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我々が知っていること
A.ランゲ&ゾーネからツァイトヴェルクのような時計が登場するとは、誰も予想していなかった。ザクセン州で最も権威と伝統のある時計メーカーが、デジタルウォッチを? まさか、そんなことはないだろう。しかし、2009年、ランゲはまさにそれを実現した。2000年代後半の世界的な不況のさなか、このドイツの時計メーカーはあらゆる予想を裏切り、これまでで最も型破りな時計、ツァイトヴェルクを発表したのだ。
そして、ツァイトヴェルクの誕生から13年、ランゲが現代における最初の時計を発表してから28年目に、ツァイトヴェルクの第2世代が正式に発表された。
はっきり言っておくと、2009年に発表されたツァイトヴェルクの新作は、このモデルが初めてではない。ツァイトヴェルク・ミニッツリピーター、ツァイトヴェルク・デシマルストライク、ツァイトヴェルク・デイトがすでに世に出ているが、ランゲがオリジナルのデザインとムーブメントを本格的に刷新したのは、今回の発表が初めてとなる。
新ツァイトヴェルクには2種類のフレーバーが用意された。プラチナと18Kピンクゴールド(PG)の2種類のケースが用意され、それぞれに新型手巻きCal.L043.6が搭載されている。オリジナルのツァイトヴェルクの時・分表示とコンスタントフォース機構を継承しつつ、ふたつの香箱の配置により最大72時間(先代の短い36時間から大幅に改善)のパワーリザーブが実現された。
また、4時位置のケース側面には、ジャンピングアワー表示の早送り調整が可能なプッシャーが追加され、タイムゾーン間の移動時に素早く簡単に修正することができるようになった。(ちなみに、ジャンピング・ミニッツを設定するには、2時位置のリューズを引き出す必要がある)。
このような開発は容易ではない。ツァイトヴェルクのCal.L043.6に搭載されている部品の総数は451個で、2009年版から63個増加した。しかしながら、特筆すべきはランゲがツァイトヴェルクのオリジナルのケース厚をわずかにスリム化させたことだ。どの程度か? ちょうど0.4mmである。
ツァイトヴェルクのダイヤルレイアウトとデザインは、大半が先代から引き継がれた。ジャンピングアワー/ミニッツの開口部位置は変わらず、従来の6時位置にあるスモールセコンドや、ダイヤル上部にあるパワーリザーブインジケーターも同様だ。すべての時刻表示を囲む、あの大きなジャーマンシルバー(洋銀)製のブリッジは? これは“タイムブリッジ”と呼ばれるもので、ドイツ語が堪能な方なら“ツァイトブリュッケ”がしっくりくるだろうか。新ツァイトヴェルクのすべてが見慣れた姿ではあるが、ダイヤル周りをよく見ると、いくつかの微妙なビジュアルの調整と改良が施されている。
スモールセコンドはわずかに大型化され、視覚的なインパクトと視認性を向上させている。また、インダイヤルの外周が大きくなったことで、ランゲの有名な“Made In Germany”表記をタイムブリッジの外周下部からスモールセコンドダイヤルの内周下部に移動させることに成功した。そして、ダイヤル上部にはもうひとつの新しい機能が追加されている。パワーリザーブ表示の残12時間が鮮やかな赤で強調され、主ゼンマイの残量が残り少なくなったことを意識させるコントラストが強調されている。
新ツァイトヴェルクは、41.9mm×12.2mm、3ピース構造のラウンドケースに、ランゲの特徴であるノッチを刻んだラグを備えたモデルだ。発売時には2種類のバリエーションが用意される。Pt950ケースにロジウムメッキのシルバーダイヤル、ブラックロジウムのタイムブリッジ、ダークブラウンのアリゲーターストラップ(Ref. 142.025)、18KPGケースにブラックダイヤル、無処理のジャーマンシルバー製タイムブリッジ、ブラックアリゲーターストラップ(Ref. 142.031)という仕様だ。
ツァイトヴェルクはA.ランゲ&ゾーネが製造する時計のなかでも特に高級かつ高価な時計で、最も基本的な解釈であっても希望小売価格はかなりの金額を求められる。しかし、その正確な金額は確認できていない。ランゲはこのツァイトヴェルクの正確な価格を“Price upon request(価格は応相談)”として非公開にしているからだ。しかし、時間を巻き戻してHODINKEEの過去記事を見てみると、たとえば2014年春、ベンはWG、ブラックダイヤルの初代ツァイトヴェルク(Ref.140.029)の小売価格を7万7400ドル(848万8800円)と報告していることがわかる。そして、ツァイトヴェルク・デイトは? 2019年に発売されたときは9万6700ドル(987万円)の値札がついていた。私が確認できたこのふたつのリファレンスの直近の実勢価格は? Ref.140.029が8万9000ドル(約1323万円)で、そしてツァイトヴェルク・デイトが、サッと血の気も引く11万5000ドル(約1709万円)だった。
しかし、インフレとランゲの全カタログが近年何度も値上げされていることを考えると、エントリーモデルのツァイトヴェルクが、もしまだその道を歩んでいないとしても、1000万円台の希望小売価格の入り口に立っていることは容易に想像がつくだろう。
我々が思うこと
A.ランゲ&ゾーネが、初期のデジタルウォッチにまだ手を入れていなかったとは、思いもよらないことだった。したがって、色々な意味で今日のリリースは待ち望まれていたことだ。
ジャンピングアワー・プッシャーのアップデートとパワーリザーブの改善は、実は2019年のツァイトヴェルク・デイトのCal.L043.8で初めて実装された点は特筆すべき点だ。とすれば、今回発表されたCal.L043.6は、デイトホイール、日付修正プッシャー、そしてその他のカレンダー機構を除き、同じムーブメントであると考えるのが妥当だろう。
このことは、ツァイトヴェルク・デイトと新ツァイトヴェルク 142.xxx系のムーブメントのルモントワールブリッジ(定力機構の固定する役割)の構造が、いずれもオリジナルのツァイトヴェルク 140.xxx系の構成と異なることからも裏づけられる。
ツァイトヴェルクムーブメントの最初のバージョン、Cal.L043.1(左下)では、ルモントワールブリッジはムーブメントの中央からかなり大きく湾曲しており、まるでアンクルの受けと主ゼンマイをつないでいるかのような形状になっている。一方、ツァイトヴェルク・デイトと2022年発売のツァイトヴェルクのムーブメントでは、ルモントワールブリッジは矢のように真っ直ぐで、エンドスクリューはムーブメントのほぼ中央に位置する(このレイアウトがいつから実装されたのか、最近のツァイトヴェルクのリリースをすべて遡って調べたところ、最も古い例は2019年のツァイトヴェルク・デイトの発売で、次いで2020年のブルーダイヤルのツァイトヴェルク・ミニッツリピーター、そして昨年のツァイトヴェルク ・ハニーゴールド・ルーメンがある)。
2009年および2010年代前半のツァイトヴェルク・ムーブメントと2019年以降のムーブメントとのあいだで、視覚的にも機構的にも大きなアップグレードが行われたのは、主ゼンマイを収めた香箱の上部にある2ヵ所のマルタ十字型止め具が取り除かれたことだ。この止め具機構は、オリジナルのツァイトヴェルクが36時間のパワーリザーブに留まった理由の一部だ。このふたつの小さな歯車は、ムーブメントのあらゆる部分、特にエネルギーを消費するルモントワール機構への安定したエネルギー伝達を維持するために、時計が作動中、常に十分な動力を確保するのに役立っている。
私はコンスタントフォース(定力装置)を搭載したモデルには目がない。ムーブメントの精度を決定するツールであり、現代の時計製造において、一貫して価値ある革新を続けている数少ない分野のひとつだと思うからだ。ルモントワールの起源はマリンクロノメーターの時代に遡り、一般的には輪列のなかの歯車のひとつに取り付けられた1本の螺旋型のスプリングという形状を採ることが多い。
主ゼンマイが小さなルモントワール・スプリングを巻き上げると、その間隔はさまざまだが、駆動輪列の残りの部分にトルクが均等に配分され、テンプにほぼ直接的な推進力を与え、時計全体の精度と計時の安定性を保つのに役立つのである。
ツァイトヴェルクにコンスタントフォース機構が必要な理由は、時・分針がない代わりに、瞬転数字式表示機構を構成する3枚の数字ディスクをめくるのに膨大なエネルギーが必要なためで、一般的な輪列構成では到底無理な話なのだ。考えてもみてほしい。ツァイトヴェルクの少なくとも1枚のディスクは、60秒ごとにジャンプし、すぐにブレーキをかけなければならない。次に、10分ごとに急停止しなければならないディスクが2枚あるのだ。
そして1時間に1回、正時になると3枚のディスクが同時に飛び出し、1秒のあいだに止まるという、まさにサーカスのような目まぐるしさを演じる。もちろん、3枚のディスクはそれぞれ外周が異なるため、必要なエネルギー伝達量も異なり、さらに困難な作業となることはいうまでもない。
すべてのツァイトヴェルク・ムーブメントに採用されているコンスタントフォース(定力装置)は、これらの問題をすべて解決する特許取得済みの設計である。輪列中央、上側と下側の3番車のあいだにあるルモントワール・スプリングを採用している。
エネルギーは主ゼンマイから中央の歯車を通ってレモントワール・スプリングに伝達され、ルモントワールは徐々に巻き上げられる際に蓄えられる。ルモントワール・スプリングは60秒ごとに蓄えたエネルギーを放出し、上側3番車に伝達する。そして、残りの輪列を通って脱進機に到達し、必要なディスクを1分先に進めるのに十分なパワーを供給するというわけだ。
ランゲによれば、新型ツァイトヴェルクは1度の巻き上げで合計4320回の瞬転が可能で、これはすべて新しい二重香箱設計によるもので、72時間の駆動を可能にする。計算すると、1度のフル巻き上げで3枚同時瞬転72回、2枚同時瞬転360回、1枚のみの瞬転は3888回ということになる。
より複雑なツァイトヴェルクの新作でデビューしたこれらの機械的改良が、最終的に最もシンプルで、願わくは入手可能なツァイトヴェルクの時計に注ぎ込まれているのは、純粋に素晴らしいことだと私は考えている。
2009年から今朝までツァイトヴェルクに搭載されていた旧型Cal.L043.1は、確かに少し古くなっていたものの、ツァイトヴェルク全体にとって、唯一無二の成功のプラットフォームを確立したことに疑問の余地はまったくない。ツァイトヴェルクのムーブメント構造のほとんどが、時を経ても変わっていないことがわかる。例えばテンプの配置の妙を見てほしい。このテンプは、従来ならダイヤル側3時位置に配置され、そのためにリューズは2時位置の外側に配置されている。
実はA.ランゲ&ゾーネはツァイトヴェルクの第2世代で(デジタル)輪列を再発明したわけではない。これらのアップデートは主に機械的な改良で、ほとんどの人が気づかないような小さな美的変化が施されている。もし、すでにツァイトヴェルクのあらゆる特異性と、ハイエンドな時計製造の幅広い領域のなかでツァイトヴェルクが表現するものをを楽しんでいるのなら、きっと新しい追加要素を評価することができるだろう。
とはいえ、私は前者であり、近い将来、新しく生まれ変わったツァイトヴェルクを実機で触れるのを楽しみにしている。
基本情報
ブランド: A.ランゲ&ゾーネ(A.Lange & Söhne)
モデル名: ツァイトヴェルク(Zeitwerk)
リファレンス: 142.025(Pt950)、142.031(18KPG)
直径: 41.9mm
厚さ: 12.2mm
ケース素材: Pt950、18KPG
文字盤:ロジウム(Pt950)、ブラック(18KPG)
インデックス: N/A
夜光塗料の有無: N/A
防水性: 水には十分ご注意を!
ストラップ/ブレスレット: Pt950製ケースには手縫いのアリゲーターレザー(ダークブラウン)にピンバックル、18KPGケースには手縫いのアリゲーターレザー(ブラック)にピンバックル(いずれもケースと同素材)
ムーブメント情報
キャリバー: L043.6
機能: 瞬転数字式表示機構による時・分表示、スモールセコンド、パワーリザーブ表示
直径: 33.6mm
厚さ: 8.9mm
パワーリザーブ: 72時間
巻上げ方式: 手巻き
振動数: 1万8000振動/時(2.5 Hz)
石数: 61
クロノメーター認定: N/A
その他の詳細: 5姿勢精度調整、4分の3プレートは無処理の洋銀製、テンプとガンギ車の受けには手作業による彫刻、コンスタントフォース脱進機によるミニッツジャンプ表示、451個の部品、2個のネジ付きゴールドシャトン、スイスレバー脱進機、テンプの耐衝撃カム、特許取得のヒゲゼンマイ固定装置付き自社製テンプ、水平方向にセットされたミーンタイムスクリューとムチ状バネによる精密ビートエラー補正機構。
価格 & 発売情報
価格: 応相談
入手方法: A.ランゲ&ゾーネ ブティックおよび正規販売店
限定: なし。通常生産モデル