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Interview ブレモン スーパーノヴァが示す、新たなツールウォッチ像

新作スーパーノヴァ クロノグラフは、極限環境で性能を証明するブレモンの新章を告げるツールウォッチだ。CEOのダビデ・チェラート氏に、その設計思想と月面プロジェクトの狙いを聞いた。

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時計専門店ISHIDAを運営するベスト販売が英国発の時計ブランド、BREMONT(ブレモン)と日本国内におけるダイレクトパートナーシップ契約を締結し、2026年7月から日本市場での本格展開を開始した。

 ISHIDAが次世代に向けた新たな高級時計の選択基準として掲げるのが、「Next Standard Luxury」だ。スマートウォッチを入口に時計に接点を持った若い世代が、機械式腕時計に宿る職人技や、製品の背景に紡がれたストーリーに価値を見いだし始めている。そうした新しい世代のライフスタイルや価値観にふさわしいブランドを提案し、時計の販売だけにとどまらない特別なブランド体験を提供しようとする試みである。

 ブレモンは、「世界で最も過酷な環境に耐えうるツールウォッチを創り出す」という飽くなき情熱のもと、2002年に創設された新興時計ブランドだ(ブランドの詳細はこちらの記事でもご確認いただきたい)。英国の時計製造の伝統と現代的な精密工学を融合させ、素材選びと緻密な仕上げによって、陸・海・空、さらには宇宙という過酷な環境を想定した堅牢なツールウォッチを形にしてきた。

 格式や知名度だけではなく、実用性に裏付けられた品質、機能美、そして冒険心を刺激するストーリーを重視する。その姿勢に共感したISHIDAは、ブレモンを「Next Standard Luxury」を体現するブランドのひとつと位置付け、新世代の時計ファンはもちろん、確かな審美眼を持つ日本の時計愛好家にその魅力を届けるべく日本市場への導入を決めた。

ダビデ・チェラート(Davide Cerrato)

パネライを経て、チューダーではマーケティング、デザイン、商品開発を統括。2012年発表のブラックベイを手掛けた。その後、モンブラン時計部門のマネージングディレクター、HYTのCEO兼クリエイティブディレクターを歴任。2023年にブレモンのCEOに就任し、英国時計の伝統と現代的なツールウォッチ像を結び付けるブランド改革を主導している。

 今回、日本での本格展開に合わせ、ブレモンのCEO、ダビデ・チェラート(Davide Cerrato)氏が来日。Watches and Wonders Geneva 2026で発表された新作を携え、その魅力と開発の背景にある月面プロジェクトについて直接話を聞いた。

 これまで数々の時計ブランドで商品開発とクリエイティブを率いてきたチェラート氏は、現在、ブレモンのCEOとしてブランドの新たな方向性を描いている。英国の時計製造の伝統、軍や航空分野との深い結び付き、極限環境で実証されてきた堅牢性。ブレモンを形づくるこれらの要素を、ひとつの明確なブランド像へとまとめ上げようとしている。

 その取り組みを象徴する新作が、スーパーノヴァ クロノグラフだ。未来的な意匠を備えた一体型ブレスレットウォッチである一方、実際に月面へ送り込まれることを前提に開発された本格的なツールウォッチでもある。

 チェラート氏は、なぜブレモンを新たな挑戦の舞台として選んだのか。そして、スーパーノヴァ クロノグラフに何を託したのか。これまでのキャリアを振り返りながら、月面プロジェクトの狙いとブレモンが目指す未来について聞いた。

佐藤

さまざまな時計ブランドで活躍してきましたが、なぜブレモンを選んだのでしょうか。

チェラート氏

 最初に興味を引かれたのは、ブレモンがイギリスのブランドであることです。イギリスはマリンクロノメーターをはじめ、時計史において欠かすことのできない国です。その歴史が持つオーセンティシティ、つまり真正性とストーリーに魅力を感じたのです。

 もうひとつは、軍との結び付きです。ブレモンはイギリス軍だけでなく、アメリカやオーストラリアを含むさまざまな国の軍と関係を築き、それぞれの部隊に向けた特別な時計を製作してきました。単に軍用時計らしい外観を備えているだけではなく、実際の使用者との関係を持っているブランドなのです。

 また、ブランドが位置する価格帯や市場セグメントは、私が長く携わってきた領域でもあります。時計業界での約25年のキャリアのうち、その多くをこのセグメントでの仕事に費やしてきました。どのようなデザインコードが求められるか、どのような価格が適切か。正しい価格で、正しい人々とつながり、ブランドに情熱を持つファンと継続的に世界観を築いていけること。それもブレモンに魅力を感じた理由のひとつです。

佐藤

これまでの経験は、ブレモンでどのように生かされていますか。

チェラート氏

 私のキャリアとブレモンは、完璧にマッチしています。ブレモンは、冒険や探検、ミリタリーの現場で実際に使えるツールウォッチをつくり続けてきました。ブランドのDNAの中核にはパイロットウォッチがあり、時計を装着したマネキンを射出座席から射出し、約25Gの負荷を受けても作動するかを確認する試験も行っているほどです。

 ブランドにとって重要なのは、実際の任務で使えること、冒険へ出掛ける人が毎日身に着けられること、そして厳しい使用環境に耐えられることです。私がこれまで関わってきたブランドでも、実用時計やミリタリー、探検といったテーマはとても重要でした。そうした経験を生かして、ブレモンを“キング・オブ・ツールウォッチ”にしたいと考えています。

 ブランドは、堅牢性と耐久性に継続的な投資を行ってきました。素材についても、904Lステンレススティールをはじめ、セラミック、チタン、アルミニウムブロンズなど、それぞれの用途に適したものを採用しています。外観だけでなく、耐食性や使用時の耐久性まで考えた素材選びです。

 しかし、最も重要なのは試験を行う文化です。スペックを設定するだけではなく、本当にその条件に耐えられるのかを検証する。耐久性に対する私たちの姿勢は、ある意味では“強迫観念”と呼べるほど徹底しています。

 スーパーノヴァ クロノグラフを月へ送るプロジェクトも、それを象徴するものです。極限環境で実際に使用し、その結果を次の製品へ還元する。この積み重ねがあるからこそ、ブレモンは“キング・オブ・ツールウォッチ”と呼ぶにふさわしいブランドになれると考えているのです。

ブレモンが発表した2026年の新作スーパーノヴァ クロノグラフは、アメリカの航空宇宙企業ヴェンチュリ・アストロラボ社(Venturi Astrolab)との協業により、月面探査ローバー「FLIP」への搭載が決まったことで話題を集めた。現在、2026年後半に月面へ向かう計画が進められている。Photo courtesy: Bremont

佐藤

新作のスーパーノヴァ クロノグラフは、宇宙から着想を得てデザインされたのでしょうか。それとも月面で必要となる機能から生まれたのでしょうか。

チェラート氏

 デザインと機能の開発を同時に進めた、ホリスティックなプロジェクトです。どちらか一方が先にあったわけではありませんが、最初から宇宙探査を表現する時計をつくりたいと考えていました。一方で、実際に宇宙空間や月面で使用できる堅牢性も必要です。そのため、宇宙のイメージと機能的な要件を並行して開発しました。

 CEOとしてブランド全体を見ていますが、私はデザインにも強いこだわりを持っています。スーパーノヴァ クロノグラフでは、単に宇宙に関連する色や装飾を加えるのではなく、時計の構造そのものから未来を表現しようと考えました。

立体的な構造ながら、手首に載せると思いのほか収まりがいい。

佐藤

一体型ブレスレットを採用したのはなぜですか

チェラート氏

 現代的なイメージと耐久性を両立するためです。メタルブレスレットはそもそも頑丈ですが、904LSSを使うことで、実用面でも高い耐久性を持たせることができます。同時に、一体型ブレスレットとすることで、モダンな存在感を生み出せます。

 ただし、一体型ブレスレットウォッチには、ジェラルド・ジェンタ以降の1970年代的、あるいはヴィンテージ的な印象を持つものも少なくありません。この時計で目指したのは、その方向とは異なるものです。過去を振り返るのではなく、立体的でフューチャリスティックな一体型ブレスレットウォッチをつくりたいと考えました。宇宙船や人工衛星、ソーラーアレイ(編注;複数の太陽光パネルを直列や並列につなぎ合わせ、実際に使用できる状態にまとめた発電ユニットのこと)などからデザインコードを取り入れています。

 この時計で表現したかったのは、ノスタルジーやヴィンテージ的な宇宙観ではありません。これからの宇宙探査やテクノロジーを感じさせる、現代的で未来的な腕時計にしたいと考えました。

Photo courtesy: Bremont

佐藤

ケースには、どのような工夫を盛り込んだのですか。

チェラート氏

 ケースは3層のサンドイッチ構造です。各層で色や素材、仕上げを変えられるため、視覚的な立体感を生み出せるだけでなく、将来的な発展性も高い構造になっています。

 現在は904LSSに複数の仕上げを施し、一部にはDLCコーティングを採用しています。将来的には、中央の層にカーボンファイバーなど、異なる素材を使う可能性もあるでしょう。つまり、ケースはひとつの完成されたデザインであると同時に、今後のコレクションを広げていくためのプラットフォームでもあるのです。

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佐藤

複雑なダイヤル構造ですが、どのようなところにこだわりましたか。

チェラート氏

 ダイヤルは、特に力を入れた部分です。グリッド状のパターンは、宇宙船のソーラーアレイから着想を得ています。ダイヤルには発光する要素を採用し、光が内部から透過して見える構造にしました。暗所で光る様子には、時計そのものがエネルギーを発しているような印象があります。宇宙を旅するSF作品や、宇宙船が高速で移動するときの光の表現もイメージの源です。インデックスも平面的ではなく、非常に立体的で幾何学的な形状にしています。

 ダイヤルは5個のパーツを10本のネジで固定する複雑な構造です。ネジはベゼルの下から通しているため、ケースバック側には固定部が露出しません。その結果、ケースバックをフラットに保つことができ、装着感も高められます。モダンで、これまでに見たことのない複雑なものをつくりたいと考えたのです。

 装飾を付け加えるのではなく、構造や面の切り替えによって光を生み出しています。未来的な印象は、色やモチーフだけでなく、光の動きによっても表現しているのです。

アストロラボ社が開発した月面探査ローバー「FLIP」。月面走行に対応する変形ホイールのほか、展開式ソーラーパネルと太陽光発電で得た電力を蓄えるバッテリーを備える。2026年後半には、NASAの商業月面輸送サービス(CLPS)の一環として実施される、米国の商業月面輸送企業アストロボティック・テクノロジー社(Astrobotic Technology)による民間月着陸ミッション「グリフィン1(Griffin Mission One)」で、月の南極域へ送り届けられる予定だ。Photo courtesy: Bremont

佐藤

スーパーノヴァ クロノグラフを月へ送るプロジェクトは、どのような目的で始まったのでしょうか。

チェラート氏

 単に「時計が月へ行った」という話をつくるためのプロジェクトではありません。将来、人類が月面で活動し、恒久的に滞在するためには、どのような機器や素材がその環境に耐えられるのかを知る必要があります。今回のプロジェクトは、そのための基礎的な探査と実証の一部です。

 私たちの時計についても、過酷な環境下で機械式腕時計がどこまで作動し続けられるかを確認します。さらに将来、人類が月で生活するようになれば、地球上のタイムゾーンとは異なる“月の時間”を表示する時計が必要になるかもしれません。このプロジェクトは、将来の宇宙生活における時計の役割を考える契機にもなります。

佐藤

月面には、どのように持ち込まれるのですか。

チェラート氏

 時計本体を月面探査ローバー「FLIP」のシャシーに組み込みます。ローバーは月の南極付近を移動しながら、さまざまなデータを収集します。その移動に伴う振動や動きによって、自動巻きムーブメントのローターが回転して主ゼンマイを巻き上げ、時計の動力を確保することを想定しています。

 月面では、時計はローバーの走行による強い振動や非常に大きな温度変化、放射線、塵、微小な飛来物など、地球上とは異なる条件にさらされます。そのなかでローバーがどこまで活動できるか、時計がどこまで作動できるかを確認したいと考えています。

Photo courtesy: Bremont

佐藤

月面へ行くスーパーノヴァ クロノグラフは、市販品と異なる特別仕様なのでしょうか。

チェラート氏

 時計本体は、店頭で購入できる市販品と同じです。私たちは約25年間、ケース構造や耐久性に投資を続けてきました。その結果、特別な月面仕様に変更しなくても、月へ送れるほど堅牢であることが確認できました。月へ送るためだけのプロトタイプではなく、実際にお客様が購入できる時計と同じものを使用する点は、今回のプロジェクトにおいてきわめて重要です。

ブレモン スーパーノヴァ クロノグラフ

Ref.SN41-CHR-SS-BK-B 144万円(税込)

一体型ブレスレットと多層構造のケースを組み合わせ、立体的でシャープな造形に仕上げたブレモンの新コレクション。ソーラーアレイを思わせるグリッド状のダイヤルや多面カットのベゼルが光を捉え、未来的な表情を生み出す。904LSSケース&ブレスレット。ケース径41mm、厚さ14.4mm。10気圧防水。自動巻き(Cal.BC77AC、2万8800振動/時、約62時間パワーリザーブ)。

佐藤

月面へ送る前に、どのような試験を行ったのでしょうか。

チェラート氏

 約1カ月半にわたり、宇宙飛行や月面活動を想定した非常に厳しい試験を行いました。振動や衝撃、極端な温度変化、放射線など、時計が宇宙空間で直面する可能性のある条件を再現しました。実際の月面環境よりも厳しい条件下に置き、時計が耐えられるかを確認しました。

 これは防水時計の試験と同じ考え方です。500m防水の時計を、ちょうど500m相当の圧力だけで試験するわけではありません。それ以上の圧力をかけ、十分な安全マージンがあることを確認します。スーパーノヴァについても、実際の月面で想定される条件より厳しい試験を行っているため、問題なく作動すると確信しています。

佐藤

ブレモンにとって、プロジェクトの「成功」をどのように考えていますか。

チェラート氏

 まずは打ち上げから月面着陸まで、時計が破損せずに到達することです。その後、ローバーの活動とともに時計が作動し続けることも重要です。ただし、永久に動き続けることだけが成功条件ではありません。ローバーが停止して時計が巻き上げられなくなれば、機械式時計もいずれ止まるでしょう。そのとき、ローバーと時計は月面に残り、タイムカプセルのような存在になります。

 将来、別のプロジェクトで宇宙飛行士が月面を訪れ、この時計を回収して巻き上げれば、再び動き始める可能性もあります。そうした未来まで含めて、非常にロマンのあるプロジェクトだと思います。

 今回のプロジェクトで得た知見は、ブレモンのすべてのコレクションに反映していきます。ケース構造や素材、表面処理だけではありません。ラバーストラップについても、新しい素材や処理方法の開発が進んでいます。私たちの目的は、月へ行く特別な時計を1本つくることではありません。スーパーノヴァで得た経験を生かし、ブレモンのすべての時計を、よりタフで、より耐久性の高いものへ進化させることです。それこそが私たちにとっての成功といえるでしょう。

ブレモンの詳細は、公式サイトまで。

特に表記のない画像は、Photographs by Keita Takahashi