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サイモン・ホロウェイ(Simon Holloway)氏をご存じだろうか? 彼はイギリスのキングストン大学でファッションデザインを学んだのち、さまざまなブランドでキャリアを積み、2022年にはジェームス・パーディ&サンズ(200年以上続く英国の名門ガンメーカー。アパレルはフィールドコートなどを展開)でクリエイティブディレクターに就任し、2023年にダンヒルの舵取りを担うに至った。
ホロウェイ氏の初仕事となった2024年秋冬のコレクションは果たして、これまでのダンヒルのなかでもとりわけ英国クラシックに強くオマージュを捧げたマスキュリンなものとなった。創業者のアルフレッド・ダンヒル(Alfred Dunhill)から130年以上にわたり受け継がれる卓越した英国のクラフトマンシップ、そしてその時々のトレンドに影響を与えてきた革新性に敬意を払ったルックはどれも、テーラリングを下地とした普遍的な魅力のなかにモダンなひねりが垣間見える。
今冬のトラッド回帰の流れをつくったと言っても過言ではない、ホロウェイ氏のダンヒル。そのルックを前に合わせるべき腕時計を考えたとき、やはり同様に、深い歴史に根差した伝統と男性的なこだわりが同居する“タイムレス・ラグジュアリー”なものがよさそうだと感じた。華美に着飾らずとも、手元に確かな主張を感じさせるマリアージュをぜひ見ていって欲しい。
スタイル1:スリーピーススーツと、共地のチェスターフィールドコート
コート61万9300円、ジャケット37万6200円、ベスト14万1900円、パンツ12万5400円、シャツ8万5800円、タイ4万9500円、シューズ27万7200円/以上すべてダンヒル(ダンヒル ☎︎0800-000-0835)
ホロウェイ氏によるダンヒルのデビューコレクションがお披露目となった2024年2月16日。そのショーの先陣を切ったのが、このスリーピーススーツとコートのルックだった。英国らしい端正なテーラリングが光るスーツはシャークスキンで仕立てられており、2色の糸で斜面織りされていることによる独特な配列模様が佇まいに上品なアクセントを添えている。英国らしいカチッとした空気を感じさせる太めのピークドラペルは実に力強い印象だ。(写真には写っていないが)スラックスはクラシックなベルトレス仕様となっている。ノータックかつハイライズのシルエットをとっている点は、ホロウェイ氏による現代的なアレンジだろう。
ジャガー・ルクルト レベルソ・トリビュート・クロノグラフ 607万2000円(税込)
このルックにおいて注目すべきポイントは、ダンヒルのアーカイブにインスパイアされたというスーツと共地のチェスターフィールドコートの存在だ。コートは軽量な素材を使用しつつ裏地も排しているものの、しっかりと打ち込まれた生地によりさっと羽織った際にも構築的なシルエットを描いてくれる。これによりスリーピースのスーツと“四位一体”であるかのような統一感が生まれており、さらにタイまで同色のグレーでまとめたことで洗練された雰囲気を演出している。
そんな端正な着こなしに合わせたのは、ダンヒルが次々に工房を建て、新商品の展開を精力的に行っていた黄金期である1930年代に生まれたジャガー・ルクルトのアイコン、レベルソだ。ジャガー・ルクルト自体は1833年よりジュウ渓谷に工房を構えるスイスのグランドメゾンだが、レベルソは「ポロの競技中につけられる時計が欲しい」とイギリス軍の将校がオーダーしたことに端を発するモデルである。その出自に英国とのつながりを持つからだろうか、ダンヒルの持つトラディショナルな空気にも馴染んでいるように見える。
その顔立ちこそオーセンティックだが、レクタンギュラーの時計というのはそのフォルムだけで着用者のこだわりが垣間見えるものだ。さらに、特徴的なゴドロン装飾によって古きよきアール・デコの薫りも纏っており、スポーツウォッチでありながら上質なエレガンスも漂う。また、表の顔こそ2針のシンプルなドレスウォッチだが、デュオやこのモデルの場合はひとたびリバースすればひと味違う華やかな装いも可能になる。一見コンサバティブながら、シーンに応じた印象の変化も楽しめるわけだ。伝統を継承しつつも単なるクラシックに収まらないこんな“ひねり”にも、ホロウェイ氏のダンヒルとのつながりを感じる。
スタイル2:ウールカシミヤ フランネル製のダブルブレスト ジャケットを主役としたスリーピーススタイル
ダブルジャケット35万9700円、ベスト13万5300円、パンツ12万1000円、ニット15万1800円、グローブ6万8420円、シューズ27万7200円/以上すべてダンヒル(ダンヒル ☎︎0800-000-0835)
ダンヒルの出自が自動車雑貨店にあることは有名な話だ。19世紀の末、いち早く自動車の需要を察知していたアルフレッド・ダンヒルが1893年に立ち上げたダンヒル モートリティーズがその起源と言われており、以降現在に至るまで“クルマ”はこのメゾンにおける重要な要素のひとつとなっている。そんなダンヒルのバックボーンに敬意を表し、軽やかな仕立てのウールカシミヤ製スリーピースにヴァシュロン・コンスタンタンのヒストリーク・アメリカン 1921を合わせてみた。ヒストリークは1921年、自動車産業の急速な発展で活気にあふれていたアメリカ市場に向けてデザインされモデルである。手首に対して45度傾けられた文字盤は、クルマのハンドルを握ったままでも時刻を読み取れるようにと考案されたものだ。40mm×40mmというケースサイズは数字の上ではやや大きめに思えるかもしれないが、短くとられたラグのおかげか手首上での収まりもいい。
緩やかなカーブを描くクッションケース、日本人の肌に馴染むピンクゴールド、ギラつきを抑えたグレイン仕上げのダイヤルと、そのすべてが柔らかく起毛し、穏やかな光沢を返すウールカシミヤのアンダーステートメントなエレガンスにフィットする。すべてをブラックからグレーのモノトーンであつらえた着こなしのなかで品のいいアクセントとなりながら、決してスタイルの邪魔をしていない。
試しにドライビンググローブをつけてみると、グローブに干渉しないクッションケース、そして一般的な時計なら1時〜2時位置に配されたリューズのポジションがハンドルを握った際にいかに合理的であるかに気がつく。手首の上で確かな主張を放つその特異なデザインには、1世紀を超えた“用の美”が感じられる。
なお、サイモン・ホロウェイ氏はダンヒルのモータースポーツとのつながりにも深い敬意を表している。2024年の秋にはブランドがメインスポンサーを務めるRALY NIPPONとの継続的なパートナーシップを祝う、RALLY NIPPON 2024 CAPSULE COLLECTIONも手がけた。今年のラリーの参加者は彼のデザインによるコレクションを身につけ、ブランドのロゴをあしらったクラシックカーで日本の美しい風景を駆け抜けたという。もちろん今回のスタイリングは、ドライバー向けのものではない。しかし創業から続くモータースポーツのDNAは確かに継承されており、このスリーピースで見せたシンプルながら美しさが際立つテーラリング同様に、ダンヒルのデザインの根底にあるものだ。
ヴァシュロン・コンスタンタン ヒストリーク・アメリカン 1921 602万8000円(税込)
話を時計に戻すが、より控えめな顔立ちが好みならホワイトゴールドのモデルもヒストリークにはラインナップされている。ケース、ダイヤルともにシルバーカラーになるが、ブラックに仕上げられた針が全体を引き締めており、男らしさを担保している。より幅広いシーンでの着用を想定しているなら、こちらをすすめたい。もちろん、メゾンの豊かな歴史に根ざしたクラシックに変わりはない。
Photos:Takao Sakai(aosora) Styled:Akihiro Shikata Model:Kou