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“デジタルのカシオ”がMR-Gで起こした、フルアナログへのパラダイムシフト

2026年はMR-Gが誕生して30周年。思えばカシオはG-SHOCKが生まれた1980年代からすでに、デジタルウォッチの旗手としての地位を築いていた。しかしいまやフルアナログ表示の時計においても、確たるプレゼンスを築き上げている。その転換点はどこにあったのだろうか。商品企画のキーパーソンたちとともに、当時を振り返ってみる。 #PR

G-SHOCKの耐衝撃構造をメタルウォッチでありながら受け継いだMR-Gは、近年は国内だけでなくグローバルでも注目を浴びる存在になりつつある。「強さと美しさの絶対領域」を謳うとおり、磨き上げられた強靭な外装と機能美がMR-Gシリーズを世界的に見ても唯一無二の時計たらしめているのだ。その機能美を極限まで研ぎ澄ましたひとつの到達点として、2024年に発表されたのが王道の3針モデル「MRG-B2100」シリーズだ。思えば、物理的な針を動かすアナログウォッチは構造上、デジタル以上に衝撃に対してシビアな領域である。デジタルの旗手であったカシオが、いかにしてフルメタルのアナログウォッチという分野で実績を積み上げ、MRG-B2100を作り上げたのだろうか。

 1990年代からカシオでG-SHOCKの商品企画を担当してきた第一企画室の井崎達也氏は、当時のカシオのものづくりを次のように振り返る。

 「元々、カシオ計算機は電卓からスタートした会社でした。創業家メンバーのひとりであり、エンジニアでもあった樫尾敏雄さんが、“時間というのも1秒1秒の足し算だから時計も作れるはず”と考えたのが、時計事業開始のきっかけです。カシオは時計を単なる時間を知るツールとしてだけでなく、暮らしの質を高め、楽しむための機能のプラットフォームと位置づけ、多彩なモデルを世に送り出してきました。1974年のカシオトロンのオートカレンダーを皮切りに、漢字データバンク、GPS、音楽プレーヤー、デジタルカメラ機能を持つモデルまで幅広く展開。ビジネスからアウトドア、エンターテインメントに至るまであらゆるシーンで役立ち、日々の暮らしに楽しみをもたらす商品づくりを続けてきました。デジタルのカシオ、を象徴する時代でしょう」

1974年に発表されたカシオウォッチ第1号、カシオトロン。

1999年に発売した世界初のGPS機能内蔵アウトドアウオッチ、PRT-1GPJ。

2000年発表のリストオーディオプレーヤー WMP-1V。

 そんなデジタル全盛の1996年、初代MR-GたるMRG-100がデジタル表示のメタルウォッチとして登場する。しかし驚くべきことに、翌1997年には早くも3針アナログ表示でチタンケース&バンドのMRG-120Tを発表。G-SHOCKで針のある初のモデルは1989年発表のAW-500に遡るが、それは液晶表示とのコンビモデルであり、秒針もリューズも備えていなかった。なぜ、1990年代にカシオはフルアナログへとアプローチしていたのか。

1997年発表のMRG-120T。突き出たリューズから内部への衝撃を回避するため、リューズガードが突き出た印象的なフォルムとなっていた。

 「もともとフルメタルMR-GのプロジェクトはG-SHOCKの本流とは別動部隊で、伊部(菊雄)さんが中心となって立ち上げたものでした。G-SHOCKの開発を経験したことのないメンバーだからこそ、『普段使いできる実用的なフルメタル時計なら、やはりアナログ(針)じゃないか?』という発想がベースにあったのです。

 しかし、重たくて耐衝撃性を与えるには条件の悪いメタルケースで、しかも秒針のある3針でG-SHOCKの落下衝撃試験をクリアするのは至難の業です。そこでサイズが普段使いの邪魔にならないよう、BABY-Gなど女性向け商品でも使える小さめのモジュールをあえて使用しました。また、耐衝撃性を確保するためにリューズガードが突き出した構造になったため、『手の甲に当たるなら逆に付ければいい』とリューズを左側に配置しました。社内では猛反発もありましたが、このタブーを恐れない柔軟な発想が結果的にMR-Gシリーズの底流になったのです」

 こうして90年代に行われたアナログへのアプローチは成功を収めたが、2000年代初めごろ、カシオ全体としては次々とデジタルガジェットを世に問うなかで需要の拡大や新しい価値の創出に壁を感じていたという。ここで大きなパラダイムシフトが起きる。

 「当時、企画部門の責任者だった増田裕一(前社長)が、カシオらしいデジタル技術を用いて本格的なアナログ時計を作るという開発方針を打ち出したんです。液晶で表現していたものを、針の動きなどでカシオらしくできないか? そうして掲げたのが“インテリジェント・アナログ”というコンセプトです。これはデジタル表示との決別ではなく、あくまで我々の持つデジタル技術をベースにし、表現方法を液晶から針に変えるというアプローチでした」


レジェンドの視点で辿る、MR-G アナログウォッチの系譜

 井崎達也氏は1986年の入社時に商品企画に配属されたのちに生産管理を経験、再度商品企画に戻るという経歴を経て、G-SHOCKがストリートやサブカルチャーに受容されていく過程を1992年から最も近くで見続けてきた人物だ。すでに退社している当時の関係者も少なくないなか、MR-Gが一歩ずつアナログウォッチとしてのハイエンド化を辿る過程を氏が顧みることは、まさしく生き字引による貴重な証言といえる。

カシオのバーゼルワールド参加を強く印象付けた初のフルアナログウォッチ

MRG-7500BJ-1A1JF

このインテリジェント・アナログ構想によりカシオ社内におけるアナログ式モジュールの開発が推し進められ、2004年には世界初フルメタルクロノグラフ電波ソーラーとしてオシアナスの初号機(OCW-500)が登場。同モデルはまだ3時側に小さな液晶が残されていたが、新たに開発された5モータードライブ(時・分・秒の各針を独立した5つのモーターで別々に駆動させることができる機構)を搭載した2005年のOCW-600をもって念願のフルアナログ化を果たす。この快挙を受け、MR-Gもまた新たなフェーズへと突入する。

 OCW-600と共通のプラットフォームを用いて開発された5モータードライブモジュールを搭載し、インテリジェント・アナログのコンセプトをMR-G流に具現化したモデルが2007年登場のMRG-7500である。前年には従来世代(OCW-500と同じ)のモジュールを用いながらチタンへの深層硬化処理とDLCコーティングを施したMRG-7100シリーズが誕生していたが、このMRG-7500でMR-Gもついにフルアナログクロノグラフの扉を開けた。オシアナスが同モジュールをもって薄型化を図ったのに対し、MR-Gは落下衝撃に耐えうる最適化や実装条件を見直すなど、さらなる専用化が進められた。「ちなみに、オシアナスでの成功をもってMR-Gに搭載をした、という順序で開発を進めたわけではありません。そもそも5モータードライブのモジュールの開発が始まった段階で、このモジュールをプラットフォームとし、カシオのいくつかのブランドで展開するという構想があった。MR-Gもそのひとつです。しかしMR-Gには、G-SHOCKに由来する“耐衝撃”という重要な要素があります。モジュールの完成後、MR-Gにおいてはこの壁を乗り越え、さらにカシオにおける高級機としての美観を研ぎ澄ませるという開発工程に、十分なリードタイムが必要でした」

 そして翌2008年、MR-Gはバーゼルワールドへの出展という大きな節目を迎える。ここで投入されたのがMRG-8000シリーズだ。

MRG-8000G-1AJF

 「2008年はG-SHOCKの25周年でもありましたね。7000番台は多くのメタルウォッチと同様に、ベゼル・ミドルケース、裏蓋からなる3体構造からなっていました。しかし、すでにMRG-7500のタイミングで価格は約18万円にまで達していて、社内でも10万越えの製品に見合う外観品質を提供できているのかという疑問も上がってきていたのです」。そのため外装の仕上げを見直す必要が発生したのだが、壁となったのは“G-SHOCKらしい”ゴツゴツと隆起したケース形状であった。「価格に見合う最上級の磨き仕上げを施すために必要なことは何か。実はその答えは早い段階で出されていて、耐衝撃構造を担保するうえで必要であったケースの3時、9時部分の凸部を別体にし、加えてベゼル、ミドルケース、裏蓋の5体構造へと分ける試行錯誤を2007年ごろから進めていたんです。その開発の最中にバーゼル出展が決まり、完成したばかりの5体構造を採用したMRG-8000Gを全世界200本限定で発表しました。このモデルは、見返しリングに18金を使用した非常に贅沢なものでした」

 ここから毎年、スペシャルな限定コレクションを発表する流れが定着した。しかし一方、MR-Gにおけるフルアナログの新作は、2014年のMRG-G1000シリーズが発表されるまで約6年間の空白期間が生じる。

その後のフルアナログのあり方を決定づけた、6年ぶりの挑戦

MRG-G1000B-1AJR

2010年代は、カシオ全体としてインテリジェント・アナログのコンセプトをプロトレックやMASTER OF Gなどさまざまなジャンルに拡大していくフェーズであったと井崎氏は振り返る。「カシオ時計全体でインテリジェント・アナログの開発を休むことなく進めるなかで、2014年にGPSハイブリッド電波ソーラー搭載の新世代モジュールが完成したのです。MRG-G1000ではこの先進機能に加え、新開発となるクラッドガード構造を初搭載しました。これまでフルメタルケースでは困難だったリューズの操作性向上と耐衝撃性の両立を、リューズやボタン本体とガードパーツを一体化させることで見事に解決したのです。このMR-Gならではの革新的な構造によって、タフネス機能も飛躍的に進化させました」

 このMRG-G1000は、MR-Gがハイエンドなアナログウォッチにおける立ち位置を確立した金字塔的存在となった。2013年からMR-Gの商品企画に加わり、ここ10数年のフルアナログモデルの顔を作り上げてきた石坂真吾氏は、当時の開発の苦労と独自の美学をこう回想する。

 「落下衝撃というのは想像をはるかに超えた強烈さで、高級時計らしい重厚な金属の太い針では容易に外れたり変形したりします。そこで耐衝撃性のある大型針を実現するため、カーボン素材を採用しました。加工が難しい素材ですが、高品質グレードかつ独自の積層構造、独自の製造方法を採ることで、耐衝撃性を実現しています。また、顔となる文字盤の構築も重要でした。ソーラー充電のために光を透過し、かつ衝撃に耐えるよう軽量化するため、メイン素材には樹脂素材を使用する必要がありました。しかしそれを逆に生かし、重層的なパーツ構成や独自のナノ加工技術を駆使することで、金属文字盤ではできないような、デジタルにはない超立体的なインデックスや上質な質感を表現しました」

MRG-G2000HT-1AJR

 MRG-G1000が確立したフルアナログとしての力強い機能美は、現在のラインナップの中核を担うMRG-B2000シリーズへと継承され、さらなる進化を遂げる。

 機能面では、GPSモジュールからBluetooth®搭載電波ソーラーへと移行。スマートフォンリンクによる自動時刻修正など実用性を高めつつ、モジュールの小型・省電力化を実現した。デザイン面でも、文字盤外周部に扇や屏風をイメージしたカット面を配し、インデックスには刀の反りをイメージした緩やかな曲面を表現。山形カシオのナノ加工技術によるエッジや挽き目加工を施すなど、フルアナログ時計ならではの立体的で重厚な質感を大きく底上げした。

 こうして審美性を高めたMRG-B2000は、日本の伝統技術との融合を深める絶好の舞台となっていく。デジタルウォッチにはない物理的な針やインデックス、そして奥行きのある文字盤という“フルアナログ特有の空間”を持つ本作が、数あるラインナップのなかでなぜ日本の匠の技を表現するベースモデルとして選ばれ続けているのか。石坂氏は次のように語る。

 「アナログ時計のキャンバスとして、ほどよいサイズ感と大振りな面構成をもつモデルである点が主な理由です。小さ過ぎると手加工を施すのが難しく、施せても面積が小さいと効果が薄れてしまいます。そういう意味で、MRG-B2000は人の手作業による表現に適したモデルといえます」

 このフルアナログならではの立体的なキャンバスを活かすことで、文字盤に和柄の鱗紋をあしらった“勝色”や“赤備え”、さらには伝統工芸職人や刀匠とのコラボレーションなど、モデルごとに多彩な日本の伝統美を表現することが可能となった。こうしてデジタル表示では成し得ない多彩な表現力を獲得したB2000は、MR-Gの揺るぎない顔として定着していったのだ。


G-SHOCKによるフルアナログ現時点での到達点

2020年代に入ると、MR-GはG-SHOCKの進化と伝統を体現するタイムピースへと昇華していく。オリジンのスクエアデザインをあえてメタルケースで実現したMRG-B5000や、ISO規格200m潜水用防水を備えたダイバーズウォッチをメタル化したMRG-BF1000R(フロッグマン)が登場。そして2024年、満を持して投入されたのが、コバリオンを用いた八角形ベゼルの奥にシンプルな3針とデイト表示のみを備えたMRG-B2100シリーズだ。

 MRG-G1000からB2000へと続いてきた多針使いの計器のようなフェイスから、情報表示を極限まで整理した王道の3針への帰結。フルアナログの進化として行き着いたこの“引き算の美学”を、仕掛けた本人である石坂氏はどう考えているのか。

 「多針のB2000は機能性の表現と相性がよく、長くベースモデルとして展開してきました。一方で、よりギア的な要素が強いのがフロッグマンです。この特徴あるふたつのモデル群がMR-Gの力強いイメージを作り上げているからこそ、幅広いユーザー層向けに追加したMRG-B2100は、3針のシンプルなデザインでありながら“普通”の時計として埋もれず、MR-Gとして成立することができたのです」

 長年商品企画を担当してきた井崎氏も、ラインナップにおけるMRG-B2100の立ち位置を次のように語る。

 「戦略的な見方で言うとMRG-B2100はMR-Gがフルアナログとして確固たる地位を築いた象徴であり、ゴツゴツしたB2000やフロッグマンと並ぶことでラインナップ全体を埋める最後の1ピースとなっています。MR-Gが常に技術的な壁に挑み、新素材や新機能を貪欲に採り入れてきたからこそ、MRG-B2100の登場までに高級時計市場での存在感が確立できました。裏を返せば、挑戦を止めてしまったらダメということです」

 日本の伝統工芸の職人たちがMR-Gとのコラボレーションを引き受けてくれるのも、「完成されているかに見える伝統も、MR-Gのように常に新しいことに挑戦し、革新をもたらすことで未来へ残っていく」という深い共鳴があるからだろうと両氏は語る。そしてこの果敢な挑戦は今、グローバル市場にも向けられている。

 MR-Gが30周年を迎えた今年、MR-Gは木組み格子や日本の伝統色である縹色をあしらったMRG-B2100D-2AJRや、極海のブライニクル現象をイメージしたMRG-BF1000EB-1AJRなど、意欲的で独創的なモデルをリリースし続けている。

 2000年代初頭、デジタルガジェットの枠を越え、カシオが本格的な時計メーカーとして次のステージへ進むために掲げたインテリジェント・アナログというパラダイムシフト。未知の領域であった秒針付きメタルケースへの挑戦から始まり、絶対的なタフネスと機能美の確立、そして日本の伝統美との融合に至るまで、MR-Gはフルアナログウォッチとしての重厚な歴史を力強く紡いできた。  

 その絶え間ない試行錯誤と“引き算の美学”の果てに誕生した王道の3針モデルMRG-B2100は、まさに現時点におけるカシオのフルアナログウォッチのひとつの答えである。デジタル技術を源流に持ちながら、職人の手仕事と最先端テクノロジーが結晶した最高峰のエモーショナルなタイムピース。30周年の今年、意欲的で独創的なモデルを放ち続けるMR-Gの真価は今、いよいよ世界に発見されつつある。


G-SHOCK MRG-B2000 コレクションギャラリー

Photos:Tetsuya Niikura Styled:​Eiji Ishikawa(TRS) Words:Kazuhiro Nanyo