ラグ・トゥ・ラグ44.5mmのコンパクトなステンレススティール製ケースだ。ケースデザイン自体は、これまでのジュイシリーズの2モデルや、セルテンのプロダクトラインの大半に採用されているものと同じだが、実はケース径が1mm小さくなっている。シルエットはすっきりとシンプルながら、近くで見ると、奥まった位置にあるサテン仕上げのミドルケースや、大きく面取りされたラグなど、いくつかの興味深いディテールが目に入る。ケース径が小さくなったのは好印象だが、これほどこだわり抜いたダイヤルを備えているだけに、今回のモデルならではの個性をさらに際立たせるため、ケースにももうひと手間加えて欲しかったところだ。防水性能は50mだ。

 ソリッドケースバックにも、時計コミュニティとのつながりが表現されている。手掛けたのは、時計デザイナー兼アーティストのリー・ユエン-ラパティ氏(Lee Yuen-Rapati/Instagramでは@onehourwatchとして知られている人物)だ。ケースバックにはWH&Cとセルテンのブランド名に加え、WH&Cの3周年を記念する文言とグループのモットーである「Good Vibes Only」が刻まれている。さらにヤムチャを購入したオーナーには、ケースバックのアートワークに描かれた飲茶テーブルの番号札に、3桁までの数字を刻印できるという気の利いたカスタマイズも用意されている。内部に搭載されるのはセリタ製ムーブメント Cal.SW200-2M Power+。今年初めにセリタが発表した新キャリバーで、従来のSW200-1の42時間から、パワーリザーブを65時間へと延長している。名称だけを見ると、主ゼンマイが変更された程度のマイナーチェンジを思わせるが、SW200-2Mでは輪列や香箱の構造まで含めて、大幅な再設計が施されている。こうしたストーリーを最後まで貫いているのが付属のパッケージだ。ここには竹製の蒸籠、手作りの竹製コースター3枚、そして昔ながらのヤムチャの注文票を模した保証カードが収められている。

Watch Ho Co x Selten Yum Cha Caseback
Yum Cha Dial At an Angle
Yum Cha Watch Packaging

ヤムチャをテーマにしたパッケージ。Image courtesy of WH&C.

 時計は手首に載せると、より印象的だ。エナメルダイヤルは実に美しく、シルバーのベースがこれまで見てきたカラフルなエナメルダイヤルの多くと比べても、よりメタリックな表情を見せる。明るい光を受けると、琥珀色が鮮やかに輝く。長方形のモチーフと、繊細な筆致のようにも見える模様(実際にはシルバーに刻まれた線)によって、見ていて心地よいほど豊かな質感が生まれている。私がこの仕上がりをこれほど気に入っているのは、蒸籠の蓋という明確な着想源がありながら、実際の編み目の彫刻があまりにも露骨な表現になっていないからだと思う。そしてハニーゴールドのようなエナメルカラーと組み合わさることで、どこか私がこれまで目にしてきた寄木細工のダイヤルを思わせる雰囲気も感じられる。

Watch Ho Co x Selten Yum Cha Main Wrist Shot

 冒頭でも触れたように、ヤムチャはセルテンとの過去ふたつのコラボモデルに比べてかなり高価になっている。とはいえダイヤルの彫刻とグラン・フー エナメルに費やされる手仕事の量を考えれば、決して驚くことではない。100本限定で、価格は4950ドル(日本円で約78万9000円)。手彫りとエナメル仕上げのダイヤルを備える同ブランドのスパイラルと比べても大幅な価格上昇だが、今回のパターンは製作の難易度がはるかに高く、このジャンルにおいても間違いなくユニークな存在だ。ホー氏は、この価格設定は100本それぞれに必要とされる手仕事の量を正確に反映したものだが、ある程度の反発があると予想しているという。おそらくブランド史上最も高価なモデルだと思うが、それでもこの価格でこれだけのクラフツマンシップが得られるのは魅力的だ。

Watch Ho Co x Selten Yum Cha in pouch

 このモデルに引かれるのは、やはりそのストーリーだ。ジャッキー・ホー氏の生い立ちは私とは異なるが、家族で飲茶を楽しむという習慣は、香港でも、アメリカでも、そのあいだのどこであっても、中国系家庭に広く共有される文化のひとつだろう。私はすぐに共感を覚えたし、それ以上に、食と家族をめぐる共有体験が文化や国境を越えてつながっていることに心を動かされた。ストーリーだけに留まらず、本作はその練り上げられたデザインと製造工程によって、単なるマーケティング活動に終わる可能性もあったものを真に魅力的な1本へと昇華させている。

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