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2019年9月にベル&ロスは新作のBR05コレクションを発表した。トレンドである、一体型ブレスレットのスポーツウォッチというコンセプトを、BR01コレクションの美しさと組み合わせたものだ。BR01コレクションはもともと航空計器のコンセプトを腕時計に取り込むことで生み出されたデザインだった。だが時間の経過と共に、時計の幅広いバリエーションを作り出すためのベースとなり、サイズ違いやダイバーズモデル、スケルトンのマイクロローターを用いた自動巻きトゥールビヨンなどが登場し、コレクションを拡大していった。
BR05コレクションの見た目は、BR01コレクションによく似ているが、既にIntroducing記事の中で指摘したように、本機は、オーデマ ピゲが1972年に初めてロイヤル オークを世に出して以来進化を続け、世界的なトレンドになっているブレスレット一体型のステンレススポーツウォッチの流れを汲んだモデルである。BR05のケース形状はベル&ロスが永年使用しているもので、アラビアインデックスも同様だ。
そして、オーデマ ピゲだけでなく、パテック フィリップ、ジラール・ぺルゴ、その他多くのメーカーが採用しているバトン形のインデックスも当然採用されている。初めてプレスリリースの写真を見たときに私が感じたのは、トレンドのSSスポーツウォッチテイストを正面から取り入れてはいるが、しっかりとベル&ロスらしさを残しているということだ。単にトレンドを取り入れただけのデザイン優先の時計ではなく、ベル&ロスらしさや個性をしっかりと押し出しているところはさすがである。
写真撮影のためにこの時計を箱から出したときの私の第一印象は、驚く程質の高い仕上がりだということだ。価格を知ると、当然それより安いもの以上に期待は高くなって当然ではある。一体型ブレスレットのアラビアインデックスダイヤルのモデルは、55万円という価格だ。しかし、ケース構造の素晴らしさと手間の掛かった仕上げ、そして一般的にこの価格帯で手に入る日付表示付きのSSケース+ブレスレット仕様の時計と比較した場合、その出来栄えははるかに洗練されていると実感できるので、この価格に納得するだろう。
ケースの完成度も素晴らしく、サテン仕上げと鏡面仕上げのコントラストが美しい。ベゼル、ビスのネジ山、リューズガードの構造といった細部にまで配慮が行き届いている。これまでにHODINKEEの他の編集者から、ベル&ロスのロゴについてさまざまな意見を聞いてきた。私自身は、社名に入っている“&(アンドマーク)”が、20世紀半ばの良い雰囲気を醸し出していると感じている(ベルとロス両氏は、法律事務所を共同で立ち上げたのかもしれないと想像してしまう)。BR05の仕上がりは、リューズ、クラスプから時計全体に至るまで全てがベル&ロスらしいデザインを体現している。
ブレスレットの外ゴマと中ゴマもケースと全く同じ仕上げがなされているが、側面は角を丸めずシャープに仕上げている。身に着けているときは気付かないが、時計を外したり、着けたりする際にシャープなエッジに驚くだろう。ブレスレット全体の印象は大変よく、ケースとの見た目的な一体感が素晴らしく、中ゴマの丸みを帯びたエッジとケースベゼルのエッジの丸みそれぞれが反響し合いデザインに統一感を作り出している。厚さは11mmでスポーツウォッチにエレガントさを加えるには十分な薄さで、前述の細部の仕上げへのこだわりこそが、この価格で当然だと誰しもに思わせる大きな要因だと思う。
ムーブメントは、セリタ製のムーブメントを採用したとベル&ロスが発表したときには少しどよめきが起こった。これについては見方がいくつかに分かれる。
ひとつは、自社製ムーブメントのほうが一般的に価値があるというものだ。しかし、私自身は、“自社製”ムーブメントを採用したからといって時計自体の良さに直結するものではないと考えている。ムーブメントについては、広い意味で信頼性、精度、構造の質の高さ、そして仕上げといった点について評価をすることは確かに可能だ。一方で、例えば、A.ランゲ&ゾーネが自社製ムーブメントを作るというのは象徴的な意味もあり重要だが、技術と素材に注意を払い、仕上げが素晴らしくなければ全く意味をなさないだろう。
価格が低ければ、自社製かそうでないかに関わらず、職人による伝統的なハイエンドムーブメントは手に入らない。自社製か汎用ムーブかという論争は、特徴、耐久性と寿命、そして精度の戦いである。ロレックスはオイスター パーペチュアルを54万5000円から販売し、グランドセイコーは、機械式時計を40万円から販売している。また一方で、ティソのETA2824にかなり手を加えた、パワーマチック 80のようなハイブリッドムーブメントも存在している。
つまり、自社製ムーブメント生産のためには、時計メーカーが大規模に時計とその部品を生産できる能力をもっていなければならないのだ。そのようなメーカーは、数百万個にものぼる時計を長期にわたって生産し続けるコストと、開発費を償却できる体力があるが、一方でベル&ロスのような比較的小さな独立系メーカーにとって、あえて社内で汎用的に使えるムーブメントを自社開発するよりも、セリタのように既に出来上がった技術的ソリューションを選択することになるだろう。BR05の場合、セリタムーブを採用したことで、販売価格を問題になるレベルまで上げる必要もなく、会社としてはケースとブレスレットのデザイン、製造、仕上げによりコストをかけることができたのである。
このコレクションには、通常のSSウォッチと比べていくつか厄介なところがある。コレクションが発売された後、ベル&ロスは金無垢モデルを追加発売した。BR05ゴールドの価格は、370万円で、36mmの18KYGロレックス デイデイトが335万円(ただし41mmのゴールドケースの自動巻きロイヤル オークは、577万5000円)で販売されている市場を想定するとちょっと楽観的過ぎるように思われる。BR05ゴールドの見た目が魅力的ではないと言っているわけではないが、セリタのムーブメントを使用してこの価格と考えると、販売するのはなかなか難しいのではないだろうか。
このBR05スケルトンを75万円で売るのもなかなかタフだろう。ゴールドモデルと同様、見た目が悪い訳では決してないのだが、スケルトンモデルの本来の価格レンジではないからだ。スケルトンムーブメントの時計は、あちこちで競合するが、例えば2016年に発売されたクラシックな手作業で作られたムーブメントが魅力的なジャガー・ルクルト マスター・ウルトラスリム・スケルトンのように、もっとずっと高い価格設定(600万円台)がされているのが一般的である。また、カルティエのサントス・ノクタンブール(夜光のデザインが独特)を例とすれば、ムーブメント構造の独自性でも勝負しなければならないのだ。
標準的な機械仕上げを卑下する必要はないが、決して自慢できるレベルでもない。この意味でBR05スケルトンはムーブメントの仕上げが一般的なのにも関わらず、単にスケルトンにしたことで労働者ファッションのようなテイストになってしまっている。もちろん、この価格であれば、メカ好きな人には魅力的だろうが、素晴らしい職人技を期待する人たちからすれば全く期待外れだろう。
些細なことはさておき、全体としては、この時計は大変魅力的だと個人的には思っている。ケースやブレスレットの仕上げは確かに素晴らしく、BR05スティールの品質がロイヤル オークの域にまで上がらなければ、価格も同様に据え置きだろう。
私にとってこのBR05コレクションの価値は、ベル&ロスに新たに加わった一体型ブレスレットのスポーツウォッチということだけではないと考えている。急激に人気となったSSスポーツウォッチは、もっとずっと高額な時計を1本目として購入を考えている人たちが多い。しかし、彼らにとっても、BR05は選択肢のひとつとして非常に魅力的な価格で提供されているうえ、興味を引く仕上がりになっているのである。
コレクションの詳細はベル&ロス公式サイトへ。