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ジャパニーズインディペンデントウォッチの魅力 ― 情熱と圧倒的な個性が生む日本の独立系時計ブランドの現在

NH WATCH代表・飛田直哉氏、マサズパスタイム代表・中島正晴氏、そして独立時計師の菊野昌宏氏。多くの時計愛好家を虜にする時計づくりの名手たちが、ジャパニーズインディペンデントの今を語る。

近年、独立時計師や、大手グループに属さずこだわりの時計づくりに取り組むインディペンデントブランドが以前にも増して注目されるようになった。今ではルイ・ヴィトンを主催者とする独立時計師やインディペンデントブランドの革新性や技術(サヴォアフェール)を称え支援する国際的な時計賞、ルイ・ヴィトン ウォッチ プライズ フォー インディペンデント クリエイティブズ(Louis Vuitton Watch Prize for Independent Creatives)が開催されるなど、時計業界におけるその存在感は間違いなく年々確固たるものとなっている。特に日本発のインディペンデントブランドは、その急先鋒と言っても過言ではないだろう。

ファイナリスト5名のうち2名は、なんと日本の時計師

昨年7月にセミファイナリスト20名が選出されたが、2025-2026年度のルイ・ヴィトン ウォッチ プライズ フォー インディペンデント クリエイティブズ授賞式に向けて、12月にファイナリスト5名が発表された。なんとそのうち2名は日本の時計師。牧原大造氏とクワイエットクラブの関 法史氏である。2026年3月24日(火)には、パリのフォンダシオン ルイ・ヴィトンにて、5名からなる審査員団に対し、5名のファイナリストが自らのタイムピースをプレゼンテーションすることになっている。

 そうした昨今の独立時計師やインディペンデントブランドに対する評価について、NH WATCHの飛田直哉氏は、日本のマーケットが、過去にもAHCI(アカデミー)をはじめとする独立時計師や小規模の時計ブランドをいち早く評価してきた土壌があることを指摘しながら、次のように答える。「私自身の感覚としては“突然評価が上がった”というよりも、長い時間をかけて積み重ねられてきた興味や理解が、ようやく表面化してきたという印象です。ここ数年はそれらに加え、日本のインディペンデントブランドへの理解が進んだ、というところではないでしょうか?」

 一方、マサズパスタイム代表の中島正晴氏は「私たちのような日本のインディペンデントメーカーに対する評価というのは、以前は圧倒的に国内のコレクターによるものでした。それがこの数年は特に海外からの反響や問い合わせが増加しており、少なくとも私たちについては海外からの評価、反響が国内のそれを上回る形となっています」と話す。

 アカデミー所属の独立時計師のひとり、菊野昌宏氏も日本の独立時計師や、インディペンデントブランドに対する注目の高まりを感じているようだ。「2017年のバーゼルワールド以降、私はスイスでの時計展示をしていませんでした。そのため海外のコレクターとの接点もあまりなく、自分自身はそこまで私の時計が評価され、熱望されているとは感じていなかった。ですから、2024年の刻オークションの結果は驚くとともにうれしく思いましたし、2025年の春にスイスの展示会に参加した際には、世界中から時計ファンが会場に足を運んでくださり、そのなかには私のドキュメンタリービデオを見て時計師になったという若いスイス人の方がおり、とても驚きました」

 独立時計師やインディペンデントブランドの作品は、唯一無二の希少なヴィンテージウォッチと並び、工業製品からアートの領域で評価されるようになった。こうした時計の世界的な捉え方の変化も、日本のインディペンデントブランドのプレゼンスを高める後押しとなったのは間違いない。特に大きなターニングポイントのひとつとなったのは、菊野氏も指摘するように日本をテーマとした刻オークションでの成功だろう(その詳細についてはこちらの記事をぜひともご覧いただきたい)。日本の独立時計師やインディペンデントブランドは今や異端ではなく、世界的な存在として広く認識されている。


作り手と時計愛好家の結び付きを強めて成功を収める時計イベント

昨年10月1日から6日にかけて行われたTokyo Watch Week。そのうちの1日は「Tokyo Watch Week HODINKEE Japanナイト」として特別なイベントを開催。国産大手ブランドのほか、多くのインディペンデントブランドも参加し、作り手と愛好家が直接つながる場として賑わいを見せた。イベントの様子はこちらの記事から。

 日本の独立時計師や、インディペンデントブランドの世界的な評価は、それらを取り巻く環境にも変化をもたらした。これまで日本で時計のイベントと言えば、百貨店における催事などが中心だったが、昨年10月に実施されたTokyo Watch Week、そして今年1月に開催された時の技巧展など、日本における時計イベントにも新たな動きが見られるようになったのだ。こうした時計の魅力をアピールする新たな場が創出されていることも、日本において独立時計師や、インディペンデントブランドとファンの接点を増やし、プレゼンスを高める後押しをしたと言っていい。

 こうしたイベントの新たな潮流について、「販売目的ではないイベントは、コレクターやファンと気兼ねなくリラックスして交流でき、お互いを知ることができるとてもよい場です。小規模ブランドにとっては広く浅く知らせるよりも、狭く深く届けるほうが価値があると感じています」(菊野氏)、「主に国内のコレクターを対象としたかつての催事から、世界中の方を対象とした、より国際的な催事へと日本でも変化していると考えます。日本のインディペンデントメーカーの増加、技術レベルの向上といった要因以外に、近年の円安による訪日客の急増も影響していると思いますが、いずれにせよ、私たち小規模メーカーにとって今は大きなチャンスです」(中島氏)と答えるなど、その変化を歓迎している。

ハイエンドウォッチの世界における最高峰の時計師たちが東京に集結した時の技巧展。著名な時計師たちが一堂に会し、時計の展示だけでなく、実際の制作工程を実演公開する、きわめて貴重なイベントだった。編集部ではプレスプレビューに参加し、その様子をお届けした。記事はこちら

 飛田氏も各イベントを振り返りながら、期待を寄せて次のように話す。

 「2025年に開催されたTokyo Watch Weekには我々も参加しましたが、予想よりもはるかに多くの時計愛好家の方にお目にかかることができました。特に事前の告知が十分ではなかったにもかかわらず、多くの愛好家が海外からも来日してくれたことはうれしい驚きでした。時の技巧展については、イチ愛好家としての参加でしたが、圧倒的に豪華な出展者の顔ぶれに加え、展示内容の素晴らしさにも目を奪われました。そしてTokyo Watch Weekと同様、非常に多くの人が会場を訪れて、時計師たちと直接コミュニケートしていたのが印象的です。従来の百貨店や時計専門店におけるイベントは継続されていくと思いますが、今後はTokyo Watch Weekや時の技巧展のようなインディペンデントブランドや独立時計師が直接、愛好家たちと触れ合えるイベントは、ますます増えていくように感じています」


時計愛好家を魅了する、作り手の情熱と個性に満ちた時計たち

2019年、NH WATCHのファーストプロダクトとして発表されたNH TYPE1シリーズ。写真はその第4世代となるNH TYPE1D(2022年に登場)。技術者ではない飛田氏が中心となって立ち上げたNH WATCHは独立時計師ではない人物が手がけた日本発のインディペンデントブランドの成功例として市場に大きな影響を与えた。

 日本発の独立時計師や、インディペンデントブランドの台頭、そしてイベントの新潮流など、作り手を取り巻く環境は、この数年だけを見ても大きく変化している。では、時計愛好家たちはどうだろう? 注目度の高まりを受けて、時計愛好家たちの嗜好も少しずつ変化しているようにも見えるが、海外と日本での嗜好の違いはあるのだろうか。そんな問いに対して、返ってきた答えは「海外と日本の時計愛好家のあいだで、嗜好の違いを感じることはほとんどありません」(飛田氏/中島氏)と意外なものだったが、菊野氏の回答はきわめて興味深く、芯を捉えているように感じられる。

右は蒼黒、左は凪の名を与えられたマサズパスタイムのオリジナルウォッチ。蒼黒は彫金師の辻本 啓氏が日本古来の伝統工芸、赤銅の黒染めの技法をダイヤルで再現。2025-2026年度のルイ・ヴィトン ウォッチ プライズ フォー インディペンデント クリエイティブズ、セミファイナリストに選出されたほか、2025年のGPHGにもエントリーしていた。

 「直接販売することが目的ではないファン交流会のようなイベントが増えていることが表しているように、時計そのものだけではなく、ブランドのより深い部分、“中の人”である作り手への関心がますます高まっていると感じます。作り手と直接触れ合うことで、“ブランドと客”という関係性だったものが“人と人”との関係に変化している。カタログスペックや目に見える部分だけでなく、どこで、誰が、どのような哲学を持ち、どのような手段で作っているのか。そうしたストーリーも含めて時計の価値が判断されているように思います。そのような流れのなかで特に輝くのが、強い個性と主張を持った“インディペンデント”と呼ばれる存在なのでしょう。当然数は作れないですし、供給に対して需要が常に大きい状態が続くため、オークションなどでの過熱へつながるわけですが、日本ではまだその傾向は少ないかと思います」(菊野氏)

 作り手を取り巻く環境の変化に伴い、今や時計師でなくても、大資本がなくとも、自身のこだわりを反映した時計を形にし、それをビジネスベースに乗せられる環境が、以前よりも整いつつある。そうした状況のなか、今回インタビューに答えてくれた御三方は、ブランドとしての継続的な運営を見据えたときに何を大切にしているのか? それぞれ言葉は違えど、共通していたのは、“当初のビジョンを見失わないこと”。そして“どう評価されるかよりも、どういうものが作りたいか”、自分は何をしたくて時計ブランドを作ったのか、自分を見失わずに自分が作りたいものを継続して作り続けることが大切なのだという思いだ。過熱気味とも言える市場の評価のなかにありながら、地に足を着けた時計づくりこそが大切だという姿勢は、とても印象的だ。

ともに菊野氏の作品。右はすべて手作業でパーツを作成したレトログラードウォッチ。左は2025年に発表したコンプリケーションのプロトタイプ。ミニッツリピーター、クロノグラフ、トゥールビヨン、そしてパワーリザーブインジケーターを備えたまさにコンプリケーションだ。菊野氏の作品づくり基本的にすべて手作業だが、本作は新たな挑戦として、CNCマシンを用いて制作されている。

「…いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのようにしてつくるのかを見極め、どんな時計をコレクションに加えるべきか。コレクターたちは、その目を光らせているように感じます」

– 独立時計師/菊野昌宏氏

 あと1カ月も過ぎればWatches & Wondersが開幕し、今年も多くのブランドから数多くの新作が発表されることになる。最新のトレンドや技術革新など、注目を集める話題はいくつもあるだろう。いったいどんな時計に注目すべきだろうか。今回の取材を通して得られた菊野氏の言葉が、そのすべてを物語っているように思う。

「大手や小規模、インディペンデントブランドなど、ほかにも時計にはさまざまな肩書きが付きまといます。ですが、今のトップコレクターはそうした肩書きの後ろにあるもの。つまり、いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのようにしてつくるのかを見極め、どんな時計をコレクションに加えるべきか。コレクターたちは、その目を光らせているように感じます」 (菊野氏)

 そう、たくさんの時計があるなかでも、作り手の確かなメッセージを宿した時計こそが、時計愛好家の心をとらえる。これだけは間違いのない、ひとつの真実だ。