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ニッチなランゲ愛好家たちに朗報だ。カバレットが帰ってきた!……まあ、ある意味では、だが。本日、この素晴らしき日に、ランゲは複雑機構モデルとしてカバレットを復活させた。ブランド独自のハニーゴールド合金を採用した、カバレット・トゥールビヨン ハニーゴールド、50本限定である。グレーとハニーゴールドのがっしりとした塊のようなモデルで、このレクタンギュラーなシルエットが姿を見せるのは、2021年の30本限定の“ハンドヴェルクスクンスト”・エディション以来だ。価格はこれまでのカバレット・トゥールビヨンと同様、非常に高額で、およそ30万ユーロ(日本円で約5500万円、日本では価格要問い合わせ)である。
カバレット・トゥールビヨンが2008年に初めて世に送り出されたとき、それはウォッチメイキングの観点から見てもかなり印象的なものだった。1997年に登場したレクタンギュラーなデザインに、世界初のハック機能付きトゥールビヨンを組み合わせていたのである。ハック機能付きトゥールビヨンが2008年まで作られていなかったと聞くと、ちょっと意外に思えるかもしれない。だが、トゥールビヨンケージのような大きな質量を止めるのは、決して簡単なことではない。しかもそれを繊細なパーツで行う必要があり、さらにトゥールビヨンケージそのものを避けるように機構を成立させなければならないのだ。なにしろケージがどの向きにあっても、そしてテンプが振動のどの位置にあっても、その動きを止められなければならないのである。
そこでランゲのムーブメント設計チームは開発に着手し、テンプを直接停止させるV字型スプリングを考案した。止める対象はトゥールビヨンケージそのものではない。このV字型スプリングは、レバー先端の軸を支点に回転する構造である。片側がテンプ、またはトゥールビヨンケージの支柱に触れると、その反動でもう片側も動き、V字の両端でテンプを挟み込むようにして機構を停止させるのだ。テンプを直接ブレーキすることで、ヒゲゼンマイのエネルギーは停止した時点のテンプ位置に保持される。そのため、時刻合わせ後にリューズを押し戻し、V字型スプリングがテンプを解放すると、蓄えられていたエネルギーが推進力となり、テンプを再び振動状態へ戻してくれるのである。というのも、理論上はテンプが振動のちょうど中心位置で停止してしまう完全な停止位置が存在し、その場合は再始動のために外部から推進力を与える必要がある。しかし、実際にそこへぴたりと止まる確率はきわめて低いのである。
2021年発表のカバレット・トゥールビヨン “ハンドヴェルクスクンスト”。
昨年発表された1815 トゥールビヨン。ハッキング機能とゼロリセット機構を備えたトゥールビヨンである。
このV字型のブレーキスプリングは回転軸上に取り付けられており、トゥールビヨン停止時に部品同士が干渉しないよう設計されている。Images courtesy of A. Lange & Söhne.
カバレット・トゥールビヨンのデビュー後、このV字型のブレーキスプリングは2014年発表の1815 トゥールビヨンにも採用されることになる。同作は、世界初のハック機能とゼロリセット機構を備えたトゥールビヨンとして登場したモデルだ。この時計では、ハック用バネにハートカム機構を組み合わせ、リューズを引き出すとトゥールビヨンに備わる秒針がゼロ位置へリセットされる仕組みになっていた……と、話が少しそれた。カバレット・トゥールビヨンに戻ろう。
レクタンギュラーケースのハニーゴールド製ケースは、幅29.5mm、縦39.2mm、厚さ10.3mm。もっとも、単に“長方形ケース”と呼んでしまうのは少々味気ないかもしれない。ラグの造形によってケース四隅に立体感が加えられており、シルエットには意外なほどの複雑さを感じられるからだ。私はこれまでにも何度となくハニーゴールドについて熱く語ってきたが、ランゲ独自のこの合金は、個人的には理想のゴールドにかなり近い存在である。光の当たり方によって淡い麦わら色のようにも、ときに温かみのあるローズゴールド調にも見える、まさにカメレオンのような素材なのだ。しかもプラチナ以上の硬度を備えているのだから、ほとんど欠点がない。ブランド側はこれまで、(その硬さと反応性ゆえに)加工がきわめて難しい素材であると繰り返し強調してきた。しかし近年は、この素材を使うことに以前ほど慎重ではなくなっている印象もある。実際、昨年だけでも複数のハニーゴールドモデルが登場した。個人的には、この素材が持つ視覚的、そして象徴的な特別感を保つためにも、もう少し採用頻度を抑えたほうがいいのではないかと思っている。
だがランゲは、今回のカバレット・トゥールビヨンでその素材表現をさらに押し進めてきた。というのも、文字盤までもがハニーゴールド製なのである。ランゲの多くの文字盤とは異なり、このダイヤルは自社製であり、“ハンドヴェルクスクンスト”やグラン・フー エナメル文字盤と同じ系譜に連なる存在だ。これまでの特別仕様モデル、たとえばトゥールボグラフ・パーペチュアル・ハニーゴールド “F. A.ランゲへのオマージュ”でも見られたように、この文字盤では装飾の多くが別パーツの貼り付けではなく、文字盤そのものから立ち上がる形で表現されている。もちろん、ローマ数字インデックスやダイヤ型のインデックス、そしてアウトサイズデイトのフレームはアップライド仕様である。しかし、文字盤に走る立体的なラインやブランドロゴ、さらにスモールセコンドとパワーリザーブ表示の目盛りなどは、ベース素材から実際に0.15mm浮き上がったレリーフ状の造形として加工されているのだ。
これは“ハンドヴェルクスクンスト”(手工芸)の時計ではない、という点に気づくだろう。つまり、これらの線や目盛りは、実際に手作業でレリーフ彫りされているわけではない。代わりに、精密な機械加工によって余白部分を削り出しているのだ。とはいえ、この文字盤が手仕事がないわけではない。グラスヒュッテのマニュファクチュールでは、機械加工のあとにも多くの手作業が注がれている。機械加工のあとブラックロジウム加工が施され、ざらつきのあるダークグレーの色調が生まれる。そのうえで盛り上がった部分を手作業で仕上げることで、グレーの下に隠れていたハニーゴールドの色味を浮かび上がらせているのだ。6時位置には、ふたつのサブダイヤルの下、そしてそのあいだに大きな開口部が設けられている(人によってはミッキーマウスのシルエットのようだと言うらしい)。そこから見えるのは、三角形のブリッジに支えられたハック機能付き60秒トゥールビヨンである。ブリッジとトゥールビヨンケージ上面にはブラックポリッシュ仕上げが施されている。さらにトゥールビヨンケージ自体をよく見ると、いくつかの鋭い内角も確認できる。そして最後に見逃せないのが、トゥールビヨンの軸の両側を受けるふたつのダイヤモンドエンドストーンだ。これは時計の表側からも裏側からも見ることができる。
輝くものすべてが、ハニーゴールドである。
リューズ横に配されたこれは、日付調整用の埋め込み式プッシャーだ。
その仕上がりは実に魅力的だ。一般的なアプライド仕様では実現が難しいほど繊細な線や目盛りの表現を可能にしているのである。これはランゲが得意としてきた、実績あるハイエンドなダイヤル仕上げのひとつであり、同時にこの文字盤そのものがハニーゴールド製であることを、着用者にさりげなく思い出させてくれる。
カバレット・トゥールビヨンには、アウトサイズデイト用の外部プッシャーが備わっていない。人によってはこれを少々煩わしく感じるかもしれない。正直なところ、この時計を手にするような人は、おそらくコレクションに何本も時計を持っているはずだ。となれば、数日着けないだけでも日付送りが必要になる。そして、そのたびにリューズ横の埋め込み式プッシャーを押すため、専用のピンや爪楊枝のような細い道具が必要になるのである。文字盤上で日付表示がここまで存在感を放っているだけに、こうした仕様はこのクラスの時計として少し惜しい気もする。とはいえ、これは1997年に登場した初代カバレット以来、一貫して受け継がれてきたデザイン上の選択でもある。もし今後、ランゲが新世代のカバレットを復活させることがあるなら、外部プッシャー、あるいはリューズ操作による日付調整機構が採用されるかもしれない。
ハニーゴールドの塊を裏返すと、手巻きの角型Cal.L042.1が姿を現す。ケース形状に完璧に合わせて設計されたムーブメントである。ランゲ十八番のラウンド型4分の3プレートを見慣れているせいで、目の前の光景を頭のなかで理解するのに少し時間がかかった。だが形状を除けば、無処理のジャーマンシルバー製プレートに施された仕上げはいかにもランゲらしい。プレートの開口部からは巻き上げ輪列がのぞき、ゴールドシャトンはキャリバーを横断する輪列の流れを視覚的に示している。下部(エングレービングされた文字を正位置で読むなら左側)には、トゥールビヨンケージと中間車のためのふたつの受けが配され、いずれも手彫りで装飾されている。そしてツインバレルにより、パワーリザーブは実に見事な約120時間を確保している。
“4分の3プレート”の外周がゆるやかに弧を描き、その先でキリッと鋭い角をつくる。この造形が実にいい。
カバレットは、筋金入りのランゲ愛好家にとっても、万人向けの時計ではない。オリジナルモデルが商業的に大成功を収めることはなく、現在のレギュラーコレクションにカバレットが存在しない理由もおそらくそこにある。だがカバレット・トゥールビヨン購入時の大きな判断材料になりそうなのは、装着時のサイズ感である。この価格帯を実際に検討できる人にとっても、この大きさは大きな判断材料になるはずだ。正直に言うと、私がこの時計と過ごせたのはおそらく1時間ほどで、長時間着けて歩き回れたわけではない。それでも、これはかなり大きな時計というのが率直な印象だった。私の手首は平たい6.5インチ(約16.5cm)で、ラウンドケースのランゲであれば、ツァイトヴェルク・デイトの44mmまでなら自分ではなんとかこなせると思っている。それでもカバレット・トゥールビヨンは、少し極端に感じられた。
理由はいくつかあると思う。まず明らかなのは、レクタンギュラーウォッチはどれも実際以上に大きく見え、手首上でも大きく感じられるということだ。カバレット・トゥールビヨンはクラシックなカバレットよりも横幅の比率が広いため、文字盤側の面積がかなり大きく見える。さらに、ラウンドウォッチであれば短いラグは装着感を高める要素として評価することが多いのだが、この時計ではむしろ10.3mmというケース厚を強調しているように感じた。最後に、新品でまだなじんでいないストラップも、間違いなく影響していただろう。より柔らかい、あるいは厚みのあるストラップに替えれば、装着感はかなり変わるはずだ。要するに本作は、ここ最近試した多くのランゲ以上に、人によって評価が大きく分かれる時計ということだ。これはどうしても実際に手首に載せてみる必要がある。ここでどれだけ言葉を尽くしても、このサイズ感が手首上でどう感じられるかまでは伝えきれない。
手首サイズが近い同僚の腕でも、カバレット・トゥールビヨンはかなり大きく見えた。
装着感の話はさておき、ハニーゴールド製カバレット・トゥールビヨンは、それでもなおA.ランゲ&ゾーネによる複雑時計製造のかなり尖った好例である。そしてこのいかにもランゲらしい仕上げも、ぜひ実物で見てほしいところだ。ランゲのダイヤルで、このブラックロジウム仕上げのハニーゴールド表現を目にする機会はそう多くない(しかもブランドによれば、製作には工程面でも職人技の面でも数週間を要するという)。それだけの手間がかかるのだから、この仕様が希少なのも納得である。また、こうしたニッチなデザインが再びスポットライトを浴びたのもうれしい。より幅広い訴求力を持つルーメン系モデルとは異なり、実に新鮮なバランス感覚を見せてくれるからだ。カバレット・トゥールビヨンは、相変わらずとんでもなく風変わりな時計である。そして私は、その言葉を最大級の賛辞として使っている。
詳しくは公式サイトをご覧ください。
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