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A New Dawn キングセイコー KS1969 脱構築的に進化を続けるスタイルと不変のフィロソフィー

現代に求められるエレガンスウォッチとは何か。その最適解として“The Newest Classic”を掲げてキングセイコーが復活して3年目を迎えた。成功に甘んじることなく、次なるステージへ。新たなドレススタイルとともに異なる個性をまとった新作は、時代の感性を注ぎ、魅力をさらに研ぎ澄ませる。その真価を開発担当者が語る。

2022年、セイコーにおけるヘリテージのひとつがカムバックした。キングセイコーである。これまでにも限定モデルとしてキングセイコーの名が登場することはあったが、いずれも過去のキングセイコーを懐かしむものだった。しかし2022年のそれは待ち望まれたブランドとしての復活であり、キングセイコーの新たな夜明けとなる意義深い出来事となった。

 初代キングセイコーが登場した60年代初頭は、東京が大きく様変わりしようという時期でもあった。街の風景ばかりでなく、生活習慣や社会のスピード感が変わっていくなか、新たな都市のライフスタイルにふさわしいモダンな時計が求められた。そんななか、デイリーユースにふさわしい実用性・デザイン・価格をバランスよく提供し当時の人々に受け入れられたのがキングセイコーだった。ブランド復活に当たり、かつてのキングセイコーが備えたものづくりの哲学も継承。新しいキングセイコーの開発のベースにはブランドらしさが最も強く打ち出されたモデルとして、1965年に登場した2代目のKSKが選ばれた。

 KSKは平面で構成されたシンプルで潔いラウンドケースに、太い針とインデックス、ラグが力強さを伝える一方、12時位置には優美なライターカットのインデックスをさり気なく配し、個性をアピールした。こうしたオリジナルのモチーフを継承しつつ最新技術を盛り込み、現代的な美意識でその魅力に磨きをかけた。新設計のブレスレットはシャープな質感にも関わらずしなやかな動きで肌当たりも柔らかく、長時間つけても心地よい装着感を重視。かくして日常を豊かに彩る現代のエレガンスウォッチとしてキングセイコーは再構築されたのである。デビュー翌年には新たに日付表示を備えたシリーズも登場。さらに新たなダイヤルのカラーバリエーションや装飾スタイルを加えてきた。

 そして2024年。キングセイコーの名が広まるなか、新たなコレクションとして導入された新作がKS1969である。

 モチーフとなったのは、その名が示すように1969年に登場しブランドの歴史に名を残す45KCM。KCMとはキングセイコー カレンダー クロノメーターを意味し、10振動の45系手巻きムーブメントを搭載したことで時計愛好家から知られている。その高精度にふさわしい新たなデザインとして採用されたのが、それまで主流だった2代目のKSKのような多面構成とは異なる優美な曲線からなるよりドレッシーなケースであり、それはキングセイコーにおける第3の転換点に位置づけられるようなブランドを代表するスタイルになったのである。

 

丸みを帯びた優美な造形を現代によみがらせ、よりドレッシーに昇華

キングセイコー KS1969

Ref.SDKA017 39万6000円(税込) 2024年7月6日発売予定

1969年に誕生し、その後のキングセイコーのデザインに大きな影響を与えたアイコニックモデルである45KCMを現代の技術で進化させたKS1969。キングセイコー生誕の地である東京の現代の街並みにインスピレーションを得たシルバーダイヤルは、新たに開発された型打ち模様により既存のKSKのシルバーダイヤルとは異なる上品な光沢感を生み出す。

 

キングセイコーに加わったKS1969は、ラグが一体化した丸みを帯びたケースが特徴だ。これは60年代後半に登場し大きなデザイントレンドになった、いわゆる樽型のケースラインを思わせる。ともすればそのフォルムに目を奪われがちだが、キングセイコーにおいては薄さの追求こそが肝要と商品企画担当者の大宅宏季氏は言う。

 「大前提として、キングセイコーは昔のモデルを復刻させるのではなく、かつてのキングセイコーから普遍的なデザインを見いだし、それを現代の技術でアップデートさせていくということがコンセプトとしてあります。その上で今回はよりドレッシーなスタイルに方向を定め、現代的な要素として自動巻きムーブメントを搭載しながら薄型で手首になじむデザインをテーマとしました。そこで選ばれたのが1969年の45KCMであり、キングセイコーの新たな表現として生まれたのがKS1969ということです」

 デザイナーの松本卓也氏は45KCMのディテールについてこう説明する。

 「こうした樽型のフォルムは、これまでにもかつてのキングセイコーなど60年代のほかのモデルでも採用していました。ただそのなかで当時の45KCMが目指したのは薄さだったのではないかと思います。それは横から見たときにも一目瞭然です。ケースのラインはラグの先端に向かって下げて細く絞っていくとともに、ケース上面の曲面曲率を変えることで視覚的に薄さを演出し手首にフィットする感覚も巧みにデザインしています」

 一般的な造形手法では側面の厚みが残ってしまい、ただ型抜きしたように見えるが、有機的な曲面で構成し優美な薄さを表現した。

KS1969のシルバーダイヤルモデル

オリジナルの45KCM

 「どうしたら美しいプロポーションを持った時計が作れるか。数多ある樽型ラウンドケースで、キングセイコーならではの理想の造形を当時のデザイナーが追求していたことが伝わります」と松本氏。大宅氏がこれに続ける。

 「2代目と呼ばれるKSK以降、搭載ムーブメントの多様化とともにデザインの幅も広がりました。そのなかで45KCMはそれまでの直線基調から曲線的な新しいデザインを取り入れ、型にはまらないクリエーションをした点で、以降のモデル展開に当時影響を与えたと言えます。だからこそ新しいキングセイコーの次なるモデルにふさわしいと考えたのです」

 新作のKS1969では1969年の45KCMの特徴を継承しつつさらに磨きをかける一方、新しいキングセイコーならではの現代的なデザインを取り入れている。松本氏はこう説明する。

 「12時のインデックスは、デザインコードとして今後ブランドのひとつのアイコンになると考えました。既存のコレクションではオリジナルにも見られたライターカットを再現しましたが、KS1969では新たに“矢羽根”をイメージしたV字形の立体的な模様を入れ、的に向かってまっすぐ突き進んでいく矢のように未来に向かって前進する躍動感を表現しました。オリジナルの時・分針はケースに合わせた繊細なシェイプの中央にラインの入る峰カットだったのに対し、KS1969では3面カットにしました。多面になることで光を受けて視認性が向上し、美観にもつながっています」

 新設計した多列ブレスレットもコレクションに新たな魅力を添えている。駒の長さを短くすることで滑らかに動き、表面にカーブをつけてドレッシー感を醸し出す。これも60年代のキングセイコーのブレスレットからヒントを得たと言う。ちなみに販売されているオプションストラップとは互換性があるので、好みによって換装もできる。

 特筆すべきはダイヤルだ。レギュラーでシルバー、パープル、グリーンを揃えるが、一般的なブラックやネイビーなどのカラーは今のところラインナップされていない。

 「キングセイコー発祥の東京から着想を得たカラーコンセプトに基づき、シルバーは東京のビル群やモダンな風景を表現し、グリーンでは世界の都市のなかでも公園が多い東京の緑をイメージし、葉が重なり合う様を表現するためにグラデーションを施しています。まったくの新色となるパープル(江戸紫)は、江戸時代に京都の京紫に対して江戸ならではの紫を染め物で表現したことから生まれ、歌舞伎でも親しまれました。そうした由来から東京都のイメージカラーにも使われており、東京らしい色ということで選んでいます」と大宅氏。そしてそれぞれのカラーの美しさを引き出すのが仕上げと松本氏は説明する。

Ref.SDKA019/パープル

Ref.SDKA021/グリーン

Ref.SDKA023/ライトブルーグリーン

 「型打ち模様は、シルバー用とパープル、グリーン用の2種類を使っています。シルバーは表面に新たに開発した細かい粗し目模様の凹凸を入れ、その上にブラシで放射状のサンレイ仕上げを施しています。こうすることで柔らかに光が拡散し、しっとりしたツヤ感のある光沢が出ます。さらにいずれもトップコートでクリアの塗料を何回か厚めに吹いた後、さらに平滑に研ぎ出しています。パープル、グリーンも基本的には同様の仕上げを施していますが、サンレイ仕上げの調子やグラデーションの有無、そしてそれぞれの色のトーンの違いによってダイヤルごとに異なった表情が生まれました」

 いずれもサンプルを作りながらテストを繰り返し、カラーとサンレイのバランスや視認性を確認しながら完成させたという。そうした表には表れない作り手の並々ならぬこだわりによって、ドレスウォッチでは珍しいダイヤルカラーでも違和感なくなじむ質感を実現している。

 

新たな個性で都市の時を刻むキングセイコー

多くの日本人が70年代の新しい時代への期待を抱いた60年代。社会や人々の情緒の変化は著しく、キングセイコーも例外ではなかった。KSKから45KCMへの変遷にもそれは表れ、時代の気分を反映し、フォルムも力強い直線から滑らかな曲線へと移り変わった。それはキングセイコーが東京で生まれ、都会で生活し働く人たちに寄り添うことを信条として、その手首にふさわしい形を常に模索し時を刻み続けた証でもある。

 そして現代においてKS1969が登場したのも単なるデザインバリエーションとして加わったわけではない。アクティブな時代の躍動感を表現したKSKに対し、KS1969では薄さを追求し、現代にふさわしいドレスウォッチを標榜する。それはトラッドに回帰するファッショントレンドにも符合し、より穏やかでエレガントな時間を希求する時代の要請にほかならない。そしてドレスウォッチといってもかしこまったオンビジネスではなく、インフォーマルでありデイリーユースにも応えるつけやすさをKS1969では大切にした。それはスポーティなKSKと並ぶ対称軸となるドレッシーな存在であり、KS1969はキングセイコーの魅力を広め、双璧として絶妙にバランスさせる。

 キングセイコーという歴史と世界観に立脚した上で先進技術を注ぎ、実用機能を備えるとともに現代のライフスタイルにマッチした粋な美意識が息づく。キングセイコーによって刻まれる時は過去を懐かしむものではなく、常にまさに今、この瞬間なのである。

 美しい曲面を鏡面で仕上げたケースは、斜めから見ると9.9mmの薄さが際立つ。セイコーの現行機種で最も薄いCal.6L35の搭載によりそれを実現した。ボックス風防はドーム状のカーブを描き、ケースフォルムとも調和する。45KCMで先人たちが生み出したスタイルは、脱構築的なものづくり哲学によっていまや時代を超越した普遍的なデザインとなった。そうして生まれたKS1969は、セイコーのハイエンドメカニカルブランドに位置づけられるキングセイコーにふさわしい新時代のドレスウォッチとなるだろう。


キングセイコー KS1969 ギャラリー
 

Photos:Jun Udagawa Styled:​Eiji Ishikawa(TRS) Words:Mitsuru Shibata  Special Thanks: Yoshihiko Honda