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In Partnership

The Beauty of Space オリエントスター75周年を迎えてたどり着いた表現の新たな地平

誕生75周年を迎え、オリエントスターは新たな表現の地平に立つ。新作の「オリエントスタースケルトン」と「Sakigake(先駆け)デザインプロジェクト スリーハンド」について、ブランド担当デザイナーと国内外で数多くのデザイン賞に輝く気鋭のデザインスタジオ・YOY(ヨイ)のふたりがその魅力を探る。

1951年の誕生以来、オリエントスターは“輝ける星”を理想に掲げ、自社での機械式時計づくりを追求してきた。クォーツ式が台頭した1970年代も機械式時計づくりを絶やすことなく、その理念と独自の技術を守り続けた。1991年にはオリエントブランドからスケルトンモデル「モンビジュ」が登場。さらに1996年以降はパワーリザーブインジケーターをアイコニックな要素として採用するなど、機械式ならではの魅力を可視化する機構やスタイルを強く打ち出してきた。そして誕生75周年を迎え、新たに掲げたブランドステイトメントが“JOY OF DISCOVERY”だ。

 それは輝ける星の、さらにその先に広がる未知の世界での出会いや新たな発見の喜びを意味し、継承する技術と豊かな発想を掛け合わせ、美しさを時に刻む。そのコンセプトのもとで発表された新作が「オリエントスタースケルトン」と「Sakigake(先駆け)デザインプロジェクト スリーハンド」だ。

オリエントスタースケルトン

Sakigake(先駆け)デザインプロジェクト スリーハンド

 オリエントスタースケルトンは、35年にわたるスケルトンモデルの歴史と培ってきた自社技術を集結し、これまでにないデザインによって“時空間”を表現した。ブルーに彩られたシリコン製がんぎ車を搭載した自社製Cal.F9B82をコンセプチュアルなオープンワークで演出する。これとは対照的なスリーハンドは、文字どおりの王道の3針モデルだ。シンボリックなパワーリザーブインジケーターをあえて省いた潔いデザインは風格にあふれる。“Sakigake(先駆け)”と名づけた、新しい美の創造を目指すデザインプロジェクトの第1弾である。

水を用いずに岩や砂などで山水を表現した枯山水の庭園。Photo by sot / gettyimages

 いずれの製品も従来のデザインアプローチとは異なり、装飾性を抑えることでモデルの個性やコンセプトを明確に打ち出す。そこに立ち上がるのは、枯山水に見られるような、空間によって気配や情緒を生む日本的な美意識であり、それは西洋における直截的なミニマリズムとはまた異なる、余白や間(ま)を大切にする独自の感性と言ってもいいだろう。

 日本のデザインスタジオ、YOY(ヨイ)の作品や世界観にも、それは呼応する。そこで本稿では、新作の魅力を深掘りするべく「空間とモノの間(ま)」をテーマに作品を手がける彼らとの鼎談を実施。新作を担当したオリエントスターのデザイナー・落合寛幸氏と、YOYを主宰する小野直紀氏、山本侑樹氏がそれぞれの創作への思いとともに、オリエントスターの新作に注がれたデザインについて語り合った。

雲間の月(くもまのつき)をダイヤルで表現した本作も、75周年を祝う新作として登場。

M45 F8 メカニカルムーンフェイズ ハンドワインディング 雲間の月(くもまのつき)

 

そぎ落とすからこそ明確になる概念

Sakigake(先駆け)デザインプロジェクト スリーハンド

Ref.RK-BQ0003S 13万2000円

背景にある壁掛け時計は、YOYが2018年に発表した「SUNDIAL(サンダイヤル)」。日時計に着想を得て、分を示す黒い針とその影を描いた文字盤自体が時針として回転し、時刻を表示する。

 

YOY(ヨイ)

(左)小野 直紀/1981年生まれ。2008年、京都工芸繊維大学工芸学部造形工学科建築コース卒業。(右)山本 侑樹/1985年生まれ。2008年、金沢美術工芸大学製品デザイン科卒業。YOYは、小野直紀と山本侑樹によって2011年に設立された東京を拠点とするデザインスタジオ。「空間とモノの間(ま)」をテーマに家具や照明、インテリアのデザインを行う。その作品は世界中で販売され、国内外で多くの賞を受賞している。2015年より武蔵野美術大学非常勤講師/特別講師。

 西洋的なミニマリズムが彫刻的でよりプリミティブに見せるのに対して、日本的な間(ま)の意識は、余計なものを取り除き、何もない空間に意味を持たせる。両者には、そんな違いがあるというのが落合氏のイメージだ。

 「たとえば日本画の長谷川等伯(はせがわ とうはく)は部分的にしか松を描いていないにも関わらず、あえてそうすることで、見る者の想像力の余白を残します。その違いでしょうか。今回のデザインアプローチにはそんな意識もありました」

 削ぎ落とすことで生まれる広がり。その象徴がSakigake(先駆け)デザインプロジェクトのスリーハンドだ。

 「王道の3針時計を作りたいと考えるなかで、これまでアイコンのように位置づけていたパワーリザーブインジケーターをなくすという結論に至りました。自動巻きで、フルに巻き上げれば50時間以上は駆動しますし、インジケーターがなくても実用面では問題ないだろうと。まず原点に立ち返り、むしろアイコンに頼らずとも、日本の感性や伝統を通して、オリエントスターの世界観を表現していくことにチャレンジしました」

 YOYの小野氏がこれに応える。

 「僕らの制作プロセスもまずアイデアを考えて、それをデザインに落としていきます。常にアイデアがメインに見えてくるように削ぎ落としたり、間(ま)を作ったり。でも削ることで生まれていくものがあって、むしろそれがはっきりと見えてくる。ミニマリズム的に機能や表現を削ぎ落としていくことで、モノとしての概念や存在感はより強くなるのではないでしょうか。そういう意味では僕らの場合、アイデアがいつもアイコニックなものとなります。壁掛け時計をデザインした時も、日時計と普通の時計を共存させて、それ以外の要素をなくしました。どんなものでも発想を表現するための舞台の要素であって、そこに不協和音があればよしとしません」

 デザインにあたってテーマになったのは“しなやかな強さ”と落合氏は言う。

 「目指したのは、柔らかさと強さを兼ね備えた造形でした。一見シンプルに見えますが、ラインの美しさをテーマに、ラグからブレスレットにつながる凹造形やインデックスも中央に直線を設け、針も抜き形状を入れてほのかにラインを感じさせます。用の美のように、着け心地にもこだわり、ブレスレットは湾曲させてフィット感を高め、コマのピッチを狭めて手首になじませるとともに、コマのあいだから肌が見えるのも抑えました。またブレスレットの左右側面にステップをつけたのは、見た目にも薄く、ケースとの軽快な連なりを演出するためです」

 今まで気になっていた細かいところをブラッシュアップしていったと話す落合氏。そうした細部の積み重ねが、普遍的なベーシックを形づくっていくという考えに小野氏は共感する。

 「その心地よさというか、パッと見て理解できるようなことではなく、気づかないうちに感じるのがいいですね。0.05mm単位の追求が、当然それよりも大きな単位の部分にもつながるわけで、そうしたディテールが全体へ凝縮されることで、そこに力が宿っていく。そうした細かさへのこだわりもそこに至る必然的な過程なのでしょう」

オリエントスタースケルトン
Ref.RK-BR0001N 世界限定130本 110万円
水たまりのようなフラワーベースは、YOYが2022年に発表した「PUDDLE(パドル)」で、透明な平面の器に水を注ぐと表面張力で水たまりのような造形になる。ここに設けた小さな針に花を差すと生まれる、影もまた美しい。

 

 山本氏が注目したのは、オリエントスタースケルトンのオープンワークだ。

 「構成する大小の円が重なったり、インデックスの数字で途切れているところがおもしろいですね。キレイに収めるのではないことで広がりを感じます。剥き出しのメタル感も角の処理などで無骨過ぎずにまとまり、手首に乗せたくなる温もりにもつながります。細部を見ていると、それこそ美術館で圧倒的な絵を前にした時のオーラみたいな、立ち尽くして見惚れてしまうような力がありますね」

 さらに小野氏が指摘するのは、時計の表側(ダイヤル側)と裏側(ムーブメント側)のコントラストだ。

 「表はグラフィカルに表情を出しているのに対して、裏はフラットにまとめている点が気に入りました。その対比があるから2回楽しめますし、そこにデザインの意図が明確にアピールされていることを感じます」

 「表の立体感や美しさを支えるように、裏がしっかり構築されています。僕らが作品を作る時も毎回、中身の構造や見えないところに手をかけるのですが、同じような配慮と全体を通した調和が伝わります。この時計は、外したら絶対に裏を見ると思いますよ」と話すのは山本氏だ。

 落合氏はデザインのコンセプトを次のように説明する。

 「時空間をテーマに、時間の流れや空間の広がりを可視化して表現する。そのモチーフとして、波紋が一点から始まって広がっていく様子がまず僕のなかで重なりました。技術ありき、というよりはイメージ優先ですね。考えてみれば、歯車の動きも中心の軸から始まり、周辺に伝わっていく。これまでブランドが大事にしてきた宇宙や円周軌道といったモチーフと、日本的な美意識を、波紋を起点にすれば表現できるのではないかというのが発端でした」

 立体的な奥行き感の演出について、小野氏から問われた落合氏はこう答える。

 「レイヤーにすることで円環を増強させ、4つの数字インデックスはダイヤルリングに固定することで、ちょっと浮くように置いています。そこに落ちる影を意識し、表情がしっかり出るような演出です。地板には細かいサンドブラストや筋目、鏡面仕上げを入れて角度によって印象が変化するように意図し、差し色でもメリハリをつけました」

 山本氏はベゼルについての印象と、その理由を問う。

 「この輪郭だけが滑らかなカーブを描き、雰囲気が異なりますが、ここに時計の個性が出ているように思います。無機質で機械的な構造に対し、周囲は丸みが可愛いらしく生き物っぽい。そこに親しみを感じるのですが、どういう意図があったのですか?」

 「意図的というよりも感覚的なものですね。波紋のような円環が広がっていくというイメージで、ユーザーが触れる一番外側は柔らかくすることで、波紋のなだらかな感じを最後のベゼルの円に持たせるようにしました」と落合氏は答え、「そのおかげでちょっとみずみずしい印象になったのかも? いずれにせよ、着けにくい時計にはしたくないと思いました」と笑う。それにYOYのふたりも得心した。


喜びから広がる時計という無限の表現へ

 この2本の新作を通して伝わるのは、オリエントスターが明らかにこれまでとは異なる、新たなデザインのベクトルを指し示したことだ。スケルトンでは日本的な間(ま)の広がりという哲学を注ぎ、スリーハンドではアイコンさえも省いて王道の3針に仕上げる。モデルそれぞれのテーマを貫き、シンプルに作り込んだ結果、そこに息づく作り手の強い思いが、見る者の感性により直接的に訴えかける。

 落合氏は、それこそがブランドステイトメントとして掲げる“JOY OF DISCOVERY”なのだと説明する。単なる機械造形ではなく、エモーショナルな印象や世界観を想起させるようなメッセージをしっかりと時計に込めて形にしていこうという試みである。

 YOYのふたりも、新作のディテールに宿る意思や意図をくみ取り、そこに作り手のこだわりと喜びが伝わってくると評した。フォルムやスタイルだけでなく、そのまとめ方や仕上げの処理などを見ていくほど広がりがあり、そのデザインをもう一度自分のなかで反芻していく楽しさもあると言う。

 オリエントスタースケルトンでは、デザインに着手する前にまず設計部門に、搭載するムーブメントを限界まで肉抜きしてもらったという。これを基に意図する形を自由に足していった。その作業はとても楽しかったと落合氏は振り返り、YOYも「作り手が楽しく作ったのだろうというのが確実に伝わる」と同調した。

 その楽しさはけっして作り手だけのものではないだろう。そんな新たな出会いや発見の喜びの提供こそが“JOY OF DISCOVERY”なのだ。

 YOYは時計の魅力について、人間が発明した概念として欠かせないもので、それを形にした時計をデザインすることは人類そのものを考えることに繋がると語る。その広大なテーマを、小さなダイヤルのなかでどう切り取るのか。しかも時計は着ける人物の性格や好み、理想像さえも表現する。それらをすべて凝縮して表現するからこそ、時計は今もなお無数に作られ、無限の表現の可能性があるのだと。それだけ懐の深いテーマということだ。

 オリエントスターが輝ける星を目指し、宇宙に象徴される世界観を掲げる本質もそこにあるのだろう。そして75年の歴史を踏まえた現在地から、ブランドはさらに新たな挑戦へと向かう。今回の2作は、その第一歩であると同時に、次世代への通過点となるのだ。


新作ギャラリー
 

Photos:Tetsuya Niikura Styled:Eiji Ishikawa(TRS) Words:Mitsuru Shibata Special Thanks:YOY