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The Roots of High Performance ゼニス クロノマスター ソロ スポーツに見るアーバンヘビーデューティの源流

ゼニスはクロノグラフのイメージが先行するが、実はほかにも優れたアーカイブを持つ。この9月にリリースされた中3針のクロノマスター ソロ スポーツは、ヘリテージを再解釈し、エレガントで都会的なヘビーデューティウォッチに仕立て上げた意欲作だ。

Geneva Watch Days 2026に参加したゼニスが披露したクロノマスター ソロ スポーツ。1994年から続くクロノマスターコレクションに属する新作で、“ソロ”を冠しているのは本作がクロノグラフ表示を取り除いた3針モデルだからだ。既存のクロノグラフモデルと共通するのは、ラグの側面にファセットを施したケース形状とセラミック製ベゼル。これらがコレクション共通のデザインコードなのだろう。クロノグラフモデルは固定式ベゼルだが、“ソロ”では逆回転防止機能が備わる。

 エル・プリメロが誕生したのと同じ年(1969年)、ゼニスはデファイで高防水を実現し、ダイバーズウォッチの道を開いた。その成果のひとつが2024年に“リバイバル”させたデファイ A3648である。しかしゼニスは1958年に200m防水の腕時計を発売していた。その名はS.58。1968年まで約10年間にわたって製造されたハイスペックなヘビーデューティウォッチで、クロノマスター ソロ スポーツはそのフィロソフィーにインスパイアされつつも、さまざまな環境やスタイルになじむようデザインされており、高い汎用性を魅力とする3針ウォッチの新たな表現として構想された。

 ゼニスの現行ダイバーズウォッチはデファイ エクストリーム ダイバーのみ。その見た目はいかにも力強い。クロノマスター ソロ スポーツのスタイルはハイスペックではあるもののダイバーズウォッチではなく、デファイとは異なるスポーティエレガンスを体現した。同時にエル・プリメロから続くゼニスのシグネチャーであるハイビート(3万6000振動/時)を受け継ぎ、クロノグラフ表示から解き放たれたハイスペックな3針ウォッチの新たなカタチを提示する。


洗練を生む、練り上げられたディテール

クロノマスター ソロ スポーツ ホワイトセラミックダイヤルRef.03.5000.3620/69.M5000

クロノマスター ソロ スポーツ ブラウンセラミックダイヤルRef.03.5001.3620/72.M5000

 クロノマスター ソロ スポーツは、ハイスペックだがダイバーズウォッチではない。日常使いの汎用性を重視して構想した結果、このスタイルに至ったのだという。ブランドは同モデルを“1日のなかのどんなシーンでも着用できる”オールマイティな腕時計とするため、そのディテールをていねいに検討した。

 上品な印象を与える重要な要素が針だ。スリムとまではいかないが、決して太くはなく、両サイドがファセットされている。夜光塗料は中央部のスリットに細かく配され、針先にまでは至っていない。こうした針の造作は明らかに海中ではなく、地上での夜間の視認性向上を狙ったものだ。振り返れば、同モデルにインスピレーションを与えたいつかのヘリテージモデルの針も細身だった。全面に夜光塗料を施した太い形状を持つデファイ エクストリーム ダイバーの針とは対照的だ。

ブラックモデルは、ノンデイトのタイムオンリー仕様もラインナップする。ダイヤルがセラミック製であるためデイト窓には奥行きが生じるが、数字の書体とサイズが十分に検討され、日付は見やすい。

ブラックセラミックダイヤル(デイトあり)Ref.03.5000.3620/22.M5000

ブラックセラミックダイヤル(デイトなし)Ref.03.5000.3620/21.M5000

 アワーインデックスは植字のバータイプで、やはり中央のスリットに細く夜光が入る。ミニッツトラックは2秒間を1セットとし、そのあいだの0.2秒目盛りを三角状に印字して個性を発揮した。これを“シャークトゥース”と呼ぶ。このデザインは1970年代のCラインケースを採用したコレクション、ゼニス・オート・スポーツの一部のモデルで使われた意匠の継承である。

 ダイヤルはセラミック製だ。ホワイトにはサンレイ、ブラックとブラウンにはポリッシュ仕上げを施し、高周波を想起させる“Z”を45°傾けたモノグラムを配した。デファイ エクストリーム ダイバーのダイヤルも四芒星のモノグラムを配しており、模様をレーザー加工している点も同じだ。しかし印象がまったく異なるのは、デファイの四芒星が深くシャープに彫り込まれているのに対し、クロノマスター ソロ スポーツではZモチーフをマットな質感で表しているから。ドレスウォッチで好まれるダイヤルの平滑さを保ったまま、モノグラムを表現した。

 ベゼルもダイヤルと同じセラミック製である。しかもインレイではなく金属製フレームを持たない一体成型とすることでその表現を差別化している。外周部の溝はていねいに造作され、操作時の手触りが心地いい。表面のポリッシュ仕上げも極めて上質で、柔らかな艶感が上品である。

Cal.エル・プリメロ 3620 CS。末尾のCSは、センターセコンドを意味する。パープルに色付けしたシリコン製ガンギ車の左側に、2層構造の4番車が見える。ローター中心の真上にあるのが、双方向巻き上げの切り替え車。Cal.エル・プリメロ 400よりも大きく頑強になった。

 搭載するCal.エル・プリメロ 3620 CSは、クロノマスター スポーツのCal.3600で確立された3万6000振動/時の高振動設計を受け継ぎながら、時刻表示のために再構成された自動巻き3針キャリバーである。その設計の主眼は、クロノグラフ機構を単純に省くことではなく、3万6000振動/時というエル・プリメロの本質を日常の時刻表示にどう生かすかにある。

 Cal.3600は、ガンギ車からクロノグラフ秒針を直接駆動し、ダイヤル中央の針を10秒で1周させることで、10分の1秒単位の計時を明確に可視化した新世代のエル・プリメロだ。この高振動を時刻表示へと展開したCal.3620は、2022年、9時位置に10秒で1周する常時作動の10分の1秒表示を備えて登場。2023年には、その表示を6時位置に置いたオープンワーク仕様のCal.3620 SKへと発展した。

 これに対して本作のCal.3620 CSは、高振動設計を通常のセンター秒表示に最適化。秒針はCal.3620やCal.3620 SKのようにガンギ車から直接駆動するのではなく、4番車と同軸の歯車から駆動される。つまり、表示だけを変更したのではなく、求める時刻表示に合わせて秒針への動力伝達そのものを組み替えたのだ。3万6000振動/時の高振動は、クロノグラフによる10分の1秒計測ではなく、1秒を10ステップで刻む滑らかな運針として表れる。脱進機には軽量かつ耐磁性に優れるシリコン製のガンギ車とアンクルを採用し、ハイビートと約60時間のパワーリザーブを両立している。

 中央リンクを鏡面、両サイドをサテン仕上げとした3連ブレスレットは、ゼニスではおなじみだ。そのフォールディングバックルには、2026年に登場したZENCLASP™を採用する。バックル中央のポリッシュ部がレバーになっていて、これを起こすとロックが外れ、2.5mm刻みで最大10mmの長さ調整ができる仕組みである。装着したまま操作できるため最適な調整がかなう。これは“どんなシーンでも着用できる”という開発コンセプトにも合致する。200mの防水性能は、日常生活においては実に頼もしい。にもかかわらずケースサイズは直径40mm×厚さ13.13mmと、比較的コンパクトに抑えられ、取り回しやすい。これも日常使いの汎用性を高める。

 美はディテールに宿る。この金言にクロノマスター ソロ スポーツは倣い、細部まで入念にデザインし、作り込むことで、ヘビーデューティでありながらエレガントさを兼ね備える新たな3針ウォッチを生み出した。そしてハイビートによる高精度と耐衝撃性、200mの高防水は、優れた装着感とともに日々の暮らしに寄り添う。


クロノマスター ソロ スポーツが目指すもの

 ゼニスのチーフ プロダクト オフィサー(製品開発責任者)、ロマン・マリエッタ氏によれば、クロノマスター ソロ スポーツは、「ゼニスのこれまでのコレクションではカバーできていない領域を埋めるもの」だという。足りていなかった領域とは、ラウンドケースのハイスペックな3針ウォッチである。

 「このカテゴリーはとても重要です。なぜなら3針モデルは、機械式腕時計やブランドへの最初の入り口となるからです」

 それゆえ、このカテゴリーには他社のライバルモデルが数多く存在する。それらと差別化を図るための最大の武器として選んだのが、エル・プリメロの3万6000振動/時のハイビートだった。

 「私たちはクロノグラフを超えて、エル・プリメロとは何かを見つめ直しました。1969年以来、エル・プリメロはクロノグラフと切り離せない存在でしたが、そのアイデンティティは3万6000振動/時のハイビートという特性に深く根ざしています。ソロ スポーツは、このふたつの考えを結びつけたものです。すなわち3針時計の汎用性とシンプルさを兼ね備えながら、ひと目でゼニスとわかる技術的・美的な特徴を持つ時計を目指したのです」

Watches and Wonders Geneva 2026で発表された新作クロノマスター スポーツ スケルトンも発売が始まった。エル・プリメロ 3600初のスケルトン仕様はダイヤルの10時半位置にテンプをのぞかせ、3万6000振動/時のハイビートを象徴的に視覚化しようという試みである。またZENCLASP™は、クロノマスター ソロ スポーツに先駆けて本作で初採用されたものだ。Ref.03.3130.3600/01.M3130。ステンレススティールケース&ブレス。ケース径41mm。10気圧防水。自動巻き(Cal.エル・プリメロ 3600SK:3万6000振動/時、35石、約60時間パワーリザーブ)。214万7200円(税込)

 ゼニスの3針ウォッチとして先行したデファイは、特徴的なオクタゴンケースに象徴されるように、より建築的でコンテンポラリーなアイデンティティを持つ。また、ゼニスはエリートという素性のよい3針自動巻きムーブメントを有する。

 「ソロ スポーツはデファイと競合することは決してありません。またエリートを搭載すれば、より薄くすることは可能です。しかしそれではソロ スポーツを明確にゼニスらしいものとし、市場にあるほかの3針時計と差別化するハイビートというアイデンティティを失ってしまいます。ハイビートはもはや10分の1秒を計測するためだけに存在するのではなく、ゼニスの3針ウォッチを特徴づける、象徴する要素のひとつにもなっているのです」

 ダイヤルの6時位置には赤い「36,000VpH」、黒い「HIGH FREQUENCY」の文字、そしてZを45°傾けた新しいハイビートモチーフが誇らしげに上下に並んでいる。こうしてハイビートをアイデンティティとしたうえで、日常的に気負いなく身に着けられる時計を作ることを目指した。

 「ソロ スポーツは、200m防水、ねじ込み式リューズ、リューズガード、逆回転防止機能を備えたセラミックベゼルといった優れた技術的性能を備えています。しかし私たちはそうしたスペックによって時計の性格が規定されたり、特定の用途に限定されたりすることは望みません。こうした堅牢性は、あくまでも日常使いにおける汎用性を成り立たせるための要素なのです。その考えは、デザインへのこだわりに表れています。セラミックダイヤル、シャークトゥースミニッツトラック、そして45°傾けたZモチーフを繰り返して構成されたダイヤルのハイビートパターンは、いずれもこの時計に洗練をもたらしています。私たちはソロ スポーツを技術面だけでなく、美的観点からも十分に練り上げられた時計にしたかった。そのバランスこそがソロ スポーツの本質なのです」


クロノマスター ソロ スポーツ ギャラリー

Photos:Jun Udagawa Styled:​Eiji Ishikawa(TRS) Words:Norio Takagi