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Auctions フィリップス TOKI -刻- ウォッチオークション最速レポート 驚くべき日本勢の落札結果を振り返る

日本の時計カルチャーが世界に向けて、改めて発信される第一歩であったTOKI オークションは、インディペンデント勢はもちろん、クレドールもG-SHOCKも躍進を遂げる日となった。

史上初となった、日本をテーマにしたフィリップスによる時計オークションTOKI-刻-。昨日(11月22日)に終えたばかりかつ、本日と明日で香港時計オークションⅩⅨも開催されるため、まだ香港は熱気に包まれている状況だ。ただ、ここで一度、我々HODINKEE Japanがオフィシャルメディアパートナーを務め、1年近くに及ぶ壮大なプロジェクトとなったTOKI-刻-の振り返りをしたいと思う。

 特に、想像以上の躍進を遂げた日本勢に焦点を当てて、落札結果とともに現地の様子を交えてお届けしていく。なお、記載している落札価格は、ハンマープライスに27%のバイヤーズプレミアムを加えた価格となっている。


ロット105:クロノトウキョウ グランド“虹” 落札価格 22万8600香港ドル(約454万5000円)

 全体で115のロットが用意されたTOKI-刻-オークションだが、今回一つの目玉とも言える日本のインディペンデントウォッチメーカーによる11本の時計たちには、ロット105~115の番号が与えられた。口火を切ったのはこのクロノトウキョウのグランド“虹”だ。独特なニュアンスを持った漆文字盤と同ブランド初の金無垢ケースを備えたユニークピースは、みるみる間に入札合戦が繰り広げられた。


ロット106:タカノ シャトーヌーベル・クロノメーター“TOKI” 落札価格 21万5900香港ドル(約429万2500円)

Image courtesy:Phillips

 続いて登場したのは、今年復活を遂げたタカノ。本作も前出のクロノトウキョウ同様、浅岡 肇氏が率いる東京時計精密による作品で、同社によるこのオークションでの収益は全額が能登半島地震で被害を受けられた輪島塗の救済のために寄付される。この1本のためのサーモンダイヤルは日本の伝統色である朱鷺色で、タカノ自体になじみはなくともその珍しい文字盤に引かれたのか、中東などからのビッドも目立った。最終的にはカタールの幸運な落札者の手にわたることに。

 なお、出品前の東京時計精密・浅岡 肇氏への取材記事はこちらへ。


ロット107:大塚ローテック 6号 東雲 “SHINONOME” 落札価格 55万3400香港ドル(約1100万2600円)

 ジャパニーズ・インディペンデントへの期待感がさらに顕在化したのが、このロット107からだった。前ふたつのロットもハイエスティメートを2倍近く上回る結果だったわけだが、ここからグッとギアが引き上がる。それもそのはず、大塚ローテックは現在日本在住者しか抽選に応募することができないうえ、直前のGPHG・チャレンジ部門で受賞を果たすなど海外勢から見ても話題が豊富だったのだ。結果、ハイエスティメートの10倍近い42万香港ドルでハンマーが鳴る。会場も合わせて熾烈な競り合い合戦となった。

 なお、本作はブラックIPコーティングが施された、片山次朗氏によるユニークピースだが、コレクターから出品された6号、7.5号も同様に高い評価を受けて落札された。特に6号は本作に迫る勢いの37万香港ドルをつけたのだから、日本人のコレクターのあいだで大きな話題になるだろうと予感させられた。

 出品前の大塚ローテックへの取材記事はこちらへ。

 ここからさらにオークションのボルテージが最高潮に達するのだが、それ以前、前半戦でも大躍進を果たした日本の時計ブランドによる輝いたロットも紹介したい。


ロット45:クレドール ノード 叡智 落札価格 177万8000香港ドル(約3535万円)

 年々評価を高めるクレドールの叡智。2008年に発売された、この初代・叡智は世界初のトルクリターンシステムを備え、年間で5本程度しか生産されなかった高い希少性を持つ時計だ。叡智 Ⅱにも引き継がれた磁器製のダイヤル、磨き込まれたスプリングドライブムーブメントなど、独自の魅力が凝縮された本作はこれまで出品された叡智 Ⅱの記録を大幅に更新(2024年5月の香港オークションで33万200香港ドル<約656万5000円>、2023年5月の香港オークションで40万6400香港ドル<約808万円>、)することになった。

 僕は本作が落札された瞬間、香港のペダーアーケードのなかでマーク・チョー氏と一緒にいたのだが、彼もこの結果には驚きを隠せないようだった。長らくグランドセイコーやクレドールを愛好するマーク氏からすれば、ようやく世界もこの時計の魅力を大きく評価しはじめた、というところだろうか。ヴィンテージでもなく、スイス時計のようなヒストリーを持たない日本の時計が世界から注目を集めるというのは、間違いなくウォッチコレクティングの潮目が変わってきたことを意味する。


ロット49:カシオ G-SHOCK G-D5000-9JR 落札価格 114万3000香港ドル(約2272万5000円)

 ノード叡智に続き会場(とペダーアーケード)を沸かせたのがこのG-SHOCKだ。本作は2015年にバーゼルワールドで特別展示された「DREAM PROJECT DW-5000 IBE SPECIAL」に端を発した、G-SHOCKのゴールドモデルを実現したもの。2019年に35本限定で販売された本作は、ケースやブレスレット、ビスのすべてに18金を用いて製作された。G-SHOCK35周年を集大成したモデルだったが、あれから約5年を経てさらにその評価を確固たるものとする1本となった。

 本作の落札は、同様にフィリップスが手掛けた2023年のG-D001の成功も影響しているだろう。アメリカの時計好きの手にわたることになったゴールドG-SHOCKは、ラグジュアリーウォッチにおけるクォーツ時計の可能性をも示唆してくれるかもしれない。

 さて、日本勢の評価の高まりに胸を躍らせたところで、オークションの実施時間が5時間を経過してなお、熱が高まり続けた最終ロットまでを振り返りたい。


ロット110:菊野昌宏  蒼(SOU) 落札価格 86万3600香港ドル(約1717万円)

 さて、ラストスパートと言わんばかりのジャンプアップを果たしたのは、日本人で初めて独立時計師アカデミー(AHCI)の正会員となった菊野昌宏氏だ。この蒼(SOU)という時計は販売を目的としたものではなく、自身のために製作した2本のうちの1本。もう1本は本当に日常使いしているようで、会期中は菊野氏の奥様が着用されていた。

 文字盤に星座を描いた本作には世界中からの入札が相次ぎ、日本からのビッドも確認。このロットの最中、オークショニアのトーマス・ペラッツィ氏が壇上から菊野氏に目配せすると、「enough、enough!」ともう十分な入札が入ったと遠慮する姿を見せ、時計同様にまっすぐな人間性を伺わせた。結果、本作はニューヨークのコレクターの手にわたることになった。

「enough,enough!」


ロット111:菊野昌宏 トゥールビヨン 2012 落札価格 228万6000香港ドル(約4545万円)

 ロット110の興奮冷めやらぬなか、本人も「次が本番」と語ったトゥールビヨン2012が満を持して登場。前ロット以上にハイペースで進む入札合戦は、電話入札も多数入り乱れてかなり長い時間がかかって進んだ。本作は菊野氏が初めて自身の工房で製作したユニークピースでそのすべてが本人の手作業によって作られている。彼の工房に10年以上にわたって保管されていた本作が改めて日の目を見ることになったわけだが、菊野氏は独立時計師のなかでも極めて生産本数が少なく、過去12年のあいだに販売した時計は20本程度だという。

 オークション終了後、多くの関係者からも質問の嵐を受けることになった菊野氏。彼の作品が再びオークションの場に現れるのがいつになるのかは神のみぞ知るが、日本人独立時計師の元祖ともいえる菊野氏がこうした評価を受けたことは後進にも大きな影響を与えるだろう。

 なお、出品前の菊野昌宏さんへの取材記事はこちらへ。


ロット112:マサズパスタイム 那由他モデル A 刻 落札価格 55万8800香港ドル(約1111万円)

 菊野氏の後進、という意味では篠原那由他氏もそれに当てはまる。ヒコ・みづのジュエリーカレッジで菊野氏の薫陶を受けた篠原氏は、ご存知の通り第10回ウォルター・ランゲ・ウォッチメイキング・エクセレント・アワードの最優秀賞受賞者だ。オリジナルウォッチの製作も手掛けるマサズパスタイムで働く彼だが、この那由他モデルについては完全に自由な発想で社内チームの協力のもとで手掛けているものだという。彫金が施された文字盤中央部分と篠原氏自身が設計、製造を手掛けたムーブメントが大きな特徴。共通して見られる装飾は、刃物の波紋のような揺らぎのあるテクスチャを浮かべているが、これは刀を完成させる前に行われる、炭で金属を磨く処理を施したものとのこと。本来、表面に出ることのない模様が日本らしさを演出しているのがユニークだ。

 本作は会場からのビッドによって落札され、終了後に落札者との記念撮影に応じる那由他氏の姿が見られた。彼は、次世代時計師のひとりとして、間違いなく今後名を挙げるひとりだろう。


ロット113:マサズパスタイム カスタムリピーターウォッチ by マーク・チョー 落札価格 38万1000香港ドル(約757万5000円)

Image courtesy:Phillips

 マサズパスタイムからのもう1本の出品は、懐中時計のミニッツリピーターをベースにアーモリー共同設立者であるマーク・チョー氏からの特注によって製作されたもの。マーク氏とマサズパスタイムオーナー・中島正晴氏による友情によって実現した本作は、1990年からアンティーク、特に懐中時計の修復をはじめ、2000年頃から開始したカスタムウォッチ製作によってかなえられた賜物と言えるだろう。

 「代々受け継がれる宝物の時計」をテーマとする同社は、こうした100年前の時計を現代につなぐことを可能としており、ゼロから生まれる篠原氏の時計とともに日本の独立時計メーカーとしてのユニークさを示している。

 なお、出品前のマサズパスタイムへの取材記事はこちらへ。


ロット115:Naoya Hida & Co. TYPE1D-2 落札価格 63万5000香港ドル(約1262万5000円)

 TOKI-刻-最終ロットとして登場したのは、Naoya Hida & Co.によるTYPE1D-2。本作は同社が初めて市場に投入した18KYGケースのモデルをベースとしており、ケースバックに特別なエングレービングが施される。しかも落札者とのコミュニケーションを通して、自由にオリジナルな彫金が可能ということで、落札時点ではまだ未完成の時計である点でもユニークなロットとしてオークション全体を締めくくった。

 本オークション開始時点からNH WATCH代表の飛田直哉氏と行動をともにしていたが、珍しく緊張の色を浮かべた姿が印象的だった。“飛田さんでもナーバスになることがあるのか”と少し驚いた僕だったが、無事によい成果を収め、別途公開する動画でも終了後のコメントをいただけたので安堵した。ご自身のアイデアもまだまだ尽きないという飛田氏だが、日本の時計業界の行く末もまた真剣に見つめている。TOKI-刻-が始動した初期から賛同してくれた飛田さん、NH WATCHの皆さんには感謝してもしきれない思いだ。 

 なお、出品前のNH WATCHへの取材記事はこちらへ。


誇るべき、日本のインディペンデントウォッチメイキング

左から、NH WATCH代表 飛田直哉氏、菊野昌宏氏、マサズパスタイム 篠原那由他氏、同代表 中島正晴氏。

 日本が持つ時計のカルチャーを広めたいと始まったテーマオークション、TOKI-刻-。このような機会を与えていただいた、フィリップス、そしてアジア時計部門のヘッドであるトーマス・ペラッツィ氏に改めて感謝をお伝えしたい。日本国内のみならず、海外に対してもこうした施策を増やして時計の面白さを発信していきたいとHODINKEE Japanとしても想いを強めている。素晴らしい結果を得た、日本の独立ブランド/時計師の皆様、本当におめでとうございました!

 その他、詳細はフィリップス公式サイトへ。

Photographs by Masaharu  Wada、Kyosuke Sato and Keita Takahashi