5月中旬、私はスウォッチ×オーデマ ピゲ ロイヤル ポップという新しいコラボレーションモデルを実際に見る機会を得た。これは、スウォッチがオメガと初めてコラボレーションして以来、最も話題を集めている(そして最も賛否を巻き起こしている)プロジェクトだ。実機に触れる際には、手袋の着用が必要などいくつかの制約はあったものの、それでも十分に多くの印象を受け、さまざまな考えを巡らせるには十分だった。
これはとても楽しい時計だと思うし、いくつかの点では実に見事だと感じている。もちろん、そう感じない人が多いことも理解しているし、それはそれで構わない。まず見出し後半の問いに答えておこう。スウォッチ× オーデマ ピゲ ロイヤル ポップは、5月16日から一部の直営店でのみ購入可能だ。取扱店舗は、スウォッチ公式サイトのトップページからこのコラボレーションページに進み、“See Stores”をクリックすれば確認できる。ひとつのバージョン(リューズが右側にあるモデル)は6万1600円、もうひとつ(リューズが上部にあるモデル)は5万7200円(いずれも税込)だ。また、これはオーデマ ピゲ(AP)主導の製品ではないため、お近くのオーデマ ピゲ正規販売店に問い合わせても意味はない。主導しているのはあくまでスウォッチだ。
好むと好まざるとにかかわらず、スウォッチ×オーデマ ピゲ ロイヤル ポップが大きなニュースであることは間違いない。どれくらいか? 我々のサイトに数百件のコメントが寄せられたことがひとつの目安になるだろう。しかし、こんな事実はどうだろうか。このコラボに関する我々の“Introducing”記事は、公開から24時間で通常の記事が1カ月で獲得するページビューの約20倍を記録し、ロレックスのGMTマスター II “ペプシ”の製造中止ニュース(これまでのWatches & Wondersで最もアクセス数の多かった記事)よりも1.75倍も多く見られたのだ。我々は時計を愛しているが、それは閉じた世界になりがちだ。時計の世界がその壁を打ち破る稀な瞬間がある。ポール・ニューマンのロレックス “ポール・ニューマン”デイトナの売却が、おそらく最初の大きな事例だっただろう。しかしムーンスウォッチはそれよりもはるかに、はるかに大きなものだった。
2023年、タイムズスクエアに長蛇の列を作ったスウォッチ×オメガ ムーンスウォッチ “ミッション トゥ ムーンシャイン ゴールド”。
今でも世界中で新しいムーンスウォッチを着けている人を見かける。私はよくオーナーに話しかけ、“ムーンスウォッチ”と名前を挙げて褒めるのだが、半分くらいの人はそれが正式名称であることすら知らないのだ。それでもなお、ムーンスウォッチの存在に快く思わないコレクターもいるが、このロイヤル ポップが通常の時計コミュニティを超えた層にまで届くのも不思議ではない。
“時計コミュニティの外側”からこの記事にたどり着いた人たちへ、HODINKEEへようこそ。ロイヤル ポップを購入する前に知っておくべきことのすべて(そしてそれ以上)をここでお伝えしよう。そしていつもの読者の皆さんに向けても、古き良きHODINKEEらしい洞察をたくさん詰め込んでいる。
1.実物のロイヤル ポップはどんな感じ?
先述したように、ロイヤル ポップは楽しい。そこが本質であり、多くの購入者もそうした感覚で受け止めるだろう。皆さんには深呼吸をして、いったん批判の矛を収めて、一歩引いて見てほしい。これらを誰かが気軽に自己表現できるツールとして見て欲しいと心から願っている。それが自分の個性、時計への情熱、消費主義(世界をより否定的に全体として捉えるなら)を表現するものなのかは、あなた次第だ。あるいはそうでないかもしれない。しかし、私はそれをそれほど深刻なものだとは思わない。“深刻な”話はあとでするとして、まずは時計そのものについて話そう。
象徴的な八角形ベゼル(8本のビス付き)になぞらえるように、このモデルは8色展開だ。OTTO ROSSO(ピンクケース&ダイヤルにレッドベゼルを組み合わせたモデル)、HUIT BLANC(ホワイトケース、ホワイトダイヤル、ホワイトベゼルに、八角形ベゼルにちなんだ8色のレインボーカラーのインデックスとビスを組み合わせたモデル)、GREEN EIGHT(グリーンケース&ダイヤルにライムグリーンベゼルを組み合わせたモデル)、ORENJI HACHI(ネイビーケースにオレンジのビス、インデックス、針を合わせたモデル)、OCHO NEGRO(ブラックケース&ダイヤルにホワイトベゼルとホワイトインデックスを組み合わせたモデル)、BLAUE ACHT(ライトグリーンケース&ダイヤルにライトブルーベゼルと同色のインデックスを組み合わせたモデル)、LAN BA(ブルーケース&ダイヤルにライトブルーのベゼル、リューズ、スモールセコンドを組み合わせたモデル)、最後にOTG ROZ(ピンクケースにイエローベゼルとイエローリューズ、ティールカラーのダイヤル、ピンクのスモールセコンド、ブラック&イエローのアクセントを加えたモデル)がある。
たくさん記した。コミュニティでニックネームが定着すれば、もう少しわかりやすくなるだろう。ホワイトは(きわめて明白だが)“レインボー ロイヤル ポップ”か“ムラカミ”だ。ネイビーとオレンジはNBAファイナルに進出したニューヨーク・ニックスを応援しているようだ。ピンク/イエロー/ティールの仕様は、すでにアリゾナアイスティーから面白い賛辞が送られていた。個人的にはその3本に加えて、もうひとつのブルーのサヴォネットスタイルの時計と、ブラック&ホワイトの仕様が気に入っている。完成度はカラーリングによって差があり、明るいダイヤルに明るいインデックスを組み合わせたモデルは、ひと目で時刻を読み取るのが難しい場合がある。
まず驚かされたのは、その比較的小ぶりなサイズ感と圧倒的な軽さだった。私は、懐中時計を多く集めている時計愛好家として、比較用に2本の懐中時計を持参した。ひとつは6本のロイヤル ポップと同じく12時位置にリューズを備えるレピーヌスタイル。こちらは秒針がない(いわばロイヤル オーク “ジャンボ”のような存在だ)。
もうひとつは3時位置リューズとスモールセコンドを備えたサヴォネットスタイル。私が持参した時計はどちらもアメリカ製の同系統モデルだったが、ロイヤル ポップより明らかに大きかった。ロイヤル ポップはクリップを除くと横幅40mm、クリップ装着時で横44.2mm×縦53.2mm、厚さ8.4mm。そして重量はクリップ込みで28.2g、なしだと24.5gしかない。
ロイヤル ポップと、1919年製のイリノイ グレード89、16サイズの懐中時計。
1890年製のKeystone Watch Co.社製(当時Lancaster Watch Co.所有)18サイズの懐中時計。
その軽さとコンパクトなサイズ感は、この時計が超高級で本格的なロイヤル オークというより、もっと軽やかに機械式時計を楽しむための存在であることを瞬時に伝えてくる。もしあなたが5万7200円で、本格的な高級時計の世界とともに、しばしば争奪戦となるAPのオーナーシップへの近道を期待していたなら、それはここにはない。バイオセラミックはプラスチック的な質感(しかも植物由来素材を含む)を持っているから、言葉を選ばなければどうしても少し軽く見えてしまう。しかし、価格の割に製造品質に手抜きはなかった。リューズすら、APとスウォッチ両方のブランドロゴが入った、素敵な六角形のロイヤル オークスタイルだ。
仕上げについては後述するが(率直に言ってかなり印象的だ)、ホルダーへの着脱時の感触はきわめて良い。しっかりとした抵抗があり、壊してしまうのではないかと少し心配になったほどだ。しかし八角形ケースの側面にはくぼみがあり、ホルダー内部の突起がそこをしっかり固定する構造になっている。時間が経つにつれて着脱は簡単になるだろうが、正しく装着すれば時計が外れる心配はないだろう。そもそも、スウォッチにとってこのアイデアは初めてではない。同社は長年“POP”シリーズを展開しており、ネックレス仕様まで存在する。ランヤード自体は品質も良さそうで、コントラストステッチは素敵なアクセントだが、時計全体としては見失われがちだろう。
同僚のタンタンによる、大部分が自動化されたSISTEM51工場の驚異的な生産体制についての記事からわかるように、スウォッチは手ごろな価格で機械式ムーブメントを量産する体制をほぼ完成の域まで磨き上げている。もちろん、これは高級時計のムーブメントではない。クロノメーター認定も受けていないし、そもそも修理を前提としていない(ムーブメントのプレートは溶接されているなど、不可逆的な工程が多い)。これはこの種の時計に抱く最も正当な不満のひとつだろう。それはしばらくのあいだ、ムーンスウォッチ用の交換ストラップがスウォッチから入手できなかったことと同様に、購入前に知っておくべきことだ。我々の多くは、壊れたりメンテナンスが必要になったりしても、修理して使い続けられるからこそ時計を買う。しかし、それは別のコラムで議論すべきテーマだろう。
それでも、このムーブメントは侮れない。実際、彼らがここまでやったことにはかなり感心した。これは新設計の手巻きキャリバーだ。時計に詳しくない人のために説明すると、これは自分で巻き上げる必要があるということだ。バッテリーもなければ、あなたが動くと自動で巻き上げてくれる小さなディスクも内蔵されていない。しかし、そのおかげで時計は薄く保てている。風防とケースバックには傷に強く、反射防止加工が施されたサファイアクリスタルが使われており、ムーブメントを見ることができる。裏側を見ると、このポップアートスタイルの色彩とパターンが広がっている。大きなプレートがムーブメントを覆い、小さなプレートが2万1600振動/時(3Hz)で振動するテンプを支え(ほかのSISTEM51ムーブメントと同様なら)、そして側面には時計を動かす主ゼンマイを収めたゴールドの歯車がある。
本作は最大90時間という驚異的なパワーリザーブを誇り、この価格帯としては素晴らしい。巻き上げるにつれ、内部のゼンマイが徐々に見えなくなり、完全に巻き上がるとシルバーのゼンマイは姿を消し、ゴールドの香箱だけが見えるようになる。精度については、工場でレーザーによって日差-5秒から+15秒に調整されている。また、耐磁性を持つニヴァクロン製ヒゲゼンマイも採用。これはもともとスウォッチ・グループとオーデマ ピゲの共同開発によって生まれたものだ。
ネガティブな点を挙げるなら、スウォッチのリューズはいつも少し頼りなく感じることだ。時刻合わせ中に、リューズを引き抜いたり壊したりしないか少し心配になった。またリューズを回す回数と針の動きの比率のせいか、延々と回しているような感覚もあった。とはいえ、手巻きのクリック感は5万7200円という価格を考えると、かなり満足のいくものだった。
夜光(屋外で撮影していたため、どうしても夜光の写真を撮ることができなかった)やケースの耐変色性(ミッション・トゥ・ネプチューンで問題になったような点)など、テストできなかったこともある。またインフルエンサーが最近やっているように、エルメス バーキンの脇にぶら下げて、運転手付きロールスロイスにぶつけるような使い方をした場合に、どれくらい耐えるかもわからない。結局のところ、これらはバイオセラミック製であるため、比較的すぐに傷やへこみが目立つだろう。
しかしディテールへのこだわり、そして正直に言って、5万7200円の時計としての品質はかなり印象的だった。タペストリーダイヤルを並べて比較するためにロイヤル オークがあればよかったのだが(将来のためにHODINKEEに経費で買ってもらうよう請願書を出す)、その品質を見て欲しい。もちろんバイオセラミックに型押しされたパターンではあるが、驚くほどクールだ。ベゼルの滑らかなエッジは完璧で、上面の縦方向の筋目仕上げは、サテン仕上げを施した金属表面のように見える。ムーブメントの“仕上げ”自体は特筆するほどではないが、よく考えられたポップアートのモチーフで覆われている。スモールセコンドのインダイヤルでさえ、円形の“グレイン”仕上げが型押しされているのだ。
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク RD#5のプチタペストリーパターン。
ロイヤル ポップのプチタペストリー。プラスチックでここまで再現したのは驚くべきことだ。
これらはタイムピースであると同時に、おもちゃと表現してもある意味では正しい。日常使いの本格的な高級時計として作られているわけではないからだ。もっとも、5万7200円が多くの人にとって決して安い金額ではないことも承知している。しかし、これをAPの本流コレクションの延長線上(あるいはそこからの派生)として捉える人々は、木を見て森を見ず状態だ(ことわざをいじってしまったが)。名前そのものが遊び心を示唆しており、実物を見てもそうとしか思えなかった。
2.8色展開だが、決めるべきことは8つ以上(そしてユニークな1本を手に入れるチャンスも!)
スウォッチストアのショーウィンドウに最初に現れたのは、ムーンスウォッチのティーザーと同様、これらのロイヤル ポップのボックスだった。ムーンスウォッチ同様、ケース一式をまとめて購入することはできない。列に並べば、8色のロイヤル ポップのなかからひとつを選ぶチャンスが与えられる。列の先頭に着くまでに、好みの色(というか、そもそもどれかひとつでも)が残っている保証はないので、いくつか候補を考えておいたほうがいいだろう。
購入時に渡されるのは、細長い長方形の紙製ボックス。底部には布製のプルコードが付いており、それを引くと内部のトレーがスライドして出てくる。なかにはフォーム素材のインサートが収められ、そこにロイヤル ポップ本体と、コントラストステッチ入りのカーフレザー製ランヤード(変な曲がりやねじれを避けるために真っ直ぐに固定されている)が収められている。付属するランヤードは、スウォッチが“S”または“スモール”と呼ぶサイズで、長さは18cmだ。
しかし、スウォッチは3つの長さがあると発表していた。どうなっているのだろう? 私はすぐに、人によって色や長さの異なるモデルを選ぶとなると、販売現場をどのように回すのか気になった。あらかじめ別パッケージになっているのか、それともここ数年で最も大混雑となる発売日にランヤードの交換作業をするのか。答えはそのどちらでもない。長さ違いのランヤードは、Mサイズ(32cm)とLサイズ(42cm)が別売りとなっており、swatch.comから購入可能だ。しかもこれらにはホルダーも付属するため、時計本体を買い足さなくてもホルダーを自由に交換できる。ほかのアクセサリーとともに間もなく発売される予定だ。
待って、ほかのアクセサリー? そう、私もそう思った。プレスリリースで、デスククロックとして使えるように時計を置くためのスタンドがあると読んだとき(私が切実に必要としているものだ)、私はすぐに興奮した。箱を開け、逆さにして、ライナーを取り出したが、見当たらない。どうやらそれもウェブサイトで間もなく発売されるようだ。ほかにどんなアクセサリーが登場するのだろうか? 私にはわからない。しかし考えるべきことがたくさんあると思う。時計を好きなように身に着けたり使ったりするために、これらの追加の小物を購入したい場合は、余分にお金を予算に入れておくようにしよう。
きわめてレアで、おそらくユニーク(すべてのオークションハウスから言葉を借りれば)な、バイオセラミック製のロイヤル ポップ “HUIT BLANC”。
ちなみに、もうひとつちょっとした情報がある。APとスウォッチ関係者によれば、この時計の製造工程は高度に自動化されているため、“レインボーロイヤル ポップ”ことホワイトの“HUIT BLANC”には少しユニークな特徴があるという。インデックスの色配置はすべて同じなのだが、ビスの色だけはランダムに選ばれるのだ。スウォッチのリール動画を見ると、確かに色順がバラバラになっている。ビスの色は8色、配置箇所は表裏合わせて16カ所。私は数学の天才ではないが、スウォッチによれば組み合わせは300万通り以上になるという。もちろん向き自体は正しく揃えられているが、その組み合わせ次第では、自分の“レインボーロイヤル ポップ”が実質的に唯一無二になる可能性もある。
3.想像以上に多くの着用方法がある
同僚のマライカ・クロフォードの“How to Wear It”の領域を侵すようで申し訳ないが、これらの時計を実機で見たときに最初に考えたのは、ロイヤル ポップは遊び感覚で自由に取り入れ、多彩なスタイルで楽しめる面白いアプローチだということだ。人によっては当たり前に感じる話かもしれないが、“Introducing”記事のコメント欄を見る限り、少しインスピレーションや補足説明が必要な人も少なくなさそうだった。
私が最初にやったのは(発表時からずっと試したかったのだが)、ひとつの時計を“ホルダー”から外し、別色のホルダーに入れ替えることだった。発想としては単純で、ある意味ありがちかもしれない。しかし実際に色を組み替え、コントラストを加えてみるといかにクールか見て欲しい。しかも前述のとおり、新しいランヤードを買えばホルダーも付いてくるため、2本目の時計を買わなくても違う色を楽しめる。
付属のランヤードはひとつだけなので、箱から出したままでは選択肢が限られる。これらを“ネックレス”と呼ぶ人もいるが、Sサイズのランヤードを首にかけるのは現実的ではない。すぐにわかるのは、この時計はベルトループにぶら下げるのに適しているということだ(ポケットにしっかり入れておかないと落ちそうだ)。しかし我々の(主に男性の)コメント投稿者の多くがおそらく考えもしなかった、全く別の世界がある。それはバッグチャームだ。
BLACKPINKのLISAがバッグにLABUBU(ラブブ)をつけたことで、一気に世界的トレンドになった(少なくとも1年間ほどは)。
そのとおり、バッグチャームだ。当たり前に思えるかもしれないが、知らない人のために言うと、これがLABUBU(ラブブ)がとても人気になった理由のひとつだ。K-POPグループ、BLACKPINKのLISAが2024年にキーチェーンのラブブをバッグにつけているのが目撃されたあと、人気が爆発したのだ。エルメスのケリーやバーキンのハンドルにスカーフ(いわゆる“ツイリー”)を巻き、側面に小さなチャームをぶら下げているのを思い浮かべて欲しい。そうしたチャームは、ただでさえ憧れの対象であるバッグをさらに自分仕様にカスタマイズし、個性や独自性、そして入手困難なものを手に入れる能力をさらに示すためのアイテムでもある。そして、その小さな装飾品が数千ドルすることも珍しくない。私は“HUIT BLANC”をルイ・ヴィトン×村上隆のバッグに付けたAI生成のモックアップ画像を見たが、それは完璧だった。その瞬間に腑に落ちた。これこそが、この製品のターゲット層なのだと。
ChatGPTはルイ・ヴィトンのバッグにチャームを付ける方法を知らないようだが、雰囲気は伝わるだろう。Purse image courtesy Sotheby's
もちろん、トレンドや熱狂は狙って作れるものではない。しかしAPにはブランドアンバサダー、ブランドの友人、熱心な信奉者など、絶大な文化的影響力を持つ人々がいる。もしレブロン・ジェームズが、ホルダーを交換し、新しいランヤード、もしかしたらほかのチャームもいくつか加えてカスタマイズしたロイヤル ポップをベルトからぶら下げて試合に現れたら、一部の人々(HODINKEEのコメント投稿者のほとんどではないが)は熱狂するだろう。セリーナ・ウィリアムズ、ヘイリー・ビーバー、シモーネ・バイルズ、そしてBLACKPINKのLISAだって時々APを着けている。彼女が一度トレンドを作ったのなら、もう一度できるはずだ。すぐにマイアミにあるナイトクラブ E11evenで、3つの時計、ホルダー、ランヤード(後者はルイ・ヴィトンのダミエバッグで作られている)のカスタムコンビネーションを身に着けたインフルエンサーが登場することも十分あり得る。
1960年代製のセイコー製ゴルフウォッチ。Photo courtesy Wind Vintage
1959年製のパテック フィリップ製ゴルフウォッチ Ref.782。Photo courtesy Atelier Tempus
こういう話に興味が持てない読者のために、ゴルフはどうだろうか。我々はゴルフが好きだろう? そして、ゴルフウォッチについて知っているだろうか? ベンがいくつかコレクションしているのを知っている。ゴルフウォッチは小さな時計で、本質的には懐中時計であり、通常は細いランヤードを通すための切り欠きがあり、バッグにぶら下げたり、(より安全に保管するために)貴重品用のポケットに入れたりして、腕時計を着けていないときでもいつでも時間を確認できる。リューズの周りに“ボウ”があるこれらの時計のデザインは、それにぴったりだ。APのゴルフアンバサダーのビクトル・ホブラン(Viktor Hovland)、イアン・ポールター(Ian Poulter)、リー・ウエストウッド(Lee Westwood)などが、これらの時計をバッグにつけている姿を想像できる。
最後に、現時点で腕時計仕様は存在しない。少なくともまだ、そして公式には。しかしスウォッチの公式サイトには“手首に”着けるなど、多くの着用方法があると書かれている。ということは、いずれ登場すると考えられるのだろうか?
Delugsによるデザイン候補のモックアップ(実際に提供されている製品ではない)。Photo courtesy Delugs
一方、多くの人々がすでにモックアップを作成しており、中国のコレクターからは数カ月後にはTemuでいくつか見かけるだろうというメッセージを受け取っている。そもそも、ストラップメーカーはプロトタイプ製作を始めるために実機を入手する必要がある。デグラス(Delugs)のケン・クアン(Ken Kuan)氏は、ストラップ展開を予告するランディングページとリール動画をいち早く公開し、それが数百万回再生されている。ただし本人も、テスト用のサンプルを手に入れるまでストラップ製作を始めることすらできないと率直に認めている。またミンのミン・テイン(Ming Thein)氏はこの議論にうんざりしたのか、誰かが時計のスキャンを送ってくれるなら、3Dプリント用のストラップホルダのファイルを作ると申し出ている。
私の頭の中にはふたつの疑問がある。ひとつは、ストラップメーカーがAPの潜在的な知的財産権(ストラップデザインをコピーすることによって)を侵害することなく、どこまで彼らの意匠に近づけるのだろうか?ということ。しかし、APがもはやその知的財産権を所有していない可能性もある(2025年に米国でロイヤル オークの独自性に関する商標保護を否定されたのと同じように)。次に、スウォッチが実際にストラップを販売するのはいつ(もし販売するとして)になるのだろうか?ということだ。
4.なぜオーデマ ピゲはこのコラボレーションを行ったのか?
スウォッチ側の理由は明白だ。“世界三大ブランド(Holy Trinity)”のひとつであり、スウォッチ・グループ外に位置し(一部の人々は不可能だと言っただろう)、ポップカルチャーと時計学の双方で強い存在感を放つブランドとのコラボレーションだって? スウォッチは即座にサインするだろう。少なくとも商業的な意味で、スウォッチはもはや正統性を必要としているブランドではない。むしろ、彼らの生産能力はAPの内部の人々でさえ感銘を受けるほどのもので、彼らは私に個人的にそう語っている。だがスウォッチが必要としているのは(そしてある程度うまくやっているのは)文化的な存在感である。人々が文字どおり(たとえオンライン上であっても)言い争いを始めるような時計を生み出している時点で、このコラボが十分な話題性を持っていることは、正式発表前から証明されていた。
おそらく(そして悲しいことに)最も“私らしい”のは、ブラック×ホワイト仕様のものだ。もっとカラフルなものを身に着けるべきなのかもしれないが。
一方で、AP側となると、議論は途端に複雑になる。これがビジネスとしてどのように展開される可能性があるかについては、ここでは触れない。ほかの人々がすでに論じているし、おそらく我々のシニア ビジネス エディターのアンディ・ホフマンが今後の記事でそれを分析するだろう。もちろんメリットもデメリットもある。だが、ここではあえてポジティブな見方をしてみたい。
このプロジェクトは、現CEOのイラリア・レスタ氏が就任するよりずっと前に始まっていた。スウォッチの歯車(1分間に約6つのSISTEM51ムーブメントを生産できる)は速く動く。だが、このプロジェクトはそこまで急展開ではなく、こうした構想が前CEOのフランソワ-アンリ・ベナミアス氏時代に始まったとしても不思議ではないだろう。彼は以前、Talking Watchesのインタビューでムーンスウォッチを高く評価していたし、自身も世界有数のスウォッチコレクターで、後にそのコレクションをスウォッチミュージアムへ寄贈している。もっとも、年間約5万本しか時計を作らない数十億ドル規模のブランドが、このような決断を気分だけでするわけではない。ブランドの古い戦略本から1ページを拝借するほうが簡単だ。
1980年代製のオーデマ ピゲ製懐中時計 Ref.5961。Photo courtesy Audemars Piguet
では、その数字を見てみよう。ブランドが5万本の時計を作るとする。レスタ氏は今年初めに我々に、モデルによってはその4倍から10倍の需要があると語った。さてスウォッチ×APのコラボレーションは、(時計に詳しくない方のために補足すると、史上最も象徴的な時計デザインのひとつである)ロイヤル オーク “ジャンボ” エクストラ シンを購入したい市場や顧客と同じ層を対象としているわけではないし、その需要を満たすものでもない。
しかし、人は欲しいものが手に入らなければ離れていき、ブランドは潜在顧客を失うことになる。ロイヤル ポップ購入者の全員が将来のAP顧客になるわけではない。仮に最初の2年間で50万本売れたとして、そのうち0.5%でも長期的な顧客になれば十分成功と言えるだろう。それでも、これはブランドをこれまで届かなかった新しい層にまで広げていく。
時表示のみのロイヤル オークのカテゴリーの対極にある、非常に希少なプラチナ製15202。
繰り返しになるが、ここではあくまで理想的なシナリオを想定している。そして同時に、先ほど触れた“どのように身に着けるか”、そして想定されるターゲット層についても重要になってくる。そう考えると、このプロジェクトは一石二鳥どころか、複数の狙いを同時に叶えている。まず、まだ購入資金を貯めきれていない人や、たとえ資金があってもAP特有の小売体験の壁を越えられていない人に対して、ブランドの世界観や楽しさを提供している。次のLABUBU的な存在となって、事態は本当に軌道に乗るかもしれない。あるいはMB&Fのように、手ごろな価格帯の製品がブランド全体の大きな収益源になるかもしれない(たとえ利益を寄付するとしても)。さらに、次世代に向けたブランド認知の拡大にもつながる。そして最後に、おそらくより重要なのが、女性層からの関心(潜在的な顧客)を引き寄せられる点だろう。時計業界において、女性顧客は現在最も獲得競争が激しいセグメントなのだ。
M.A.D.1SはMB&Fのアイデアを全く新しい価格帯と顧客にもたらした。ロイヤル ポップも同じことができないだろうか?
もちろん、こうした戦略が裏目に出る可能性もある。次世代が、オーデマ ピゲを手ごろなおもちゃ時計のブランドとして認識する可能性もあるが、APは正しい判断をしたと私は思う。多くの人々がさまざまな理由で腕時計を望んでいたことは理解している。特に若い世代には、懐中時計のおもちゃには全く興味がないが、バイオセラミック製のロイヤル オークの腕時計なら大喜びで着けるという人も少なくないだろう。しかし彼らはほぼ間違いなくその時計に飽きてしまい、その経験と品質とのあいだの精神的な結びつきだけが残る可能性がある。つまりもし腕時計フォーマットを採用するなら、そこにはそうした本質的なリスクが伴う。
このプロジェクトがブランド価値を損なうかどうかという議論に(改めて)踏み込むつもりはない。ただ少なくともAPは、少なくとも発売時点では、懐中時計というフォーマットを選んだことでその論争の多くを事前にかわしたように思える。誰もが腕時計が間近に迫っていると考えて興奮したが、APがより賢明で慎重だったことが判明したとき、彼らは議論の方向性そのものを修正しなければならなかった。もしあなたがスウォッチ×APを手首にテープで貼り付けて役員会に現れたら、誰も真剣に受け止めないだろう。もっとも、そこまで極端な使い方をする人はさすがにいないはずだ。少なくとも、ニューヨークのAPハウスでロイヤル オーク Ref.16202STを手に入れようと競っているような人たちが、その列を離れて、ベルトループにぶら下げて使う時計のために並び直すとは考えにくい。
さらに興味深いのは、APがこのプロジェクトによる収益をすべて、ウォッチメイキングにおけるサヴォアフェールの継承と保存を支援する取り組みに寄付するとしている点だ。特に希少な技術や、次世代の時計職人の才能に重点を置くという。もっともそれがどのようなものになるか、まだ明らかではない。たとえば、ネソンス ドゥンヌ モントル(Naissance d’une Montre)という驚異的な手づくり時計プロジェクトを推進する永遠の時財団(Time Æon Foundation/その理念は、財団の存在意義とも重なる)のか。あるいは、APが最近発表したアトリエ デ エタブリスール(Atelier des Établisseurs)を支援するものなのか。詳しい情報を尋ねて、近いうちに発表があるかどうか確認してみよう。
5.それは素晴らしいが、列に並ぶべきか?
それは完全にあなた次第だ。だが、考慮すべき要素がいくつかある。第一にスウォッチが各店舗に、色ごと・ランヤードの長さごとにどれだけ在庫を用意するかはわからない。ニューヨークのタイムズスクエア店(一部の新作発表はブロックをまたぐほどの長蛇の列ができた)のような大規模な店舗は、確かにより多く入荷するだろう。とはいえ“ラインシッター”と呼ばれる、転売業者の代わりに行列へ並ぶプロも存在する。さまざまな意味で、残念なことだ。そのため、列の後方に並んでいた場合、発売初日の時点ですでに在庫が残っていない可能性も十分にある。
ミッション トゥ アースフェイズ ムーンシャインの発表時のタイムズスクエアにあるスウォッチストアの行列。
ロイヤル ポップのために並ぶ人たちには、いくつかのタイプが考えられる。まず、一番乗りが好きな人々だ。もしあなたがそうなら、これを読んでいる場合ではない。今すぐ列に並びに行くべきだろう。いわゆるハイプビーストたちも同様だ。論理はほとんど通用しないので、議論するつもりはない。そのほかには、誰もが話題にしているクールな新作を手に入れて、RedBarやあなたが参加するコミュニティで共有したいと考える熱心な時計愛好家もいる。もちろん、すでにAPの時計を所有している既存のAPファンも一定数いるはずだ。
なかには“Audemars Piguet”の名が入った時計をずっと手にしたいと思いながらも、ブランドの腕時計を自分が買える日など想像できないという人もいるだろう。率直に言えば、たとえそれが唯一の方法だったとしても、憧れのブランドを少しでも手元に置けることを、私は否定したくない。そもそも時計業界は、情熱によって成り立っている世界なのだから。さらにAPのことをこれまで知らなかった人たちのなかにも、この鮮やかなカラーリングに引かれ、今ではその時計とAP全般にとても興味を持っているという人々がちらほらいるだろう。ブランドが長期的に取り込みたいと考えているのは、まさにそうした層なのだろう。
もしこうしたタイプに当てはまらないなら、もう少し待っても問題ないだろう。私は最初のムーンスウォッチ発売初日には早起きしてスウォッチストアに行くつもりだった。しかし列の長さ、世界中の店舗で警察が呼ばれなければならなかった状況を見て、人混みや時計よりも睡眠が好きだと気づき、家にいることにした。私が最初のムーンスウォッチを手に入れたのは2年後、眠い目をこすりながらジュネーブ空港をさまよっているときだった。ああ、そして人々がムーンスウォッチに強い関心を寄せているもうひとつの証拠として、その記事はWatches & Wonders 2024週でHODINKEEの最も読まれた記事だった。
ロイヤル ポップが欲しいなら、今後も手に入れるチャンスはあるはずだ。もちろん、近くにスウォッチストアがない人が多いことは理解しているし、それ自体かなりもどかしい問題ではある。ただムーンスウォッチ発売当時を思い返してみると、最初のうちは驚くようなプレミア価格で転売されていたものの、最終的には事態は沈静化した。また、ハンディキャップを持つ人々が必ずしも列に並べないことを(人々が思う以上に)私は痛感しており、これを切実に欲しているのに手に入れられない人々には同情する。とはいえムーンスウォッチに関して言えば、オンラインでコレクション全体を購入することはできないものの、現在でも4モデルは購入可能な状態にある。
ロイヤル ポップで同じことが起こる保証はないが、熱狂が少し冷めればそうなるかもしれない。あるいは、eBayで少し上乗せした価格で見つけられるかもしれない。しかし個人的には、何千ドルも要求するオンラインの出品にはかなり疑問を感じる。というのもアカウントの多くは最近作られたばかりで、多くは古い偽物のAI画像を使っており、詐欺に遭うリスクもかなり高い。だから深呼吸して微笑んで、少し待って、人生を楽しもう。議論すべき本格的なウォッチメイキングはたくさんあり、我々はいずれまたそこへ戻っていく。結局のところ、本作はあなた向けではないかもしれないが、我々の小さな時計愛好家の世界を超えてより広い層へと届き、新しい人々をこの世界に引き込むための楽しいプロダクトとして作られている。比較的手ごろな価格、鮮やかなカラーリング、そして象徴的なデザインは、それを実現するための素晴らしい方法だ。
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