海洋自然保護活動に熱心な時計ブランドは少なくないし、サステナブルといったキーワードが時計業界でも一般化している。しかしブランパンほど海に対する活動に熱がこもっているのは、珍しいかもしれない。
もう数年前のことになるが、ブランパンが携わる海洋保護活動を集約するブランパン オーシャン コミットメントの取材のために南仏にあるハイエック家の別荘にお邪魔したことがある。海に近い邸宅の庭には、オーシャン コミットメントの解説パネルだけでなく、美しい海洋写真が展示されていた。ふと一枚の写真を見ると、そこにはCEOマーク A. ハイエック氏のクレジットが。つまりCEO自らがダイバーであり、水中写真家でもあり、海を愛し、美しい海洋自然を守りたいと思っている。だからこそ熱のこもった活動になるのだろう。
ブランパンと海が出合ったのは、1953年に発表されたモダンダイバーズの原点フィフティ ファゾムスがきっかけである。当時のダイバーズウォッチは軍用時計であったが、潜水機器の進化によって人間と海との付き合い方が広がり、未知なる海への興味が高まっていくとともに、ブランパンでは海洋探査のための時計にもフォーカスしていった。そこから生まれたのが、2011 年に発表されたXファゾムスだ。
X ファゾムスは、かなり異色の存在である。写真を見ればわかるとおり、ケースは巨大で表示も複雑。機械式の水深計を備え、プロダイバーには必須となる減圧停止用の5分間のレトログラードカウンターを有している。しかしながら、防水性能はあえて300mに抑えている。つまりX ファゾムスは単なるスペック重視の深海ダイバーズウォッチではなく、ダイバーが本当に必要な機能を詰め込んだツールウォッチの究極形なのだ。その証拠にこのモデルは、今もレギュラーモデルとして製作されている。ブランパンは、それくらい海に本気なのである。
究極のダイバーズウォッチ Xファゾムスは、実際にオーシャンコミットメントが関係するさまざまな海洋保護活動や海洋調査の現場で活躍している。特に有名なのは、海洋生物学者で水中写真家でもあるローラン・バレスタ氏のゴンベッサ・プロジェクトの支援だろう。生きた化石といわれるゴンベッサ(シーラカンス)が泳ぐ姿を世界で初めて海中で撮影することに成功した彼は、現在はマダラハタやグレイリーフシャークなど海洋生物の神秘を解き明かすための研究調査を行っており、その腕にはブランパンのXファゾムスが装備のひとつとして使われている。
さらに今年からは、映像制作会社と海洋基金からなるオーストラリアのバイオピクセルとのパートナーシップを締結。同社は海洋調査と探査に特化しており、ブランパンではバイオピクセルを通じてオーストラリアの公的機関や大学、市民たちとつながりながら、グレート・バリア・リーフの海洋探査や海洋生物の調査をサポートすることになる。
ブランパン オーシャン コミットメントではほかにもさまざまな活動をサポートしているが、そのどれもが学術的な研究を主としている。マイクロプラスティックや温暖化など、海を取り巻く環境悪化の問題は多岐にわたるが、ブランパンではもっと大きな枠組みでとらえ、研究機関を通じて海の神秘を解明し、海の魅力やロマンを伝えることも主眼にしている。海を愛する気持ちを養えば、おのずと海洋自然保護の重要性にも目が向くだろう。ブランパンが目指すのは海への意識改革なのだ。
その一端を担うのが、ダイバーズウォッチ フィフティ ファゾムスだ。フランス海軍の要請から生まれたダイバーズウォッチであり、1953年に誕生した初代モデルのデザインコードを踏襲した時計界のマスターピースは、ダイバーズウォッチとして完璧な性能を持っていることは疑うべくもない。しかしツールウォッチとしても優秀であるだけではなく、堅牢なケースや視認性に優れたデザインなど、デイリーウォッチとしてもハイレベルである。
なかでも6時位置に大型のカレンダーを持つフィフティ ファゾムス ラージデイトは、自社ムーブメントのCal.6918Bによってトリプルバレルによる5日間パワーリザーブを実現。シリコン製のヒゲゼンマイを採用することで耐磁性も備え、ケースはチタン製なので着用感も軽やか。ダイバーのためのツールウォッチが、現代の生活者にとっても最高のツールとなり、海を身近に感じることも容易になった。海時計の歴史を継承し、海を愛するCEOが陣頭指揮を執るフィフティ ファゾムスは、水の惑星に暮らすわれわれのための時計なのだ。
Words:Tetsuo Shinoda Photos:Tetsuya Niikura(SIGNO) Styled:Eiji Ishikawa(TRS)