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Introducing ルイ・ヴィトン×カリ・ヴティライネンによる新作LVKV-02 GMR 6(編集部撮り下ろし)

レジェップ・レジェピから始まった5本限定シリーズの第2弾であるこの時計は、単なるGMTをはるかに超えた芸術品である。


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タイのプーケットにて、ジャン・アルノー(Jean Arnaul)氏指揮のもと、ルイ・ヴィトンは現代を代表する独立時計師たちとの5部構成のコラボレーションの第2弾となる時計を発表した。今回ルイ・ヴィトンがタッグを組んだのはカリ・ヴティライネンで、ウォッチメイキングの技術と芸術性を融合させた作品に仕上がっている。その名もLVKV-02 GMR 6。ダイレクトインパルス式のデュアル脱進機を備えたGMTであり、ラ・ファブリク・デ・アール ルイ・ヴィトン(La Fabrique des Arts Louis Vuitton)の職人によるミニアチュール彩絵エナメル装飾と、ヴティライネンの工房による手仕上げのギヨシェ装飾が特徴だ。ケース素材にはタンタルとプラチナを組み合わせている。ブランドはこの時計を、シンプルにLVoutilainen(ルヴティライネン)と呼んでいる。

LV x Kari Voutilainen Watch

 ルイ・ヴィトンとレジェップ・レジェピによるLVRR-01 クロノグラフ ア ソヌリでこのシリーズが幕を開けてから、1年半が経過した。今年1月、LVMH Watch Weekに際し、再編成されたルイ・ヴィトンが本格的にハイエンドウォッチブランドとしての地位を確立した瞬間だと述べたばかりである。しかしラ・ファブリク・デュ・タン(LFdT)は、レジェピとのコラボレーションに限らず複雑なオートマトンウォッチなどを通じて、すでに長きにわたりハイエンドな時計製造を実践してきた。

LVRR-01 Chronograph

こちらは、LVRR-01の発表時にお届けしたレポートから引用した。

 LVRR-01 クロノグラフ ア ソヌリはきわめて多機能かつ特異なハイブリッドモデルであった。限定本数は10本、価格は45万スイスフラン(日本円で約7600万円)。セミスケルトン仕様で両面に表示を持ち、トゥールビヨンによって調速されるソヌリ・オ・パッサージュ・デ・ミニュット・ドゥ・クロノグラフ(拙いフランス語が正しければ)、つまりクロノグラフ作動中に経過する各分をチャイムで知らせる機構を備えている。ムーブメントはツインバレルで駆動し、ケースはジャン-ピエール・ハグマン(Jean-Pierre Hagmann)が設計したタンブールに着想を得た39.5mm×11.9mmサイズを採用している。表側にはスモークサファイアを用いた表示が配されており、これはブランドのスピン・タイムモデルからインスピレーションを得たもの。一方で裏側は、より伝統的なディスプレイでクロノグラフ機能が表示される。

Jean Arnault
The trunk
The trunk

 今回発表されたウォッチコンセプトは、伝説的な時計師の技術を最大限に引き出すという点で変わっていない。しかしこの1年半で、ルイ・ヴィトンのラ・ファブリク・デュ・タンを取り巻く環境には大きな変化があった。再始動したダニエル・ロートとジェラルド・ジェンタのブランドはすでに本格的に動き出しており、タンブールもスティール、貴金属、セラミックといった多彩な素材を用いた完全なコレクションラインへと進化した。そこにはタンブール コンバージェンスや、きわめて複雑なタンブール・タイコ・スピン・タイムといったサブカテゴリも含まれる。ルイ・ヴィトン全体の売上における時計部門の比率はごくわずかであるため、ジャン・アルノー氏はリスクを取り、大胆な挑戦を行う自由を手にしているのだ。

LVoutilainen

 今回のコラボレーション相手は、私が時計作品のみならずそのビジネス感覚や人柄においても深く敬愛している時計師、カリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)氏である。彼は年間製造本数が100本未満という小規模な独立時計師でありながら、ケースやダイヤルなども手がける複数の会社を擁するブランドへと成長させてきた。昨年にはGPHGでの受賞や、自身初のトゥールビヨンへの20周年オマージュ作品の発表など華々しい活躍を見せたばかりだが、2025年はさらに飛躍の年となる可能性がある。というのもヴティライネン氏が共同CEOを務める人気ブランド、ウルバン・ヤーゲンセンの再始動が今年半ばに予定されているからだ。

 ヴティライネン氏は、伝統的でありながら卓越したウォッチメイキング技術で知られる存在となっている。彼の時計は現在でもやや厚みのある地板やブリッジを採用しており、これによりほかメーカーが接着剤を用いるような箇所でもすべてネジでパーツを固定できる。これによって、数百年先まで整備が可能な時計を実現しているのだ。また、傘下企業であるコンブレマイン社(Comblémine SA)を通じて、ダイヤル製作においても確固たる地位を築いており、数多くのブランドや独立時計師たちにダイヤルを供給する柱的存在となっている。その一方で、KV20iのようにダイヤル自体を廃した作品も手がけており、表裏反転という“インバース/リバース”コンセプトも、彼のブランドにおけるもうひとつの柱となっている。

Kari Voutilainen KV20i

 ヴティライネン氏が複雑機構の真の達人であるという事実を、時計愛好家の新参者たちはまだ十分に理解していないのではないかと思う。ミニッツリピーターパーペチュアルカレンダーのような1点物や、わずか数本しか存在しないミニッツリピーターGMTなど、まさに夢のような時計を手がけてきたのだ。ルイ・ヴィトンとの次なるコラボレーションがヴティライネンだと聞いたとき、平凡な時計になるはずがないとは思っていた。しかし自分が見落としていた最大の要素は、芸術性だった。

 LVKV-02 GMR 6はその名が示すとおり、本質的にはGMTウォッチである(“GM”がそれを示している)。一見するとシンプルに思えるかもしれないが、それはカリ・ヴティライネンが手がけるGMTに限っての話ではない。今回のモデルは、ルイ・ヴィトンのトランク製造の歴史(世界を旅する人々のためのラゲージ)へのオマージュというコンセプトに基づいている。“R”は12時位置に配されたレトログラード式パワーリザーブインジケーターを意味し、“6”はダイヤル上にある24時間表示のGMTインダイヤルの位置(6時)を指している。

LV x Kari Voutilainen Watch

 GMTディスクは24時間で1回転し、着用者の“ホームタイム”を表示するように設定される。一方で時針は、旅先でのローカルタイムを示すために独立して調整可能であり、これはリューズを押すことで簡単に操作できる仕組みとなっている(この操作により巻き芯とGMT機構が連動して作動する)。カリ・ヴティライネンはこれまでにも、GMRやGMT-6といったGMT機能搭載モデルを手がけてきたが、それらはGMTインダイヤルのほうを調整する仕様であった。今回のモデルではその方式が逆転しており、時針を調整する新たなバリエーションとなっている。これは完全新設計のキャリバーを搭載したレジェップ・レジェピ LVRR-01とは対照的だ。今回のLVKV-02 GMR 6におけるコストの大部分は、ラ・ファブリク・デュ・タンとヴティライネン氏による手仕事の装飾工芸にある。とはいえまずは時計全体の構成を見ていこう。

 GMTウォッチにふさわしく、本作には“エスカル”ケース(フランス語で寄港地、経由地の意)が採用されている。ケース素材はタンタルで、サイズは40.5mm×12.54mm。ベゼル、裏蓋、ラグ、リューズ、バックルにはプラチナが用いられている。各ラグの仕上げには約1時間を要し、まずはカブロナージュ(紙やすりをスティックにしたもの)によって整形し、そのあとポリッシュとエッジ出し(研ぎ)が行われる。さらにタンタル製ケースは手作業によるサテン仕上げで、これに追加で4時間がかかる。裏蓋には“Louis cruises with Kari(ルイはカリと旅をする)”というフレーズが刻まれており、この彫刻には12時間を要するという。この刻印は独立時計師との本シリーズにおける共通タイトルとなっている。

LV x Kari Voutilainen Watch
LV x Kari Voutilainen Watch
LV x Kari Voutilainen Watch

 リューズボタンによるGMTという機能的な特徴に加え、このムーブメントはほかのヴティライネン作品と同様に、高度に洗練された技術仕様を備えている。2011年以降ヴティライネン氏が採用しているように、本作にも大型のテンプと、外側にフィリップスオーバーコイル、内側にグロスマンカーブを持つヒゲゼンマイが用いられている。これによりヒゲゼンマイの内側と外側の曲率に等しい張力を与えることができ、最高レベルの精度を実現している。さらにこの時計ではふたつの脱進輪が、止め石を介して直接テンプにインパルスを与えるダイレクトインパルス方式が採用されている。これはスイスレバー脱進機よりも効率的かつ安定的に動作するよう設計されており、1時間あたり1万8000振動/時で作動、パワーリザーブは約65時間に向上している。地板とブリッジにはジャーマンシルバー(洋銀)が使われており、ムーブメントを構成する254個すべてのパーツが極限までていねいに仕上げられている。

LV x Kari Voutilainen Watch
LV x Kari Voutilainen Watch
LV x Kari Voutilainen Watch

 ムーブメント側(ヴティライネン作品において常に個人的なお気に入りポイントのひとつ)はダイヤル側への流れとしても絶好の導入部である。なぜなら前面と背面をつなぐ、精緻なエナメル装飾がそこに共通して存在しているからだ。香箱にはラ・ファブリク・デ・アール ルイ・ヴィトン(ラ・ファブリク・デュ・タンのメティエ・ダール部門)所属の職人マリナ・ボッシー(Maryna Bossy)氏による多色のミニアチュール彩絵が施されている。素材はホワイトゴールド製のラチェットアップリケで、27色を描くのに16時間、焼成は5回に分けて行い、合計8時間にもおよぶ。

LV x Kari Voutilainen Watch

 ダイヤル正面には、ルイ・ヴィトンとカリ・ヴティライネンという両ブランドのダイヤル製作アトリエが持つ最高峰の技術が、ほぼすべて投入されている。マリナ・ボッシー氏はミニアチュール彩絵とダイヤモンドポリッシュが施されたアワーサークルを担当。デザインは古代のステンドグラスに着想を得たもので、28色を用い、1本あたり32時間をかけて描かれている。ゴールド製のダイヤル中央にはヴティライネン氏の工房による手仕上げのギヨシェ装飾が施されており、これはルイ・ヴィトンの“ダミエ”モチーフへのオマージュである。使用されたのは18世紀にさかのぼるギヨシェ機械で、ヴティライネン氏によれば完成までに4日間を要したという。

LV x Kari Voutilainen Watch

 ヴティライネン氏のアトリエはまた、GMTインダイヤルに配されたデイ・ナイト表示用の太陽と月のモチーフも手がけている。このインダイヤルは手彫りによる装飾が施されており、ルイ・ヴィトンを象徴するサフランとブルーのカラースキームで彩られている。さらに微妙なグラデーションのなかには、ルイ・ヴィトンのモノグラム・フラワーのシェイプがさりげなく隠されている。最後の“ルイ・ヴィトンらしい仕上げ”として、ブランドはダイヤルとムーブメントの両方にLVロゴとヴティライネン氏の姓の頭文字“K”を組み合わせたモノグラムを配している。LVRR-01と同様に、各時計には特注のルイ・ヴィトン製トラベルトランクが付属し、ダイヤルのモチーフやシリアルナンバー、そして“Louis cruises with Kari”のフレーズが、ルイ・ヴィトンの職人によってハンドペイントされている。

LV x Kari Voutilainen Watch
LV x Kari Voutilainen Watch
LV x Kari Voutilainen Watch

 LVKV-02 GMR 6は5本限定(加えてプロトタイプが2本)で、価格は55万ユーロ(日本円で約8900万円)。これはレジェピとのコラボであるLVRR-01より高額だが、製造本数はその半分となっている。レジェピとのコラボレーション第1号機は現在、最終的な品質チェックの段階にあり、今後10カ月にわたって月1本ペースで納品される予定である。一方でLVKV-02に関しては、すべての個体がすでに製造済みであり、すぐにクライアントへの引き渡しが可能となっている。

Raul Pages Watch

ラウル・パジェスのレギュラトゥール・ア・デタントRP1(左)とソバリー・オニキス(右)。ソバリー・オニキスは10本限定で製作された。こちらの写真は2022年に掲載したパジェス特集記事より抜粋したもの。Photo by James Kong/@waitlisted.

 カリ・ヴティライネンは、ルイ・ヴィトン ウォッチ プライズ フォー インディペンデント クリエイティブズの審査委員会メンバーを務めている。このコラボレーションによる収益は、独立時計製造の支援および同賞の運営資金として充てられるそうだ。昨年の受賞者はラウル・パジェス(Raùl Pagès)氏で、彼はルイ・ヴィトンのラ・ファブリク・デュ・タンによる1年間のメンタープログラムと金銭的賞与を受け取った。ジャン・アルノー氏によるとこれらのコラボレーション企画の根本的な目的は、この賞を支援することにあるという。

 ある意味自分でも信じられないのだが、次なるコラボレーションの予想として、“マスターピース”シリーズの新作や、GMTリピーターのインバースモデルなどを挙げていながら、いま思えばあまりにも自然で明白だったこの展開を見逃していた。ヴティライネン氏は以前から、日本人アーティスト・北村辰夫氏とたびたびコラボレーションを行っており、エナメル技法を駆使した傑出した作品を数多く生み出してきた。そのなかには2022年のGPHGにてアーティスティック クラフト部門を受賞したジーク ワールドタイマーや、ムーブメント側にエナメル装飾を施したヒスイといった名作も含まれている。

 “ただの綺麗なダイヤルにしては高すぎる”という声があるかもしれないし、その指摘が間違っているとは言えない。ただもっと大きな視点で捉える価値がある。ヴティライネン氏に、“4層構造で繊細かつ手間のかかるダイヤルを、ふたつのアトリエのアーティストたちで共同製作するというプロセスはどのようなものだったか?”と尋ねたところ、彼は眉を上げ、唇からため息交じりの息を少し漏らした。というのも各パーツを輸送したり、組み合わせたりするたびに、何かがうまくいかなくなる可能性がつきまとうからだ。最終的に完成した5枚のダイヤルを仕上げるために、どれほどの失敗があったのか...その歩留まりについては誰も教えてくれなかったし、自分も知りたいとは思わなかった。

Louis Vuitton Voutilainen

 この時計には、ルイ・ヴィトンが得意とする遊び心が随所に宿っていると感じる。もちろん、遊び心と55万ユーロ(日本円で約8900万円)という価格は通常なかなか結びつかないものだが、それでもこの時計を手にするであろう人々にとっては多くの楽しみを見出せる一作であるに違いない。

 ジャン・アルノー氏率いるラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンのチームは、このシリーズの最初の2作で、すでに極めて高い基準を打ち立ててしまった。今後誰が続くのか、平均50万ドル(日本円で約7500万円)の価格帯を維持できるだけのスター性を持つ人物を想像するのは難しいが、頭のなかにはいくつかの有力な名前が浮かんでいる。願わくば、次の発表まであと1年ほどで済むことを期待したい。

詳細はルイ・ヴィトンの公式サイトをご覧ください。

Photos by Mark Kauzlarich