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過去5年間、スイスの高級時計ブランドのなかで、カルティエの実績に匹敵するブランドはほとんどない。ヴォントベル銀行やモルガン・スタンレーのアナリストの推定によれば、パリを拠点とするこのジュエリーメゾンは、売上高で世界第2位の時計ブランドへと躍進した。カルティエの主力事業は依然としてジュエリー部門だが、アナリストによれば時計部門の推定売上高は2025年に約10%成長して30億スイスフラン(日本円で約6000億円)を超え、2019年の20億スイスフラン(日本円で約4000億円)未満から増加したという。
さらに注目すべきは、より広範な市場と比較した際の、カルティエの時計部門の業績だろう。ほとんどのブランドがコロナ禍後の需要急拡大と、その反動による需要の落ち込みを経験するなか、アナリストによるとカルティエの時計部門は、平均価格約6000スイスフラン(日本円で約120万円)と、比較的手の届きやすい価格帯を維持しながら、ほとんどの競合他社よりも低い値上げ率に留めながら市場平均を上回る成長を遂げている。これによりカルティエは、特に若年層のあいだで、多くの時計消費者の欲しいものリストの上位を占める、大きな生産規模、長い歴史、そして親しみやすい価格帯を兼ね備えた数少ないブランドとしての地位を確固たるものにしたのだ。
特大の“XII”を配したトーチュ モノプッシャークロノグラフ。
同時に、カルティエは時計愛好家やコレクターのあいだでも評価を高めている。WatchCharts.comのカルティエ指数によれば、2次流通市場での価格は1年間で8.6%上昇。ヴィンテージピースのオークション結果はさらに好調で、Everywatch.comによると2025年のカルティエの総売上高は約5億2300万ドル(日本円で約820億円)に達し、前年比43%増という目覚ましい増加を記録した。
この勢いはとどまるところを知らない。つい先月、香港で開催された記録的なサザビーズのオークションでは、1987年製の希少なカルティエ ロンドン クラッシュ(わずか3本のうちの1本と考えられている)が200万ドル(日本円で約3億1000万円)で落札され、カルティエの腕時計としてオークション史上最高額を更新した。
もちろん、カルティエの経営陣はアナリストの推定が正しいとは認めていないが、近年の1次市場・2次流通市場におけるブランドの強さは認識している。ジュネーブで開催されたWatches & Wondersでの座談会で、CEOのルイ・フェルラ氏と、長年イメージ、ヘリテージ、スタイル部門を長年率いるピエール・レネロ氏はともに、メゾンが顧客との対話を重ねながら市場動向を注視し、それをデザインや生産判断に反映していると語った。しかし、それは短期的な流行に反応するという意味ではない。一過性のトレンドではなく、アイコンを創造することを目指し、何十年にもわたって通用するような決定を下しているのだ。
「それはメゾンのDNAに刻まれています。私たちはジュエラーであり、ウォッチメーカーでありますが、同時に商人でもあるのです」とフェルラ氏は語る。彼は同じリシュモングループ傘下のヴァシュロン・コンスタンタンでCEOを7年間務め、同ブランドを成功へと導いた。ジュネーブの時計メーカーとして初めて売上10億ドル(日本円で約1560億円)超えを達成したのち、2024年9月にカルティエのトップに就任した。
「私たちは常に市場のニーズを理解しようと努めてきました。そして時にはその先を行き、革新的で、需要に先んじる存在であろうとしてきました。だからこそ、私たちの製品の多くがアイコンになったのです」とフェルラ氏は続ける。
実際、スイス時計における真のアイコンモデルを順位付けしたモルガン・スタンレーの報告書では、カルティエが上位2モデルを占めている。それは120年以上前に誕生したサントスと、同じく1世紀以上の歴史を持つタンクであるが、同行のアナリストたちは、それらを最も早い時期からアイコンとして定着したモデルだとみなしている。
また2025年の生産本数は、前年比2%増の約69万5000本に達すると推定されている。モルガン・スタンレーのアナリストは業界の現状に関する最新の報告書“Swiss Watcher”で、「カルティエは時計とジュエリーの両方で最もアイコニックなデザインを有するブランドとして広く認識されています。これによりメゾンは、豊富なアーカイブから過去のデザインを再解釈し、洗練させることが可能になっているのです」と述べている。若い消費者やZ世代からの関心が高まるなか、「新作はブランドの時計製造における信頼性を強化しつつ、中核となる商業的な製品群をサポートするというふたつの役割を果たしています」とアナリストは分析する。
タンク ノルマル。
カルティエの成功と確固たる地位にもかかわらず、CEOのフェルラ氏は、現在のスイス時計業界に圧力をかけている多くの外的要因について率直に語る。彼は、時計メーカーのコストと収益を圧迫している金価格の高騰、インフレ、為替変動、コロナ禍の余波、さらにウクライナや中東での戦争を挙げた。
「ここ数年は、決して平坦な道のりではありませんでした」と彼は語る。
それでもカルティエは、(唯一自社を上回る規模を持つ)ロレックスと同様、多くのブランドと比べて巧みに困難を乗り越えてきた。確立され、よく知られたモデルが並ぶ豊富なカタログは、不透明な時代に市場から求められているからだ。
「不安定な時代に、顧客が求めるのはアイコンです。それは安心感があり、裏付けのあるリセールバリューが期待できるからです」とフェルラ氏は言う。そして「カルティエは、まさにその期待に応えているブランドなのです」と続けた。
左から順にタンク ノルマル、タンク サントレ、クロシュ ドゥ カルティエ。
ブランドはWatches & Wonders 2026で、新作として貴金属(プラチナまたはイエローゴールド)製のサントス デュモンの新たなバージョンを発表。これは新設計の複雑でエレガントなブレスレットが組み合わされている。これはすでに確立され実績のあるモデルラインを高級化、アップグレード、洗練させるという、いかにもカルティエらしいアプローチだ。
しかし同時に、14年前に生産終了したモデル、ロードスターも復活させたのだ。
一部の人は、自動車からインスピレーションを得たこの時計が再設計された薄型ケースを備えて、2サイズ展開で復活したことを興味深い選択だと捉えていた。ダイヤルにはスピードメーターのような同心円状の模様があり、ケースのリューズ側には1950年代の自動車に見られるテールフィンやテールライトを思わせる膨らみを持つ曲線的なロードスターは、カルティエのラインナップのなかでは常に異質な存在だった。特に、カルティエのデザイン言語を特徴づけるサントスやタンクのすっきりとした直線的なラインと比べるとその印象は一層強かった。
カルティエ ロードスター。
レネロ氏は、ロードスターの復活は2000年代(正確には2001年)に誕生したモデルを復活させた初めての事例であり、その点で注目に値すると述べた。しかしアップデートされ、洗練されたスポーティなロードスターは間違いなく、現在のカルティエのラインナップにあるもうひとつのエレガントなスポーツウォッチ、サントスに代わる選択肢となるだろうと語った。
そうしたニーズに応えるため、新しいモデルをデザインするか、過去のカタログにある既存モデルを復活・改良するかという選択肢がある場合、カルティエはほとんどの場合、過去のカタログにあるモデルをアップデートすることを選ぶ。なぜなら、そのフォルムとデザインはすでにブランドにふさわしいものと証明されているからだ。
両経営陣は、自身と1万人のカルティエ従業員の役割を、カルティエブランドの守り手と見なしていると述べた。メゾンの育成、保護、維持を最優先事項として、長期的な決定と選択を行っているという。
フェルラ氏は、カルティエを率いる責任を的確に表す格言として、「今日あなたが木陰を享受できるのは、ずっと昔に誰かが木を植えてくれたからだ」という言葉を引用する。確かにカルティエというブランドが持つ豊かで確立されたデザイン言語のおかげで、現代の世代は先人たちの選択の恩恵を受けている。
「今を楽しむことはとても大切です。しかし同時に、自分たちの行動が未来の木陰をもたらすものであるという責任感を持たなければならないのです」とフェルラは語る。
そして、だからこそ「私たちは今も木を植え続けているのです」とレネロ氏は言う。
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