本特集はHODINKEE Magazine Japan Edition Vol.1に掲載されています。
慌ただしく迎えていた朝も、今では自分で挽いた豆でエスプレッソを淹れ、届いたばかりの新聞にゆっくりと目を通す。新しい生活様式が問われる中、ささやかでも身近な変化は生まれているようだ。これも時代の変わる潮目ということなのかもしれない。日常へのまなざしや仕事の仕方。中でも大きく変わったのは、自分と向き合う時間だ。CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ(以下CODE 11.59)はその大切なひとときに充実を与えてくれる。
CODE 11.59は、オーセンティックなラウンドケースのようでいて、ベゼルとケースバックの間にはブランドのシンボルである八角形のミドルケースを挟む。さらにこれをブリッジするように大胆なオープンワークを施したラグを備える。
極細のベゼルによってフェイスは全面に広げられ、これを覆うサファイアクリスタルにしても一筋縄ではいかない。内側のドーム曲面に対し、外側には縦方向に湾曲させるという凝ったダブルカーブにより、見る角度によってレンズのようなユニークなパターンが生まれるのである。さらに3Dによる立体のブランドロゴなど細部にちりばめられたデザインは枚挙にいとまがない。それこそコレクション名が示すようにコード(暗号)を秘め、手にするたびそんな新たな発見をする喜びがある。
CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ クロノグラフ 445万円(税抜)
(左)Ref.26393CR.OO.A002CR.01 41mm径、18KPG×18KWGケース、スモークグレーラッカーダイヤル。自動巻き。
(右)Ref.26393OR.OO.A028CR.01 41mm径、18KPGケース、スモークブルーラッカーダイヤル。自動巻き。
クロノグラフの多針が織りなす、精緻にしてダイナミックな運針にも目が奪われるだろう。本来は動き続ける針を止め、意のままに動かす。それは自分だけの揺らがぬ時をいつも持ち続けるということでもあり、そんな思いを新たにすることだってできる。
興味深いのは、文字盤に加わった新色でその存在がさらに身近になったように感じることだ。スモークグレーであればグレースーツにも似た大人の風格を、スモークブルーなら週末を過ごす海がいつでも感じられる。それぞれの深みのある色がその時計を腕にした一人ひとりの気持ちやライフシーンを映し出すかのようだ。
コレクション名のCODEは、Challenge(挑戦)、Own(継承)、Dare(追求心)、Evolve(進化)という4つのイニシャルからなる。それは145年の歴史を誇るオーデマ ピゲが変わることなく持ち続けるブランドの遺伝子コードでもある。その情熱は同じ時間を共有することで確実に伝わり、自身も進化へと衝き動かされるのである。
たとえ声高でなくても、自分の流儀にこだわり、ポリシーを貫く。男が手にし、愛する道具とはそんな存在なのかもしれない。例えばタキシード。夜の礼服は優雅さや品格に満ちる。だが時には反骨の象徴にもなる。生涯それをトレードマークにした男がセルジュ・ゲンスブールだ。日本に来日の際、前日の晩のパーティで飲みつぶれ、ナイトクラブからよれよれのタキシード姿のまま空港に向かい、到着を迎えた関係者を驚かせたという。その一方で、タキシードのもつ旧態然とした権威主義を嫌ったのがグレン・グールド。クラシック奏者としては初めて演奏会でタキシードを脱いだともいわれ、服装にこだわらないばかりか、低い椅子や猫背の姿勢、果ては弾きながらハミングするという異端だった。
二人に共通するのは、既成概念やルールにとらわれない自由で個性的な表現者のスタイルであり、それはCODE 11.59にも通じる。文字盤の新色として加わったスモークパープルとスモークバーガンディ、そしてコンビのケースと組み合わせたグレーは、いずれもメンズのドレスウォッチらしからぬ色合いだ。だが端正な3針を彩ることで、そこに大人の艶あるダンディズムが薫り立つのだ。
深みのある色合いは、時には闇と同化しつつ、光を受けることで夜の華やぎを演出する。これらのCODE 11.59からは控えめなエレガンスと共に、時代におもねらない気概が伝わってくる。
CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック 280万円(税抜)
(左)Ref.15210BC.OO.A068CR.01 41mm径、18KWGケース、スモークバーガンディラッカーダイヤル。自動巻き。
(右)Ref.15210OR.OO.A616CR.01 41mm径、18KPGケース、スモークパープルラッカーダイヤル。自動巻き。
CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ オートマティック 280万円(税抜)
41mm径、18KPG×18KWGケース、グレーラッカーダイヤル。自動巻き。
2色のゴールドを使い分けるのが、CODE 11.59の新色における流儀。これまでの概念を覆して、サイドシャンな仕上がりを実現している。
ミニッツリピーター スーパーソヌリを筆頭に、パーペチュアルカレンダー、トゥールビヨン オープンワーク、フライング トゥールビヨンといったコンプリケーションから、スポーティなクロノグラフ、シンプルな3針まで一挙13型を発表し、CODE 11.59はピラーコレクションを確立した。これだけでも十分にブランドの意気込みが伝わるが、さらにこれに加わった新作が自動巻きフライングトゥールビヨン クロノグラフだ。
時計技術の伝統を象徴するトゥールビヨンに、スポーティなフライバッククロノグラフを組み合わせ、さらにコンテンポラリーなオープンワークスタイルでその精緻な美学をアピールする。スイス時計屈指の名門マニュファクチュールならではの渾身作であると同時に、それは極めてCODE 11.59的と言えるのかもしれない。
今、高級車の世界を席巻するラグジュアリーSUVにしてみても、オフローダーとクーペを統合した新たなカテゴリーであり、それまでの常識を覆す、ある意味ではインフォーマルなあり方だ。それは時代の気分を映し出し、現代のライフスタイルに寄り添う。そしてCODE 11.59もまさにその文脈に沿っている。従来あったヒエラルキーを解体し、コンプリケーションも3針もフラットに位置づける。あるのはCODE 11.59という価値観のみ。そうした革新性が先進的なCODE GENERATIONの人々を惹きつけるのだ。