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ウブロは、外部のクリエイティビティに門戸を開くことに慣れたブランドである。ここ数年でも、とりわけ記憶に残る(そしてしばしば物議を醸した)リリースのいくつかは、アーティストやデザイナーとのコラボレーションによるものだった。たとえば、村上 隆氏、ダニエル・アーシャム(Daniel Arsham)氏、そしてサミュエル・ロス(Samuel Ross)氏などが挙げられる。先日、同ブランドは次なる大型コラボレーションの相手が、現代アメリカ美術のアーティスト、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)氏であることを発表した。クーンズ氏といえば、さまざまな色で展開される、明るく艶やかなバルーン ドッグの彫刻シリーズで広く知られている。
Image courtesy of Hublot
Balloon Dog (Orange) - Image courtesy of Christie's
Rabbit - Image courtesy of Christie's
クーンズ氏の名は、美術界において賛否を呼びながらも、確かな人気と圧倒的な存在感を築いてきた。現在、存命アーティストとして世界最高額の作家とされていることが、それを物語っている。彼の作品であるバルーン ドッグ(オレンジ)は、2013年にクリスティーズで5840万ドル(当時の相場で約57億円)という途方もない価格で落札され、存命アーティストの作品としてオークション記録を更新した。そして2019年には、1986年制作のラビットが9100万ドル超(当時の相場で約99億円)で落札され、バルーン ドッグ(オレンジ)が打ち立てた記録を更新。存命アーティストによる作品として、オークション史上最高額を塗り替えた。現在に至るまで、両作品はいずれも存命アーティストによる高額作品のトップ10に名を連ねている。もちろんクーンズ氏に対しては、その作品に見られるあからさまな商業性やキッチュさ、さらには彼が採用するファクトリー式の制作手法をめぐって、批評家や広く一般の人々から批判の声もある。それでも、バルーン ドッグシリーズが世界的にどれほどアイコニックで、ひと目でそれとわかる存在であるかは否定できない。
こうしたアイコニックな佇まいと、少しばかり物議を醸す存在感を備えたバルーン ドッグは、クーンズ氏とのコラボレーションがどのようなかたちになるのかを考えるうえで、ウブロが取り組む題材としてまさにうってつけに思える。そして本日、その最終形が明らかになった。「クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ」である。3本からなるこのシリーズは、クーンズ氏のバルーン ドッグが持つスピリットを抽出し、ウブロのクラシック・フュージョンのシルエットへと落とし込んだものだ。その仕上がりは、これでもかというほど艶やかである。これは、バルーン ドッグの彫刻を小さくしてストラップに取り付けただけの時計ではない。むしろこのコラボレーションでは、通常のクラシック・フュージョンが持つ舷窓に着想を得たベゼルとシャープなエッジを起点に、時計全体のフォルムへ空気を含ませたかのような造形へと仕立てている。日付ディスクを除けば、手首に着用した状態で目に見えるシャープなエッジラインやフラットな面は存在しない。
「クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ」は、レッド、ブルー、シルバーという3つの鮮やかなカラーで展開。ケースサイズはクラシック・フュージョンのなかでは大きめ(とはいえ最大ではない)で、直径42mm、厚さ11mmだ。シルバーエディションの「クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ」が全面ポリッシュ仕上げのステンレススティール製である一方、レッドとブルーの鮮やかな色味は、アルマイト処理を施したアルミニウムによるものだ。そのため、ブルーとレッドのケースはSSケースとはかなり異なる質感を持ち、SSの艶やかで滑らかな表面に対して、より拡散した、粒子感のあるテクスチャーとなっている。ケースのコーティングが気になる人は、SSモデルを選ぶのがよいだろう。というのも、アルマイト処理を施したアルミニウムは、傷が付くと下地のアルミニウム層が見えてしまうためである。
5軸CNC加工によって実現された独特のぷっくりとしたフォルムを持つケースは、触れると滑らかで丸みがあり、バルーンらしい装飾もいくつか加えられている。リューズはバルーンの結び目を思わせるデザインで、ラバーを重ねて成形した部分には柔らかな感触がある。おもしろいことに、このディテールはあくまで美的な要素として考案されたものだが、大ぶりなラバー製リューズは、実際には巻き上げや時刻合わせの際にかなり扱いやすい操作感をもたらしている。左上のラグ付近には、ケース側面から小さなラバー製パーツが突き出している。これはバルーン ドッグの尻尾を象徴したものだという。ただ、私としては正直なくてもよかったと思う。時計全体がバルーンアニマルそのものの形を再現しているわけではないだけに、この尻尾の表現だけがやや説明的で、余分な要素に感じられるのだ。ここまでマキシマリスト的なデザインについてそう評するのは少し妙だとわかっているが、それがなければケースはさらによく見えたはずだと思う。
おおむね、この時計の細部はすべて意図を持ってデザインされているように感じられる。たとえばH型のチタン製スクリューもそのひとつで、よりふっくらとしたラグやベゼルに合わせるように、ドーム状の表情が与えられている。文字盤もそのテーマを引き継ぐ。膨らみを持たせた表面は一見すると混沌としているように見えるが、実際にはアプライドのオーバル型インデックスを収めるため、カーブやくぼみが巧みに設けられている。12時位置にはウブロのロゴ、6時位置にはジェフ・クーンズ氏のサインをプリント。そして、この時計の購入者ならおそらく誰もが見たいと思うであろう要素が、全体をひとつにまとめている。秒針のカウンターウェイトとして配された、文字どおりのバルーン ドッグである。レッドとブルーの文字盤が、ややテクスチャーのあるアルマイト調の表情を引き継いでいる一方、シルバーエディションの文字盤はミラーポリッシュ仕上げとなっており、私がこれまで見てきたなかでも屈指の反射性を備えている。
文字盤でやや惜しいのは日付窓である。全体としてこれほどまでに意図を持ってデザインされているなかで、ここだけは後から加えられたように感じられるのだ。日付窓はややぎこちなく、時計全体のデザインが生み出している錯覚を損ねてしまっている。日付ディスク上の数字に対してフレームが少し窮屈に見えることも、その印象を強めている。日付窓のためのフレームであれ、カラーを合わせたディスクであれ、あるいは新しい書体であれ、何らかの追加ディテールがここにあれば、より歓迎できる仕上がりになっていただろう。
しかし、艶やかでぷっくりとしたストラップが目に入れば、日付窓のことはおそらくすぐに忘れてしまうだろう。これは実に強烈なストラップだ。空気を含ませたような造形テーマを引き継ぎながら、良くも悪くもタックアンドロール仕上げのカーシートや、ダイナーのボックスシートを思わせる。全周にステッチを施したインサートは、ブルーとレッドのエディションではメタリックレザー、シルバーでは艶やかなポリマー仕上げ。そのインサートをストラップのラバーベースにはめ込み、ラバーがパッド入りのインサートを縁取るとともに、手首に触れる内側の面も担っている。
時計を裏返すと、ケースバックにも表側の空気を含ませたような造形表現が引き継がれており、サファイアクリスタル越しに見える自動巻きCal.HUB1710を縁取っている。クラシック・フュージョンに通常期待されるセリタベースのキャリバーとは異なり、このキャリバーは同じグループ内にあるゼニスのエリート 670をベースとしたものだ。パワーリザーブは約50時間、振動数は2万8800振動/時である。この面での主役はタングステン製の巻き上げローターであり、ウブロのHロゴとローターの輪郭には、丸みを帯びたバルーンアニマル風の処理が施されている。
この時計を、手首の上で強い主張を放つ1本だと言うのは、これ以上ないほど使い古された表現かもしれない。それでも、このジェフ・クーンズ氏とのコラボレーションに関しては、これ以上なく的確な言い方でもある。42mmというクラシック・フュージョンのサイズに、各エディションの非常に鮮やかで艶やかなカラーリングが組み合わさることで、かなり主張の強い時計になっている。やや大ぶりではあるものの、小ぶりな手首にも収まりはする。とはいえ、実際にさまざまな手首サイズの人が試着する様子を見ていると、この時計に限っては、手首に対して大きいかどうかを細かく気にすること自体、あまり意味を持たないのだと感じた。このデザインは、控えめで目立たないことよりも、しっかりとした存在感を打ち出すことを明確に優先している。
「クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ」の各モデルには、専用ボックスが付属する。その上には、そう、お察しのとおり、バルーン ドッグが載せられており、クローム仕上げで、内部に収められた時計とカラーが合わせられている。鏡面のように輝くバルーン ドッグを、柔らかなラバーのような質感の面で囲むボックス本体とのコントラストも効いている。
Image courtesy of Hublot
「クラシック・フュージョン バルーン ドッグ by ジェフ・クーンズ」は各色200本限定で、価格は336万6000円(税込)だ。貴金属製ではなく、複雑機構も備えないクラシック・フュージョンとしては、このモデルが同ライン史上、群を抜いて最高価格に位置づけられると私は見ている。42mmの無垢ゴールド製クラシック・フュージョンとの差はわずか2万2000円。同じサイズで、セリタベースのムーブメントを搭載した標準的なチタン製クラシック・フュージョンと比べれば、ほぼ3倍の価格である。とはいえ、このプロダクトは時計とアートの世界をまたぐ存在だ。販売体験においてもそれは表れており、一部のウブロ ブティックに加え、限られたアートギャラリーでも販売される。そのことを考えれば、このような作品の価格戦略が合理性から外れて見えるのも、ある意味では想定内だろう(もちろん、ジェフ・クーンズ氏が1本ごとの売上から取り分を求めるであろうことも忘れてはならない)。この時計を購入する人は、スペックシート上の価値で判断するのではなく、アートピースを手に入れるという、より感情的な視点で捉えるのである。
これは、今年ウブロが発表するモデルのなかでも、とりわけ大きな話題を呼び、賛否を分ける1本になるだろう。ただ、このコラボレーションに限って言えば、自分がそのターゲット層かどうかはあまり重要ではない。ウブロとクーンズ氏は、彼らが狙ったことをかなり明確に形にしているのだ。現代ポップアートにおいて今なお最もアイコニックで、ひと目でそれとわかる作品のひとつをもとに、あきれるほど鮮やかで艶やか、そしてかなりキッチュな、だまし絵のようなウォッチを生み出したのである。いやはや、この1本についてはきっと多くの人が語ることになるはずだ。
Photos by TanTan Wang
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