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Watches & Wonders 2026で発表され、商業的にもコレクター市場でも成功を収めた時計は、数々の不安を乗り越えてきたに違いない。というのも今年の時計業界最大かつ最重要の年次見本市の開催にあたって、不安材料は数多く存在した。中東での戦争勃発は旅行計画を狂わせ、地域内外からの来場者の見通しを曇らせた。実際、中東での売上は間違いなく影響を受けており、いつ安定するのかは依然としてわからない。
つまり過去最高水準に達した金価格をはじめとする原材料費の高騰や、継続する米国の関税措置、スイスフランの高止まり、さらに長年続く小売価格の値上げといった時計業界が以前から抱える課題は、依然として業界全体に重くのしかかっていた。こうした要因を総合すれば、今年の見本市は控えめで慎重な雰囲気になるはずだった。しかし実際には業界関係者たちはジュネーブに集結し、楽観的でオープンな姿勢を示した。そこでは“価値”を示すことをテーマに掲げ、多くの場合はなじみのある、しかし必ずしもそうとは限らないデザインを纏った新作を通じて、顧客や消費者の要望に耳を傾けてきたことをアピールしていたのだ。
ジュネーブ市中心部で開催されたモントルー・ジャズ・フェスティバルなど、一般向けイベントも実施されたことで、Watches & Wonders は業界と時計産業地域としてのスイスにおける文化的な柱としての役割を強調し、よりオープンで親しみやすい存在であろうとしていた。こうしたより一般層を意識した新戦略は確かに成果を上げ、来場者数はサロン史上最多となる約6万人に達し、前年と比べて全体で9%の増加となった。
Watches & Wonders Geneva財団会長のシリル・ヴィニュロン氏は、この見本市が、包括性や一般来場者との交流の重要性をこれまで以上に強く意識するようになったと語る。2026年のパレクスポには前年の55ブランドから増加して、65ブランドが出展し、より幅広いカテゴリーや嗜好、出自を代表する新たなブランドや製品を歓迎し続けている。
「私たちは、ラグジュアリーが過剰になったり、排他的になったりして、人々を締め出してしまうことを避けたいのです。そこにある美しさを、誰もが楽しめるようにしたいのです」と彼は語る。
さらに彼は、その狙いは、春のジュネーブにおいてウォッチメイキングを“喜びの瞬間”として一般に向けて発信することにあると付け加える。1週間にわたって開催された数多くのイベントや集まりを取り巻く熱気と来場者数を見る限り、その使命は果たされたと言えるだろう。トップブランドが発表した最高の新作は、装着性に対する新たな配慮や、新しい機械技術や素材による革新、さらには手の届きやすい価格設定による率直な価値提案を提示していた。
ロレックスはほとんど常にそうであるように、今回も全体の方向性を決定づけた。全モデルライン(ドレッシーな1908コレクションを除く)に採用されているオイスターケースの誕生100周年を祝うことで、時計史上もっとも重要なケースデザインの価値を改めて強調したのである。我々は、ほかのベースモデルと同水準の価格に設定された新しいオイスター パーペチュアル(OP)を目にした。そのモデルには、1970年代後半のデザイン主導の大胆なジュビリーダイヤルが、より遊び心と彩りを備えたアップデート版として復活していた。さらにロレゾール仕様の特別なOPや、サテン仕上げを施したイエローゴールド(YG)およびエバーローズゴールドによる繊細なフルゴールド製のモデルも登場したが、これは実に意外なサプライズだった。そしてもちろん、新たなゴールド合金“ジュビリーゴールド”も発表された。これは20年以上ぶりにロレックスの自社鋳造所から生まれた新合金であり、貴金属モデルを求める顧客に新たな選択肢を提供するものだ。社内で開発・製造されたこの新しいゴールドの色合いは、YG、エバーローズゴールド、ホワイトゴールドのいずれとも異なる方向性を示すものであり、それら3種すべての要素を組み合わせることで、“ゴールドのロレックス”に対する新鮮な解釈を提示している。現時点では特別仕様のデイデイト 40にのみ採用されているが、今後数年のうちにさらに多くのモデルへ展開されることが期待される。
姉妹ブランドのチューダーでは、もうひとつのサプライズがあった。モナークだ。ブランドが思い出させてくれるように、彼らはヴィンテージダイバーに着想を得たブラックベイや、現代的で実用的な主力製品であるペラゴスのバリエーションを超えて、人々を魅了し、創造することができる。新たに自社開発され、METAS認定を受けた精緻な仕上げのムーブメントにはスモールセコンド表示が備わり、シャープなファセットカットのケースにはそれに合わせた新しいブレスレットが装着されている。さらにパピルスの質感と風合いを想起させるシャンパンカラーに、伝統に根差した正真正銘の“カリフォルニア”ダイヤルを組み合わせた復活版モナークは、チューダーからは間違いなく予想外の逸品と言えるだろう。
ジャガー・ルクルトは野心とスタイルを携え、このカテゴリーへ再び戻ってきた。その薄型モデルは、間違いなく競争力を持つ存在となるだろう。マスター・コントロールはステンレススティール(SS)またはピンクゴールドで展開され、3種類の仕様が用意されている。ラインナップには、248万6000円のエントリーモデルである時刻&日付表示を備えたSS製モデルに加え、800万8000円のSS製パーペチュアルカレンダーも含まれる。また、SS製の日付表示&パワーリザーブモデルも用意されており、その価格は299万2000円(いずれも税込)だ。さらに、すべてのマスター・コントロールはブランドとして初めてCOSC認定を取得しているほか、ジャガー・ルクルトの新たなHPG(高精度保証)も備えている。これは社内テストと認証を経て、高度変化や日常使用における姿勢差、耐衝撃性、さらにはさまざまな温度環境下でも高い精度を維持することを保証する。SS製モデルはブランドの品質、デザイン、そしてムーブメント製造能力を踏まえれば競争力のある価格設定となっているだけでなく、新たな認証制度によって、この競争の激しいカテゴリーで比較検討を行う顧客に対し、さらなる価値を示している。
時計愛好家に人気のゼニスでは、G.F.J.の新作が、歴史ある天文台計時精度コンクールで優勝したCal.135の最新バージョンを搭載した高級モデルラインを際立たせている。このキャリバーは今後もコレクションに残り、何年にもわたって使用され続けるだろう。ブラッドストーンをあしらったYG製のモデルと、オニキスダイヤルを備えているタンタルケースのモデルは、G.F.J.が今後の展開やコラボレーションにおいて幅広い可能性を秘めていることを示している。
しかしおそらくこのブランドで最も顧客の声を反映した新製品は、クロノマスター スポーツ用の二重ロック機構を備えた特許取得済みのバックルだろう。これにより微調整可能になり、快適性とサイズ調整の幅が格段に向上した。ゼニスの幹部によれば、この新しい特許取得済みのバックルを完成させるのには約3年を要したという。手首の上で工具なしで、2.5mm刻みで合計10mmの範囲でサイズ調整できる。おそらく最も嬉しい点は、このバックルが間もなく既存のクロノマスター スポーツの顧客向けに単体で販売され、ブレスレットのアップグレードとして自身のモデルに取り付けられるようになることだろう。価格の詳細については続報を待ちたい。
日本からは、グランドセイコーがファンが待ち望んでいた41mm未満のサイズで、ウルトラハイエンドかつ世界記録レベルの精度を誇るスプリングドライブのダイバーズウォッチをついに発表し、スプリングドライブ U.F.A.を搭載したUshio 300 Diverが注目を集めた。年差±20秒の“Ultra Fine Accuracy(超高精度)”(ちなみに、昨年発表されたキャリバーは世界記録を達成した)を誇るCal.9RB1を搭載し、ブライトチタン製のケースは直径40.8mm×厚さ12.9mmと、従来のスプリングドライブのダイバーズウォッチから大幅に小型化されている。
ブレスレットもケースと同素材で、2mm刻みで6mmの微調整が可能で、18mmのダイビングエクステンションを備えている。ブランドの“潮”に着想を得たフュメダイヤルは、クラシックなグリーンとブルーの2色展開。セラミックインサート付きの120クリック逆回転防止ベゼルと300m防水性能を備えながら、超高級ダイバーズウォッチとしては扱いやすいサイズにまとめられている。価格は165万円(税込)と安価ではないが、ダイバーズウォッチとしては最高クラスの素材と仕上げで、最も高精度なムーブメントを搭載している。
セイコーウオッチ株式会社の社長である内藤昭夫氏は、Ushio 300 Diverに関するインタビューで「歴史あるセイコーのダイバーズウォッチから進化を遂げるグランドセイコーとして、グローバルな消費者のニーズに応えるモデルです」と述べている。
カルティエの経営陣は、市場と消費者のニーズに応えるという同社の目標を強調した。2000年代初頭に登場し、2012年頃に姿を消したロードスターは、より洗練されたスリムなケースで復活した。その背景には顧客の関心と、現在のラインナップのなかでひときわ異彩を放つ、自動車にインスパイアされた大胆なデザインへのノスタルジーがあった。
「ロードスターを求めるお客様がますます増えています」と、最高経営責任者のルイ・フェルラ(Louis Ferla)氏は言う。そしてこのモデルはサントスに加えて、ラインナップのなかでもうひとつのスポーティな選択肢を顧客に与えるものだと付け加えた。
カルティエのラインナップは、その大半が、アイコニックなタンクやサントス デュモンのバリエーションを含む、100年以上の歴史を持つ様式化されたデザインに基づくエレガントなモデルで構成されている。サントス デュモンは今年、貴金属製のきわめて繊細で精巧なブレスレットを備えた新作によって、さらに洗練され、高級感を増した。一方で、ブレスレット仕様の標準的なサントスはおそらくブランドにおける数少ないスポーティな選択肢のひとつだったが、ロードスターの復活は、それをまったく異なるデザインで補完するものとなっている。これにより顧客は、ラインナップ内でより多くの選択肢と価値提案を得られるようになった。
「適正価格という概念は、私たちにとってとても重要です」とフェルラ氏は語る。「お客様がブティックに来店された際に、支払った金額に見合ったきわめて良い商品を手に入れていただけるようにしたいと考えています」
パテック フィリップでは、ノーチラスの誕生50周年を記念するモデルが、その抑制の効いたデザイン、ミニマリズム、そして驚異的な薄さによって実に意外性のある存在となっていた。SSではなく貴金属製である点を除けば、これらの予想外のモデルは、ほとんどファンサービスと呼べるようなものだったと言える。これについては文句の言いようがない。日付表示と秒針を省いたRef.5810Gは、厚さ6.9mmで、直径41mmという“ジャンボ”のプロポーションを維持しながらも、初代のRef.3700より薄型に仕上げられている。さらに、38mmのRef.5610Pも存在する。このモデルは歴史あるCal.240を斬新かつ意外な形で採用することで、同じフォーマットと薄さを維持しつつ、直径をさらに扱いやすく装着感にも優れた38mmの“ミディアム”サイズへと縮小している。素材にはプラチナが用いられている。
パテック フィリップはここ数年、Ref.5711の生産終了や、物議を醸したSS製キュビタスの発表を通じて、カタログ内におけるノーチラスの突出した存在感や過大な役割を抑えようとしてきた。そうしたなかで、今回の顧客志向のアニバーサリーモデルは、シンプルに言って歓迎すべき、そして予想外の大成功作だった。
革新という観点では、おそらく今回最大の驚きは、パルミジャーニ・フルリエのトンダ PF クロノグラフ ミステリューズだった。洗練されたターコイズダイヤル、プラチナ製ベゼル、そして控えめなSS製ケースは、ブランドが掲げるクワイエットラグジュアリーという個性をさらに洗練させたものだったが、クロノグラフを表示するその斬新な手法はまさに啓示的だった。同ブランドの過去作であるGMT ラトラパンテやミニッツ ラトラパンテで採用されていた、針を隠すトリックと瞬時に飛び出す表示機構は、今回まったく新たな次元へと引き上げられていた。
ミステリューズは、ケース左側のモノプッシャーを作動させるまでクロノグラフ機構が隠されているという、新しいタイプのクロノグラフだ。ケース厚13mmという数値は決して極薄ではないが、クロノグラフ機能が起動した際に同軸上の5本の針が一斉に動き出す複雑な構造を考えれば、かなり薄く感じられる。価格は601万7000円(税込)だ。市場でもっとも洗練され、エレガントなデザインのなかで、クロノグラフという機構のまったく新しいあり方を提示している。
タグ・ホイヤーは、モナコ エバーグラフでクロノグラフに真の革新をもたらした。新しいTH80-00ムーブメントは従来のコラムホイール式やカム式のクロノグラフ機構を廃止し、代わりにニッケル・リン製の柔軟な部品を用いたコンプライアント クロノグラフ機構を採用している。これらの部品は回転するのではなく曲がることでクロノグラフ機能を作動させる。
つまり摩擦を抑えることで潤滑油の使用量を減らしつつ、複雑機構ならではの独特な操作感を備えた、より耐久性の高いクロノグラフを実現できる可能性があるということだ。専門のムーブメントメーカーであるヴォーシェ社(パルミジャーニのムーブメントも製造している)との共同開発により、クロノグラフムーブメントの自社開発を増やしたり、ほかでは入手できない独自のムーブメントや技術を採用したりするというブランドの野望にとって、大きな前進となるだろう。
価格は493万9000円(税込)で、タグ・ホイヤーの通常生産クロノグラフとしては大幅な値上げとなる。しかしその研究開発レベルは、同様の改良や革新を提供する他ブランドであればより高価格帯に属すモデルに匹敵する。
もちろん、もっとも手の届きやすい価格帯で高い価値を示したブランドもあった。オリスは、復活を果たしたスターによって、この領域で引き続き存在感を放っていた。スターはブランド史において重要なモデルであり、スイス時計法の不公平な制限に抗い続けたロルフ・ポートマン博士の尽力によって、同ブランドで初めてスイスレバー脱進機を使用できたモデルでもある。復刻版は、端正で高品質なクラシックウォッチでありながら、価格は36万3000円(税込)であり、その価値を明確に示している。
もうひとつの価値を重視するスイスブランド、フレデリック・コンスタントは、高級複雑機構を手ごろな価格で製造できることを示し続けた。小型化されアップグレードされたクラシック ワールドタイマー マニュファクチュールをブレスレットまたはストラップで提供し、ふたつの通常生産モデルはわずか88万円、88本限定のジェムセット特別モデルは154万円(ともに税込予価)だ。
そして最後に、価値を追求しているのはスイスブランドだけではないことを示したのが、ドイツのフランクフルトに拠点を置くジンだ。Watches & Wonders 2026に初参加した同社は、発表した3つの新作のなかで注目モデルとなる544を披露した。時刻・日付表示のみのシンプルな構成に、無駄を削ぎ落としたマットブラックダイヤル、堅牢かつ実用的に設計されたSS製ブレスレット、そしてスイス製ムーブメントを組み合わせ、価格は51万7000円(税込)だ。
今年はブランド各社が顧客とのつながりを深め、価格への懸念や不満を真摯に受け止めていることを示そうとしていた。パテック フィリップは6桁価格帯のプラチナ製の極薄ノーチラスというファンサービス的なモデルで、愛好家の期待に応え、ロレックスはオイスターケースという本質的な価値を強調した。ゼニス、グランドセイコー、ジャガー・ルクルト、カルティエもそれぞれ顧客が求める方向性を意識した提案を行っていた。
パルミジャーニは驚くほど革新的な技術を用いながらも、エレガントで控えめなデザインを追求した。タグ・ホイヤーは機構と価格設定の両面で際立つ、斬新で予想外のクロノグラフムーブメントを発表し、チューダーは意外性のあるモデル復活と再解釈で注目を集めた。さらにオリス、フレデリック・コンスタント、ジンは明確な価値提案を打ち出していた。
今年のWatches & Wondersは業界とブランドがエンドユーザーの声に耳を傾け、デザイン面、機械的革新、あるいは価格に対する価値といったさまざまな側面で価値提供を試みていることを示すものだった。ポストコロナ時代のインフレ経済は、時計業界と価格設定の基準を確実に変化させた。これらのブランドとその新製品は、顧客とのつながりを再構築し、探せば価値は必ず見つかるということを証明しようとする試みだった。
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